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地方の公立高校から、日本の未来をつくる。なぜ今「地域みらい留学」に取り組むのか。

教育を核に、持続可能な地域づくりを目指す

「地域・教育魅力化プラットフォーム」は、株式会社リクルートキャリア初代社長の水谷智之さん、NPO法人カタリバ代表の今村久美さん、島根県教育魅力化特命官の岩本悠さんによって、2017年に設立された組織。今回は、長年現場を見てきた岩本さんにお話を伺いました。

岩本さんは2006年から、島根県の離島・海士町(あまちょう)にある隠岐島前高校にて、高校魅力化プロジェクトに取り組んできました。

少子化が進み、廃校寸前だった隠岐島前高校ですが、地域の課題を発見し解決に挑戦していく授業を導入し、全国から生徒を募集したところ、生徒数はなんと2倍に増加。
(2008年に89人だったのが、2016年には180人に。そのうち86人が島外から入学。)

岩本さんはこの高校魅力化の取り組みを、全国へ広げることを目指しています。

学校は地域にとって重要な機能を持っています。学校がなくなると若い人が住めなくなるし、廃校は地域の存続や未来に直結する問題です。毎年、全国で約500校が廃校になっています。一方で、これまで学校や教育は、社会づくりにおいてあまり見向きされていませんでした。そこで高校を核に持続可能な地域づくりを目指そうと、「地域・教育魅力化プラットフォーム」を立ち上げました。

「地域・教育魅力化プラットフォーム」が取り組んでいることは、主に3つ。

1つは、地域と教育環境の多様性を育むために、中学卒業後に都道府県の枠を越えて地域の高校で過ごす「地域みらい留学」の支援。

2019年現在、北海道から沖縄まで26道県55地域の公立高校が地域みらい留学生を受け入れており、それらの学校と生徒が出会う合同学校説明会「地域みらい留学フェスタ」も昨年は1000人、今年は2000人が参加し、関心が高まっています。

2つ目は、自ら未来をつくる力を育むために、課題先進地である地域で高校生が地域の課題を見つけて、多様な他者と協働し、挑戦していくプロジェクト学習の推進。高校生向けにプロジェクトのスタートアップ合宿の開催や成果を発表するアワードの開催なども行われています。

3つ目は、社会に開かれた学校づくりや「地域みらい留学」、プロジェクト学習を推進する、高校魅力化コーディネーターの育成や支援。

僕らはこうした学びを日本全体にスケールアウトしています。「たまたまあの学校だったからできた」とか「あの人がいたから」と留めることなく、全国に広げて、次の時代の当たり前にしていきたいと思っています。


では、どのように全国へ広げていくのか。
岩本さんは3つの鍵があると言います。

1つ目は価値の見える化。子どもたちの変化や成長、地域社会に与えるインパクトなどを数値化することで、より広い共感につながります。

たとえば2019年11月に発表された調査結果では、島根県では高校魅力化によって地域の総人口は5%超増加、また地域の消費額は約3億円増加し、歳入も約1.5億円増加したことがわかりました。

2つ目はネットワークをつくること。地域や学校の枠を越えた「共学共創プラットフォーム」を立ち上げ、お互いに学び合う場を目指しています。

3つ目はセクターを越えること。教育という業界に閉じず様々な業界とつながったり、学校・行政・民間など立場を越境してつながることで、イノベーションが起きやすくなります。

さらに「地域・教育魅力化プラットフォーム」では国や都道府県という枠を越えて様々な業界とつながりながら、全体のシステムを変えていきながら学校の現場の声も聞き、両方を組み合わせるつなぎ手の役割も担っています。

2020年度からは、地方創生の枠組みのなかで、1年間だけでも地域へ留学できるようになります。

自分の人生を、自分で切り拓けるように

内閣府が平成26年に報告した「子ども・若者白書」によると、日本の子どもの70%は「社会を変えられない」と感じています。また「自分の将来に希望を持っているか」「40歳になったときに幸せになっていると思うか」といった質問についても、ほかの6カ国のなかで最も低い結果が出ました。

