名古屋大学大学院 / 理学研究科物質理学専攻 非平衡物理研究室
アニールを施したジャミング系の大規模シミュレーション
多くの液体は、急冷すると乱雑な分子構造を保ったまま粘性が急激に大きくなり、遂には動かなくなる。これをガラス転移と呼ぶ。しかし、なぜ温度を下げるとダイナミクスが急激に遅くなるかについては、未だに明らかになっていない。 近年、ガラス系の原子の配置から熱雑音の影響を取り除いた状態、いわゆる Inherent struc- tures(IS) において、揺らぎの異常が発見され話題になっている。具体的には、密度の相関関 数を表す静的構造因子に粒子の体積の寄与を含んだ χ(q) が χ(q → 0) ∝ qα のように波数 qが 0 の極限で消失するように振る舞うことが観測された。これは密度揺らぎが低波数領域で抑えられることを意味しており、新しい種類の構造秩序を示唆する。この新しい構造秩序はHyperuniformity(HU) と呼ばれる。この秩序の由来や性質については、明らかになってい ない。その理由は、低波数領域で幅広い密度、温度にわたる解析を高い統計精度で行うことが現行の計算技術では困難だったからである。 そこで本研究では、この問題に対処すべく、GPU を用いた計算の並列化を行い、そして高 速化のための新しい並列化アルゴリズムを考案した。この 2 つの方法によって、従来の研究よりもはるかに低波数の領域の物理量の解析が可能となった。そして様々な密度領域で初期配置をランダムに生成し、その後 FIRE 法と呼ばれる手法によって急冷する大規模な 2 次元系の分子動力学シミュレーションを行い、χ(q) を低波数領域を中心に解析した。その結果、粒子同士が十分接触する高密度領域では HU 的なベキで減少する傾きが存在せず、さらに低波数領域でχ(q) が増大へ転じることがわかった。続いて、急冷前に液体を様々な温度で平衡化させ、その温度依存性についても詳細に調べた。その結果、ある温度を境に χ(q) の最小値を示す波数が低波数側にシフトすることを観測した。このシフトはガラスのダイナミクスが飛躍的に遅くなり始める温度と一致しており、そこで新たな構造変化を表す相関長が急激に発達していることを示唆している。