小学校教員として自治体の情報教育に関する研究会で、研究協議の司会を10回以上務めました。参加者は少ないときで5〜10名、多いときで20〜30名ほど。その経験から、場づくりで意識してきたことを事前・当日・事後に分けて整理します。
進行のベースにしたのは、テレビ朝日アナウンサーで「ABEMA Prime」の進行を務める平石直之さんの著書『超ファシリテーション力』(アスコム)です。本で学んだ考え方を研究協議の場で実践し、参加者の反応を見ながら自分なりに調整してきました。
■ 事前準備:場の8割は準備で決まる
まず「何について話し合うのか」という討議の柱を明確にします。そのうえで参加人数や、参加者それぞれの立場・業務・得意分野・所属を調べておきます。
会場は、ペアで座るか個別に座るか、机は動かせるかまで確認し、司会の私が全員の表情を見られる配置にします。可能なら事前に議題への意見を伺い、つまずきやすそうな専門用語や現場の状況、社会情勢も調べておきます。参加者同士の関係性も、わかる範囲で把握しておきます。
■ 当日:状況に応じて「立ち位置」を変える
目指すのは、全員が「参加してよかった」と感じ、次も関わりたいと思える場です。
場が温まっていないうちは、私が先導して場をほぐす話題から入ります。発言が活発になってきたら受け手に回り、参加者の発言が増えるよう回していきます。
議論が進むと、いくつかの「ズレ」が生まれます。
・知識のズレ
専門的な発言で議論が止まりそうなときは、私が代表して「これはこういう意味ですよね」と補助線を引きます。発言した方が悪者に見えないよう注意しています。
・発言量のズレ
声の大きい人ばかりが話す状況では、発言の少ない人に意見を求めます。冒頭で「お一人お一人のご意見を伺います」と伝えておくことが、全員に当事者意識を持ってもらう布石になります。
・雰囲気のズレ
白熱して言葉が強くなったときは、間に入って趣旨を言い換えたり、表現をやわらげるようお願いしたりします。
・論点のズレ
話が脇道にそれたときは、急に切らず、会話に自然に加わりながら笑顔で本筋に戻します。
台本どおりを基本にしつつも、大切だと感じた話題は掘り下げます。優先するのは台本ではなく「討議の目的を達成すること」。ただし時間は限られているので、時計を見ながら進めます。発言の中身だけでなく、表情・声の大きさ・しぐさも見て判断しています。
こうした進行を重ねるうちに、議論が活発になり、参加者のほぼ全員が発言する協議になっていきました。振り返りでも前向きな声を多くいただき、「司会がわかりやすかった」と言っていただけたこともあります。
一方で、「司会が喋りすぎ」というご指摘もいただきました。場を温めようと前に出るあまり、参加者が話す時間を奪っていたのだと思います。
そこで、司会が割って入って解説する回数をあえて減らし、参加者の表情を見ながら、本当に必要な場面だけ補足するようにしました。すると、参加者同士で質問し合ったり、代わりに解説してくれたりする場面が増えていきました。司会が一歩引くことで、参加者の主体性が引き出される。これは大きな学びでした。
■ 事後:1回で終わらせず、次につなげる
参加者にお礼を伝え、議事録を見やすく整理して共有します。合意できた点、検討の余地がある点、今後学びを深めたい点を明示し、次回への「宿題」として残すことで、継続的に多様な意見が集まる仕組みにしていました。
また、司会・事前調査・議事録・事後連絡などを分担し、担当を固定しないことで、属人化を防ぎつつメンバーそれぞれのスキルアップにもつなげていました。
■ 討論会の外でも生きたスキル
ファシリテーションの考え方は、研究協議の司会以外の場面でも役立ちました。
何十回と重ねてきた保護者との面談では、事前に相手の状況を把握し、表情を見ながら話を引き出すことを意識しました。校外学習の準備では、商業施設や関係者の方との事前打ち合わせで、立場の異なる相手と目的をすり合わせる場面に生かせました。研究協議会を運営側としてサポートする際にも、同じ視点が役立っています。
また、普段の職員会議でも意識するようになり、司会の立場でも、一人の発言者としても、議論を前に進めるための関わり方ができるようになりました。
■ どんな「人が集まる場」にも通じるスキル
事前に相手を知り、場の状況を見て立ち位置を変え、終わったあとも次につなげる。振り返ってみると、これは討論会に限らず、面談、打ち合わせ、会議など、人が集まって何かを決めたり共有したりする場面すべてに共通する力だと感じています。
業界や職種が変わっても、人と人が話し合う場は必ずあります。ファシリテーションは、どんな現場でも持ち運べるスキルだと考えています。
📷写真は、奈良県宇陀郡曽爾村にある、曽爾高原。