「仕組み化」の前に必要なことを飛ばすと、組織はまた属人化する
Photo by Etactics Inc on Unsplash
組織課題を「ルール不足」や「風土の問題」で片づけると、本丸を外すことがあります。今回は、仕組み化の前に整理しないと、結局また属人化する、という話を書いてみます。
組織課題について話すとき、よくこんな言葉が出てきます。
- 意思決定が曖昧
- 属人化している
- 部門間連携が弱い
- ルールが形骸化している
- 組織風土に課題がある
どれも間違っていません。
実際、多くの組織で見られる論点です。
ただ、実務の現場でいくつかの組織を見ていると、もっと手前で止まっているケースがあります。
それは、そもそも何を誰が持つのかが決まっていないまま、仕組み化だけを進めようとする組織です。
この状態のまま制度整備やルール作りに入ると、一度は整理されたように見えても、結局また属人化します。
しかも今度は、前より少し見えにくい形で再発します。
今回は、その構造を整理してみたいと思います。
仕組み化の前に、本当に見るべきこと
制度やルールの話に入る前に、先に見ないといけないことがあります。
たとえば、こんなことです。
- 実態として誰が何を担っているのか
- 正式な役割と、非公式に回っている役割がどこで混ざっているのか
- 部門をまたぐ論点を、実際には誰が処理しているのか
- 判断前提を整えているのは誰か
- 善意や慣れで埋められている仕事は何か
- 問題が起きたとき、表向きの主管と実際の受け皿が一致しているか
要するに、組織が実態として誰にどんな機能を背負わせて回っているのかです。
ここが見えないまま仕組み化に入ると、きれいな資料はできます。
でも最後は、また「で、誰が持つのか」で止まります。
課題は見えていないのではなく、引き受けられていない
少し厄介なのは、こうした組織では課題がまったく見えていないわけではないことです。
むしろ多くの場合、
- 何が問題かは何となく共有されている
- 必要な論点もある程度見えている
- 一度は提案や議論にもなっている
という状態です。
それでも進まない。
なぜかというと、本質は課題を見つけられないことではなく、
見えている重い論点を、組織として正式に引き受けないことにあるからです。
ここが曖昧なままだと、議論や調査を重ねても、本丸は少しずつずらされていきます。
制度の話になったり、運用の話になったり、誰かの頑張りで回す話になったりする。
でも、根っこの部分はそのまま残ります。
言い換えると、仕組み化が失敗する原因は、設計以前に、責任を引き受けないことにあるのだと思います。
「誰が持つか」の前に、実は三段階ある
ここで見落とされやすいのが、「誰が持つか」は一段ではないということです。
実際には、少なくとも次の三段階があります。
- そもそも、その機能を組織として持つのか決める
- 持つなら、どのレイヤーが持つのか決める
- 最後に、誰が担うのか決める
この順番が大事です。
たとえば、横断調整、IT統制、ルール整備、現場との橋渡しのような機能があったとします。
このとき、いきなり「誰にやらせるか」を決めると、たいてい失敗します。
本来は先に、
- それを正式な機能として持つのか
- 現場が持つのか、本社機能が持つのか、マネジメントが持つのか
- どの単位で責任を持つのか
を決めないといけません。
ここを飛ばして人選だけすると、人に機能を乗せることになります。
すると、その人がいる間だけ回るが、構造としては何も解決していない状態になります。
そして本当は、「持たないもの」を決める必要がある
もう一つ重要なのは、何を持つかだけでなく、何を持たないかを決めることです。
ここを曖昧にすると、組織は簡単に破綻します。
なぜなら、現場では「困っているもの」は次々に流れ込んでくるからです。
そのたびに曖昧なまま抱え込むと、正式機能でもない、評価にも乗らない、終わりも見えない仕事が増えていきます。
とくにコーポレート、情シス、企画、管理系の仕事では、
「誰かがやらないと回らない」ものが、そのまま全部流れ込みやすい。
だからこそ、持つ機能を決めることと同じくらい、
- これはこの組織では持たない
- これは別レイヤーに返す
- これは仕組み化の対象にしない
を決めることが重要です。
全部持とうとすると、結局はまた人に寄ります。
組織で持つべきものを、人に持たせ始める
この状態の組織で起きやすいのは、構造で持つべき課題を、人に寄せて処理し始めることです。
たとえば、
- 横断調整ができる人に集まる
- 話が分かる人が受け皿になる
- 善意で動ける人に仕事が寄る
- 役割は曖昧なまま、調整だけ増える
こうしたことが起きます。
一見すると、ちゃんと回っているようにも見えます。
でも実態としては、組織で持つべき課題が、個人の受け皿に変換されているだけです。
この状態が危ういのは、正式な機能になっていない以上、
- 権限が曖昧
- 判断基準も曖昧
- 評価にも乗りにくい
- 移管もしにくい
- その人が抜けた途端に止まりやすい
からです。
つまり、回っているように見えても、それは構造で回っているのではなく、誰かが吸っているだけということが起きます。
