1999年に食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」の1号店をオープンし、創業したスマイルズ。あれから20年。「生活価値の拡充」という理念のもと、ネクタイ専門店やセレクトリサイクルショップ、ファミリーレストラン、海苔弁専門店などあらゆる業態を展開し、既成概念にとらわれず新たな生活の在り方を提案しています。
そんなスマイルズでは、2019年から第二新卒採用を始めました。
この記事では、第二新卒者向けの会社説明会での、スマイルズ経営メンバーによるトークセッションの模様をお届けします。彼らの若かりし頃の体験を紐解きながら、スマイルズが求める人材とは?に迫ります。
スピーカー:遠山 正道(株式会社スマイルズ 代表)
1962年生まれ。慶應義塾大学卒業後、三菱商事株式会社入社。2000年、株式会社スマイルズを設立。現在「スープストックトーキョー」のほか、ネクタイ専門店「ジラフ」、セレクトリサイクルショップ「パスザバトン」、現代アート作品を展示するレストラン「パビリオン」、家族連れ向けレストラン「100本のスプーン」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」を展開。現代アートのコレクション、スマイルズがアーティストとして芸術祭へ出品など、アート活動も行う。
スピーカー:松尾 真継(株式会社スマイルズ 取締役副社長 兼 経営企画本部長)
1976年生まれ。早稲田大学卒業後、日商岩井株式会社(現、双日株式会社)入社。コーポレート財務に携わったのち、UNIQLOを運営する株式会社ファーストリテイリングに転職。店舗業務、新規事業立ち上げを経験し、2004年(株)スマイルズ入社。商品開発や経営管理を担当し、スープストックトーキョー事業を統括する。2008年に副社長就任。2016年、(株)スマイルズの分社により(株)スープストックトーキョーを設立し、同社の社長も兼任する。
モデレーター:蓑毛 萌奈美(株式会社スマイルズ 広報部長)
蓑毛)本日の登壇者は、スマイルズ社長の遠山と、スマイルズ副社長、兼、株式会社スープストックトーキョー取締役社長の松尾です。今回は、スマイルズツートップの二人の対談ですね。
遠山・松尾)よろしくお願いします。
蓑毛)この二人でのトークセッションはかなりレアですね!まず自己紹介からお願いできますか。
遠山)どうも、遠山です。新しい会社に入るのって、楽しそうでいいよね。
私が就職したのは、もう35年くらい前かな。三菱商事に入社して10年たった頃、このまま定年を迎えたら満足しないなと思い、自分で絵の個展をやりました。いま振り返ると、そこでの体験が、これまでの事業や、今やっていることのベースになっています。
松尾)松尾です。僕は、新卒の時は自分のやりたいことがはっきり見えていなくて、なんでもやれる会社に入りたいなと思い、総合商社を選びました。2年ちょっと働いてみて、もっと手触り感のある仕事をしたいと考えるようになり、フリースが大ヒットしたばかりのユニクロに転職しました。
店舗で働いた後、野菜の新規事業を立ち上げるメンバーとして2年くらい頑張りました。残念ながらその事業はうまくいかずたたみましたが、そこで出会った本当に良い食や、商社にいた経験、店舗に立った経験、新規事業を立ち上げて失敗した経験・・・、それらを全て活かすことができないか、と思った時、“商社マンが立ち上げたスープ屋さん”があると耳にして、気になってすぐに行きました。お店でオマールエビのビスクを食べたら、もうめっちゃ美味しくて、商品に惚れてしまいまって。僕が出来なかった新規事業の立ち上げを、商社マンの先輩がうまくやっているのが悔しかったんです。それで僕にやらせてくれと言いに行き、気が付いたら15年一緒にやっています(笑)。
3年目に、スープストックトーキョーのことは任せたよ、と言ってもらい副社長になって以来、分社化も含めて、本当に任せてもらってます。スマイルズでは他のメンバーがやることを支えつつ、スープストックトーキョーでは自ら経営をしています。
蓑毛)今日はこれからのキャリアを考えている方が多く集まっていると思うので、お二人のキャリアの転機や、その価値観を深堀りしていきたいと思っています。
皿洗いも5000億円の調達も、やるからには全力で。
蓑毛)さて、まずは「あの時の経験が役に立ったこと」について聞いていきたいと思います。松尾さん、いかがですか?
