【COO/CHRO代行のリアル⑤】 「採用ファネル」を設計する3ステップ
【サマリー】
[第1回]で採用ファネルの概念を語った。今回は実践編。ただし、「3ステップで設計しましょう」という表面的な話はしない。なぜ、採用ファネルを数値化しても改善しない企業が多いのか? その本質的な理由と、解決方法を語る。年間1名採用できるかどうかの状態から、毎年3名コンスタントに採用できるようになった具体的なプロセス。
【この記事で分かること】
・採用ファネルを数値化しても改善しない理由
・経営者が見落とす「自社の魅力」
・自社の本当の魅力を見つける方法
・採用ファネル設計の本質的な3ステップ
【こんな経営者におすすめ】
・年商3〜10億、従業員10〜50名規模の成長企業
・採用活動をしているが、成果が出ない
・「うちには魅力がない」と思っている
・年間1〜2名の採用が精一杯
【本文】
数値化しても、改善しない理由
第1回で、採用ファネルの概念を語った。採用は5つのステップ(認知→応募→選考→入社→定着)に分解でき、それぞれを数値化することで、ボトルネックが見える。
ところが、数値化しても改善しない企業が多い。ある地方の食品製造会社の例を見てみよう。
社長は「年間1名採用できるかどうかだ。これでは事業を拡大できない」と頭を抱えていた。採用担当者は数字を集計し、「応募率は1.0%と低いです」「給与が低いから不利です」と報告する。そして、求人票に「裁量権があります」「成長できます」といった文言を追加する。しかし、応募率は一向に変わらない。
なぜか? 表面的な施策だけで、本質に触れていなかったからだ。
経営者と採用担当者の「見落とし」
応募率が低い理由を経営者に聞くと、こう答える。
「うちは給与が低いから不利だ」
「知名度がないから厳しい」
「地方だから難しい」
社長は、自社に魅力がゼロとは思っていない。ただ、「それが採用の武器になる」とは意識していない。一方、採用担当者は社長の課題認識と、求職者のニーズの間に挟まれ、表層的な施策に終始してしまう。
実際にあった北海道の食品製造会社(年商7億、従業員25名)での話だ。社長は「給与が札幌の大手より低いから、どうしても不利になる」と言っていた。採用担当者も「地方での採用は限界があります」と。ところが、この会社の離職率は低かった。
採用の振り返りミーティングで、私はCHRO代行としてこう提案した。「社員に直接聞いてみませんか? なぜこの会社で働いているのか」
社員へのヒアリング結果:
- 「社長が、いつも現場に来て話を聞いてくれる」
- 「失敗しても怒られない。一緒に考えてくれる」
- 「地元の食材を使って、地元に貢献できている実感がある」
社長は、少し驚いた表情を見せた。「そういうことが、魅力になるんですね。当たり前だと思っていました」
ところが、これこそが本当の魅力だった。日常の中に埋もれて、見えなくなっていた。だから、求人票に書いていなかった。当然、求職者はそれを知らない。
これが、応募率が低い本当の理由だ。経営者も採用担当者も、自社の魅力を「持っている」。しかし、「日常すぎて、それが魅力だと意識していない」、あるいは「どう言語化すれば求職者に響くか知らない」という「見落とし」があったのだ。
「裁量権」では伝わらない理由
「裁量権があります」と求人票に書く。しかし求職者は、その言葉を信じない。なぜなら、多くの会社が同じことを言っているからだ。抽象的な言葉では、伝わらない。
では、どうするか? 具体的なエピソードで語る必要がある。
例えば、「入社半年の若手社員に、お客様からのフィードバックを元にした商品改良プロジェクトの推進を任せた。最初は戸惑いもあったが、週次のミーティングで社長や上司と膝を突き合わせて議論を重ね、試作を繰り返した。結果、顧客満足度が向上し、社長から直接感謝の言葉を受け取った」。