そしてもう一段厄介なのは、組織が弱ると
役割ではなく、人そのものを機能として使い始めることです。
「この人がいれば回る」
「この人なら間を持てる」
「この人に頼めば何とかなる」
この状態は、短期的には助かります。
でも中長期では、組織機能を人に代替させているだけなので、かなり危ういです。
権限不足より厄介なこと
よく「権限がないから進まない」と言います。
もちろんそれもあります。
ただ、実務上もっと厄介なのは、権限も判断基準も曖昧なまま、調整負荷だけが落ちてくることです。
- 何を判断対象にするのか
- 優先順位は何か
- どこまで整理すれば十分か
- 何を成果とみなすのか
そこが曖昧なまま、「いい感じに進めてほしい」が始まると、役割は成立しません。
これは仕事を任せているように見えて、実際には
判断責任を曖昧にしたまま、処理負荷だけを渡している状態に近いと思います。
そしてこの状態は、受ける側の能力や善意が高いほど見えにくくなります。
できる人ほど何とかしてしまうからです。
でも、それは解決ではなく、単なる延命になりやすい。
加えて、何をやったら終わりなのかが定義されていない役割は、実質的に終わらない仕事になります。
責任も増え、評価もしづらく、引き継ぎも難しい。
だから、役割定義には「何を持つか」だけでなく、「どこまでやったら一区切りか」を含める必要があります。
なぜ多くの組織は、正式化を避けるのか
ここで一つ大事なのは、組織がこれを分かっていないとは限らないことです。
むしろ、分かっていても正式化を避けることがあります。
なぜか。
正式化にはコストがかかるからです。
たとえば、
- 権限設計を見直す
- KPIや目標責任を定義する
- 評価制度に接続する
- 人員や工数を確保する
- 既存の役割や境界を見直す
こうしたことが必要になります。
つまり、正式に引き受けるというのは、単に「役割を書きましょう」という話ではなく、責任を制度化することです。
これは重い。
だから多くの組織は、無意識に
- いったん運用で逃がす
- 誰かに吸ってもらう
- まずはこの形で様子を見る
を選びがちです。
ただ、その選択を続けると、結局は人に負債が溜まります。
外部支援が効く会社、効きにくい会社
外部の支援やコンサルが悪いという話ではありません。
標準的なフレームには意味があります。
- 現状分析
- 課題整理
- 優先順位付け
- 実行計画
- 仕組みづくり
- 風土づくり
こうした整理は、多くの会社で有効です。
ただし、効くかどうかは会社側の状態によります。
効く会社は、外部の整理を受けて、内部で
- 何を正式な機能として持つのか
- どのレイヤーが持つのか
- 誰が担うのか
- 何をどこまで決めるのか
を引き受けられる会社です。
逆に効きにくい会社は、課題が見えていないのではなく、
見えている重い論点を正式に引き受けない。
そういう会社では、外部支援は「整理された感じ」を作ることはできても、本丸を動かしにくいと感じます。
言い換えると、外部支援の限界はフレームの良し悪しだけではなく、組織が何を自分たちで持つ覚悟があるかに強く左右されます。
ヒアリングだけでは出てこないものがある
もう一つ大事なのは、組織の本質はヒアリングだけでは出にくい、ということです。
もちろんヒアリングは必要です。
ただ、それだけだと見えにくいものがあります。
- 非公式機能
- 無意識の運用
- 善意で埋められている仕事
- 表に出ない責任分界
- 既知だけれど明文化されていない止まり方
こうしたものを見るには、
- 資料
- ログ
- 過去の議論
- 実際の業務フロー
- 止まった案件の履歴
などから仮説を立て、その仮説をヒアリングで検証する必要があります。
つまり、ヒアリングは入口というより、検証工程として使う方がうまくいく場合があります。
「聞けば分かる」ではなく、
ある程度見立てたうえで聞くことが大事です。
結局、先に必要なのは何か
自分の中では、先に必要なのは次の整理です。
- 実態機能の棚卸し
- 非公式機能の可視化
- 判断と責任の分界点整理
- 先送りされやすい論点の洗い出し
- 機能として持つかどうかの判断
- どのレイヤーが持つかの判断
- そのうえで、誰が担うかの設計
- そして、何を持たないかの判断
- さらに、何をやったら一区切りかという成果定義
言い換えると、
「この組織は何を、どの単位で、誰に持たせ、どこまでを役割とするのか」を決めることです。
これを飛ばした仕組み化は、たいてい長続きしません。
むしろ、前より少し複雑な属人化を生むことすらあります。
おわりに
会社が変わらないのは、課題が見えていないからではない。
見えている課題を、組織の責任として引き受けないからです。
そして、組織で持つべき課題を人に持たせ始めた時点で、その改革はかなり危うい。
だからこそ、制度やルールを作る前に、何を正式な機能として認めるのかを決める必要があるのだと思います。
仕組みは大事です。
でも、仕組みの前に、まず構造があります。
その順番を飛ばすと、組織はまた同じところに戻ってきます。
そして、その繰り返しの正体は、誰も責任を正式に持たない構造にあります。