松尾)新卒で人事に希望の部署を聞かれたとき、「この会社で一番忙しいところで鍛えてください」、と言ったんです。そこで配属されたのが財務でした。
そこは夜中まで忙しくて、いるのは百戦錬磨の先輩ばかり。明らかに新人が配属されるようなところではなかったのですが、何も分からないなりに議事録を作って、ひたすら単語を調べて、事務のおばさんにエクセルを習って・・・、と出来ることはなんでもやっていました。当事は会社の株が暴落したりしたと、経営が不安定でお金が尽きそうだったので、最初の仕事が5000億円調達することでした。僕の隣に副社長が来て、「今の資金状況どうなってるの?」と聞かれたりする、緊迫感のある仕事場でした。
蓑毛)そこから、ユニクロに転職されましたよね?
松尾)当時はなんか焦っていましたね。今思えば見切りが早すぎたかもしれないですが、グズグズしているくらいなら、次に行こうと思って転職しました。
ユニクロでは、「一番忙しい店に行かせてほしい」とお願いしました。・・あれ、これって僕の性格なのかな?(会場笑)。行くからには一番忙しいところでないと意味がない、という謎の自己暗示があり、それを口に出したら叶えてもらえました。せっかく転職したのに、そこで受け身になっていたらカッコ悪いじゃないですか。どう転ぶかわからないけど、全力でやらないと何も始まらないなと思ったんです。
そうして配属された店舗では、最初、アルバイトの子にも馬鹿にされてました。まず、体がでかいから邪魔。レジは打てない、ミシンも出来ない、商品名を覚えてない。忙しい店なのに、社員がそんな状態です。そんなところから一年弱、挫折もあり努力もして、最終的にはアルバイトの子からも認めてもらえるようになりました。その後、新規事業チームに任命され、野菜の新規事業を立ち上げたのですが、これがまた大変でした。
蓑毛)最初からトラブル続きだったとか?
松尾)それが、当時はユニクロの新規事業ということで華々しく注目されちゃったんです。まだ何もやっていないのに絶対成功するなんて言われ、取材もたくさん来て、テレビカメラを向けられて、柳井社長と並んで創業メンバーのみなさんですと紹介されて。そんな風に期待されたはいいけれど、内実は追いついておらず、たくさんの課題をクリアできずに失敗に至りました。
その過程で、調子がいい時だけ近寄ってくる人や、苦難にぶつかると逃げる人など、いろんな人の心の動きを学ぶ経験をしました。
社会人になってからの5年間で、財務、店舗、新規事業の3つを経験しましたが、振り返ると、若くて体力も柔軟性もあるときに、「どうせやるなら一番忙しいところ」で、「やるからには全力でやる」というスタンスで取り組んだことが活きていると思います。今は経営を任せてもらっていますが、お金を把握する力も、現場を動かす力も、うまくいかなかったときにどういう人が残るのかを見ていく力も全部必要ですから。
蓑毛)だから今の松尾さんがあるのか、と、納得しながら聞きました。100本のスプーンというファミレスをオープンしたときに、松尾さんはずっと現場でお皿を洗っていましたよね。
松尾)僕は元々商社からユニクロに行ったので、飲食業は未経験なんです。大学生の時に牛丼屋のバイト面接に行ったけど、「目つきが悪い」と落ちたくらい(会場笑)。だから飲食は超ド素人なんですが、売り上げも、人のマネジメントも、洗い場に答えがあると思ってやっていました。
たとえば、食器が戻ってくると、自分たちが作ったものがどのくらい残されるのかが分かります。ソースが残っているとか、全然手を付けられてないとか。これってお客様の声そのものなんです。他にも、店が忙しい時には、バイトの子たちの逃げ場にもなれる。お客様にクレームを言われてシュンとしてお皿を下げてきた時には、絶対にその子を笑わせて、気持ちをリセットしてもらって売り場に戻します。接客業だから、戻る時には笑顔でないと。ですから、僕にとってはお客様も分かる、スタッフも変わる魔法の部屋というか、要するに楽しいんです。でもやりすぎると、「松尾さんは副社長なんだから」、と追い出されちゃうんですけどね。
33歳で初めて知った、自分で仕掛ける面白さ。
蓑毛)ありがとうございます。遠山さんはいかがでしょうか。振り返って「あの時の経験が役に立った」と思うことはありますか?
