目次
旅の途中で“美”を磨くという選択肢
データで見る、ヘアサロン以外の美容施術への関心と市場の可能性
施術ジャンル別の人気と特徴
施術ジャンル別の訪日外国人受け入れ経験
オーバーツーリズムという課題
京都の事例に見る、観光の光と影
美容業界におけるオーバーツーリズムの可能性
持続可能な美容インバウンドのあり方とは?
私たちの挑戦:美容体験を“分かち合える”仕組みに
ミライへの問いかけ
旅の途中で“美”を磨くという選択肢
観光地で髪を切る。旅先でネイルを整える。
日本の美容技術を体験することは、訪日外国人にとって“特別な思い出”になると、私たちは確信しています。
これまでの訪日旅行は「観光地を巡る」「買い物を楽しむ」が主流でした。少し前の爆買いいただく景色が懐かしくもありますね。
しかし今、訪日旅行のスタイルは変わりつつあるのです。
「旅のついでに美容施術を受ける」——そんな新しい選択肢が、世界の女性たちに広がりつつあります。
データで見る、ヘアサロン以外の美容施術への関心と市場の可能性
ホットペッパービューティーアカデミーの調査によると、訪日外国人が「行ってみたい」と回答した美容施術ジャンルのトップは以下の通りです:
- マッサージ・リラクゼーション施設:37.7%
- エステティックサロン・ホテルスパ:22.9%
- ヘアサロン:21.5%
- ネイルサロン:18.3%
- アイビューティーサロン(まつ毛・眉など):16.2%
特にエステやスパは、「旅の疲れを癒す」「非日常を味わう」目的で選ばれており、ヘアサロン以上に高い関心を集めているジャンルであることが分かります。
また、アートメイクや審美歯科などの医療美容領域も、韓国・台湾・中国などからの富裕層を中心に注目されており、“美容医療ツーリズム”としての可能性も広がっています。
参照:【前編】外国人旅行者の半数に利用意向あり!?日本の美容サロンの魅力とは?|調査・研究 | 美容業界の調査はホットペッパービューティーアカデミー
施術ジャンル別の人気と特徴
■ エステ・スパ(特にドライヘッドスパ)
- 人気理由:癒し・リフレッシュ目的。短時間で施術可能。男女問わず入りやすい。
- 口コミ・体験談:ホットペッパービューティーアカデミーの調査によると、外国人旅行者のうち約2割がドライヘッドスパを実施。Google Trendsでも「head spa」がアメリカで急上昇中。SNSでも「日本の癒し文化」として話題に。
ドライヘッドスパは、西欧文化にもフィットしやすい?!
参照:「ドライヘッドスパ」はインバウンドでも人気!その理由は?|調査・研究 | 美容業界の調査はホットペッパービューティーアカデミー
■ アートメイク(眉・唇・アイライン)
- 人気理由:
- 韓国の高価格帯クリニックが外国人観光客(特に中国人)に人気であること、日本でも韓国式アートメイクを導入する医療機関が増えてきている背景から、韓国・台湾・中国からの富裕層に人気と推測されます。日本の技術は「自然で繊細」と高評価。
口コミ・体験談:美容医療の口コミ広場には944件以上のレビューが掲載。痛みや仕上がり、施術後の腫れなどリアルな声が多数。満足度5.0が最多で、30〜40代女性が中心。
■審美歯科
・人気理由:
- 日本の審美歯科は技術力・清潔さ・安全性が高く評価されており、ホワイトニングやセラミック治療などの自由診療が人気。
- 母国よりも安価で高品質な治療が受けられることが、訪日外国人にとって魅力となっています。
・口コミ・体験談:
「短期間で美しい仕上がり」「痛みが少なく安心」「結婚式前に間に合ってよかった」など、スピード・仕上がり・接客対応に対する高評価が目立ちます。
(参照:歯科医院のインバウンド対策|訪日外国人に選ばれる集客戦略と実践方法 - マケスク)
■ ネイルサロン
- 人気理由:日本ならではの繊細なデザイン。短時間施術で観光の合間に利用しやすい。
- 口コミ・体験談:ネイル用品卸サイトでは、外国人観光客向けに「和柄ネイル」「桜ネイル」などが人気。欧米圏ではジェルネイルの時短メニューが好評。SNSやGoogle Mapsでの口コミ投稿が集客に直結。
桜ネイル▼
参照:【基礎編】ネイルサロンのためのインバウンド対策|プロ用のネイル用品卸通販|Nail ティーエーティー
施術ジャンル別の訪日外国人受け入れ経験
美容サロン側でのインバウンド顧客の受け入れ経験を聞いた調査があります。これまでに1回でも外国人旅行者のお客さまが来店したことがあると回答した美容サロンスタッフは、55.3%、つまり半数以上のサロンスタッフが経験があると回答しています。
特にネイルサロンでは、7割以上が外国人旅行者を受け入れた経験があると回答しました。
アートメイクや審美歯科などの美容医療領域ではどうでしょうか。
経済産業省の「医療インバウンド推進に関する検討会(2025年6月)」によると、日本への医療渡航者数は年間2〜3万人と推定されています。この中には、美容医療(審美歯科・美容皮膚科・美容外科など)を目的とした渡航者も含まれます。
主な渡航元は中国・ベトナム・韓国で、特に中国からの訪日美容医療ツアーは急成長中ビジネスとなっています。高い技術力を有する日本で美容施術を受けた後、日本の観光地を巡る体験もでき、非常に人気になっているようです。
これほどに、日本の美容技術が高く評価され、業界全体で市場の伸びが期待されるようであればこそインバウンド需要を取り込まない選択はもはやないでしょう。
参照:美の追求者たち:成長する訪日中国人美容医療ツアーの現状と未来 , 円安傾向が追い風に!? 外国人旅行者&受け入れサロンに聞いた!「美容サロンにおけるインバウンド実態調査」 | 2ページ目 (2ページ中) | ビュートピア(Beautopia)
オーバーツーリズムという課題
しかし、恩恵ばかり享受するのではなく、考えるべき課題も存在します。
皆さんは、「オーバーツーリズム」という言葉をご存じでしょうか?