このように語れば、伝わる。本当の魅力は「裁量権」という言葉ではなく、「失敗しながらも、社長が一緒に考えてくれる環境で、会社全体に影響を与える仕事ができる」という具体的な体験価値だったのだ。
ステップ1:自社の採用ファネルを数値化する
では、実際に採用ファネルを設計する3ステップを解説する。
まず、自社の採用活動を数値化する。数値化しなければ、問題が見えないからだ。
ある地方の中小企業(年商5億、従業員20名)の例:
認知:求人閲覧数 300人/月
応募率 1.0%
応募:応募者数 3人/月
書類通過率 50%
選考:面接者数 1〜2人/月
内定率 50%
内定:内定者数 0.5〜1人/月(年間約6〜12名)
内定承諾率 20%
入社:入社者数 0.1〜0.2人/月(年間約1〜2名)
この数値化で、ボトルネックが2つ見えた。
- 認知→応募の転換率が低い(1.0%)
- 内定承諾率が極めて低い(20%)
ステップ2:数値の裏にある「見落とし」を見つける
数値化したら、次は「なぜそのボトルネックが生まれたのか?」を深掘りする。ここが重要だ。
表面的な理由(求人票が悪い、フォローが足りない)ではなく、経営者や採用担当者が「見落としていること」を見つける。
応募率が低い理由を深掘りすると:
「給与が低いから不利」という認識がある。しかし本当は、「自社の魅力を言語化できていない」「日常すぎて、魅力だと意識していない」という問題だった。
内定承諾率が低い理由も同じだ:
経営者は「内定を出した。あとは候補者が判断する」と思っているが、候補者は不安を抱えている。「本当にこの会社でいいのか?」「入社して後悔しないか?」
採用担当者も「他社に負けた」と諦めがちだが、本質は「候補者の不安に寄り添いきれていない」というギャップだ。
ステップ3:見落としを補い、本質的な施策を打つ
見落としが見つかったら、それを補う。
北海道の食品製造会社の場合、社員へのヒアリングで本当の魅力が見えた。それを採用担当者と共に求人票に反映した。
改善前の求人票:
- 業務内容と給与のみ
改善後の求人票:
- 「社長との距離が近く、失敗しながらも一緒に考える文化」
- 「地元の食材で、地元に貢献できる実感」
- 具体的なエピソード(入社半年で新商品改良プロジェクト推進、など)
結果、応募率は1.0%→1.8%(約1.8倍)に改善した。
また、内定承諾率も改善が必要だった。内定後フォローのプロセスを設計した。社長との面談、先輩社員との食事会、入社前の不安解消。候補者が抱える「漠然とした不安」を言語化し、一つ一つ解消するまで徹底的に寄り添った。これにより、内定承諾率は20%→40%(2倍)に改善した。
最終的に、入社者数は年間1〜2名から、年間3〜4名になった。
これは地方中小企業にとって、着実かつ非常に大きな改善だ。年間1名採用できるかどうかの状態から、毎年3名コンスタントに採用できるようになる。これこそが、「採用の仕組み化」がもたらす、リアルな成果だ。
採用ファネル設計の本質
採用ファネルを設計する本質は、数値化してボトルネックを見つけることではない。数値の裏にある「経営者や採用担当者が見落としていること」を見つけ、それを補うことだ。
- 応募率が低い → 「給与が低いから」(認識) → 本当は:自社の魅力を言語化できていない
- 内定承諾率が低い → 「他社に負けた」(認識) → 本当は:候補者の不安に気づいていない
数値化は、見落としに気づくためのツールだ。数値を改善するのではなく、数値の裏にある「見落とし」を補う。これが、採用ファネルの本質だ。
第2回で語ったNo.2の育成、第3回で語った定着の仕組み化、第4回で語った二刀流。すべて同じだ。表面的な施策ではなく、本質的な課題に向き合う。これが、経営の本質だ。
次回予告
第6回:【実録】新卒採用ゼロが、毎年2〜3名採用できる組織に変わるまで