世界的に見ても、日本の若者は社会に関わりたいという思いが低く、未来への希望も低いというデータが出ています。そうした状況では、自分の人生を自分で切り拓くことは難しいですよね。僕らは教育を通して、子どもたちが自分の地域や社会を自分たちでつくれると信じられるように育てていきたいんです。「意志ある若者」と呼んでいるのですが、そういう若者にあふれる地域や日本をつくっていきたいと思っています。

学校を地域に開いていくことと、”意志ある若者”を育てることは、どのようにつながっていくのでしょうか。

学校を地域社会に開いていくと、子どもたちにとって手触り感があるというか、五感で感じられる、リアルな人や課題や社会との出会いが生まれます。そうした本気で挑戦している大人の姿や課題を身近に感じることで、「自分はもっとこうしたい」とか「こんなことができるんじゃないか」、「自分もこんなかっこいい大人になりたい」と、内発的な意欲を育んでいくことができます。


また、プロジェクト学習も、大きな影響があると続けます。

「自分がこうしてみたい」「こうしたらよくなるんじゃないか」と思ったことを、ただ思うだけで終わらせずに、社会の地域の一員としてやってみる。口で言うのは簡単だけど、実際にやるとなったら勇気もいるし、ときには怒られるし、いろいろな人たちとコミュニケーションもとらないといけない。それって、これからの社会を切り開いていくために必要な力なんですよね。試行錯誤するなかで、そうした力を身につけていきます。もちろん社会を動かすほどのプロジェクトはできないけれど、それでもできることがあるという手応えと、全然できないという悔しさを知ることができます。「テストで点数が足りないから」というのではなく、経験を通して「なぜ力がもっと必要なのか」を本能的に実感するので、「もっと学びたい」という意欲につながっていきます。

その例として、岩本さんが隠岐島前高校で高校魅力化コーディネーターをしていた際の、あるプロジェクトについて教えてくれました。

海士町のある島前地域では観光客も減っているので、ある生徒が島前地域の人のつながりを感じるような観光ツアーを企画して、実際に全国から来てもらったんです。料理が好きな生徒はレシピを考えたり、絵やデザインが得意な生徒はポスターやチラシをつくったり、それぞれの個性が出てきて。そうした過程で自分の強みを知ったり、将来の夢を見つけて次の進路につながったりすることもあります。ツアーの様子をビデオで撮影していた生徒は、それを編集してナレーションも入れて、けっこういい映像ができたんです。彼は「もっとやりたい」と、卒業後は専門学校に進んでラジオ局に就職したんですけど、将来は島前地域に帰ってきてネットラジオを発信したいと言っていましたね。


あと3年で地域社会に開かれた高校を日本の当たり前に

次の3年間で、地域社会に開かれた高校を日本の当たり前にしていこうと岩本さんは意気込みます。

日本では約30年前に高校改革がおこなわれて以来そのままでしたが、今、30年ぶりに変わろうとしています。2022年には高校の学習指導要領が新しくなるので、高校教育を変えるためには、2022年までのこの3年間が勝負なんです。

新しい学習指導要領に、地域社会に開かれた高校づくりの理念は書き込まれていますが、その中身やその実現を支える仕組みはまだできていません。逆にそれができなければ、理念倒れで終わってしまう。まさに「今が勝負のとき」だと言います。

そして日本に留まらず、世界にも目を向けています。

地域社会に開かれた高校づくりの取り組みは海外でも評価を受けていて、ブータンでも始まっているのですが、日本のソーシャルイノベーションとして世界に輸出していきたいと思っています。世界的にも国として公教育を地域に開いていく事例はないので、いいモデルになるはずです。

