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領域トレンドリサーチ 育児領域:知育サービス

育児領域の第3回テーマは、「知育」です。

「知育」は育児をしている方はよく耳にする言葉かと思いますが、そもそもの起源をさかのぼると、イギリスの哲学・社会学者ハーバード・スペンサーが唱えた「知育」・「徳育」・「体育」で構成される「三育」という教育思想のひとつで、日本にこの概念が入ってきたのは明治初期頃と言われています。福沢諭吉の『学問のすすめ』 でも、教育の基本は三育である、と明記されています。
(現在の「知育」の中には、徳育や体育も含まれる部分もあるため、本来の知育とはなにか?という議論もありますが、今回は割愛します)

今回は、赤ちゃんが生まれてから、どのように何を学ばせるかに関するサービス動向を紹介します。

幼児期に必要な学習準備の要素と影響

幼児教育は、「Aをした結果Bになる」というような、短期的因果関係がわかりづらく、定量的判断もしにくいという点で、評価が非常に難しい領域であるといえます。

とはいえ、幼児期における知育の取り組みが、その後の情緒発達や思考力、判断力にどのように影響するかは長年研究されており、一定程度の因果関係が見出されています。

ベネッセによると、幼児期に「がんばる力」が高い子どもほど、小学校低学年で「勉強していてわからないときに、自分で考え、解決しようとする」「大人に言われなくても自分から進んで勉強する」という傾向がみられるという調査結果が得られています。

この調査は、幼児期に必要な学習準備に関する軸を①文字・数・思考② 学びに向かう力③生活習慣の3つであるという前提で実施しており、その中でも「がんばる力」は、「学びに向かう力」を構成する5つの要素(好奇心・自己主張・協調性・自己抑制・がんばる力)のうちの1つです。

幼児向け知育サービスの分類

CB Insightによると、Baby / Kids Tech領域の中でも知育領域は最も投資額が大きく、またサービスの数も膨大です。今回は、その中でもサービスの対象年齢が0-6歳を含む未就学児向けのサービスを対象とした上で、コンテンツや技術・ビジネスモデルのいずれかの新規性が高いものに絞り、以下のように分類しました。

図で示している「アクティビティプログラム」は、後ほど事例でもご紹介しますが、親が子どもに対してどんなことをしてあげるとよいのかを提示してくれるサービスを指します。

また、知育領域で特に注目すべきはSTEAM教育系のサービスです。STEAMとは、S : Science T : Technology E : Engineering A : Art M : Mathematicsそれぞれの頭文字を取った言葉で、科学・技術・工学・芸術/教養・数学の教育分野を総称した言葉です。

ただし、STEAM教育の本質的な考え方としては、科学やITに関する人材創出のみを目的としているわけではなく、「自分で学び、自分で理解していく子ども」を育てる狙いがあります。幼児向けサービスでは、専門性の高いSTEAM教育ではなく、その根幹となる自発性、創造性、判断力、問題解決力を養うサービスが多い傾向にあります。

注目サービス・動向

知育領域で注目するサービスを紹介します。

1. 遊びながら擬似職業体験「ごっこランド」

ごっこランドは、キッズスター社が開発・運営する、子ども向けの知育アプリです。「おすし屋さんごっこ」「ケーキ屋さんごっこ」「歯医者さんごっこ」「マックアドベンチャー」など、お店屋さんごっこやお仕事ごっこなどを通じて社会体験ができます。いわばデジタル版のキッザニアといえるでしょう。

2歳児からでも遊べるように、シンプル操作で遊べる設計になっており、随所に知育要素(数字や新しいことばの理解、習得など)を取りいれています。

ユニークなのは、それぞれの職業体験に、実在の企業が出展している点です。2020年6月時点で、飲食・コンビニ・デパート・航空・自動車・保険・市役所 等、様々な業界を代表する企業・団体44社が出展しています。

出展企業が自社のサービスを題材にしたゲームの開発・運営料金を負担するため、ユーザーは無料で遊ぶことができます。企業にとっては、「子どもへの教育貢献」というCSR文脈の使命を果たしつつ、「この仕事といえば○○」という原体験として、ブランドを認知させることができます。特に業界を代表するような企業にとっては、出展しない理由を探すのが難しいのではないでしょうか。

また、アプリ内ではリアルイベントへの参加申し込みや、実店舗で使えるクーポン取得ができるようになっています。これによって子どもが「お店に行きたい」となると、必然的に親と一緒に来店することになります。

