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「どれだけリソースを割いてでもやりましょう」未来を切り拓くAI人材育成へのこだわり

こんにちは、広報の清水です。

松尾研では、基礎研究や社会実装を支えるのが「人材育成」だと捉え、松尾先生を始め研究室全体で真摯に取り組んでいます。

展開する授業やオンライン講座は各種メディアでも取り上げられ、東京大学の学生だけでなく社会人の方も受講し、その実績は、応募者約7,100名、受講生約1,900名を超えています。

今回は、知能を創り日本や世界の未来を切り拓こうとする松尾研の、人材育成へのこだわりや工夫について研究室の運営を執り仕切る中山先生にお話していただきました。

中山先生紹介

―中山先生、本日はありがとうございます。先生のプロフィールを教えていただけますか。

私は、大阪大学で博士号取得した後、1年ほど研究員として大阪大学に在籍していました。その後、東京大学にて総長直轄のプロジェクトとして設置された「知の構造化センター」に6年所属していました。その時の上司が松尾先生だったんです。センターでのプロジェクトが終わったタイミングで、松尾研にジョインしました。

― 人工知能を作ることにはいつくらいからご関心をお持ちでしたか?

AIというかプログラミングに興味を持ったのは高校生くらいからです。高校生のときは「普通科」ではなく「情報処理科」という特殊な学科にいましたが、もともとコンピューターの、「自分がコーディングした通りに動く」という部分に面白さを感じていて、それを突き詰めるとAIという分野になりました。高校生のときはぼんやりとコンピュータやAIに関わる仕事をしたいと考えていましたが、AIをライフワークにしたいと思ったのは、大学でニューラルネットワークの授業を受けたときだと思います。入力と出力を与えると、その間の関数を自動で学んでくれる、という仕組みに感動した記憶があります。それからいろんな活動をしてきましたが、ずっとAIを活動を柱として外さないように活動してきました。Deep LearningがAI研究のブレークスルーとして着目される前は、「データの時代」で、Webからデータを取り出して計算機を賢くする、というビジョンで研究をしていました。今は膨大なデータを処理する技術と柔軟かつ高度な計算モデルがありますので、その融合に興味があります。

―中山先生にとって、松尾研はどんな研究室だと思いますか?

松尾研は、日本ではこんな場所はほぼないのではないか、と言えるくらいユニークな場所です。私自身、社会に技術を出していくということに強い関心を持っているのですが、これは松尾研の方針と一致していると感じており、そういうことに興味のある人にはこれ以上無い良い環境なのではないかと思います。松尾研には、「良い技術を世の中に出して、未来を切り拓こう」という文化と信念があります。私は研究成果はできるだけシステム化し、Webで公開する、という形で成果を公開してきましたが、そういうやり方や考え方が、研究室の文化によく合っていると感じています。

松尾研の人材育成について

―それでは、人材育成についてお伺いしたいと思います。松尾研では、人材育成に対してどのようにお考えですか?

先の話にも関係しますが、松尾研究室のミッションとしては、「良い技術を開発すること(=基礎研究)」と「良い技術を社会に出していくこと(=社会実装)」が重要だと考えています。そして、人材育成こそがこの二つを支える重要な要素であると捉えています。そのため、松尾研究室では、①基礎研究、②社会実装、③人材育成という3つの活動領域を重要な領域だと定義して活動しています。私はこの領域全てで活動していますが、その中でも人材育成は特に力を入れて進めている活動領域で、松尾研究室が提供する全てのAI人材育成プログラムを統括しています。


一般的に、日本の研究室の多くは基礎研究にフォーカスして活動することが多く、誤解を恐れずに言えば、教育に割く時間は最小化して研究に割く時間を最大化したいと思われる教員・研究者も少なくない状況だと思っています。実は私もそう考えている研究者の一人でした。ただ、世界中でAI人材の奪い合いが激化していますし、日本でもIT人材、その中でもデータサイエンティストやDeep Learningなどの先端的なAI技術を習得した人材の不足が深刻化しています。それらの分野で日本が競争力を発揮し、戦っていけるようにするには、誰かがそのような先端的なAI人材の育成の役割を担う必要がある状況だと思っています。そんな中、松尾先生から「どれだけリソースを割いてでもやりましょう」と強く後押しされたことや、ビジョンを共有する仲間が支えてくれたことなどがあり、AI人材の育成活動に力を入れて進めてきましたし、やってこれたと考えています。

