【COO代行のリアル⑨】なぜ会議の熱量は“蒸発”するのか──実行への“橋”を架ける「48時間ルール」
サマリー 会議の高揚感は2日で消える。「決まったこと」は48時間以内に最初の1歩を踏み出す仕組みで、実行への“橋”を架ける。WIP(仕掛中)を意図的に作り出すことで組織の生産性を上げる、伴走支援のリアル。
導入:あの素晴らしい会議を、なぜ誰も覚えていないのか
「今日の会議は本当によかった。みんなの目線も合ったし、やるべきことも明確になった」
クライアントの社長が満足げにそう呟く。 経営会議の直後、部屋にはまだ熱気が残っている。ホワイトボードにはネクストアクションが並び、誰もが「これで進む」と確信している。
だが、3日後の定例ミーティングで、私はこう尋ねる。 「先日の会議で決まったAの件、進捗いかがですか?」
シーン、と静まり返る。 数名が気まずそうに顔を伏せ、やがて誰かが口を開く。 「すみません、通常業務に追われてまだ着手できていません…」
これが現実だ。 あの熱量はどこへ行ったのか? まるで蒸発したかのように、跡形もなく消え去っている。
COO代行として数多くの現場に入ってきたが、組織が停滞する最大の原因は「能力不足」や「資金不足」ではない。会議室と現場の間にある、この見えない「断絶」だ。
だから私は、この断絶に一本の“橋”を架ける。それが「48時間ルール」だ。
会議は「決める場」ではなく、「始める場」である
多くの会社で、会議は「決めること」がゴールになっている。 しかし、それは幻想だ。「決まった」という事実は、1円の利益も生まない。
本当に重要なのは、決まった瞬間の熱量を、いかに実行のエネルギーに変換するか。その変換効率こそが、企業の成長角度を決める。
人間の集中力や熱意は、残念ながら長持ちしない。体感だが、会議で生まれた熱量は48時間後には半減し、72時間後にはほぼ消滅する。週末を挟めばリセットされる。
だから、ルールは極めてシンプルだ。
「会議で決まった全てのことは、48時間以内に必ず“最初の1歩”を踏み出す」
ここで言う「最初の1歩」は、タスクを完了させることではない。5分で終わるような、ごく小さなアクションでいい。例えば、
- 担当者をアサインし、Slackで「この件、私が担当します」と宣言する
- 次の打ち合わせを15分だけ、関係者のカレンダーに入れる
- 関連資料をまとめるGoogle Driveのフォルダを作り、URLを共有する
- 顧客へのアポイントメールの「下書き」を作成する
目的はただ一つ。タスクの状態を「未着手」から「仕掛中(WIP)」に変えることだ。
なぜ「48時間」なのか? WIPを制するものが生産性を制す
「24時間ではダメなのか?」と聞かれることがある。 もちろん、速いほどいい。しかし、24時間ルールは、緊急度の高いタスクに追われる現場では息苦しく、形骸化しやすい。
逆に72時間(3日)では遅すぎる。間に休日や別の会議が入り、「やろうと思っていたのに…」という言い訳が生まれる土壌を与えてしまう。
48時間(2日)というのが、熱量を維持しつつ、現実的な計画を立てるための絶妙なラインなのだ。
このルールは、アジャイル開発などで使われるWIP(Work In Progress)の概念に基づいている。 人間が同時に集中して進められる仕事の量には限りがある。多くのタスクを「未着手」のまま放置すると、脳のメモリは常に消費され、生産性は著しく低下する。
「48時間ルール」は、新しいタスクを強制的にWIPへと投入する仕組みだ。これにより、「やることリスト」に並んだ文字が、具体的な担当者と次のアクションを持つ「生きたボール」に変わる。
ボールを持たされた担当者は、それを手放すために次のアクションを起こさざるを得ない。こうして、実行の連鎖が自然と生まれていく。
現場の一コマ:COO代行は“橋の番人”たれ
私の役割は、このルールを導入するだけではない。会議の最後に“橋の番人”になることだ。
会議が終わり、皆がPCを閉じようとするその瞬間、私は静かに口を開く。
「ありがとうございます。では、今日決まった5つの項目について、それぞれ最初の1歩を確認しましょう」
そして、一つずつ問いかけていく。
「Aの件、担当は鈴木さん。48時間以内のアクションは何にしますか?」
「Bの件、山田さん。まず誰に、いつまでに声をかけますか?」
これを会議の議事録とは別に、「48時間以内アクションリスト」として全員に共有する。
最初は面倒に感じる社員もいる。だが、1ヶ月も経てば、これが組織の“OS”になる。会議の終わりには、誰からともなく「じゃあ、最初の1歩を決めましょうか」という声が上がるようになる。
社長が一人で「あれどうなった?」と催促する必要はなくなる。実行の責任が、仕組みによってチーム全体に分散されるからだ。
まとめ:意志の力に頼るな、仕組みを信じよ
会議の熱量が蒸発するのは、誰かのやる気がないからではない。熱をエネルギーに変える「装置」がないだけだ。
COO代行の仕事は、精神論でメンバーの尻を叩くことではない。 実行への“橋”を設計し、誰もが迷わず渡れるように信号を灯し、スムーズな交通を維持する、いわば「インフラエンジニア」に近い。
「48時間ルール」は、そのインフラの根幹をなす、極めてシンプルで強力な仕組みだ。
あなたの会社では、会議室と現場の間に、実行への“橋”は架かっているだろうか?