BCG Digital Ventures(以下、BCGDV) でPartner & Director, Experience Designを務める 花城泰夢がゲストを迎え、デザインに関するトークセッションを行うシリーズ企画「DESIGN MEETUP」。
今回のゲストは、TBSテレビのデザインセンターでUXデザイナーを務める野田克樹さん。2021年3月まではGoodpatchに所属し、UXデザイナーのマネジメントを行っていた野田さんに、デザイナーとしてのキャリアに加え、プロジェクトを成功に導くためのリーダーシップ論についてもうかがいました。
プロフィール
野田克樹(のだ・かつき)
TBSテレビ / デザイナー。千葉県木更津市出身、千葉大学工学部情報画像学科 卒業後、プロジェクトマネージャー / UXデザイナーとしてGoodpatchへ入社。約2年間UXデザイナー/プロジェクトマネージャーとして主に日系大企業のデジタル新規事業の立ち上げに携わる。2018年にはTBSテレビの新規Webメディア「Catari」の立ち上げからリリースまでを担当し半期社内MVPを受賞。2019年6月からはUXデザイナーのマネジメントに従事。2021年4月にTBSテレビのデザインセンター デザインマネジメント部に転職。
花城 泰夢(はなしろ・たいむ)
BCG Digital Ventures, Partner & Director, Experience Design。2016年4月、BCG Digital Ventures Tokyo の立ち上げから参画。東京拠点のExperience Designチームを牽引し、ヘルスケア、保険、消費財、金融などの領域で新規事業立ち上げやカスタマージャーニープロジェクトを実施。日本のみならず、韓国でも金融や小売業界にて新規事業立案やカスタマージャーニープロジェクトを行ってきた。UI/UXを専門領域としている。
インプットの徹底と人に頼る力で、もやもや期をブレイクスルー
花城:この4月に周囲をあっと驚かせる転職をした野田さんですが、プレイヤー時代、もがいていた時期もあったと聞きました。ちょうどこの春、就職や転職、リーダーに昇進するなど新生活をスタートした方も多いと思うので、その辺り聞かせて頂けますか?
野田:むしろ、もがいてない時代がないくらい、いつももがいていました。僕はGoodpatchに新卒で入社したのですが、経営者や事業部長がお客さまという環境下で、知識量が圧倒的に足りていませんでした。彼らとフラットに議論できるほどの知識も視点もないので、打ち合わせでも発言ができない。
そうすると何が起こるか。先方の「こういう感じのものが欲しい」を鵜呑みにしてしまうんです。その一言を純粋に受け取って、社内のデザイナーにつくってもらう。けれどもそれって、変更可能性が高いんですね。自分が上手くファシリテーションできていなかったがために、後々要件が変更になり、結局つくり直すはめに。かなり手戻りをさせてしまって周囲に迷惑をかけていた頃は辛かったです。
花城:それがブレイクスルーしたタイミングは?
野田:二つあります。一つは、徹底的なインプット。1年目はとにかく本を読みました。経営者が何を考えているかを知るために、経営にまつわる本は読むようにしていたし、デザイナーの基礎となるUIUXデザインの本は読み漁りました。
もう一つは、人に頼ること。本をいくら読んだところで、10年以上経営を実践している人に知識で勝てるわけがありません。ならば自分より得意な人を見つけて、その人たちの考え方や経験則を盗ませてもらう。すると、書籍とはまた違うショートカットしたインプットができるようになりました。分からないことは自分で抱えず、素直に教えてもらう。そんなマインドセットに変えてから、物事が円滑に回るようになりました。
花城:その方法はバランスがいいですね。本の知識ってゼネラルなものが多いと思うのですが、すでに経験してきた人から実践知を共有してもらう。その行ったり来たりで、バランスよくインプットしていったのですね。
自分が思っているより「5倍」丁寧に説明する
花城:プレイヤーからマネージャーになったときは、上手くいきましたか?
野田:実はマネージャーとしても、微妙な1年目を過ごしました。結局はプレイヤー時代と一緒なのですが「自分が何とかしないと」と思っていたんですね。たとえば、これまでの方法を壊そうとするとき、メンバーはその施策に腹落ちしていないから動かない。
花城:「自分がやる」のとはまた違った考え方をしなければいけないですもんね。ここにもブレイクスルーポイントはあったんですか?
