結果から書きます。落ちました。
内閣府の「孤独・孤立対策」ウェブサイトのデザイン等広報業務という案件に、合同会社TOBIRAとして入札し、選ばれませんでした。
ただ、手ぶらで終わったわけではありません。私たちは技術点28.6という数字を持ち帰りました。落札した会社は63.4です。倍以上の差があります。
負けた理由が数字ではっきり出ている。入札の世界に入って2ヶ月の会社にとって、これはかなり価値のある結果でした。
「難しくて分からない」から始まった
私は合同会社TOBIRA(現・TOBIRA FACTORY株式会社)の業務を受けています。就労継続支援A型事業所を軸に、EC、クリエイティブ、農業まで手がけている会社です。
代表から、入札を収入の柱のひとつにしたい、という話が出ていました。
最初にぶつかったのは、技術でも資格でもありませんでした。日本語です。
入札案件の募集要項に書かれている言葉が、私にはまず読めませんでした。何を求められていて、自分たちが手を挙げていいものなのかが分からない。案件情報を抜き出して代表に送ったところ、返ってきた反応も同じでした。
難しくて分からない
読めない書類は、検討のしようがありません。そこで最初にやったのは、AIに募集要項を読ませて、普通の言葉に置き換えることでした。そのうえで「これは自分たちのスキルで対応できるのか」を判断できる形に整えました。
入札の入口は、資格でも人脈でもなく、読めるかどうかでした。
見るための道具を作る
次にやったのは、案件を探す環境を整えることです。
当時使っていた入札情報サービスは月5万円ほどかかっていました。まず、その画面をそのまま使いやすくするために、案件の詳細ページで資格ランクや地域、実績の条件を確認しやすくする閲覧補助ツールを作りました。最大5件を順に開けるようにして、確認の往復を減らしました。
並行して、官公需情報ポータルの公開APIを使った検索アプリも作りました。無料で取れる案件情報から、資格の等級・地域・実績条件で絞り込むものです。約1,600件から、応募できそうな候補が2件でした。
そのうえで、代表から「ほかのサービスに乗り換えられないか」という相談を受け、複数の入札情報サービスを比較しました。資格ランクで絞り込めるかどうか、地域を減らしても件数が落ちないか、料金はどうか。実際にトライアルを使って確かめ、比較表にまとめました。
道具を作る話と、契約を見直す話。どちらも地味ですが、これをやらないと案件にたどり着けません。
社内の実績を、データベースにする
8月の終わりに、やり方を変えました。
社員やスタッフの制作実績をObsidianのスキルデータベースとして整理し、それをAIエージェントに読ませる仕組みを試したのです。
このとき助かったのは、社内のスキルを公開しているホームページに、すでにポートフォリオが揃っていたことでした。それを一度読み込ませるだけで、社内に誰がいて、どんな仕事ができるのかというデータがすべて揃いました。「この人はこれができます」と一件ずつ伝える必要がありません。
そのうえで、入札サービスで見つけたウェブ制作の案件を3つ選び、どれが一番自分たちに合っているかをAIに選ばせました。 選ばれたのが、内閣府の「孤独・孤立対策」サイトの案件でした。
続けて、必要な書類の骨子を作らせました。技術等提案書の骨子と、応募文の下書きです。ゼロから書くのではなく、社内の実績に根拠を置いた形になりました。
リクエスト1回で、提案書の下書きまで出てきました。
締切まで3日
提出期限は9月1日の正午でした。この案件に決めたのが8月29日です。
そもそも自分たちに入札資格があるのかも、その時点では分かっていませんでした。調べると、全省庁統一資格のD等級を取得済みでした。ここは幸運でした。
次は提出方法です。国の電子調達システムで出すのが原則ですが、電子入札には代表者名義の電子証明書が必要で、発行には数日かかります。間に合いません。印刷して郵送する方法に切り替えました。提案書6部、資格の通知書の写し2部。封筒の書き方から、郵送前に電話を入れるところまで確認して進めました。
