ZERO GROUP(以下、ZERO)のオフィスに入った瞬間、空気がふっと変わるような大きなアートが視界に広がります。
その存在に思わず立ち止まってしまう人も多いのではないでしょうか。
このアートを制作したのが、アーティストの寺口隼人さん。
1枚の絵にどのように理念を込め、どんなプロセスで完成に至ったのか。
今回は、絵の制作者である寺口隼人さんに、お話を伺いました。
オフィスに息づく“物語を宿した一枚”
青木:本日はよろしくお願いいたします!
寺口:よろしくお願いします。
青木:早速ですが、今回ZEROのアート制作を引き受けたきっかけについて教えてください。
寺口:妻がZEROのインテリアデザイナーとして働いており、オフィスの内装も担当していたことがきっかけです。
ZEROは絵を飾る“空間”をつくり、私はその空間に飾る“絵”を描く──インテリアとアートは密接につながる領域なので、“いつか一緒に何か形にできたらいいな”という気持ちがずっとありました。
実際に、ZEROの紹介で別の会社にアートを納品した経験もあり、そこで描いた作品を気に入っていただいたことも大きかったです。
その流れから社長が“うちの理念をアートに落とし込んでもらえないか”と声をかけてくださり、今回のプロジェクトにつながりました。
僕にとっても、自分の世界観を企業の理念と融合させるという挑戦はとても刺激的で、“これはぜひやりたい”と素直に思いました。
社長との対話が描く道しるべ──理念を紐解く時間
青木:制作前に社長とお話されたと伺いました。
どんな話が印象的でしたか?
寺口さん:社長には、まず“ZERO GROUP”という名前に込められた意味を伺いました。
社長が本当にゼロから会社をつくり、そこから仲間が増え、事業が広がっていったという物語が明確にあり、その過程を大切にされているのがすごく印象的でした。
社長が語る“輪が広がるような成長をしたい”という言葉には、会社を大きくするという意味だけでなく、“関わる人の人生を豊かにしたい”という想いが強く込められていると感じたんです。
そして、“人生を謳歌する”という理念。
この言葉は単なるスローガンではなく、社長自身が大切にしてきた価値観であり、ZEROで働く社員にもそうあってほしいという願いが詰まっていました。
このフレーズをどう視覚的なイメージに落とし込むかが、制作の大きなテーマになりました。
青木:社長の想いを聞いて、それを絵に落とし込んでいったんですね。
絵に散りばめられた象徴たち──モチーフが語るZEROの姿
青木:作品についてもお話を聞いていきたいのですが、それぞれのモチーフには、どのような意味が込められているのでしょうか?
寺口さん:まず、作品の端に描いた“種”は、ZEROという名前の象徴です。
「ZERO=ゼロ」、つまり“始まり”を意味しています。
種からツルが伸び、木になり、成長していく──この過程はZEROの歩みそのものだと思っています。
青木:ZEROの歩みそのもの...素敵ですね!真ん中あたりにある金色の輪には、どんな意味がありますか?
寺口さん:金色の輪は、ZEROの“成長の中心”みたいなものを表しています。
実はあの輪は、ただの“円”ではなく“波紋”でもあり “年輪”でもあり、“エネルギーの源”でもあるんです。
僕自身、水の波紋がすごく好きというのもあります。
一瞬だけ現れて、でも確実に広がっていく──その儚さと力強さのバランスは、人や会社の成長とすごく似ているなと。
ZEROもまさにゼロから始まって、そこに想いや仲間が加わって、波紋のように輪が広がっていった会社だと伺ったからこそ、“中心から外へ広がっていくエネルギー”を象徴として置きたいと思いました。
輪の色を金色にしたのは“人生を謳歌する”という理念を、もっと感覚的に伝えたかったからです。
金って、見るだけで晴れやかな気持ちになりますし、祝福とか繁栄とか、前向きな象徴でもあるので、この会社が持つ明るい空気感とすごく相性がいいなと思いました。
青木:ありがとうございます!輪の色や表現だけでも伝わってくるものがたくさんありますね。他のモチーフはどうですか?
寺口さん:木をモチーフは、社長のお名前(松下 和樹)に木偏の字が2つ含まれていたことから、個人と企業のストーリーを重ね合わせたいと思い、取り入れています。
1枚の絵の中で会社の成長と社長の人生をつなぐようなイメージで描きました。
青木:木と向こうには人物がいて、こちらをみている印象が伝わってきました。人物の表現にはどんな意図があるのですか?
寺口さん:絵の中に描かれる人物は、誰か特定のモデルがいるわけではありません。
僕は仏教が好きで、仏教の教えにはこんな考え方があります。
“人は世界であり、世界は人である”
つまり、僕が描いている人物は“人”でありつつも“世界”でもある。だからこの人物は、ZEROグループそのものの象徴であり、社員一人ひとり、あるいは“未来をつくる存在”とも言えるんです。
片目が木と重なっている構図にしたのも、人と理念が一体になっていくイメージを表現するためです。
“理念が人をつくり、人が理念を育てる”──そんな関係性を視覚的に表したいと思いました。
空間と響き合う作品へ──制作技法に込めたこだわり
青木:絵の左側にある“ズレたような表現(グリッチ)”には、どんな意味がありますか?