このような、「親が子どもに参加させたいイベントに連れてくる」ではなく、「子どもが参加したいイベントに親を連れてくる」という現象を見越した体験作りは、子どもの好奇心・能動性を促す知育の側面、またビジネスモデルという側面においても、非常に秀れています。

2. 赤ちゃんの発育促進アプリ「Kinedu」

Kineduは、赤ちゃんの月齢に合わせた発達を促す遊びなどを、毎日動画やコラムで紹介してくれるアプリです。アクティビティの達成状況に応じて、発達状況の診断と今後どんなスケジュールで何をするべきかのマイルストンを提示してくれます。既に、全世界180カ国以上で使われており、赤ちゃんの発育促進アプリとしてはかなりメジャーなサービスです。

アプリ内では、はいはいのやり方、積み木遊び、赤ちゃんの抱き方など、0-4歳の月齢に合わせた発達を促す遊びなどを、毎日1分程度の動画やコラムなどで紹介してくれます。

単純なモノ売りで赤ちゃんに特化した商品や、就学後の教育サービスにステップアップしていくようなものは多いですが、一定期間利用するサービスとして幼児に特化したサービスは比較的珍しいです。一方で、子どもと正確な言語コミュニケーションがとりづらい時期の親の悩みを、真正面からとらえたサービスと言えるでしょう。

3 . デジタル × アナログのSTEAM教育サブスク教材「WONDERBOX」

WONDERBOXは、2020年4月からサービス提供開始したばかりの、STEAM教育を目的としたサブスクの知育通信教材です。

冒頭でもご説明しましたが、幼児のSTEAM教育を目的とした教材なので、学校で習うような知識を身につけるための教材はほとんどなく、プログラミング、アート、パズル、創作など、知的好奇心や思考力、創造性を育む自由度の高いコンテンツを提供しています。

WODERBOXは、キットと対応するアプリが、週次・月次で変化する仕組みになっている点が非常に特徴的です。

さらに、アプリ上で作ったものや、キットでリアルに創作したものの画像を、専用のギャラリーにアップロードしたり、他の人の作品や答えを見た上で、ブラッシュアップもできるようになっています。

このような仕組みによって、子どもは常に新鮮なワクワクや驚きが続くように設計されており、売切り型の玩具や、単純に答えを示すような教材とは一線を画しています。

まとめ・考察

幼児向けのサービスは、ユーザーである子どもが購入意思決定者ではないため、親に対して価値を訴求できなければ、マネタイズが難しい領域です。その中で、ごっこランドのような、ユーザーには無料アプリを提供することで利用のハードルを下げながらも、親・企業のニーズに応えマネタイズするビジネスモデルは稀有な存在であるといえます。

子どものサービス体験の中に、親や企業を巻き込むストーリー作りは非常に重要であり、特に売り切りではないサブスク型のサービスの提供者は、エンゲージメントや継続利用率を高めるために強く意識すべきでしょう。

幼児期は、感情を言葉でうまく表現できないため、親にとっては、自分がした赤ちゃんへのケアがうまく作用しているのか、次にどんな状態を目指したら良いのか、いつ何をしてあげるべきなのかの判断が難しいでしょう。そのため、様々なメディアやクチコミを見たり、経験者の話を聞いたりして回り道をしながら、手探りで判断することが多いのが実状です。

グローバルではKineduやBabySparks等が普及していますが、これは国境を問わず存在する悩みであるため、日本での展開・普及の可能性もあるのではないでしょうか。ただし、その場合、コンテンツのローカライズは必須になってくるでしょう。

STEAM教育において、日本は先進国の中で大幅に出遅れていると言われていますが、近年続々とSTEAM教育系のサービスが増え続けています。日本におけるこれまでの教育では、「知識・技能を習得できているか」「問題に対して正解かどうか」を評価することが重視されてきましたが、近年の様々な社会変化を受けて、「主体的に考え、判断・表現し、変化に柔軟に対応できる力」の重要性が増してきているためです。

日本における2020年度の教育改革はそれを反映した形となっており、この波を受けて、さらにSTEAM教育や関連サービスの重要性は増していくでしょう。また、技術の発展に伴って、幼児向けのサービスもさらに表現力が豊かになり、日進月歩でサービスが洗練されていくのではないでしょうか。

いかがでしたでしょうか。次回は、3.家庭内における見守りサービスに関するトレンドについてご紹介します。

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