野田:メンバーの心に響かせることを意識しました。自分がメンバーに話していることって、ちゃんと理解されていると思いがちですが、自分が思っている5倍くらい丁寧に説明するようにしたら、上手くいくようになりました。焦りや足りない部分も開示しました。背景を5倍丁寧に伝えることで、同じ施策でもやる気を出してもらえる。自走して課題解決できるチームができたと思いました。
花城:「5倍」というのは?
野田:僕の好きな料理研究家のリュウジさんが「思っている3倍、胡椒を入れてください」って言うんです。具体的な数字があると分かりやすいし、自分をメタ認知できるから、いい表現だなと思って(笑)。
花城:なるほど(笑)。でも確かに、自分の仕事にオーナーシップを持ってもらうためには、強いリーダーシップだけでは不十分ですよね。自走してもらうためには、仕事の意義や背景、お互いが大切だと感じていることを共有する。腹を割って話し合うこともあるし、時には弱みを見せることも必要ですよね。
野田:自分自身に言い続けていたのは、「人はほぼ変わらない」という視点を持つこと。本当に変えたいなら、1年半はかかる。1年半言い続けられるほどの忍耐力がないと人は変わらないのだと、マネージャーの自分に対してたびたび言い聞かせていました。
リーダーに必要なのは「勇気と覚悟」
花城:リモートワークが進んで、オンボーディングやチームビルディングが難しくなったという話もありますが、そのあたりはどうしていますか?
野田:メンバーの得意・不得意は、解像度高く知るようにしています。1on1を通して、得意な分野や過去に経験したプロジェクト、苦手なことや誰かに任せたいことを聞く。これをメンバー全員に対してやります。
これは実は、プロジェクトを成功に導くための「ステップ2」です。「ステップ1」では、自分たちが集まった理由やプロジェクトの目的を詳細まで言語化します。先ほどの「5倍」の話にも通じますが、細かく共通認識をとる。その上でメンバーの得意・不得意をすることで、目標達成に対する実現可能性が明確になります。今のチームで本当にそれができるか。その時点で不安要素があれば、外部にヘルプを求められますから。
花城:かなり深いコミュニケーションをしているんですね。
野田:でもこれだけでは面接みたいになって、心理的安全性が保たれない。なので、コロナ前はランチや飲み会は積極的に行くようにしていましたし、おやつタイムを設けるためにケーキを買っていくみたいに、プライベートなコミュニケーションはかなりしていました。仕事で本当に悩んでいることを話してくれる関係性って、プライベートのことも語れる間柄じゃないと、難しいと思うんですよね。でも、今はそれができないのがもどかしいです。
花城:関係性の余白というか、スモールコミュニケーションの積み重ねは偉大ですよね。カフェエリアでちょっと立ち話をするとか、そういった短い会話が積み重なって、関係性が構築されていく。なかなかデジタルで補いにくい部分だと思います。
マネージャー経験を通して、野田さんはリーダーに必要なものって何だと思いますか?
野田:勇気と覚悟かな。たとえば入社1年目だと「1年目はこんなこと言っちゃいけない」みたいな遠慮があると思うんですよ。でもそれをとっぱらって「やりたい」と言える勇気だあるか。そして、実際に行動ができるか。手を挙げるだけなら誰でもできるから。
その人のリーダーとしての幅って、どれだけ意思決定をしてきたかだと思うんです。AとBの選択肢があったときに、クライアントに「Aがおすすめです」と言うとか、そういう些細なことでもいいんです。「自分で決める」ってことを経験すると、プロアクティブな態度が身につきます。そのうえで、やりたいポジションが空いたときに自分自身をプロモートする勇気を持つことと、言い切って人を巻き込んで施策をやり遂げること。リーダーシップを育むのに必要なのは、この二つだと思います。
花城:リーダーとしての勇気と覚悟、チームで成果を出すことの大切さは、僕らとしても大事にしているところで大変共感しました。本日は有難うございました!