TOMOCLOUD創業の原点
正直に申し上げると、私は最初から「研究者になろう」「世界を変えたい」と思って工学部に入ったわけではありませんでした。
漠然と「ものづくりで社会に役立てたらいいな」という気持ちで工学部に進みましたし、当時の自分にとって「研究」や「医療」は、どこか遠い世界の話というより、“まだ解像度が高くない領域”でした。
ただ、一つだけ確かなことがあります。
それは、学部4年生の時の武居研究室への配属で医療に関わるテーマに初めて触れ始めてから、その課題が「他人事」だったことは一度もない、ということです。
現場に足を運び、医療者や患者さんの声を聞き、まだまだ未熟ながらも自分のできる範囲で精一杯向き合ってきたつもりです。自分にできることが何か分からなくても、関わる以上は真剣にやるしかない。最初からその感覚だけは、ずっとありました。今思えば、あの研究レベルや理解度にしてはなかなか大胆だったなと思うこともあります、、(笑)
患者さんの言葉が、私の中に残り続けています
学生の頃から病棟に足を運んだり、患者さんや医療者の声を直接うかがったり、とても貴重な機会をいただきました。
そこで、ある患者さんがぽつりとこう言われました。
「からだの状態が見えないことが、いちばん不安なんです。」
この言葉が、今でも胸に残っています。
痛みや症状そのものだけでなく、「見えない」ことが不安を増幅させる。そしてその不安は、周囲からは気づかれにくいことがある。
その事実に触れてから、私はずっと同じ問いを抱えるようになりました。「見えない不安を和らげられないだろうか」と。
分からないからこそ、踏み込めた時期がありました
振り返って思うのは、特に留学中は「分からないが故の大胆さ」があったということです。
トビタテ留学のサポートを頂き英国エディンバラ大学へ2019年の1年間研究留学をしていました。ただ、色々手違いがあり、工学部ながら、まさかの”工学部と共同研究を行う再生医療の研究所”の方に所属することになりました。その為、周りはほとんどバイオ領域の研究者でした。(しかもスコットランド英語でしたので、研究と文化のダブルでカルチャーショックでした(笑))
医療の文脈も、研究の常識も、言語も文化も、すべてが自分にとっては簡単ではありませんでした。だからこそ、変に“分かったつもり”にならず、聞くべきことを聞き、恥をかくことを恐れず、まず動き、のめりこむ、という姿勢を少しずつ身に着けられたのかと思います。
今なら慎重に立ち止まってしまうような局面でも、当時は「分からないから、やってみる」「分からないからこそ、正面から聞く」と踏み込めた。
その大胆さが、結果的に自分の視野を広げ、医療と工学の接点に深く入り込むきっかけになりました。
目の前のことに深くのめりこみ、気づけば「製品化」まで見据えるようになっていました
研究室では、外国人研究者たちと毎日英語で議論しながら、技術を磨く日々でした。
うまくいかない実験も多く、思い通りに進まないことの連続で、泥臭い作業ばかりでした。
それでも不思議と、やめたいとは思いませんでした。
むしろ、目の前の課題に深く潜っていくほど、見える世界が広がっていき、やりたいことが増えていきました。気づけば、私は「研究を研究で終わらせない」ことを自然に意識するようになっていました。
冒頭のエピソードに戻りますが、現場の声に突き動かされている以上、論文で終わらせるのではなく、実際に届く形にしたい。そう強く思うようになったのです。
その為、学外では、事業化を目指してビジネスコンテストに出場したり、投資家の方々と打ち合わせをしたり、リンパ浮腫を知っていただくための活動も行うようになりました。
研究と事業の両方に足を突っ込みながら、「現場に届く形」を探し続けてきました。
「患者さんは生活者である」——その当たり前が、すべての設計思想になりました
現場で強く気づかされたのは、患者さんも一人の生活者であるという当たり前の事実です。
患者として、家族として、友達として、社会人として。日常にはいくつもの「自分」があり、それが今日も明日も続いていきます。
だからこそ、私たちは技術を「道具」としてだけではなく、「日常に寄り添う伴走者」として形にしたいと考えています。
