国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター / 神経内科・小児神経内科・治験ユニット
新薬を初めてヒトに投与する
~入職のきっかけ~ 大学時代、私はオーケストラサークルを立ち上げ、提携先の病院でコンサートを開催していました。ホールや病室で演奏する活動を通じて、ある神経難病患者Aさんと出会ったことが、私の人生に大きな影響を与えました。Aさんは病棟の患者代表として、私と日程調整やコンサート構成など業務的なメールのやり取りを中心に行っており、初めは「長期入院中の一般的な患者」として接していました。 しかし、ある日、Aさんが入院している病院の院長先生が特別講師として私の大学にいらっしゃり、その授業で初めて神経難病の実態や病棟の現状について学び、衝撃を受けたことを今でも思い出します。そして実際に会ったAさんは、人工呼吸器を装着して顔の一部しか動かせず、その動きを使ってパソコンを操作し、一日かけて私とのメールを作成していたことを知ります。それをきっかけに、Aさんの日々の生活やその背景にある困難について深く考えるようになり、私の中で大きな変化が生まれました。 ~神経難病とは?~ 神経難病は、筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、多発性硬化症、重症筋無力症、脊髄小脳変性症などを含む疾患群を指します。これらは主に筋力が低下し、最終的には呼吸不全や心不全に至る病気ですが、頭脳は比較的保たれている場合が多いのが特徴です。そのため、患者さんは身体的な制約を抱えながらも、コミュニケーションを取ることが可能です。 ~治療法がない?~ 神経難病は、原因が不明で、現時点では確実な治療法がない疾患です。この事実を知ったとき、私は次のようなことを深く考えるようになりました。 大人になってから突然発症した場合、自分ならどう受け止めるだろうか? 子どもが難病を抱えて生まれた場合、親としてどのように向き合うのだろうか? 在学中、こうした問いに対する答えを求め続け、神経難病患者の現実に向き合い続ける中で、「少しでも貢献したい」という気持ちが芽生えていきました。特に、患者Aさんと院長先生との出会いが私の背中を押し、難病の研究や新薬開発に携わることを目指して、信念を持ってNCNP(国立精神・神経医療研究センター)への入職を決意しました。 ~看護師として働く中で~ NCNPでは、看護師として働きながら、多くの神経難病患者やそのご家族と向き合いました。当初抱いていた「ネガティブ」なイメージとは裏腹に、患者さんの中には、病気を抱えながらも前向きに人生を楽しむ方が多くいらっしゃいました。また、ご家族も諦めることなく、希望を持って支え合う姿に触れ、私自身が多くを学び、視野を広げることができました。 神経内科の治験ユニットのリーダーとして新薬開発に深く関わる機会を得て、研究所だけでなく大手製薬会社が開発する治験薬にも携わり、第Ⅰ相から第Ⅲ相、そして拡大治験まで担当しました。日々プロトコルを読み漁る毎日の中、治験の奥深さやその重要性を感じ、「もっと治験に専門的に取り組みたい」という思いが強まりました。その結果、国立のCRC(治験コーディネーター)研修を受講し、CRCになるべくさらなる勉強を重ねていきました。 最終的には、病棟の看護師の人数が足りず、時短勤務の方(育休明け)など夜勤ができない看護師のみCRC枠に入れるとのことで、一旦断念しました。 期待していただけ心はポッキリと折れ・・・心機一転で元々美容に興味があったので美容医療業界に進むことに決めました。