「自分が時間をかけてデザインしたプロダクトは、本当に必要とされているのか?」——かつて精密機器メーカーのインハウスデザイナーとして、顧客の遠さにもどかしさを抱えていた 江本 美和子 さん。彼女がその問いへの答えを見つけたのは、ユーザーストーリーが明確なバーティカルSaaSの世界でした。現在はアンドパッドでAI関連プロダクトのデザイン、およびデザインシステムの推進を担当する江本さんに、キャリアの転換点で掴んだデザインの面白さと成長実感について伺いました。同じ悩みを抱えるデザイナーの方にこそ届いてほしいインタビューです。
江本 美和子(えもと みわこ)
デザイン工学の大学院を卒業後、精密機器メーカーのインハウスデザイナーとして約10年間活躍。ハードウェアの筐体のデザイン、インターフェースデザイン、新機能のアイディエーションまで幅広く担当し、新製品のリリースも経験。その後、ITスタートアップへ転身し、少人数ならではのスピード感の中、UI/UXデザインからWebフロントエンドのコーディングまで幅広く経験し、Webサービスを開発する上で必要な力を身につけた。現在はアンドパッドで、AI関連プロダクトのデザイン、デザインシステムの推進、デザイン部メンバー向けの「Tsukuri(デザインシステム)もくもく会」の運営などに取り組む。
「ものづくり」が身近にあった原点と、メーカーで積んだ10年の経験
―― まずは、デザイナーを志したきっかけから教えてください。
もともと建築士の父と、ファッション関連の仕事をしている母のもとで育ったので、「ものづくり」がすごく身近にある環境でした。手を動かして何かを形にすることが当たり前だったんですね。学生時代に「プロダクトデザイナー」という職業があることを知って、これだ!と思い、大学・大学院ではデザイン工学科に進み、卒業後は精密機器メーカーのインハウスデザイナーとしてキャリアをスタートしました。
―― どんな業務内容でしたか?
製品のハードウェアのデザインから、インターフェースのデザイン、さらには「新技術はこんなことに使えるんじゃないか」というアイデア出しまで、約10年間在籍して、本当に幅広くやらせてもらいました。量産品として世に出るプロダクトをリリースできたのは、今振り返っても大きな財産です。
「ターゲットは広く遍く」――声が届かない場所で感じた、もどかしさ
―― 順調にキャリアを積まれていたように聞こえますが、課題に感じていたことはありましたか?
一見順調ですが、デザイン上の課題はありました。一番大きかったのは、 ユーザーの声が遠くて把握しにくい ということです。私が担当していたのは業務機器で、販売は代理店経由が中心。構造的に、自分が作ったものを実際に使っている人に直接会う機会がほとんどなかったんです。
だから、ユーザーのユースケースは想像力を駆使して組み立てるしかない。これはこれで「ユースケースを想定する力」が鍛えられた部分はあるのですが、一方で、 「自分が作っているこのプロダクトは、本当に必要とされているんだろうか」 という不安がいつも心のどこかにあり、手応えが返ってこない感覚がありました。
―― その後、Web業界へ転身されます。
はい。もっと開発サイクルが速く、直接的にユーザーの顔が見える環境でUXデザインを突き詰めたいと考えて、toC向けのサービスを提供しているスタートアップに移りました。ユーザーとの距離は確かに近くなったのですが、ここではまた別の難しさにぶつかっていました。
―― 別の難しさ、というと?
機能開発やプロジェクトをスタートするときのユーザーターゲットの設定がいつも広すぎたんですね。「30〜40代の女性がやや多い」という傾向はあったのですが、性別や年齢も幅広く、どうしても「ターゲットは広く遍く」になりがちでした。
幅広い人に使ってもらえることを考えるのは事業としては良いことなのですが、デザイナーとしては「誰の、どんな課題を、どこまで深く解決するのか」という芯が定まりにくい。今思えば、もっと強いコンセプトを立てて、踏み込んだ提案ができたかもしれない、という反省もあります。 ユーザーの声が遠い1社目も、ユーザー設定が広すぎる2社目も、デザインの"芯"は持ちにくい。 —— 2社を通じて、それを痛感しました。
ユーザーストーリーが明確な「バーティカルSaaS」との出会い
―― そうした葛藤を経て、アンドパッドに入社されたのですね。決め手は何だったのでしょう。
きっかけは、SaaS領域のデザインカンファレンスに参加したことでした。そこでバーティカルSaaSという領域の存在を知りました。すぐに色んな会社に応募してみたのですが、アンドパッドの面接の途中で見せてもらったデザインシステムのレベルの高さに、正直、衝撃を受けたんです。「ここでなら学べる」「ここで力をつけたい」と強く思いました。
―― 入社して、これまでとの違いはどう感じましたか?
