農業の“勘”を否定せず、データで支える。植物の状態を見える化する仕事
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農業の現場では、今でも多くの判断が経験や勘に支えられています。
それは決して古いものではなく、長年の観察と工夫から生まれた大切な知恵です。
一方で、気候や栽培環境が変わり、担い手も変わっていく中で、現場の判断をどう再現し、どう次につないでいくかは大きなテーマになっています。
私たちは今、植物の状態をより客観的に捉え、現場の判断を支える仕組みづくりに取り組んでいます。
詳細はまだ公開できない部分も多いのですが、目指しているのは、単にセンサーで数値を出すことではありません。
大切なのは、
「その数値を見て、現場の人がどう判断できるか」
「どの条件で測れば、意味のあるデータになるか」
「どうすれば、日々の栽培管理の中で無理なく使い続けられるか」
というところです。
この取り組みには、ものづくり、植物の理解、データの扱い方、現場での運用設計、事業として届ける力が必要です。
研究だけでも、製品開発だけでも、営業だけでも完結しません。
それぞれの視点をつなぎながら、現場で本当に使われる形にしていく仕事です。
農業の経験を技術で置き換えるのではなく、経験ある人の判断をより確かなものにする。
そして、これから農業に関わる人にも使いやすい形にしていく。
そんなテーマに、今まさに取り組んでいます。
と、ここまでキレイにまとめると聞こえはいいのですが、実際はめちゃくちゃ大変です。笑
そもそもこの取り組みは、最初から今の形を狙って始まったものではありません。
当時、私たちは別のプロダクトをマーケットインの考え方で開発しようとしていました。
そのヒアリングの中で、ある方がポツリと話してくれたんです。
「植物の栄養状態を、もっと簡単に見られたらなあ」と。
その一言を聞いて、
「それ、やってみよう!面白そう!」
となって突き進んだのが、今取り組んでいるセンサー開発の始まりです。
つまり、マーケットインで進めていたはずが、ある瞬間からプロダクトアウトに大きく舵を切ったわけです。
まさにコペルニクス的転回でした。
ちなみに、もともとマーケットインで進めていたプロダクトも無事に完成し、今ではしっかり売れています。
そこはちゃんと回収しています。笑
ただ、ここからが本当に難しいところです。
今まで「測れなくても、特段困っていなかった」市場に、
「簡単に測れます」というものを投入しても、そう簡単には売れません。
よくある“靴売りの話”に近いかもしれません。
「あったら便利だよね」と思ってくださる方はいます。
でも同時に、「で、これをどう使えばいいの?」と悩む方も多い。
しかも、決して安いものではありません。
どう使えば効果が出るのか。
どんな場面で役に立つのか。
どのデータと組み合わせれば、判断につながるのか。
そこがはっきりしないものに、高いお金は出せない。
これは、ものすごく自然な感覚だと思います。
私もお客様には、かなり正直に話しています。
「私がお客様の立場なら、今このセンサーを買うより、最新のiPhoneの上位モデルを買うかもしれません」と。
だって、そちらの方がベネフィットがはっきりしているからです。
一方で、私たちが取り組んでいるものは、ベネフィットがまだ少しぼやけています。
もちろん、「このあたりに価値がありそうだ」という感覚はあります。
でも、それを現場の方が納得して使えるレベルまで落とし込むには、まだやるべきことがたくさんあります。
だから、めちゃくちゃ大変です。
どう使えばいいのか。
どのデータと組み合わせればいいのか。
そこから、どんな判断や行動につなげられるのか。
まずは仮説を立てないといけません。
ただ、仮説を立てるだけならまだいいんです。
難しいのは、これまで世の中に広く普及していたものではないので、その仮説の立て方が本当に合っているのか、すぐには分からないことです。
既存の研究や専門家の知見から、
「おそらく、こうだろう」
というところまでは見えてきます。
でも、それが実際の生産現場でそのまま使えるかどうかは、また別の話です。
しかも、私たちはもともと植物や農業の専門家ではありません。
分からないことだらけです。
だからこそ、専門家の方々、研究機関の方々、生産現場の方々に教えていただきながら、一歩ずつ前に進めています。
センサーを発表してから、もうすぐ1年が経とうとしています。
この1年で、少しずつ見えてきたデータがあります。
現場での使い方の輪郭も、少しずつ見えてきました。
ただ、ここからが本番です。
見えてきたデータを、どうすれば生産現場の方たちが納得感をもって使える形にできるのか。
「測れる」で終わらせず、「判断できる」「行動できる」レベルまでどう落とし込むのか。
その作業は、これからも続いていきます。
正直、簡単ではありません。
でも、だからこそ面白い。
農業の経験や勘を否定するのではなく、
その判断を支える新しい道具をつくる。
今、私たちはそんなテーマに向き合っています。