クライアントから、「外部認証を取りたい」「SEOをやりたい」「アプリを作りたい」といった相談を受けることがある。
こうした要望に対して、すぐに「わかりました、やりましょう」と動き出すのは、一見するとよい対応に見える。しかし、それだけでは不十分な場面もある。
当社の新設部署『当事者発想ラボ』でラボ長を務め、コンサルタントとしてもクライアントワークに携わる佐藤徹は、社内勉強会の中で、クライアントワークにおける「決めにいく」コミュニケーションの重要性を共有した。
テーマになったのは、クライアントの要望をそのまま受け取るのではなく、その背景にある目的や論点を整理し、関係者が納得して意思決定できる状態をつくること。
なぜなら、クライアントが口にしていることは、多くの場合「本当に達成したいこと」ではなく、そのための「手段」だからだ。
「外部認証を取りたい」という言葉の裏には、「社会的な信頼を高めたい」という目的があるかもしれない。「SEOをやりたい」という言葉の裏には、「必要としている人にサービスを見つけてもらいたい」という目的があるかもしれない。
つまり、クライアントの要望は、会話のゴールではなく入口である。
その入口だけを見て動き出してしまうと、あとから「本当に必要だったのはこれではなかった」というずれが起きる。
だからこそ最初に確認すべきなのは、「何をするか」ではなく、「なぜそれをするのか」である。
「空・雨・傘」で、要望をそのまま受け取らない
https://makefri.jp/work/7517/
佐藤が紹介したのが、空・雨・傘という考え方だ。
空を見る。
「曇っている」と気づく。
「雨が降りそうだ」と考える。
「では、傘を持っていこう」と決める。
仕事に置き換えると、空は事実、雨は解釈、傘は提案・行動である。
たとえば、クライアントが「外部認証を取りたい」と言ったとする。これは空、つまり事実だ。しかし、その事実だけでは、まだ何をすべきかは決められない。
なぜ外部認証を取りたいのか。社会的な信頼を高めたいのか。採用や広報に活かしたいのか。取引先に安心してもらいたいのか。そうした背景を考えるのが雨である。
そのうえで、「いきなり認証取得に進むのではなく、まずは誰に何を伝えたいのかを整理しましょう」「認証以外にも、情報開示や第三者評価といった選択肢があります」と提案する。これが傘だ。
事実、解釈、提案・行動を分けることで、議論は整理される。逆にこれらが混ざると、目的なのか手段なのか、今決めるべきことなのか、まだ考えるべきことなのかが見えにくくなる。
大事なのは「ちゃんと決められる状態」をつくること
佐藤が伝えたかったのは、クライアントを一方的に説得することではない。
大事なのは、クライアントがちゃんと決められる状態をつくることだ。
選択肢だけを並べて、「A案もあります」「B案もあります」「C案もあります」「どれにしますか?」と聞くだけでは、選ぶ側は判断しにくい。
必要なのは、「何を基準に選ぶのか」を整理することだ。
今回はスピードを重視するのか。コストを重視するのか。社会的な信頼を重視するのか。社内の納得感を重視するのか。どの軸を大事にするかによって、選ぶべき案は変わる。
だからクライアントワークで価値提供をするときに必要なのは、ただ選択肢を出すことではない。
「今回はこの目的が大事なので、この軸で比べるとよさそうです」
「この軸を重視するならA案です」
「私たちとしては、今回はA案がよいと考えています」
ここまで整理して初めて、提案は意思決定の支援になる。
As-Is、To-Be、GAPで「本当の課題」を見る
佐藤は、クライアントの要望を整理するときに、As-Is、To-Be、GAPを確認することが大事だと話した。
As-Isは、今の状態。
To-Beは、目指したい状態。
GAPは、その差である。
たとえば外部認証の相談でいえば、「認証を取りたい」という言葉だけを見るのではなく、まず現在地を確認する。
なぜ今その話が出てきたのか。誰がその必要性を感じているのか。どんな制約があるのか。これがAs-Isである。
次に、本当はどうなりたいのかを確認する。認証を取ること自体が成功なのか。それとも、採用候補者や取引先から信頼されることが成功なのか。自社の社会的な姿勢をわかりやすく伝えられるようになることが成功なのか。これがTo-Beである。
そして、現在地と目指す姿の間に何が足りないのかを見る。情報が足りないのか。社内の合意が足りないのか。発信が足りないのか。判断基準が足りないのか。これがGAPである。
To-Beが曖昧なままだと、手段だけが先に走ってしまう。そして、往々にしてTo-Beは曖昧であったり、真に目指したい状態は言語化されていないことも多い。だからこそ、「どうなったら成功なのか」を最初に”握る”ことが重要になる。
デザインの仕事は、ゴールを一緒につくる仕事でもある
佐藤は、問題解決には大きく2種類あると話した。
ひとつは、ギャップフィル型。
もうひとつは、ビジョン設定型である。
ギャップフィル型は、あるべき状態がすでに見えていて、その差を埋める問題だ。たとえば、バナーへの文言追加や、サイト上の不具合への対応などは比較的こちらに近い。
一方で、デザインの仕事は、ビジョン設定型になることが多い。これは、「そもそも何を目指すべきか」がまだ決まっていない問題である。
どんなブランドに見られたいのか。誰に、どんな印象を持ってほしいのか。関係者全員が納得できる方向性は何なのか。
こうした問いには、最初から正解があるわけではない。だから、いきなり手を動かすよりも、まず「何を目指すのか」を一緒に考える必要がある。
そこに、デザインのクライアントワークの難しさと価値がある。
「やらないこと」を決めるのも、プロの仕事
佐藤は、選択肢を出すだけではなく、「何をやらないか」を決めることも重要だと話した。
全部やろうとすると、結局どれも中途半端になる。だから、今やること、あとでやること、やらないことを分ける必要がある。
外部認証を取るには、時間も手間もかかる。もし今の目的に対して、もっと軽く始められる方法があるなら、先にそちらを選ぶべきかもしれない。
「今は認証取得ではなく、まず情報発信を整理しましょう」
「まずは社内で伝えたいメッセージを固めましょう」
「認証は次のフェーズで検討しましょう」
こう言うことも、プロの仕事である。
クライアントに寄り添うことは、相手の言うことをすべてそのままやることではない。本当に必要なことを一緒に考え、今やるべきことを決めることだ。
要望は、ゴールではなく入口である
今回の勉強会で佐藤が伝えたかったことは、とてもシンプルだ。
クライアントが言ったことを、そのままやるだけでは不十分である。
その言葉の裏にある目的を考えることが大事である。
そして、クライアントがちゃんと決められる状態をつくることが、プロの仕事である。
そのために必要なのが、❶目的、❷軸、❸推奨の順番だ。
まず、目的を確認する。
次に、何を大事にして判断するのかという軸をつくる。
最後に、その軸に基づいて推奨案を出す。
言われたことをすぐやるのではなく、「それは、何のためにやるのでしょうか」と問い直す。
選択肢を並べるだけではなく、「この目的なら、こちらがよさそうです」と伝える。
相手に判断を丸投げするのではなく、相手が納得して決められるように支援する。
それが、CULUMUらしいクライアントワークなのかもしれない。
クライアントの要望は、ゴールではなく入口である。
その入口から一歩奥に入り、本当に目指したいことを一緒に見つける。そこに、クライアントワークの価値がある。
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