事務局長を務める尾田洋平さんは、教育関係の仕事経験はなかったと言います。

尾田さん もともと東京で営業組織のマネジメントや新規事業開発の仕事をしていました。島根出身で、将来的には島根で地方創生や教育の仕事をするために、ファーストキャリアで株式会社リクルートを選択しました。教育が地方の持続可能性の大事なポイントだと思い、岩本に会いに行って、話を聞くなかで、この活動はそれがまさに体現されていたので、一緒にやってみようと転職を決めました。

現在、スタッフは代表3人を含め11人。
年齢は30歳前後が多く、ただ決められたことをやっていくのではなく、自ら主体的に動いていく人たちが集まっているそう。

尾田さん この仕事は正解がなく、様々な方と未来をつくっていく仕事だと思います。今のメンバーは、そんな難しい状況の中で自ら進んで楽しめる人や、一人で抱えず、みんなを巻き込みながら、チームワーク・チームシップを大事にできる人が集まっています。新しく入っていただく方も、試行錯誤しながら前向きにプロジェクトを遂行できるような方が合うと思います。あと、安井も母校のキャリア教育に取り組んでいたように、組織のゴールを大事にするだけでなく、自分の将来に向かって大事にしている世界観があり、本業とは別の動きをしている人がメンバーのなかにけっこういます。自分も島根の石見地方で一棟貸しの宿を経営して観光の仕事をしていたり、起業している人もいたり。そういった、一人ひとりが目指す世界観に向かって進む多様性を受け入れて、時には意見交換をすることで、本業と副業によい相乗効果をもたらしていることが多くあります。

どんな仕事をするかも大事ですが、誰と仕事をするかを大事にできる人が向いているようです。

やりがいが大きい分、大変なことも多いのでは? と聞くと、「大変なことばっかりですよ! 本気で地域や日本を変えようと思っている団体なので大変さもやりがいや楽しさに変わっていきます」とのこと。

「地域・教育魅力化プラットフォーム」の事業に正解がないように、組織の形や働き方にも正解はない。今後は様々な形で「地域・教育魅力化プラットフォーム」に関わる人を増やしていきながら、みんなで事業や組織をつくっていきたい、と尾田さんは続けます。

尾田さん これまでは日本財団から2016年ソーシャルイノベーター支援制度での最優秀賞を受賞した予算で3年間運営してきましたが、今年度でその助成が終わるため、今後は自主経営する必要があり、組織としてそうした危機感があるのも実情です。また正直なところ、東京や現地の高校などへ行く出張も多く、僕は東京にいるときと働き方はあまり変わっていません。満員電車での通勤はないですが、スローライフという感じではなく、地域に拠点を置いて、地域のよさも感じながら、東京以上に全国を舞台に挑戦できています。そして、代表を含めたメンバー全員が教育改革を信じて当事者意識を強く持って突き進んでいるおかげで、国や行政に直接提言できることもあり、日本の教育を変えていくことが理想論ではなく実感を持ってできる、という自信もあります。

3人のお話からは、日本の教育を変革しようという本気さが伝わってきました。

ともに教育や地域の未来をつくっていきたい!と共感した方は、1月18日に都内で「地域・教育魅力化プラットフォーム」の理事と一緒に次期事業計画を考えるワークショップ「開かれた経営会議-教育と地域の未来を考える-」が、また1月25日には「大人のしまね留学ー地域で教育を仕事にするという働き方ー」があるので、ぜひ参加してみてください。新しい教育の幕開けを、一緒に見ることができそうです。

(2019.12.26)

地方の公立高校から、日本の未来をつくる。「地域・教育魅力化プラットフォーム」はなぜ今「地域みらい留学」に取り組むのか
グリーンズ求人での募集期間は終了しました。募集状況は地域・教育魅力化プラットフォームにお問い合わせください。 みなさんは、高校をどのように選びましたか? おそらく多くの人が、自分が暮らす地域のなかで、偏差値を参考に選んだと思います。 その枠を越えて、全国どこでも好きな学校を選べるとしたら? いま、高校選択は地元ではなく、全国の地域に飛び込む高校生が増えています。 ...
https://greenz.jp/2019/12/26/c-platform/
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