これは、観光地に過度な数の旅行者が訪れることで、地域住民の生活環境や観光客自身の体験に悪影響を及ぼす現象を指します。
ありがたいことに、今、日本には多くの外国人観光客が訪れています。
観光庁の資料(令和5年9月)によると、2023年7月の外国人延べ宿泊者数は以下の通りです:
- 東京都:39%(367.1万人泊)
- 大阪府:17%(154.2万人泊)
- 京都府:10%(97.5万人泊)
この三大都市圏だけで、全体の約70%を占めています。
一方、地方部は:
- 北海道:5.0%
- 福岡県:4.5%
- 沖縄県:3.9%
- その他地方県:1〜2%未満
この偏りは、羽田・成田・関西といった主要空港からのアクセスの良さも影響していますが、都市部への集中が進むことで、オーバーツーリズムの問題が顕在化しています。
(参照:オーバーツーリズムとは? 原因や影響、問題点や対策を具体例付きで解説:朝日新聞SDGs ACTION! , 【puresu】230905_2145_観光庁説明資料)
京都の事例に見る、観光の光と影
京都市では、嵐山・清水寺・祇園などの人気エリアに観光客が集中し、交通渋滞や公共交通機関の混雑が深刻化。
祇園では、舞妓さんへの無断撮影や追跡行為など、観光マナーの低下も問題視されています。
さらに、観光客向けの宿泊施設が急増したことで、住宅価格の上昇や騒音問題が発生し、地域コミュニティの維持が難しくなっているという声もあります。
京都市では、無断撮影禁止エリアの設置や観光マナー啓発、観光税の導入など、観光と地域生活の調和を図る取り組みが進められています。
(参照:オーバーツーリズムとは?原因と日本の京都や北海道の事例から学ぶ今後の対策を徹底解説 - Spaceship Earth(スペースシップ・アース)|SDGs・ESGの取り組み事例から私たちにできる情報をすべての人に提供するメディア)
美容業界におけるオーバーツーリズムの可能性
では、この課題を美容業界に置き換えてみるとどうなるでしょうか?
美容施術が訪日観光のトレンドになることで、都市部のサロンに外国人が集中する傾向が強まっています。
その結果として、
- 地元住民の予約が取りづらくなる
- 価格が高騰する
- サロン側の言語対応負担が増える
といった懸念が生まれる可能性があります。
「美容体験の質」が損なわれるリスクもあり、インバウンド需要の拡大が必ずしもポジティブな影響だけをもたらすとは限りません。
持続可能な美容インバウンドのあり方とは?
ここで私たちが考えるべきは、インバウンド需要をどう享受するかという視点です。
- 地方サロンの活用による需要の分散
- 多言語対応や事前予約システムの整備
- サロンスタッフへの文化理解・接客教育の支援
これらの取り組みによって、都市部への過度な集中を防ぎながら、訪日外国人にも質の高い美容体験を提供することが可能になります。
さらに、地方都市への訪日観光客の分散化は、地方創生にも一定の効果が見込まれるでしょう。
また、地元住民の日常生活とも良いバランスを保つことができるため、美容業界がインバウンド需要を享受することだけに意識を置きすぎない姿勢が重要だと考えます。
とはいえ、「地方に訪日外国人を分散させればよい」という単純な話ではありません。
オーバーツーリズム対策が不十分なまま「地方創生だ!」と外国人観光客を地方都市へ誘致すれば、美容サロンのみならず都市全体がオーバーツーリズムに悩まされる可能性もあります。
この点は、私たち美容業界が肝に銘じておくべき課題です。
日本の美容技術に関心を持ってくれる人々を増やし、彼ら・彼女らと美容サロンを上手にマッチングさせること。
そして、美容業界だけでなく、宿泊・交通・観光などの周辺業界や地方自治体も含めて恩恵を享受できるような、持続可能なマッチングプラットフォームを目指していきたいと考えています。
私たちの挑戦:美容体験を“分かち合える”仕組みに
私たちが目指すのは、サロンとインバウンド顧客をつなぐ“翻訳者”のような存在です。
単なる予約サイトではなく、文化・言語・期待値の違いを橋渡しする、誰もが気軽に日本の美容体験を楽しめる仕組みを提供します。
・サロン側には、新規顧客獲得と空き枠の有効活用を。
・顧客側には、旅の思い出となる美容体験を。
「美」を通じて、日本をもっと好きになってもらう。
それが、私たちの挑戦です。
ミライへの問いかけ
「美容体験が、旅の記憶になるとしたら?」
「その記憶が、誰かの“また来たい”につながるとしたら?」
日本の美容技術は、世界に誇れる文化のひとつ。
その価値を、持続可能なかたちで届けるために。
私たちは、美容インバウンドの未来に向き合っていきます。