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CINRAは、1月24日に新しい教育サービス「Inspire High(インスパイア・ハイ)」をリリースしました。Inspire Highとは、多様な生き方にふれて「なりたい自分」を増やす13歳から19歳限定のオンラインラーニングコミュニティー。アーティストやビジネスリーダー、研究者など、第一線で活躍し、人生を楽しんでいる大人たちから、自分の世界を広げるインスピレーションをもらうことを目的としています。
その開発を率先して進めているのが、エンジニアの濱田智。「本サービスを通じて、10代の若者たちの人生が変わるきっかけを本気で届けたい。そのためには、ビジョンに共感してくれる仲間が必要」と語ります。
新たなサービスが目指す未来とは? また、どのような開発仲間を必要としているのか。プロジェクトに協力している高校生の輪島彰太郎さんを招き、濱田と同じくCINRAでプロダクトマネージャーを務める小松奈央とともにInspire Highの全貌を語ってもらいました。
インタビュー・文:宇治田エリ 写真:有坂政晴(STUH) 編集:服部桃子(CINRA)
小松 奈央
広告代理店でウェブディレクター、フィリピン拠点スタートアップでアプリサービスのプランナーを経て、2017年にCINRAに入社。1年半前から代表の杉浦とともにInspire Highの立ち上げを行う。
濱田 智
エンジニア。前世は木村カエラ。去年は、チーズが好きな自分を肯定することにしたため、体重を減らしそこねた。
輪島彰太朗
現役の高校3年生。在学中に海外に留学をした経験から、日本の高校生にも普段の生活では経験できないチャレンジをするきっかけや刺激を与えたいと思い、高校生主体のイベント団体「CUE TOKYO」を運営。
未来を担う10代がプロに学ぶ。構想から15年かけた「Inspire High」とは?
―Inspire Highとはどのような教育サービスなのでしょうか?
小松:Inspire Highは、第一線で活躍し、 自分の人生を楽しむさまざまな大人たちから、10代に新しい世界との接点やインスピレーションを届けて行くオンラインの教育サービスです。
自分の人生を楽しむ大人に共通しているのは、自分らしさを知っていて、一つの枠にとらわれず自由に動き、世の中の価値観を変えていく力があること。いまのところ、アーティストやクリエイター、起業家、研究者などをInspire Highのガイドとして招いていますが、今後は農家の方や銀行員など、多分野に広げていきたいですね。
(左から)エンジニアの濱田智、高校生の輪島彰太朗さん、プロダクトマネージャーの小松奈央
―ユーザーの対象年齢は13歳から19歳だそうですね。
小松:はい。その年代は「第2の成長期」とも呼ばれ、一番価値観の変化が起こりやすい時期です。多感な時期だからこそ、さまざまな大人と出会い、自分の可能性を広げるきっかけを得ることが必要と思ったんです。
―いつから構想を練っていたのでしょうか?
小松:じつはCINRAの代表には、設立当初から「教育事業をしたい」という思いがありました。しかし、当時はまだ自身も学生だったため実現を思いとどまり、まずはできることからと、自社メディアやクリエイティブ事業を通じて、大人を中心に「変化のきっかけ」を届けてきました。
そこから15年。多くのつながりもでき、会社も成長しました。そこで改めて「人の原体験に携わっていきたい」という思いに立ち返り、1年半前からInspire Highのプロジェクトをスタートさせました。
―そもそも、なぜオンラインという手段を選んだのですか?
小松:まず、どのようなサービスにするか考えるため、さまざまな地域の学校や学生にヒアリングを行いました。そこで知ったのですが、地方の学校で「職業体験」を開催しても、体験できるのは地域の商店街や地元企業のみで、ほかの職業を知る機会があまりないそうなんですね。一方、東京では10代に向けたワークショップやイベントが頻繁に開催されていて、さまざまな企業の人と話す機会も多々あります。
こういった東京と地方のギャップを埋めるためにも、どこにいてもアクセスできるサービスが必要だと判断しました。
Inspire Highのブランドサイト
―現役の高校生である輪島さんは、テストユーザーとして実際にサービスを利用したそうですね。どのように感じましたか?
