建設業界の見積もり業務を効率化するクラウドサービス「GACCI」を開発中の情報ネット株式会社は、フロントエンドエンジニアの中途採用を行います。代表取締役CEOの若本憲治氏と開発を担当する川島康寛氏に、お二人の出会いやプレコンストラクション領域の可能性、求める人材像についてインタビューしました。
建設業界におけるプレコンストラクション領域の可能性
――まずは若本さんの経歴を教えてください。
若本:僕はもともとタイヤショップの跡継ぎでした。修行も兼ねて、ブリヂストンに入社して4~5年勤めた後、鳥取に戻り、両親のタイヤショップを約8年経営しました。その後、家業と並行して中古タイヤの輸出や通販などのEC事業をスタート。いろいろなご縁があって、今は複数の事業を経営しています。
――なぜいくつもの事業を経営するに至ったのでしょうか?
若本:最初は、建設車両などの大型のタイヤを交換する会社に跡継ぎがいないということで、事業承継しました。その後もマッサージ屋や整備工場などとご縁があり、今はGACCIも含め7社を経営しています。経営者歴は17年ほどで、僕がゼロから立ち上げた事業はGACCIで2つ目です。
――事業承継した会社を改善するコツは何かありますか?
若本:基本的には、マイナスをゼロにする作業と、1を積み上げていくフェーズがあります。事業承継したときは最初にマイナスをゼロにするので、結果的に悪くはならないんです。あとは、権限移譲していきながら自分が関わる頻度や時間を少なくするよう心がけています。これまで引き継いだ会社は全部良くなっていて、事業をたたんだ会社はまだ一つもありません。
――様々な事業を経営し改善してきた若本さんが、建設業界の見積もり業務に注目したきっかけは?
若本:2年前に、公共工事の入札に関する情報をWebで提供する「情報ネット」というサービスを引き継ぎました。事業を大きくしたいと思い、約200社の建設業関連のユーザーさんにお話を伺ったときに、「入札情報も良いんだけど、それより見積の取りまとめが本当に大変」というお話をたくさん聞いたのがきっかけです。
――そもそも建設業界において、見積もり業務はなぜ大変なのでしょうか?
若本:建設業界は人手不足ということもあり、デジタル化やDX化など新しい技術の導入が非常に遅れています。彼らの主戦場である設計や施工の領域ではデジタル化が始まっていますが、一番活躍している施工管理アプリのスタートアップでもまだ7年ほどです。設計から施工までの間に発生する見積もり業務や請求書業務、受発注の請負契約といった、いわゆるプレコンストラクション領域は後回しになっているのが現状です。
――設計や施工が主戦場である建設業界で、あえてプレコンストラクション領域に限定する理由はあるのでしょうか?
若本:GACCIは、プレコンストラクション領域に限定することで建設業界の構造をうまく活用できるモデルになっています。基本的には元請けさんに導入していただきますが、そこに紐づいている30~50社の下請けさんも含めコミュニティ単位で導入されるため、ネットワーク効果が非常に高く、一度導入すると継続していただきやすいのが強みです。海外ではすでにプレコンストラクション領域のDX化に特化した企業が登場しており、今がチャンスだと捉えています。
プログラミングスクールでの出会い
――若本さんと川島さんの出会いはプログラミングスクールだったと伺っています。お二人がそれぞれスクールに通い始めた理由やきっかけを教えてください。
若本:「情報ネット」のサービス拡大を考えたときに、自分にはまだ知識が足りないと感じたからです。社内のエンジニアとの会話の解像度を上げたい、自分でもきちんと学んでコミュニケーションの質を高めたいと思い、G’s ACADEMYというスクールに入学しました。そのスクールは起業家養成学校としての要素もあったので、ゼロイチで起業するということにもう一度きちんと向き合いたいという思いもありました。
川島:僕は、単純にプログラミングに興味があったからです。新卒で入った会社ではバックオフィス系の業務を担当しており、2年ほど経理の仕事をしていました。業務効率化のためにVBAを使ってExcelを自動化したところ、僕自身も業務が楽になったし、周りからも評価されるようになりました。自動化って面白いな、もっと勉強したいなと考えていたときに、G’s ACADEMYの卒業生だった友人に紹介してもらったんです。基本オンラインだったので、平日は仕事をして土日はスクールで学びました。
――基本オンラインのなかで、どうやって若本さんと深く知り合えたのでしょうか?
