なにかを思いつくと、おにぎりを握るかのように、ちゃっちゃと何かを作っていく。ABEJAのリサーチャー・藤本敬介さんを一言で紹介するなら、そんな感じです。
なぜそんなに「作る」に壁がないんですか?
藤本さんのアタマの中を少しだけのぞかせてもらいました。
藤本 敬介:右から2番目。2010年電気通信大学大学院情報工学専攻博士課程修了。博士(工学)。日立製作所基礎研究所、同中央研究所を経て 16 年12月ABEJA入社。Labsリサーチャーとして主にDeep Learningを用いた画像認識等の技術を開発。子供向けのAI開発体験ソフト「AI FOR KIDS」やSlack内の匿名チャンネル「VIP」の創設、株や仮想通貨の自動売買AIの研究開発など、思い付きを形にするのが趣味。
思いついたら作り始める藤本さんですが、コンピュータで何かを作ったのは、小学生のころだったそうです。
藤本:『天文ガイド』って知ってます?小学生時代の僕の愛読雑誌です。オリオン座やM42、アンドロメダ星雲のグラビアがどーんと載っていて、すごいなあ、キレイだなあって眺めるうち、自分でも撮りたくなって。
1万円の初心者用望遠鏡を持っていましたが、月がなんとなく見える程度の性能でした。オリオン座なんて、ボケボケでまともに見えやしない。きれいに撮れる道具が雑誌に載ってたんで、父親に一式買ってくれと相談したんですよね。
カメラが10万ー20万円で、CCDカメラと冷却器、パソコンに画像加工ソフトもいれたら50万円くらいするんですよ。
どうしたら買ってくれる?と父親に聞いたら「パソコンでゲームを作れたら」と。父親の部屋にあった本を読みながら試行錯誤して、簡単なルーレットゲームを作りました。それが何かを作った始まりですかねえ。結局、買ってもらえなかったんですが。
メタバースも作ってみた
「欲しい」と思っても「作る」に行きつけないこと、たくさんあります。だから「欲しい」の大半は「買う」で解決します。でも藤本さんを見ていると、「欲しい」と「作る」の間の「壁」がないかのようです。
藤本:「作る」自体が楽しいので、苦労は感じないたちです。少しの頑張りでものごとがスッと進んだ時ってすごい楽しいし、どうしたらうまくいくか、あれこれ考える過程も楽しい。なんでもいいから「作る」を一通り体験すると、そういう面白さが感じられるようになると思うんですけどね。
最近は、自分が考えるメタバースの空間を作ってみたそうです。
藤本:「メタバース」が話題だから、仮想通貨と仮想空間を組み合わせた僕なりの「メタバース」空間を作りました。睡眠時間を削ってかなり苦労しましたが。
▼【メタバース作りの詳しいプロセスを知りたい方はこちら】
メタバースでの暮らしがどんな感じなのかを知りたくて、いろいろと考えを巡らせて、こういう仕組みを作ってみました。
暮らすうえで最低限必要なのは、二つの機能が必要だろう、と。まず、誰かとやり取りができる「コミュニティ」。それから、自分の活動を資産に変え、コミュニケーションを通じて誰かと交換できる機能、つまり「お金」を作りました。「お金」と言っても、今回はテスト環境で作ったものなので、「ままごと」で使われるようなものと同じです。
こんなふうに思いつくまま作ってきたという藤本さんの話には、ものづくりや技術といったものに縁がなくても、あれこれ聞きたくなるような、何かがあります。なぜでしょう?
藤本:なぜですかねえ……。分からないですけど、「なんのためにこれを作ったのか」というコンセプトを大切にして、ものづくりをしているからでしょうか。
【藤本さんの「作った」の軌跡】
社内slackにVIPチャンネルを作った話 - Qiita
社員2vec: Slack履歴からメンバーの特徴を抽出して、組織構造を可視化しよう - Qiita
株AIを結構頑張ったら、儲かりそうな雰囲気が出ている - Qiita
藤本:作ったものひとつひとつに「こうなってほしい」という、僕なりの世界観があります。「株AI」はただ単にお金を儲けたいという動機ですが(笑)、「社内Slackに作ったVIPチャンネル」は、心理的安全性が生まれるコミュニケーションがとれる場があれば、という思いから作りました。
ものづくりで一番大事なもの
なんのために作るのか、というコンセプトは、ABEJAのエンジニア採用で藤本さんが候補者の適性を探る視点のひとつにもなっています。
藤本:ABEJAを志望するエンジニアの採用面接も担当することがあるんですが、一緒に働きたい人かどうかをみるために、こんな質問をすることがあります。
「顧客にこういう課題が発生したとき、どう解決しますか」
すると、多くの方は「需要予測を導入すればいいと思います」というような、方法(技術)をまず挙げるんですね。
でも、方法を決める前にやることはたくさんあります。いくつか挙げると、
顧客がどういう人(組織)なのか。
何に困っているのか。
その課題はどこから来ているのか。
どんな価値(解決方法)を提供すれば喜んでもらえるのか。
そのためにはどういう方法があるのか。
使う技術は、本来なら最後の方で考えるものです。一番大事なのは、コンセプトですよね。
そのあたりを共感してくれる方と、一緒に働きたいなと思っています。
藤本さんは入社以来、LABO(ラボ)のリサーチャーとして、プロトタイプを開発したり、社内で技術的な相談に乗ったり、顧客の課題を解決できそうな技術を開発してきました。その一方で、プロダクトやサービスの開発など、利益を生むプロセスにもかかわりたいといいます。
藤本:研究を通して開発した技術が直接的に組織の利益に結びつかないことも多いですが、一方でプロダクトに直接関わり、利益を生み出したいという思いもあります。その間で、ジレンマを感じてきました。
「ものをつくる」と「利益を生む」の両方の視点でこの会社を眺めて、どこなら自分が役立てるだろう、どういう関わり方ならよいかを探してきました。
この1年ほどは、ラボを兼任する他部署のメンバーと連携し、営業担当が持ち帰った顧客のニーズを整理し、そのなかからプロダクトになりそうなものを自ら作るようになりました。現在はビジネス化に向けてニーズの調査・プロトタイプの施策などを進めています。
リサーチャーとしての本来の役割と、会社の利益に寄与する役割が両立できる場所はどこなのか。「これが正解」と言えるものはないですが、自分なりの関わり方をこれからも模索していきたいと思っています。
ABEJAの素顔を伝えていきます
技術を使って発想をかたちにする。言うのはたやすいですが、「技術」と「発想」の間にある深い谷のせいで、実現できていないことが、まだまだたくさんあります。
ABEJAには、その谷を軽々と行き来できる、自由な発想を持つメンバーが沢山います。呼吸をするように、ごく自然に「欲しい」を「創る」につなぐのです。
「ビジネス」と「テクノロジー」の間の深い谷も、この姿勢でためらいなく行き来します。この技術をどう使えば世界をゆたかにできるだろうか。顧客の事業課題を技術で克服できないだろうか。そんなことを考えながら日々手を動かしているのです。
いままでの「当たり前」を問い直し、時には正解のない未踏の領域で模索し続けることもあります。苦労も多いですが、それがいいんだ、と迷わず言える人たちが集まっています。
メンバーのそんな魅力をもっと伝えたい。ABEJAのnote「テクプレたちの日常」では、オンラインセミナー「ABEJA Tech LT」や登壇者のインタビューなどを掲載していきます。
取材・文:錦光山 雅子
(2022年4月12日掲載の「テクプレたちの日常 by ABEJA」より転載)