生活の中でふと不安になったときに、身体の状態を「共通言語」として確かめられる。医療・介護・ヘルスケアをしなやかにつなぐ存在になりたいと思っています。
私たちが磨いてきたのは「可視化の力」——EITという技術です
TOMOCLOUDの中核にあるのは、電気インピーダンストモグラフィ(EIT)という可視化技術です。
人間の体の各組織は固有の電気的特性を持ち、さらに、人間の約60%を構成する水分の状態によっても電気的特性は変化します。EITは、こうした電気的特性を、簡便かつ高精度に「視える化」するアプローチです。
この技術は、単に「見える」ことがゴールではありません。
からだの状態を視て、理解し、次の一歩を踏み出すための羅針盤になりうると考えています。見えなかったものが視えた瞬間、人は前へ進めるようになります。私たちは、その瞬間を後押ししたいと思っています。
泥臭い開発の連続です。それでも前に進んでいく
もちろん、理想だけでプロダクトはできません。現実は泥臭いです。
センサーの使いやすさひとつ取っても、部位や体格で難易度が変わります。装着の手間が少し増えるだけで、継続は難しくなります。
電極の接触、ノイズ、再現性、測定時間、ユーザビリティの迷い。実際に手に取っていただくたびに、「机上の正解」と「現場の正解」のずれを突きつけられます。技術的精度を追い求めるほど、ゴツゴツしたプロトタイプになっていく。
しかし、そのずれを埋めるためにトレードオフのもと意思決定しながら「真に求められる価値を世に届ける」こそが、私たちの仕事だと思っています。
患者さんや医療者・ユーザーの声を聞いて形にし、また現場に戻す。壊して、作り直す。
その繰り返しでしか、「日常に寄り添う伴走者」は生まれないと信じています。
わたしたちの初期の対象であるリンパ浮腫は特定のがん手術後に発生しやすく、悪化すると完治が難しいと言われています。予防方法も未確立で、国内の患者数は約15万人(潜在的にはさらに多い)とも言われます。
そして現実には、「命が助かったのだからそれで良しとする」「直接命に関わらないから後回しになる」——そうした空気の中で、患者さんが不安を抱え続けてしまうことがあります。
だから私は、EITを用いた「LTモニタ」を開発し、見えない病気を視える化して、早期の気づきや日々のモニタリングを支えたいと考えてきました。
リンパ浮腫には、リンパ管の先天的な機能不全などによる原発性と、がん治療後に発症する続発性があります。このうち、続発性リンパ浮腫については、本来、がん治療をおこなう乳腺外科や放射線科などで、治療後の定期通院の際に、発症リスクをチェックできると良いのですが、実際は、患者さん本人が違和感を覚えてから受診するケースが多く、その結果、発見が遅れてしまうのが現状です。 また、原発性、続発性に関わらず、患者さんが初期の浮腫に気付いて受診しても、視診や触診のみで結局見落とされてしまったという話もよく聞きます。
いま、そしてこれから
いまTOMOCLOUDが向き合っているのは、最高の技術、そして技術開発だけにとどまらず、実際の運用に耐える設計、使いやすさ、品質、そして社会実装に必要な体制づくりまで含めて、「現場に届く一歩」を積み上げています。
そして、これからやりたいことは明確です。
見えなかったものが視えた瞬間、人は前へ進めるようになります。私たちはまさにその瞬間を、視える化技術により支えることで、全ての人が自分らしく生きることのできる社会を創造していきます。そして、医療・介護・ヘルスケアをつなぐ「共通言語」としての視える化技術を実装し、日本発の社会モデルとして、グローバルにも広げていきます。
最後に
私は、最初から大きな使命感を言葉にできていたわけではありません。
ただ、関わり始めた瞬間から「自分事」に感じ、目の前のことに深くのめり込み続けた結果、気づけば「これは自分の使命だ」と思うようになっていました。
それが、私の正直な心境の変化です。
TOMOCLOUDは、まだ始まったばかりです。
うまくいかないことも多く、泥臭い改善の連続です。
それでも、「見えない不安が少し軽くなる瞬間」を増やせるなら、この仕事には大きな価値があると信じています。
もし、泥臭さも含めて本気で社会実装に挑みたい方がいらっしゃれば、ぜひ一度お話しできれば嬉しいです。
私たちは、皆さまと一緒に、この会社とプロダクトを作っていきたいと考えています。