川島:自分が作りたい事業をプレゼンしてフィードバックしあうLT会や、SlackやZoomで同期とコミュニケーションする機会が多かったですね。若本さんは同期の中で唯一、東京以外の鳥取から参加されていて、かつ会社を複数経営されている方ということで僕も早い段階から認識していました。半年間の最終成果として卒業制作を作るときに、若本さんと一緒にチーム開発をすることになったのがきっかけです。
若本:そのときは僕が誘いました。卒業制作はチームでも個人制作でもよかったのですが、他の同期は作りたいものが明確に決まっている人が多く、チームに加わってくれそうな人が川島を入れて2人ぐらいしかいなくて。他からも声はかかっていたと思うんですけど、なぜか僕と組んでくれたんですよね。
――実際、何人ぐらいから誘われていましたか?
川島:若本さんを含めて3人にお声がけいただいていました。僕自身は個人で作りたいプロダクトはなかったので、みなさんからお話を聞きながら誰とチームを組もうか考えました。若本さんとお話しさせてもらったときは、僕自身、建設業界の人手不足や見積もり業務の大変さといったペインを深く理解できていませんでした。これを言うのは少し恥ずかしいんですが……ただ純粋に若本さんと話したときに、「この人すごいな」と思ったのが一番の理由です。
――プロダクトや業界に対してではなく、若本さんという「人」に魅力を感じたんですね。
川島:はい。当時の僕にとって若本さんはいわゆる「勝ち組」で、何社も経営されていて生活も安定しているし、それ以上挑戦しなくてもいい立場だと思っていました。でも、若本さんは「立場にこだわらずもっとチャレンジしたい」「自分よりも若い人が大勢世界で戦っている、自分はまだまだだ」とお話しされていて。僕も年を重ねたときに、キャリアや地位に満足せずどんどんチャレンジしていくようなマインドを持っていたいと思ったんです。若本さんの近くで学びたくて、一緒にチームを組ませてもらいました。
――当時、東京の会社に勤めていた川島さんにとって、鳥取の会社への転職は大きな決断だったと思います。実際に転職を決めたのはどのタイミングですか?
川島:スクール卒業後に「若本さんのそばでもっと学びたい」という気持ちが強くなり、転職を決断しました。チーム開発を進めるなかで、建設業界の人手不足や労働時間などに対する課題意識が強くなったのも理由の一つです。卒業制作で終わりにせず、事業化に向けて本腰を入れて関わっていきたいと思い、前職を辞めて鳥取に移り、若本さんのところに転職しました。
――G’s ACADEMYの卒業制作でお二人が作ったプロダクトが種となり、今のGACCIにつながっているんですね。
(G’s ACADEMYの卒業制作デモデーの時の写真)
GACCIの開発フェーズについて
――現在の開発フェーズや、今後のスケジュールを教えてください。
川島:今は、ヒアリングをもとにコア機能を実装したα版をお客様に実際に使っていただき、見積もり業務の効率化に役立っているか検証している段階です。2023年の春にはβ版をお客様に使ってもらえる状態にして、機能や要件を満たしていることを確認した後、2023年の夏前には本番のリリースをしたいなというスケジュールです。
――α版に搭載されている機能について、具体的に教えてください。
川島:本番の約2~3割にあたる、見積もり業務に関するコア機能を搭載しています。従来は、元請けが主にメールでいくつかの下請けに見積もり依頼を送り、ExcelやPDFなど各社各様の形式で返ってきた見積もりを自社のフォーマットに転記するという流れが一般的でした。GACCIのα版では、複数の下請けに一括で見積もりを依頼することができます。また、見積もりはシステム上にある統一フォーマットで提出されるので、転記する必要もありません。見積もりの比較検討や採用までGACCIのシステム上で実現します。
――見積もりフォーマットの統一や一元管理というのは、例えばGoogleスプレッドシートなどの既存のツールでは難しいのでしょうか?
