そのヘルシーでしなやかな「かぢボディ」で人気を博す、加治ひとみ。長年の夢だった歌手デビューへの夢を諦めきれず、26歳でTGA(東京ガールズオーデション)に参加。アーティスト部門グランプリ受賞し、28歳で遅咲きのデビューを果たす。しかし一年半後、アーティスト活動はストップ。そんな中で出会った現マネージャー・出先孝美との二人三脚による、加治のパーソナリティを生かしたリブランディングが実を結び、現在では『腸活』を筆頭にトレンドセッターとして活躍の場を広げている。今回は、契約解除まで数ヶ月と迫ったなかで成し遂げた起死回生の歩みと出先流のマネジメント術、そして子育てとマネージャー業の両立について語ってもらった。
契約解除目前
運命を変えた“ポロコさん”との出会い
「神ボディ」「奇跡のアラサー」「腸活の女王」と、今でこそ加治ひとみを形容する言葉を挙げればキリがないほどだが、28歳で遅咲きのデビューを果たした彼女のキャリアの始まりは、順風満帆とはほど遠いものだった。
契約解除目前という崖っぷちから這い上がり、現マネージャー・出先と二人三脚で獲得した現在の活躍。そこに至るまでのエピソードは加治の口から方々で語られているが、ここでは改めて出先の視点で当時を振り返ってもらおう。2人の出会いは2018年。ブランドの新作発表会の帰り道、出先が加治に声をかけたことに端を発する。
出先「それまでは挨拶をする程度の仲だったので、ちゃんと会話をするのはその日が初めて。完全に仕事抜きで他愛もない話をしていたのですが、のちの『腸活ブーム』につながるライフスタイルや物事に打ち込むストイックな姿勢が端々に垣間見え、『彼女なら歌に限らずいろんなことが出来るだろうな』と感じていました。それに、そこにいるだけで映画のワンシーンのように空間が華やぐような魅力もありました。しかし、いざ近況を尋ねてみると、そのとき既に契約解除が決まっていたんです」
加治「ポロコさん(出先の愛称)と出会った時点で、数ヶ月のうちに結果を出さなければ3年目が迎えられないことが決まっていました。だけど当時の私は音楽以外の仕事をしたことがなかったので、なにをどう頑張ればいいのかがわからない状況でした」
せっかく掴んだ夢を諦めたくない。その一心から、加治は自力でInstagramのフォロワーを10万人まで拡大させた。しかし、アーティスト活動はストップ。一方で、加治ひとみのマネジメントとは別ユニットにいた出先は、当時の管轄長に向けて直談判を試みていた。明らかに困窮した状況と知っても尚、出先を突き動かしたもの。それは「私なら加治ひとみをカリスマ的存在に出来る」という直感だったという。
出先「実際、状況はかなり厳しくて、デビュー以前の経歴がない彼女にとっては30歳という年齢もネガティブな要素として捉えられていました。だけど、30歳は女性が輝くタイミングとして決して遅くない。なにより、彼女の可能性をたった1年半で判断するのは、すごくもったいないと思ったんです。数字や結果だけでは本当の魅力は見えないし、『大丈夫! 絶対あなたは輝ける!』と言ってくれる人がいれば自信が持てるはず。幸い私には、私のことを理解して信じてくれる上長がいました。次はかぢちゃん(加治の愛称)にとって私がそんな存在になりたい、その想いでマネージャーに立候補しました」
「売れなければ自分も退社」
Mad+Pureなマネジメント
突然舞い込んだ出先のマネージャー就任を「ポロコさんの情熱的な性格はカフェで会話したときから感じていましたが、まさかここまで熱い気持ちを持ってくれていることには驚きました」と加治は振り返る。そしてちょうどその頃、タグラインとして掲げられた「Really! Mad+Pure」という言葉が、さらに出先の背中を押したという。
出先「それまで松浦会長が言っていた『仕事が遊びで遊びが仕事』をタグラインのように捉えていましたが、人が驚くようなMadなことをPureに成し遂げるというテーマに変わって、『これこそいま私がやろうとしていることだ!』って(笑)。絶対一緒にこの状況を乗り越える。でも、もしもダメだったら私も会社を去ろうと決めていました。だって、一緒にがんばって彼女だけ契約解除されて私は会社に残り続けるなんて、薄情じゃないですか。それに、そのくらい自分を後が無い状況に追い込んででもこのピンチを脱する覚悟だったんです」
崖っぷちからの再スタートを切った二人。そこでまず出先が注力したのは、加治についてくまなく知ることだったという。時には6時間、カフェで夢を語らいながら加治の興味関心や生活スタイルについて徹底的にヒアリングをした。数字でも結果でもなく、アーティスト自身の内面や考え方から魅力と可能性を探る。そうした出先のマネージャー哲学が「かぢボディ」といった加治の強みを発掘し、活路を開いた。
その後、モデル業を中心に飛び込み営業で獲得したウェディングモデルやプロポーションを活かしたグラビア撮影といった、これまでとはまったく異なる分野に次々挑戦。積極的かつ地道なプロモーションに出先の風を読むセンスも手伝い、当時まだ芸能人の出演が少なく間口の広かったWEB媒体を中心に活動することで着実に認知度を高めていった。
それまでストイックなまでに音楽一本で活動してきた加治にとって、一連のすべてが新しい経験だった。しかし、果たしてそこに戸惑いはなかったのだろうか?
