制作活動を楽しんできた私が、作家ではなく、作家の活躍をサポートするThe Chain Museumの仕事に情熱を注ぐ理由。 | 私が入社した理由
アート・コミュニケーションプラットフォーム「ArtSticker(アートスティッカー)」を軸にアートビジネスを展開するスタートアップ「The Chain Museum」のメンバー「川越 地球(か...
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こちらは、武蔵野美術大学キャリアセンターが運営する、進路選択・就活を支援するウェブマガジン「ムサビキャリアデザインマガジン」に公開された記事<前編><後編>の転載です。内容としては、The Chain Museumで「Art Registrar」として活躍する「川越 地球(かわごえ・てら)」が武蔵野美術大学にて登壇した際のレポートです。
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学生が就職以外の進路を選択する際に知っておきたい予備知識を、ゲスト講師に“7つの質問”を投げかけ学ぶ課外講座。後編では、アートキュレーターとして活躍する川越地球(かわごえ・てら)さんに、美大卒業後に作家活動を続ける難しさや、変化するアートマーケットの現状、そして作品を「売る」ことへの向き合い方まで。若手作家に伝えたいリアルな視点を伺いました。
●ゲスト講師 川越地球(The Chain Museum Art Registrar)
●聞き手 酒井博基(株式会社ディーランド代表取締役)
(酒井)続いては、美大生にとって切実な質問です。なぜ多くの人が、美大卒業後に制作や作家活動を続けられなくなってしまうのでしょう?
(川越)先を見通せる人ほど、早めに見切りをつけてしまう傾向があるのかなと感じます。私の在学中も、いまのようにアート作品のECサイトがなかったので、「ギャラリーに所属できなければ終わり」と思ってしまう人が多かった印象です。
「続けても将来が見えない」「いまのアート情勢では難しい」と、現実的に判断してしまう。制作にはお金もかかりますし、その面でも悩む人は多いと思います。
だから私は、若手だけでなく中堅作家もサポートしたい。なかには、オークション市場に出たことで作家の想定しない形で作品の需給バランスが変わり、再起できなくなってしまう人もいます。望む人には、できるだけ長く作家活動を続けてほしいんです。
(酒井)次に、作家志望の学生が知っておきたい、日本のアートマーケットの現状について教えてください。
(川越)まず、世界のアート市場は約8.1兆円(“The Art Market 2025” The Art Basel and UBS Global Art Market Reportより。1ドル=142.3円換算)。そのなかで日本が占めるのは約1%、つまり810億円です。数字だけ見ると小さく感じますが、マーケットがすでに成熟している海外に比べて、日本はまだ伸びしろがあるとも言えます。
その背景として、投資の一環としてアートに注目する人が増えていたり、企業のオフィスにアートを導入する動きが加速していることが挙げられます。たとえばオフィスにアート作品を置くことで、訪問者との会話のきっかけになったり、社員の発想力やコミュニケーションが活性化されたり。国もウェルビーイングの観点からアート導入を推奨しています。
また、日本ではアートの流通価格の平均値が欧米に比べてまだまだ低いですが、欧米では1作品あたり900万円以上の作品からがキャリアのスタートラインとされることが当たり前。それだけ「価値のあるもの」として見られているんですね。
価値は、価格と歴史的・文化的文脈の両方で決まります。現代の社会状況を反映した「文脈のある作品」が、海外で高く評価されやすい傾向にあります。
さらに、イギリスの現代美術雑誌『ArtReview』が毎年発表している、アート界で影響力を持っている100組のランキング「Power100」にも注目してほしいです。市場のみならず美術史的な評価傾向を理解する手がかりになりますよ。
とはいえ、やっぱり一番大切なのは「自分がつくりたい作品をつくること」。目指すキャリアに応じて、必要な情報を少しずつ取り入れていけばよいと思います。
(酒井)マーケットの話って、大学で教えてもらえるんですか?
(川越)最近は増えてきたのかもしれませんが、大学では深く教えてもらえないことが多いのではないでしょうか。社会に出てすぐに自分でいろいろなことを判断しなければならないのは酷なので、課外講座などで「知りたい人が知れる機会」をつくることが大事だと感じます。
(酒井)ここからはより具体的な質問を。作家が作品を売るには、どのような発表の場があるのでしょう? ArtStickerのような作品が買えるプラットフォームも増えてきて、方法が多様になっている印象です。
(川越)まずはアワードに応募することが大きな第一歩ですね。ただし、アワードも玉石混交なので、見極めは必要です。目指す作家さんが過去にどんなアワードに出展していたか、受賞歴がどのようにキャリアにつながっているかなどを調べると、ヒントがたくさん見つかると思います。
もうひとつ大事なのが、自分の作品を写真で記録しておくこと。これ、すごく大切です。
いまはギャラリーや支援者の多くが、SNSなどで作家の情報をリサーチします。でもWEBやSNSになにも情報がないと、どんなにすばらしい作品でも、たどり着いてもらうまでに時間がかかるんです。
ポートフォリオをつくるうえでも、作品写真が残っていないと苦労することになります。時間がある学生のうちから意識しておくと、のちのち役立ちますよ。
(酒井)たしかに、写真の有無は大きいですよね。私も「いい作家さんいませんか?」と聞かれることがよくありますが、作品が確認できるサイトがないと紹介しづらい。基本的なことですが、できていない人も多いかもしれません。
(川越)そうなんです。アートに詳しくない人にこそ、わかりやすく伝える手段が必要です。それが整っていないことで、せっかくのチャンスを逃してしまうのは本当にもったいないと思います。
(酒井)では最後の質問です。川越さんは10年後、20年後について、どんなことを考えていますか?
(川越)正直、具体的にはわからない部分もありますが……。私の目標は、日本のアート市場を少しでも大きくすること。そのために、いまの会社での活動を続けつつ、将来的には個人の立場でも若手作家の支援や、作家同士の交流の場づくりなどに取り組んでいきたいと思っています。
(酒井)日本のアートマーケットはもっと厳しいのかと思っていましたが、今日のお話を聞いて、伸び率で見ると希望が持てることを知りました。印象がかなり変わりました。
(川越)アートマーケットは波が大きく、上がったり下がったりを繰り返します。でも、そこで一喜一憂するよりも、地に足をつけて制作を続けていくことがなにより大事だと思います。難しいけれど、正しく継続することが、結局は一番の力になるのではないでしょうか。
武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業。株式会社アートフロントギャラリーにて、ホテル / マンション / オフィスなどのアートコンサル、大地の芸術祭(新潟)/ 瀬戸内国際芸術祭などの芸術祭企画運営、ギャラリーでの作品販売業務を経験。
その後、RICOH ART GALLERYのギャラリー立ち上げを経て、2023年4月よりThe Chain Museumに参画。主にギャラリー事業の展覧会キュレーション・運営、法人向け事業のアートコーディネーションなどを担当。