遠山)うちの会社では「自分事」というのをすごく大事にしています。そのきっかけは何だったかな、と考えると、商社マンだったときに開いた絵の個展が、自分の大きな転機だったと思います。
絵の個展は、「誰にも頼まれていない仕事」でした。上司の指示でもなく、会社の都合でもなく、家庭の事情でもない。むしろ子供が2歳になったばかりで子育ても忙しく、仕事のためになるわけでもないし、合理的な説明がつかない。
でも今思えば、合理的な説明ができないのが良かったですね。このままサラリーマンでいいのかという焦りや悔しさ、あるいは胸の奥にしまっていた情熱や夢といった、合理的に説明ができない何かを原動力にして、誰のためでもなく自分のためにやりました。生まれて初めて、自分を表現したんだと思います。
かっこつけていうと、それが私の「初めての自己責任」の場でした。自分でやるから、誰のせいにもできない。スマイルズはマーケティングをしません、というのは、そういうことなんです。リサーチや社会情勢のせいにせず、自分たちの発意から仕掛けると、うまくいけばまるっと喜べるし、失敗しても次の場面に活きる。個展を通して、自分の責任でやることの面白さを知りました。
スマイルズでは、パートナー(アルバイト)さんも含めて「自分事」と口にするんだけど、経営メンバーはもちろん、経理も、人事も、それぞれが自分の領域を自分事でやっている。それが自分のためにもなるし、会社にとっても良い、という感覚があるんじゃないかな。
松尾)僕も、そういう感覚はありますね。
現場には、リアルしかない。だから強い。
蓑毛)松尾さんからはすでに、ユニクロや100本のスプーンで現場に立っていた頃のエピソードも出てきましたが、現場の面白さや強みについて、お二人の考えを聞かせてもらえますか?
遠山)一言でいうと、現場が一番偉いんです。私が経営会議で出てくる言葉で一番ビビるのは、「お客様が」と、「現場が」の2つ。お客様が、にビビるのは当然ですよね。でも、現場が、というのも同じくらい怖い。なぜなら、現場の声というのは「確実にリアル」だからです。経営は数字で話をして、どこか机上の話になったりするんですが、現場は、その日、その時の、動かしようがないリアル。経営側としてはすごく怖いですよ。だからこそ、現場を経験している人は強いんです。
松尾)僕も、今は経営を任されていますが、現場の話ができるのは強みだと思います。
遠山)将来は経営をやりたい人でも、偉くなりたいなら現場をやっておけ、と言いたいですね。経営側として、現場に何か言わなきゃいけない、理解しなきゃいけない、同じ目線で話さなきゃいけないときに、現場を経験していたということが、絶対に活きます。特に、しょぼかったり、きつかった経験であるほど、後で偉そうに話せる(会場笑)。
蓑毛)クリエイティブ本部には、スープストックトーキョーの現場や、ファミレスの100本のスプーンの現場を経験してクリエイティブにきた人もいます。現場の経験をもとに、自分がお客様に提供するイメージを持って、日々提案やデザインをしています。外部からブランディングや業態開発の依頼を受けると感じるのですが、現場経験があるメンバーがいて、自社で店舗を運営していることが、代理店やデザイン事務所と比べて強みになっているのかなと思います。
遠山)優れた代理店や立派なコンサルティング会社がたくさんある中で、直営店舗で実業をやっているスマイルズは、提案内容や現場への落とし込みがだいぶ違うと言われるね。自分たちで「現場」というリアリティを持ってやってきた経験があり、それこそ、掃除や皿洗いも自分たちでやる。そうしたことが企画やデザインとして活き、他社からも喜ばれるのは嬉しいです。
蓑毛)松尾さんはどうでしょうか?
松尾)僕らの理念は、「世の中の体温を上げる」です。スープ、ネクタイ、レストランと、手段は色々あるけれど、想いは同じです。仕事を通じて、目の前の一人のお客様の心を前向きにするようなことをやりたいと思っています。そのお客様の気持ちを感じ取り、前向きにしていくことができるのは、現場ですよね。本社にお客様は来ませんから。
なぜ僕がスープストックトーキョーの社長をやれるかというと、スープストックトーキョーのスープを一人の客として好きだからです。もっとこういうスープが食べたい、もっとこういうサービスが欲しい、もっとこういう人が欲しい、それは会議室で考えるんじゃなくて、店を見た時に感じます。僕は、お店は作品だと思っているので、その現場が面白くないとか、大切じゃないと思わせちゃったらダメですね。
遠山)松尾が「作品」と言ったので思った話を。私にまた絵の個展をやらないんですか?と聞いてくれる人もいるんだけど、今は、絵よりも店が作品で、しかも断然面白いと感じます。人と人とが生身で会うし、実際に食べて胃袋に入れる。喜びの広がり方が違うんだよね。
松尾)絵は一回描いちゃうと変わらないけれど、店は、毎日変化が起き続ける。それが現場の面白さなんじゃないかと思います。
~前編では、二人の若かりし頃の体験について迫りました。後編では、今になって感じる仕事の面白さや、スマイルズ的・新規事業の選び方に迫ります。~
今回のトークセッションの様子は、Youtubeにもアップしています。動画でご覧になりたい方は、ぜひともこちらよりご確認ください!▼▼▼▼▼▼▼▼▼
執筆・編集:松島 さおり