加治「私にとってポロコさんは、新しい自分に出会うきっかけをくれる存在。どうすれば私が輝けるのかを常に考えてくれているのが伝わっていたので、『グラビアの仕事をしてみない?』と提案されたときも不思議と戸惑いはありませんでした。一緒にいるときは他愛もない話で笑い合っているけど、私がいないところでポロコさんがすごく頑張ってくれているのをわかっているし、私も現場でしっかり結果を出せるように頑張りたいと思っています」
免疫力ブームを予見
一躍フォロワー40万人のスターへ
順調に活動ペースが加速し、契約が継続されて迎えた2019年。加治の認知をさらに広める決定的な出来事が起こる。新型コロナウイルス蔓延による健康ブームの到来だ。この時世を受けて出先は、近いうちに“免疫力ブーム”が来ると予想し、加治が10年ほど私生活で続けていた「腸活」に着目。そのライフスタイルがテレビ番組での密着取材で取り上げられたことが大きな話題となり、加治のInstagramのフォロワー数は一気に40万人に跳ね上がった。
「腸活の女王」の異名と自身が生み出した大トレンド。順風満帆と引き換えに、崖っぷちから這い上がった先で手にしたのは、唯一無二のドラマチックなキャリアだった。
出先「自分が10年以上やってきたことがこんなふうに認められて、誰かの役に立っているということをかぢちゃん自身もすごく喜んでいましたし、ずっと続けてきた『腸活』で認めてもらえたことが、さらなる自信につながると思います。同時に、テレビの絶大な影響力も改めて感じました。自己発信するSNSとは違って、テレビでは嘘がつけないんです。付け焼き刃では、すぐにバレてしまう。リアルにずっと続けているからこそ武器になるし、その説得力がトレンドに繋がったと思っています」
子育てと両立できるのは、
家族・会社・かぢちゃんあってこそ
ありのままでいることが最大の武器になる。このことを実証した加治の存在は、エイベックスが新しい時代のアーティスト像を描くうえで重要なアイコンになるだろう。そんな加治を支える出先は、プライベートでは二児の母。彼女もまた、子育てとマネージャー業を両立し、ありのままの自分で仕事と向き合い、女性が活躍する社会を体現する存在だ。
出先「私が第一子を妊娠したのは、毎日ガンガン走り回っていた頃(笑)。周りにも産休を取る方は全然いませんでしたし、妊娠=退社というのが当たり前だと思っていました。だけど、いざ自分がその立場になったとき、仕事を辞めるという選択肢を考えられなかったんです。当時の部長に相談したところ、『これからは、女性が子供を産んでも仕事を続けられる時代になる』と産休を勧めてくれました。一年ほどして職場復帰しましたが、社会も働く女性を応援する空気感が高まっていたように思います」
加治「第二子妊娠のときは、すでに私を担当してくださっていましたよね」
出先「内心、迷惑をかけてしまうかもしれないと不安に感じていたけれど、かぢちゃんは『おめでとうございます! 現場には1人で行けるので、お仕事無理しないでくださいね!』って言ってくれて。家族の支えと会社のサポート、そしてかぢちゃんの理解がなければ、子育てとマネージャー業の両立は難しかったと思います。時代も会社も変わったし、世界的にも母親という存在そのものの考え方が変わってきているなかで、もっと女性が活躍できる社会に成熟することを期待しています」
素敵なところを見つけて褒める。子育てで培われたこの視点も加治ひとみという存在の飛躍に一役買っているのかもしれない。インタビューの最後に、今後ますます期待のかかる加治の展望を訊いた。
加治「モデルや色々な活動をする中で1人の表現者としてチャレンジしたいという気持ちがあるので、一昨年あたりから演技の勉強を始めたり、今年はオーディションにも積極的に参加しています。まだ大きな結果は出せていないけど焦らず頑張りたいです!さらに今後は、表現の幅を広げることと同時に、美容はもちろん!腸活や自律神経について深く学びたいと思っています。健やかであることは、自分らしくいるために欠かせないことじゃないですか。『自分を整えることは、自分を愛すること』という観点で、女性をもっとハッピーになれるお手伝いが出来ればと考えています」
出先「私は、さらにそれをもっと大きな視野でエンタメとして広げていきたいですね」
年齢や経験に関係なく自分の可能性を魅力として発揮出来るエンタテインメントの在り方と、妊娠・出産というライフステージの変化に関わらず女性が第一線で仕事を続けられる社会。そのどちらもが可能であることを二人三脚で体現する加治と出先の挑戦は、今後もまだまだ続きそうだ。