兵庫県の問題に端を発し、本年の通常国会に「公益通報者保護法」の改正が提出されました。内部通報制度は、組織内の不正、不祥事の芽を発見し、問題が大きくなる前に対処することで自浄作用を促す有用な制度です。
一方、内部通報制度を利用したことをきっかけに、通報者が組織内で不利益な取り扱いを受けるような事案もあり、今回の法改正は内部通報制度を回していく上で、通報者を保護し、組織運営側の責任を重くするような改正となる見込みです。社会としては正しい方向に向かっていると思います。
一方で、組織としてはこうした制度改正の時には目的外の利用ケースへの対応も念頭に準備していく必要もあります。
目次
内部通報制度とは
2025年の法改正について
目的外に使用されるケース
組織としての対策
まとめ
内部通報制度とは
内部通報制度は、会社や組織の中で不正や問題を発見した社員等が、安全に情報を提供できる仕組みです。
この制度の目的は、組織内に潜む問題を早めに見つけ出し、解決するためのきっかけを作ることです。社員等が安心して問題を指摘できる環境が整うと、会社や組織全体の透明性や信頼性が向上します。
2025年の法改正について
2025年に予定されている法改正では、これまでの内部通報制度の問題点を改善するため、通報者の保護を強化する内容が盛り込まれるようです。
例えば、これまでは内部通報を理由に通報者が不利益な処分を受けた場合、通報者側がその因果関係を裁判で立証する必要がありましたが、改正後は組織側に立証責任が移ります。
これは、正当な通報者を保護し、通報者が安心して情報を提供できる環境を作り、組織の自浄作用を高めることを狙いとして組織側の責任を重くする内容と理解できます。
目的外に使用されるケース
一方で、制度の目的外使用についても留意が必要です。例えば、このようなケースはどうでしょうか。
- 懲戒処分を受けるような言動を繰り返す社員
- 自分の処分を免れることを目的として、組織内で目の前に浮かんでいる「グレーな事案」を掴み内部通報窓口へ通報する
法改正前は、正当な通報をした社員等までもが懲戒処分を受けるような不適切な事案においても、裁判では懲戒処分と内部通報の相関を社員側が証明する必要がありました。組織と社員では情報量が違いますので、これを社員側が立証するのは非常に酷です。
現在議論されている法改正においては、立証責任が組織側に転嫁されることになります。先ほどのようなケースにおいて、組織側が懲戒処分をした場合、同時に当該社員から内部通報を受け付けているので、全く関係ないとしても、組織側が懲戒処分と内部通報との関連性がないことを裁判で立証する責任を負うことになります。
組織側の心理を考えると、「グレー」な事案の内部通報を受けているので懲戒処分をすることで後に裁判に発展した際の立証責任がくっついてくることを考えると懲戒処分を躊躇う可能性もあります。こうなると本来処分をすべき社員に対しても懲戒がしにくくなってしまう可能性もあるでしょう。
組織としての対策
このような本来の目的と異なる内部通報の利用への対策としては、まず、組織内にグレーな事案がない、クリーンな状態を目指すことです。しかし、どのような組織でも完全無欠の状態を維持するのは困難です。
であれば、グレーな事案を含め、内部通報制度が積極的に利用され、常に事案の報告が上がっており、改善に向けた対処をテーブルに乗せ議論している状態を維持することです。そうすれば、懲戒処分逃れを目的とした不適切な通報に対しても、清々と「既に対処中の事案」であると返すこともできるでしょう。
まとめ
内部通報制度は、組織内の問題を早めに発見し解決するための大切な仕組みです。今回の法改正により、通報者の保護が強化されるとともに、正しい通報が促進されることが期待されます。
組織には、組織を守ろうとする慣性が働きます。時には耳の痛いことを言われる内部通報制度も「法令で決まっているから仕方なくやっている」という運用になってしまうと本来の目的を果たすことはできません。
間違っていることを清々と「間違いだ」、教えてくれる社員を大切にすべきで、その観点で現在の法改正の方向性はあるべき姿に近づいているものと思います。一方で、目的外の利用についても対策を検討しておくことも重要となります。
組織を守ろうとする慣性や、目的外利用と戦いながら、大切にすべき社員を守っていくこと、内部通報の従事者の方は気苦労が堪えないことと思いますが、組織や社会を良い方向に導くとても大事な仕事です。一緒に頑張っていきましょう!
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