輪島:第一線で活躍する人の考え方や仕事内容などに触れることで、新しい世界を覗ける楽しさがありました。
ぼく自身は東京育ちで、いろんな情報を得やすい環境にいるのですが、ちょっと東京を出ただけで情報が限られてしまいます。そういった地方の高校生にとっては嬉しいサービスじゃないかなと思います。
「いいね」より言葉で。ガイドとユーザー、双方向からもらうフィードバック
―Inspire Highでは、具体的にどのようなコンテンツを配信するのでしょうか?
小松:プロトタイプフェーズでは、ガイドとしてファッションデザイナーの山縣良和さん、「透明マント」を開発した東京大学の稲見昌彦教授、ホテルプロデューサーの龍崎翔子さんなどに登場してもらい、普段自分が働いている場所でライブ配信セッションをしていただきました。体験した中高生たちからは「東大の研究室ってこんな感じなんだ」「こんな職業があるんだ」といった純粋な反応が寄せられましたね。
ライブ配信セッションの内容は、ガイドの思考や仕事を知るガイドトーク、参加者が自分自身で考えるアウトプット、アイデアを参加者同士で共有するフィードバックという3部構成。
第1部では、ガイドに人生曲線を描いてもらい、学生時代の様子や考え方、なぜいまの職業になったかなどを参加者からの質問を織り交ぜながら語ってもらいます。第2、第3部は、ガイドが課題を出して、15分間で参加者がそれに沿ったアイデアを考え、提出するというもの。提出物は、ガイドだけでなく参加者全員が見られるようになっていて、ユーザー同士フィードバックを送りあうこともできるんです。
授業のイメージ(撮影:玉村敬太)
輪島:博報堂プロデューサーの大家雅広さんの授業に参加したときは、「理想の公園を考えよう」という課題で。ぼくは「都心で機能する公園」をテーマに、立って作業できる机がたくさんある公園を描いて提出しました。
輪島さんが提出したアイデアのラフ
―ほかの参加者からはどのようなフィードバックがありましたか?
輪島:「仕事のリフレッシュによさそうですね」「都心にある公園だからこその使い道ですね」という肯定的なフィードバックをもらった一方で、「子どもたちの遊び場が制限されてしまう」という声もありました。自分とは違う視点から意見を聞けたことで、視野が広がりましたね。
小松:思いやりのあるフィードバックは、贈り物のようなもの。ただの「いいね」にとどまらない、お互いにとってプラスになる言葉をユーザーからどれだけ引き出せるかが、このサービスの課題でもあります。
イベントや課外活動に積極的なアクティブな子たちだけでなく、自分に何ができるかわからなくてモヤモヤしている子たちにも使ってほしい。心のこもった意見を人からもらうことで、本人のモチベーションも高まるはずです。何かに挑戦する際の、一歩踏み出すきっかけになれると嬉しいです。
高校生の考えは「目からウロコ」。開発を手助けするリアルな意見
―現在どのようなメンバー構成でプロジェクトを進めているのでしょうか?
小松:ライブ配信の内容を考えるプログラムチーム、ユーザーにサービスを届けるための戦略を練るマーケティングチームやPRチーム。Inspire Highらしさを考えるブランディングチーム、高校生の視点でサービスを見て意見をくれる、輪島くんをはじめとした「Core6(コアシックス)」チームや中・高・大学生サポーター。そして、濱田が所属するエンジニアチームという、社内外が入り混じった構成です。
また、海外のユニークで先進的な教育者たちにもアドバイザリーボードメンバーとして関わっていただき、教育的な価値をインストールしてもらっています。全部で15人前後のチームですが、各々の領域にとらわれず、活発に意見を交換しながらサービスを組み立てています。
―「Core6」はどのような関わり方をしているのですか?