寺口さん:左側のグリッチ表現は、“常識をハックする”というメッセージを込めています。
グリッチは、本来エラーやバグのような表現ですが、僕はそれを“認識が揺さぶられる瞬間”として使いたかったんです。
仏教でいう“悟り”も、“世界の見え方が変わる”という瞬間なんですよね。
生きていて新しい気づきが生まれる瞬間って、実はこうした小さなズレから始まることが多いんです。
ZEROで働く方がこの絵を見て、“あれ?なんか気になるな”と感じていただければ、それだけでアートとしての役割を果たせると思っています。
青木:絵の中のモチーフの話を聞いた今、改めて絵を見ると違う見え方がしてきます。具体的な執筆の裏側についても聞きたいのですが、制作技法で特にこだわった部分を教えてください。
寺口さん:今回、キャンバスの下地づくりにはかなりこだわりました。
なぜなら絵とは、描いて終わりではなく、飾ることでその空間と一体になって完成すると思っているからです。
今回の場合は、普通のキャンバスのままだと空間に馴染まないと感じ、バーナーで焼いて、ひび割れやザラつきなどをつけています。
オフィスの洗練された雰囲気に、少し荒々しさを混ぜることで、お互いが引き立つ状態にしたかったんです。
あと、木の表現にも力を入れています。
木の幹は色も質感もとても複雑で、茶色ひとつとっても何十色も存在します。
それを何層も重ねて陰影をつくり、触れたくなるような立体感を目指しました。
こうした細部の表現によって、角度によって絵の見え方や伝わる印象も変わるように意識しています。
青木:制作中、印象に残った瞬間はありましたか?
寺口さん:制作に没頭していると、本当に時間が消えていくような感覚になる瞬間があります。
「あれ?今、自分は何を描いていたんだっけ?」と深く集中してしまう時もあり、僕はその状態がとても好きなんです。
その瞬間は、仏教でいう“無”や“空”といった概念に通じるものがあり、僕にとっては精神的に豊かな時間、内省の時間でもあります。
そしてもうひとつ印象的だった瞬間は、完成した絵をZEROのオフィスに置いた時です。
「ああ、この空間のために描いてきたんだな」
と、すごく腑に落ちる感覚がありました。絵が“居るべき場所に帰った”ような感覚で、これは絵を描いた者しか味わえない達成感や満ち足りた感情なんだと思います。
青木:完成した時、しばらく絵から離れられなかったというのは、寺口さんしか感じられない何かがあったということなんですね。
アートが社員にもたらす“気づきの連鎖”
青木:今回の作品を通して、社員のみなさんにはどんなことを感じてほしいですか?
寺口さん:今回の作品で一番大事にしたかったのが、社員さんの“内省のきっかけ”になることです。
アートって、説明を読んだだけで全部わかるものではなくて、むしろ“よくわからないけど気になる”という状態のほうが、心が動くと思っています。
たとえば社員さんが誰かに『この絵って何なんですか?』と聞かれた時、説明しようとすると自然と自分の言葉を探しますよね。そのプロセスって実はすごく大事で。
“自分は会社の理念をどう捉えているんだろう”
“自分は今、この場所で何を大事にしたいんだろう”
と考える入り口になるんです。
社長はよく理念の大切さを話されますが、それを社員全員が同じ熱量で理解して行動に落とし込むのは、なかなか難しいことだと思います。
でも、アートなら“言葉にしようとする体験”を自然につくれる。
アートを通して社員が考える瞬間が1回でも増えることが、良い循環を生むと感じています。
だから、社員さんにはまず“すごい!”と感じてもらって、気が向いたタイミングで『これ、どういう意味なんだろう…?』と立ち止まってくれたらそれで十分です。
その小さな違和感や問いが、ゆっくりと内省につながっていって、最終的には自分の働き方や大事にしたい価値観につながる──そんなアートになれたらいいなと思っています。
青木:今回の制作を通して、寺口さん自身にどのような変化がありましたか?
寺口さん:ここまで描き込んだ作品を制作したのは久しぶりで、僕自身の幅を広げる経験になりました。
クライアントワークは、自分では選ばないテーマや構図、技法に取り組むことになるので、毎回大きな成長をさせてもらえます。
また、今回のように企業の理念をアートに落とし込むプロセスは、自分の内面を深く掘り下げることにもつながります。
“理念とは何か”
“アートとは何を伝えるべきか”
そういった根本的な問いに向き合う時間になりました。
アートが空間と人をつなぐ場所へ
青木:最後に、この絵を見る人へメッセージをお願いいたします。
寺口さん:まずは、意味を考えずに純粋に“見る”ことから始めていただきたいです。
好きか嫌いかでもいいですし、「なんとなく惹かれる」などでも構いません。
もし、「もう一度見てみたい」と思っていただけたら、その時に少しだけ意味を考えてみてほしいです。最初に見た時とは全然違う景色に見えるかもしれません。
そして今回のインタビュー記事を読んでからもう一度絵を見ると、また違う見え方もすると思います。
ZEROグループの理念や働く皆さんの姿勢が、この絵を通して少しでも自分事として立ち上がってきたら嬉しいです。
青木:ありがとうございました!
確かに、今回寺口さんからお話を聞いた今、ZEROにある絵を改めてみると、違う絵なのか?と思うくらいイメージが変わっていました。
何度見ても気づきがあり、内省につながる──これがアートの醍醐味なんですね。
ぜひこの記事を読んだ人は、ZEROにある寺口さんの絵を一度見に行ってもらいたいです。