正直に言えば、普通に人の手だけでやっていたら、絶対に間に合わなかったと思います。
このとき私が考えていたのは、**「途中で終わってもいい」**ということでした。落札することよりも、ここまで出せる道筋を一度作ってしまうことのほうが大事だと思っていました。今回間に合わなくても、その道筋は次に使えます。
通った
9月3日、技術審査の第一段階を通過したという通知が届きました。
びっくりしました。でも同時に、納得もしていました。
社内のスキルをきちんと把握して、それに合う案件をAIに選んでもらい、その案件に沿った提案をAIに作ってもらった。順番として間違っていないのだから、通っても不思議はない。そう思えたからです。
二つのAIが、二つの数字を出した
通ったということは、次は金額を出さなければいけません。締切まで、また3日でした。
代表がAIに相場を聞いたところ、1,200万円以上という数字が返ってきました。ただ、そのとき渡した情報は、業務の概要だけの短いものでした。
私が使っていたAI(Cursor)には、これまでのやり取りや技術等提案書の内容をそのまま読ませていました。同じ案件について聞くと、こちらは300万〜500万円台という、まったく違う数字を返してきました。
情報を渡した量が違えば、AIが出す数字も違う。この差を埋めたのは、過去に公開されている落札結果でした。省庁のテーマサイトの改修やリニューアルは、税込でおおむね300万〜550万円台に集まっています。今回は既存サイト約17ページのデザイン一新とSNS、文書作成で、半年ほどの業務です。数千万円規模の全面リニューアルとは違います。
1,200万円で出せば、予定価格を超えて門前払いになるか、価格点で不利になるだけです。
社内でも議論になりました。本格的に外注を入れて見積もりを取るべきかどうか。私は、提出済みの提案書に書いた体制と食い違うのでリスクがあること、そしてAIで下書きを作って社内のスタッフが確認・修正する形なら対応できることを伝えて、社内体制での積算で進めてもらいました。
最終的に、価格点でわずかに有利になる税抜390万円に決めて、書留で投函しました。
9日後の答え合わせ
9月7日に開札。ところが、そのあと連絡が来ません。
結果の通知には期限が書かれていないことを確認し、公開情報を見ながら待ちました。それでも出ません。
9月16日、入札情報サービスに結果が載っているのを見つけました。
10社が応札。TOBIRAの390万円は、3番目に安い価格でした。
落札したのは233.3万円の会社です。最安は200万円の会社でしたが、そこは選ばれていません。つまり、この案件は安ければ勝てるものではありませんでした。
そして点数を見て、理由がはっきりしました。
| TOBIRA | 落札した会社
入札額 | 390万円 | 233.3万円
技術点 | 28.6 | 63.4
総合点 | 81.837 | 135.426
価格では3番目に安かった。それでも総合点はまったく届いていません。技術点が、落札した会社の半分以下だったからです。
28.6という数字をもらった
なぜ低かったのか。思い当たることはあります。
時間がなくて、ほとんど設計をしないまま作ってしまったこと。提案書を作らせたAIの選び方も、もっと考える余地がありました。何より、私は技術点がどう付くのかを、まだ分かっていません。
結果を知ったときの気持ちは、単純な悔しさではありませんでした。今回の提案は、AIと自分の主観だけで作ったものです。実際の現場とのすり合わせは、時間がなくてできていません。本当に大変なのはこれからだ、というのが正直なところでした。
次にやることは決まっています。技術点の付き方を調べること。公開されている他社の落札内容を分析して、何が評価されているのかを掴むこと。そして、AIを土台に置きながら、現場の人の負担を増やさない形で進めること。
初めての入札で、私たちは「何が足りないか」を数字で受け取りました。読めない書類に手も足も出なかった2ヶ月前と比べれば、これは十分な前進だと思っています。
次は、技術点を上げにいきます。