書籍【決断の本質~プロセス志向の意思決定マネジメント】読了
人生とは決断の連続である。
しかしながら本当の意味で、あらゆることを自分自身の意志で、決断できているだろうか。
その結果について、すべて納得しているだろうか。
様々な意思決定の事例を挙げて、その場面場面でどういう決断がされたかの解説がされている。
NASAの硬直した組織の事例は、非常に興味深い。
少なからず自分が過去に身を置いた組織でも、似たようなことがあったのを思い出してしまった。
エベレストの悲劇は、そのエピソードを聞いただけで、痛ましくなってしまう。
なぜ組織の中で、誰一人異論を唱えなかったのか。
なぜ間違った決断を止められなかったのか。
キューバ危機ではケネディ大統領が執った「悪魔の代弁者」という手段。
事例としては面白いが、会社の日常業務の中で実践できるかと言えば、どうも再現性は低いと思ってしまう。
いずれにしても、「決断」のクオリティは、参加する人たちの人間関係や、その組織文化によって、結果が大きく左右されてしまうということだ。
強烈なカリスマ性を持つリーダーが、あらゆる意思決定をしたとしても、決断したことが最良の結果になるとは限らない。
「『決断』は間違っていなかった。実行するメンバーが間違えたのだ」と異議を唱えるリーダーもいるかもしれない。
しかしながら本書を読むと、そんな単純な話ではないことが見えてくる。
本書の結論は、至ってシンプルだ。
「『決断』に最も重要な要素は『意思決定のプロセス』なのだ」ということ。
決断に至るまでの過程(プロセス)を間違えなければ、決定した後の実行も間違えずに進みやすいことを説いている。
これには確かに納得感がある。
私も50代後半となり、思い返せば様々な「決断」に関わってきた。
自らが決断して、成功したこともあれば、失敗したこともある。
他者の決断に巻き込まれて、得したこともあれば、損したこともある。
このように分類して考え直してみると、「プロセス」こそが重要なのは、全ての事例ではないとしても、当てはまることが多い気がする。
これまでの仕事人生を振り返ってみると、まさに決断の連続であったと痛感する。
一つ一つの過去の決断が積み重なって、今の自分を少しずつ作ってきたのだと思うと、今さらながら「もっと真剣に『決断のクオリティ』を上げること」に注力してもよかったのではないかと思ってしまう。
我々は「決断」という行為そのものを、軽視し過ぎているのかもしれない。
日々のビジネスの現場において、「決断」の中でも、あまりにも「結果」のみに囚われている。
プロジェクトが成功すれば、その決断が称賛される。
逆に失敗すれば、その判断ミスを厳しく問われてしまう。
しかし、本当に「結果」だけを見ればよいのか?
その決断がどのような「プロセス」を経て下されたか、その過程にこそ本質的な価値があるのではないか?
この問いこそが、最大の教訓だと思わせるところが、本書の奥深い部分だ。
私はバックオフィス部門でのキャリアが長いのだが、今でもトップダウンの文化が根強く残っているのを感じる。
メンバー層に知らせずに、すべて上層部だけで方針を決定することが日常的だ。
メンバー層は、決定事項に従って、粛々と実行するのであるが、これでは自ら考えて主体的に行動する力は育たない。
組織の階層上、そういう仕組みなのだから、しょうがないとも言えるが、全てではないとしても「もっと丁寧に現場を巻き込んでやればよかったのに」と感じる部分は、意外とある。
総じて、決断に至るプロセスが見えないために、実行部隊であるメンバーの腹落ちに繋がらないケースも多い。
受け身になってしまい、さらに腹落ちしてないのだから、実行に迷いが出てしまうのは当然である。
これら小さな迷いが徐々にプロジェクトを継続させることを難しくする。
こんなケースは日常茶飯事のために、慣れてしまったとも言えるが、とても健全だとは言えない。
もちろん、効率化を含めたコストの面でも、良くないことであるから、ここはもっと真剣に改善を考えなければならない。
最近は人事部門に身を置いているが、人事こそ意思決定プロセスが大事だと感じる仕事だ。
採用、配置、評価、育成。
これら全て、従業員一人ひとりのキャリア、ひいては人生に大きな影響を与える大きな決断だ。
だからこそ、最大限の客観性と公平性、そして透明性が常に求められてしまう。
明確な基準と誰もが納得できるプロセスに基づいて意思決定が行われなければ、従業員の信頼を得ることはできない。
現実的には綺麗ごとだけで回らないことも多いから、厳しいことも決定し実行しなければならない。
だからこそ複雑性は回避して、出来るだけシンプルで明解にいきたいところだ。
質の高い意思決定プロセスを、人事部門に限らずに組織内に根付かせていきたい。
それができれば、組織全体の学習能力も高まっていくと思う。
未来に向けてのより良い決断が、持続的な成長へと繋がっていくために。
例え、ある決断の結果が期待通りでなかったとしても、そのプロセスにおいて、考え得る限りの情報収集と多角的な分析、そして関係者間でのオープンで建設的な議論が尽くされていれば、そこから得られる「学び」は計り知れないと思う。
仮に失敗したとしても、その原因を特定し、組織の共有知として蓄積することで、同じ過ちを繰り返すリスクを減らすことはできるはずだ。
この「学習する組織」という概念は、変化のスピードがますます加速する現代においては、企業の競争優位性を左右する最も重要な要素の一つであると感じる。
むしろ、こういう組織にならなければ生き残れない、と言っても過言ではない。
しかしながら「言うは易く行うは難し」である。
長年染み付いた組織文化や、個人の行動様式を変えることは、簡単ではない。
特に日本企業においては、空気を読む文化や同調圧力が、自由闊達な議論を妨げ、意思決定の質を低下させる要因となることも少なくない。
さらに過去の成功体験に固執するあまり、新たな視点や異なる意見を受け入れづらい「権威主義」も、現実的に根強く残っている。
これらは、まさに本書が警鐘を鳴らす「意思決定の罠」そのものと言える。
この課題をどうやって克服するか。
真にプロセス志向の組織文化を醸成するためには、何が必要なのか。
結局は、自ら主体的に情報を集め、分析し、意見を表明し、他者と議論することができればよい。
あらゆる階層を「意思決定のプロセスに主体的に関わらせる」という仕組みづくりが何よりも重要だ。
仕組みができれば、それを通じて、個人の思考力、判断力、コミュニケーション能力は磨かれていくはず。
メンバー層にとっては、上司の指示を待つのではなく、自ら考え行動する自律性を養う絶好の機会となるだろう。
そして、そのような経験を積んだ人材こそが、将来の組織を担うリーダーへと成長していく。
人材育成という観点からも、「意思決定プロセスの仕組みづくり」は急務であると言える。
組織全体の意思決定能力をいかに高めるか。
一つひとつの決断は、未来を形作る創造的な行為であるべきだ。
真摯に向き合って、覚悟を持ってやるしかないのだと、改めて感じた。
(2025/3/20木)