まず ユーザー、ユーザーストーリーが明確 であることが、私にとっては大きな転換でした。建築・建設業界という特定のドメインに特化しているので、「誰のための、どんな業務を支えるプロダクトなのか」が常にはっきりしている。
しかもアンドパッドには、社内に建設業界のドメイン知識を深く持っているメンバーがいるんです。デザインを検討するときは、その人たちにヒアリングをして、実際の業務に近い解像度で「この現場では実際どう動いているのか」を確かめながら進めています。前職までずっと感じていた「ユーザーが遠い」という感覚が、アンドパッドでは大きく解消されました。
バーティカルSaaSのデザインは、なぜ面白いのか
―― 具体的に、バーティカルSaaSのデザインのどんなところに面白さを感じていますか?
いくつもあるのですが、 一つは「抽象化」の面白さと難しさ です。目の前の一社の具体的なニーズはしっかり拾う。けれど、SaaSである以上、A社にもB社にもC社にも幅広く使ってもらえる形に抽象化しなければいけない。この「具体と抽象を行き来する」作業が、デザイナーとしての腕の見せどころで、本当に面白いんです。
―― 簡単なことではなさそうですね。
そうなんです。たとえばANDPAD受発注のようなプロダクトだと、発注する側、受注する側、承認する人……と、一つの業務に複数のペルソナが関わってきます。各画面で「今は誰を主軸に置くべきか」を判断してデザインしないといけない。難易度は高いですが、そのぶん解けたときの手応えも大きいですね。
もう一つの難所は、 アナログな作業をデジタルに置き換えるとき です。長年紙でやってきた業務には、ユーザーが慣れ親しんだ作業の順序や考え方があります。われわれプロダクトデザイナーがそれらを無視して「デジタルデバイスでは正しいUI」を押し付けても実際の業務では使ってもらえません。特にAIを使ったプロダクトでは、AIの処理をどうUIに落とし込むかが腕の見せどころで、頭を悩ませています。
―― 今、まさにそのAI関連のプロダクトを担当されているんですよね。
はい。業務負荷の高い、設備や躯体などの数量拾いをAIで支援する積算AIというプロダクトに取り組んでいます。これまで人が手作業でやっていた煩雑な部分をAIに任せることで、ユーザーが本来集中すべき検証業務やコスト削減といった、 本質的な思考に時間を使える状態 を目指しています。煩雑さをなくして、人が考えるべきことに集中できる環境をつくる——そこにデザインで貢献できるのは、とてもやりがいがあります。
やりがいは、「使っている人の顔」が見えること
―― デザイナーとして、どんなときにやりがいを感じますか。
やっぱり、 日々プロダクトを使ってくれているユーザーが確かにいる 、という実感ですね。長年担当していた施工管理アプリは、現在69万人以上ものユーザーに使っていただいています。かつて「自分の作ったものは必要とされているのか」と悩んでいた身からすると、これは何よりの励みです。
これからの挑戦――AIで仮説検証のサイクルを速くする
―― 今後、挑戦していきたいことを教えてください。
AIを活用して、 プロトタイプを高速で作り、仮説検証のサイクルを回していくデザイン手法を確立したい と考えています。アイデアを素早く形にして、ユーザーに利用いただいて、開発組織全体で結果を学習して、また改善する。このサイクルが速くなればなるほど、ユーザーに提供できる体験の質は上がっていくと考えています。AIはそれを後押ししてくれる強力なツールなので、デザインのプロセスそのものをアップデートしていきたいですね。
加えて、デザインシステムの推進にも力を入れています。
まずは各プロダクトで生まれたデザインを還元し、アクセシビリティ方針の言語化や、プロダクト横断の共通課題にも向き合っていきたいです。そうした活動を通じて、プロダクト単体にとどまらず、組織全体のデザインの底上げに貢献することを目指しています。
アンドパッドはデザインスキルをもう一段レベルアップできる、これ以上ない面白い環境
―― どんな人がアンドパッドのデザイナーに向いていると思いますか。
ユーザーの職種や仕事そのものに好奇心を持てる人 だと思います。「この職種の人は、普段どんな順序で、何を考えて仕事をしているんだろう」と知ることを面白い、楽しいと思える人。バーティカルSaaSはドメインが深いぶん、その好奇心がそのままデザインの質に直結すると考えています。
そして、まさにかつての私自身のように「このデザイン、本当に必要だっけ?」と感じている方には、ぜひ知ってほしい環境だと思います。スピード感を持って、自分の手で多くの課題を解決できるからです。過去に必死にもがいた経験のある方が、その経験を存分に活かして活躍できる場でもあると感じています。
―― 最後に、この記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。
「自分の作っているものは、本当に必要とされているのか」——もし、かつての私と同じようにそんな不安を抱えているなら、解決すべき対象が明確で、利用ユーザーの声がダイレクトに届くバーティカルSaaSという選択肢を一度のぞいてみてほしいです。
アンドパッドは、表層を整えるだけでなく、 本質的なUXに正面から向き合えて、デザイナーとして確実に力がつく環境 です。デザインスキルをもう一段レベルアップさせたいと考えている方にとって、これ以上ないくらい面白い環境だと思います。ぜひ、一緒に建設業界の未来をデザインしていきましょう。
―― 本日はありがとうございました。
ありがとうございました。