若本:見積もりというのは非常に秘匿性が高く、どの会社に依頼したかを知られたくないものなんです。相見積もりかどうかもわからないときもありますよね。その秘匿性を守るためには、スプレッドシートでは難しいです。
川島:従来はメールやFAX、ExcelやPDFという複数のツールが使われていたのですが、GACCIはクラウド上で完結させるというのを実現しています。
――α版では、何社に対してどういった項目を検証しているのか教えてください。
川島:建設業建築分野において鳥取市内の元請けさん上位10社に使っていただいています。主な検証項目は、GACCIによって見積もり業務に掛かる時間を削減できるかどうか、GACCIを使って時間が削減できたことで経営判断や分析などに十分な時間が割けるかどうかの2点です。今のところ10s社すべてに高く評価していただいており、「プロダクトを導入したい」「製品版を使ってみたい」といったお声をいただいています。
――GACCIを実際に使うユーザーの方たちの年齢や属性はどういうイメージですか?
若本:建設業界は現場に携わる職人さんの世界ではありますが、我々が対象にしているのは、地域ごとに基盤を持たれているゼネコンさんです。GACCIを使って見積もり業務などを担当する方は、40歳前後ぐらいの方がほとんどですね。
――建設対象の規模はいかがですか? たとえば商業施設の建設など、工事の規模感によってニーズも異なるのでしょうか。
若本:工事の規模が大きければ大きいほど関わる業者が増えるので、見積もり業務も大変になります。公共・民間を問わず建てるという作業になるとそれなりの業者の数が必要になるので、かなりニーズはあると感じています。逆に、戸建て住宅関連をメインにしている事業者は、あまりターゲットにしていません。
求める人材像
――今回はフロントエンドエンジニアの募集ですが、どういった人材を求めていますか?
川島:GACCIのフロントエンドをしっかりとリードできる方に来てほしいです。言われたことを単純に書けるだけではなく、自分がフロントエンドのリーダーという自覚を持って、ゼロの状態から開発をリードすることにチャレンジしたい方がいいですね。
――建設業界にはなじみがないエンジニアの方がほとんどだと思いますが、この業界ならではの面白さはどこですか?
川島:我々がやろうとしているのは、見積もり業務という他社がまだ手を付けていない領域です。施工管理の部分は徐々にDX化が進んでいますが、見積もり業務を含むプレコンストラクション領域は先行者利益を得られるチャンスです。自分達で市場そのものを作っていくというのは、今、GACCIでしかできないと思います。
若本:まさに、このフェーズは今しかないですね。チームでゼロからものを作っていくこと、開発フェーズに関わっていけることは、その方のキャリアにも当然プラスになります。ユーザーさんとの距離が近いので、現場の声をダイレクトに聞きながらものづくりができる面白さもあります。
――東京や大阪などの都市部に魅力を感じている求職者の方も多いと思いますが、勤務地についてはいかがですか?
若本:2023年には東京オフィスを構える予定なので、絶対に鳥取に来なければいけないわけではありません。オフィスの内覧も始めています。エンジニアの方だけでなく、今後採用を始める予定の営業の方も、東京勤務が可能になります。
将来の展望とメッセージ
――将来的な展望や具体的な目標値があれば教えてください。
若本:ユーザー数でいうと、3~4000社のクライアントとの契約は現実的にクリアしなければならないと考えています。さらに、3~4000社の元請けとつながる下請けのユーザーが30倍いると推定できるので、単純計算で10万社近い導入実績が得られます。そのうち約2割の課金ユーザーがいるという状態を目指しています。
――最後に、求職者のみなさんにメッセージをお願いします。
川島:GACCIが始まった経緯にも興味を持っていただけたら嬉しいですね。純粋にゼロからプロダクトを作ることにチャレンジしたい方や、こんな風に始まったGACCIで働いてみたい! と共感してくれる方は、ぜひご応募ください。
若本:プレコンストラクション領域で開発することで集まるデータにも、ものすごく価値があると思っています。ひとつの工事に関わる元請けから複数の下請けまで、どの会社がどういう作業をしてどういう材料を使っているのか。そのデータを今後はいろんな形で活用できる可能性もあります。すでに金融機関さんと協業のお話も進めていますし、元請けと下請けの最適なマッチングも可能になるかもしれません。そういった拡張性に、僕らは今、夢を持っています。