後輩育成における2つの方針
前置き
おそらく、ほとんどの企業は、ベテランエンジニアが若いエンジニアを育成することを望んでいると思います。「若手の育成」と一言で言っても、その方針は大きく二つあると感じたため、ここにその理由を残したいと思います。そして、どちらの方針をとるかによって、教え方も変わってきます。どちらの方針にするかは、ベテランエンジニアが決めることではなく、どちらかというと、会社や上司が決める立場にあると思います。そのため、教える側のエンジニアは、会社や上司ときちんと認識を合わせたうえで、後輩育成にあたるのが良いと考えています。
方針1:非常に仕事のできる将来のリーダー的な存在を育てたい場合
この方針は、一言でいうなれば、「将来、そのエンジニアが会社を辞める可能性が非常に低く、将来の会社を担ってくれる存在であり、じっくりと時間をかけてでも、非常に優秀なエンジニアを育てたい場合」です。
ソフトウェアエンジニアの仕事は、一般的には売り手市場であるため、優秀なエンジニアであるほど、転職しようと思えば、簡単に次の仕事が見つかる傾向があります。そのため、若手を一生懸命に育てても、その人が転職してしまえば、何のために手塩に掛けて育てたのか、わからなくなってしまいます。よって、手塩に掛けて、非常に優秀なエンジニアを育てるならば、それは、その人物が将来、会社を辞めないかどうかを慎重に判断する必要があるでしょう。
ただし、その人が、いくら会社を辞めそうになくても、外部環境の影響で、いつか、会社を辞めたいと思う日が来る可能性もあり、将来的に、人が会社を辞めるかどうかを見極めることは難しいことだと思います。
この方針の場合、後輩を育成する時間を積極的に確保して、教えていくことになります。
方針2:コストパフォーマンスの高いベテランの分身を育てたい場合
この方針は、一言でいうなれば、「あまり将来のことは考えておらず、ベテランと若手を組ませて仕事を進めることにより、ベテランのノウハウを一部だけ持った若手を育て(デザインパターンでいう Proxy パターン(笑))、若手にコストパフォーマンス高く働いてもらいたい場合」です。ここでいう、コストパフォーマンスとは、企業側から見たコストパフォーマンスのことを示します。つまり、安い労働力で、高いパフォーマンスを発揮してもらうという意味です。
どんな分野の会社でも、若手とベテランを組ませて、人件費を抑えるという考え方はあると思います。当たり前ですが、ベテランを二人採用するには、人件費が高くなりますが、ベテラン一人と若手一人の二人を採用すれば、人件費を抑えることができます。ただし、そのままでは、人件費相当のパフォーマンスしか出ないため、ベテランと若手を組ませることで、若手がベテランからノウハウを教えてもらうことにより、パフォーマンスをベテランに近づけることができます。これにより、企業は、人件費を抑えながら、高いパフォーマンスを上げることができます。
ただし、この方針では、教えるという時間的なコストが発生します。本来、ベテラン二人なら、教えることなく、一人ひとりが独立して最高のパフォーマンスを発揮しますが、一人が若手になったことにより、ベテランのパフォーマンスが落ち、その代わりに若手のパフォーマンスが上がります。
この方針で、一番やってはいけないことは、やる気がなかったり、基礎ができていない若手が入ってくることです。やる気がなく、基礎のできていない若手は、手取り足取り教える必要があり、ベテランのパフォーマンスが非常に下がります。もしくは、教える時間が足りず、教えきれず、若手の成果物が悲惨なものになります。
つまり、この方針をとる場合、時間をかけて教えるというより、時間に余裕のある場合にのみ、若手にベテランのノウハウを共有しながら仕事を進めていくことになります。そして、その程度の教育でも、ベテランの分身ではなく、本物のベテランになれるかどうかは、若手本人の努力次第ということになるでしょう。
あとがき
以前、採用面接で、「あなたは、どのように後輩を育成していきますか?」という質問がありましたので、いろいろな回答の方法があるとは思いますが、一つの切り口として、この方針を会社や上司の方と共有しながら、その方針に基づいて教えていくスタンスを私はとっていきたいと考えています。