輪島:Core6のメンバーは全員高校生で、現在5名。週に1回集まって小松さんたちとディスカッションし、ユーザーの立場から見たフィードバックや、「こういう機能があったらいいんじゃないか」というサービス面の提案もしています。
たとえば、ぼくは普段から学校の友だちと政治やビジネスの話をしたいと思っています。でも、そうすると「意識高い」とからかわれることもある。だから、そういった話が気兼ねなくできるような場所がほしいと提案したところ、「インスパイアルーム」と呼ばれるトークルームを実装してくれました。
濱田:「Core6」からの意見は、エンジニアとしても得るものが多いですね。
―それは、たとえばどのような部分でしょうか。
濱田:ぼくたちは、中高校生に向けたものをつくってはいるけれど、その年代が本当は何を考えているかはわかりません。だって、ぼくらはもう、大人になってしまったから。
彼らの考えを知るために、可能な限りCore6の会議へ参加するようにしているんですが、すごく面白い。
この前も「ライブ配信のとき、動画が隠れてもいいからコメントを全画面で表示してほしい」と言われて、目からウロコでした。今回のアプリでは、ライブ配信中にもコメントを確認できるよう、基本的には両方表示させています。でもユーザーからすると、コメントをじっくり読みたいときと、動画をじっくり見たいときがある。ぼくらは無意識のうちに「このアプリではこうだから」と押しつけてしまっていたなと気づかされました。
(右)コメントあり、(左)コメントなし
小松:Core6のすごいところは、「そもそもなんでInspire Highって必要なんだろう?」と、根本からサービスのことを考え、言語化し、それらを踏まえた提案をしてくれるところです。ブランディングも、サービスのグロースでも力を貸してくれています。
濱田:10代のあいだで流行っているものは、すごい速さで移り変わっていきます。その最新の動向を少ないタイムラグで知ることができるいまの環境は、とても刺激的です。
Core6とのミーティング(撮影:CINRA)
「得意分野を増やしたい」もOK。求めるのは、好奇心旺盛なエンジニア
―今回は、Inspire Highの開発に関わるエンジニアを募集しています。エンジニアから見て、このサービスの面白い部分はどこにあると思いますか?
濱田:一番特徴的なのは、「自分の作品を投稿できて、フィードバックしあえる」ところですね。Inspire Highは、Youtubeやpixivのようにある程度の完成度が求められる場ではなく、アイデアスケッチやデッサンレベルのものを瞬発的に投稿する場所です。
もちろん、動画を見ることができるし、生配信に対して何か反応をするインタラクティブな動作も可能です。自分から能動的に動き、アウトプットすることで、ガイドだけではなく全国の同世代の人たちからフィードバックをもらえる。こういったクリエイティブラーニングが、最も面白いと思います。
また、今回は技術領域に制限をかけたくなかったこともあり、マイクロサービスという手法をCINRAでほぼ初めて採用しています。Inspire Highではベンダーロックインを避け、常にグロース可能な状態を維持したいと思っているので、アプリのフロントエンドフレームワークにはReact Nativeを採用し、データベースはDynamoDB、ウェブサイトはVue.js(Nuxt)……と、さまざまな技術領域をマイクロサービス的に立ち上げ、それぞれをAPIで接続しています。
―開発に携わる場合、どのようなスキルが必要でしょうか。
濱田:特に必要なのは、JavaScriptです。バックエンドからアプリ、ウェブのフロントエンドに至るまで、90%以上のコードがJavascriptで書かれています。開発環境はすべてローカルで、DockerやNodeなどで仮想環境を立ち上げ、スマートかつ効率的に開発ができます。
―サービス開発において、改善する余地があると同時に、さまざまな技術領域に挑戦できるのは、エンジニアにとってやりがいがありそうです。
濱田:そうですね。すごく楽しいと思います。幅広い技術領域に対応できるハイパフォーマーがいれば大歓迎ですし、何かしら得意な技術を持っていて、新しい領域にもチャレンジしたいという好奇心がある方も求めています。得意分野ごとに分業することもあれば、ひとりで複数領域もやるといったような、柔軟に対応できるチームが理想なので。採用の幅は広いと思います。
―最後に、もし濱田さんの学生時代にこのサービスがあったとしたら、どのような変化があったと思いますか?
濱田:ぼく自身は北海道の生まれで、高校時代はレコード屋に通い詰めていました。そこでいろんな人と出会い、刺激をもらえたから、いまの自分の考えや価値観があるのだと思います。
それと同じことは、TwitterやInstagramでも可能です。特定の人に憧れがあって、アクションを起こしてパーソナルな関わりを増やしていく。ただそうすると、どうしても考え方や好みが同じ人と集まりがちです。
Inspire Highは、いままで知らなかった人をある種のキュレーションを経て紹介され、対等につながれる。これは、いままでになかったことです。もしぼくが高校生のころにあったら、より価値観や自分の許容する範囲の幅が広がっただろうなと思います。