―具体的には、どのように人材育成を行っているのでしょうか。

松尾研究室のAI人材育成の活動で最も重視しているのが、「演習を中心とした授業」であるという点です。現在、全ての授業で演習を中心にカリキュラムを構成しています。これは、この分野では、自分で手を動かしてアウトプットすることによって、初めてしっかり理解できることが多いためです。逆の言い方をすると、講義を聴いて、知識を記号として覚えるだけでは、理解できないことが圧倒的に多いということです。講義を聞いたり、論文などを読んだりすると、なんとなくわかった気がするのですが、いざその知識を活かして何かをしようと思ったときに、実は自分が何もわかってない、ということに気づくことが多々あります。そのため、松尾研究室が提供するAI系の授業では必ず毎週演習を入れて、知識として学んだことを即実践することで身につけられるように設計しています。

演習のためのコンテンツ作成には多くの手間と時間をかけています。3-5人のコアメンバーで、半年から1年間、毎週ミーティングをしながらコツコツ作業して、やっとひとつのコンテンツを作ることができます。コンテンツをわかりやすいものにするには工夫が必要で、それには時間がかかりますね。最近最も力を入れている講座の一つである「Deep Learning基礎講座」は、今年で4年目になりますが、特に最初の方は本当に大変でした。世の中に参考になるコンテンツはほとんどありませんでしたし、また、その当時は手軽に使えるGPUのクラウド環境などが皆無に等しい中で、Deep Learning技術を演習の中で教える、というハードなチャレンジがありました。そのため、一人一台GPU環境を使えるシステムを開発し、受講生が使えるようにするなど学習環境の整備をしてきました。

また、演習型の授業を運営するにはトレーニングが必要ですし、授業中に演習をサポートしたり、宿題の採点も必要なので、やることがたくさんあります。さらに、この分野の技術は日々発展しているので、常に最新のコンテンツを作り続けていかないといけません。幸いにも、一緒に取り組んでくれる優秀なメンバーがこのような活動を支えてくれており、そのおかげで高いレベルで活動ができていることには本当に感謝しています。



―本当に大変そうなのが伝わってきます。オンラインの講座もありますが、オンライン上の講義で何か工夫されている点はありますか?

①週に1回の公開日を設定すること

②宿題をコンペ形式にすること

の2つをご紹介したいと思います。

まず、1つ目についてです。松尾研で運営しているオンライン講座のコンテンツは、週に1回の公開日が決まっています。つまり、受講者全員が同じ内容を同じタイミングで学んでいます。このことは、受講者が、わからない部分を教えあったり、モチベーションをキープしたりするのに役立っています。

また、宿題はコンペ形式にしているのですが、そうすることで、受講者は競い合いながらできるだけ良いものを作ろうとするんです。そうすると、講義でカバーしてなかったようなテクニックを自分で調べて作ってくる受講者なども出てきて、その中には私達が知らないようなものも含まれることがあり、驚かされることも多々あります。

また、コースによりますが、講義のコンテンツや宿題について理解できなかったことなどについて、オンラインでチャット形式で質問ができる「質問アワー」という制度を設けているものもあります。

一般的に、無料のMOOCSでは、最後までコースを受講する生徒は10%以下だと言われていますが、松尾研のコースでは約70%の受講生が最後まで受講しています。高度なAI人材を育成することを目指しているため、ハードなカリキュラムになっていますが、定着率の高さと受講生のやる気には、正直驚いています。「身につく講義」を目指してやってきたことが評価されているのではないかと考えています。

―オンラインで受講生のモチベーションを保たせ、技術しっかり身につけさせるための工夫が随所に施されているのですね。卒業生の進路はどのようなものでしょうか。

学んだ技術を活かしてベンチャーを起業したり、参加したりする人は結構いるようです。社会人向けのオンライン講座「DL4US」の修了生の中では、所属先でプロジェクトに抜擢されたという話も聞きました。正直、講座を修了された後に皆さんがどのような活動をされているのかということはトラッキングできないのですが、こういう実例が耳に入るとすごく嬉しいですし、運営スタッフの励みにもなります。

―受講後は社会でご活躍される方も多いのですね。「人材育成」という観点で、今後目指されていることはありますか。

もっと強力にAI人材を輩出していくことです。様々な課題があり、すぐに拡大していくことは難しいのですが、それでもこの流れを日本中に広げていくために、しっかり考えていきたいと思います。

講座の紹介

TMIの授業である「ウェブ工学とビジネスモデル」、データサイエンティストの育成を行うグローバル消費インテリジェンス寄付講座(GCI)、DeepLearning の講座を運営するDeep Leaning JPを軸に、次世代の情報社会を担う人材を輩出すべく、実践的な教育活動を行っています。


◆講座詳細についてはこちらから
https://weblab.t.u-tokyo.ac.jp/education/


松尾研はAI分野における「人材育成」を重要なものだと捉え、実際に多くの優秀な人材を世に輩出してきました。それを支える各種講座は、中山先生をはじめとした研究室の先生方の「人材育成をやらねばならない」という共通の想いの上に、多くの時間と労力をかけ作られ、運営されています。

これからも松尾研は、日本、世界の未来を切り拓くAI人材の育成に貢献していきたいと思っています。

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