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どうしても「書く」が怖いときがあります。良い言い回しが思いつかない。せっかく面白い話を聞いたのに、僕の言葉を通したら一気につまらなくなってしまう。
それでも、僕が伝えなければとパソコンの前に座ってキーボードを打つ。でも、こうじゃない。もっと伝えたいものがあるのに。違う、こんなことを言いたいんじゃない。なんでこんな文章しか書けないんだ。
次第に、焦りは怖さに変わってくる。
画面に表示される黒い文字は増減を繰り返し、気が付くと真っ白い画面が広がっている。
そして、僕は思うんです。「書く」が怖いなんて、もしかしたらライター向いていないのかもな、と。
けれど、僕と同じように「書く」ことへの怖さを感じながらも、書き続けているライターがいました。それがスカイベイビーズの笹沼杏佳さん。
「いまでも怖いです。楽しいから続けているわけじゃありません」
彼女は「書く」ことが怖いと思いながらも、なぜ書き続けているのか。もしかしたら怖くても、書き続けて良いのかもしれない。そのヒントを求めて、彼女の「書く」人生を紐解いてみたいと思います。
ものづくりへの憧れから始まったキャリア
―― ずっと書くことには興味があったんですか?
笹沼杏佳(以下、笹沼):それが、全くなかったんですよね。小さいころ好きだったものは、手芸とかお絵描きとかで。「ものづくり」に漠然と興味があっただけで、ことばへの興味は全然ありませんでした。
―― じゃあ、デザイナーなどの道に?
笹沼:それがそうでもないんです(笑)。学生時代、自分の進路を本気で考えてこなくて、惰性で大学まで行っちゃったんですよね。学部も、入りやすいという理由で経済学部を選びましたし。
気が付いたころには、漠然と描いていた「ものづくりに関わる」道にどう進めばいいか分からなくなっていました。
―― 路頭に迷ったんですね。
笹沼:それでも時間は進むじゃないですか。大学3年生の冬になって、周りの友達が就活を始め出したんですけど、どうしてもやる気にならなくて。どうしようかな、私ちゃんと働けるのかな、って悩んでいましたね。
そんなときに、たまたま高校の先輩からインターンのお誘いをもらったんです。それがPRやブランディングをしているベンチャー企業で、雑誌づくりもしていた会社。もしかしたら、ここだったら諦めていた「ものづくり」に関われるかも、と思ってインターンに参加することにしたんです。
―― ものづくりへの想いが捨てきれてなかったんですね。実際に、ものづくりに関わることはできたんですか?
笹沼:少しずつですけどね。雑誌の一ページ・一企画を任せてもらったり、Webメディアでの記事執筆をしたり。楽しかったです。編集者さんやデザイナーさん、カメラマンさんとか、私が仕事をしたいと思っていた人たちと一緒に過ごせていたので。
ここにいたら、小さい頃に思い描いていた形とは違うけど、「ものづくり」ができるんじゃないかと思って、そのまま新卒で入社しました。
「できることがそれしかなかった」からフリーライターに
―― インターンから新卒として入社して、いかがでしたか?
笹沼:もちろん楽しかったですよ。憧れていた業界で仕事できている実感もありましたし。でも、次第に忙しくなってきてしまったんです。当時は、心の余裕をなくしていた気がしますね。
しかも、そのタイミングでお仕事の内容も少し変わってきて。制作寄りの仕事以外にも、やることが増えてきたんです。それでも頑張らなきゃと思っていましたけど、限界を迎えてしまって。結局、2ヶ月ほどお休みをもらうことになってしまいました。
―― 違和感が大きくなってしまったんですね……。
笹沼:そうですね。2ヶ月間は本当に何もせず過ごして考え続けていたんですけど、やっぱりこのまま続けるのはしんどそうだな、と。そこで退職することを決めました。ただ、書く仕事に出会うきっかけをくれたり、制作の仕事に携わる経験をさせてくれた前の会社には、本当に感謝しています。
―― 次の仕事は決まっていたんですか?
笹沼:それが、決まっていなくてですね……。どうしようかな、と悩んでいたとき、ずっとお世話になっていたライターの先輩から「せっかくできることがあるんだから、フリーでライターやればいいじゃん!」って言われたんです。
―― おお。
笹沼:最初は「私なんて……」と思っていましたけど、他にできることがないと思っていたのも事実で。少しずつ書くことに興味を持ち始めていたところだったので、それならやってみようかと。そのとき背中を押してくれた先輩のことは、ずっと師匠として慕っています。
―― それでフリーランスになったんですね。
笹沼:大それた想いなんてのは全くなく、「自分ができることをやろう」から始まったフリーランスという選択でした。
コロナによる不安。そして、尊敬している人からの誘い。
―― フリーになって、順調でしたか?
笹沼:ありがたいことに、仕事に困ることはありませんでした。フリーになってからも、いろんな現場に連れて行ってくれた師匠のおかげです。
でも、2020年になってコロナの拡大があって……。幸いにも、私の場合はそこまで大きな影響は受けなかったのですが、このままフリーでやっていて大丈夫なのかな、と悩み始めるようになりました。
―― フリーランスは安定しているとは言えないですもんね。
笹沼:でも、そうやって悩み始めたタイミングで、スカイベイビーズに誘われたんです。
―― スカイとはどうやって出会ったんです?
笹沼:フリーで仕事していたときから、代表の安井さんにはお世話になっていました。安井さんとのお仕事は、とても気持ちよく現場が回ることもあって、ずっと尊敬していたんです。クライアントと発注先の関係だったのに、対等に接してくれたり、意見を聞いてくれるのもうれしくて。そんな方から正社員としてのお誘いをもらったので、即決でしたね。
―― 迷いはなかったんですか?
笹沼:誘われたときに「フリーの仕事はそのままで大丈夫やから」って言われたんですよ。「会社に片足突っ込んでみない?」って誘われたことを覚えています。
フリーの仕事も続けられて、尊敬する人のもとで働ける。そんな環境はないなと思ったので、迷わなかったですね。
―― フリーから正社員になって、戸惑いはありませんでしたか?
笹沼:まったくなかったです。むしろ、安心感があります。
―― 安心感?
笹沼:フリーのときって、身内がいない感覚があったんですよ。どんな仕事をしても、相手はお客さんですし。どこかで壁を作ってしまったり、本音で話せなかったり。
でも、スカイに入ったことで、仲間と呼べる人たちができた気がしたんです。ちゃんと心から関われる人が。それで心が楽になりましたね。
私の言葉で書く意味があると気付いたんです
―― ベンチャー企業からフリーランス、そしてスカイと、いろんな環境で「書く」に携わってきていると思います。笹沼さんが「書く」を続けている理由はなんなのでしょう?
笹沼:うーん……。少なくとも、楽しいから、ではないんですよね。むしろ書くことは怖いと思っているので。
―― 怖い、ですか?
笹沼:どんな人でも、その人だけの考えや物語を持っているじゃないですか。ライターって、それを聞いて自分の言葉で表現しないといけない。それが怖いんです。「私なんかが書いて良いのかな」って。
―― その怖さがありつつも、書き続けているのはなぜなのでしょう?
笹沼:怖くても、私が書く理由があると感じたことが大きいです。結構最近のことなんですけどね。そう思えたのは、モデルでフィットネスインストラクターをしている方のインタビュー記事を書いたときでした。
https://media.alpen-group.jp/media/detail/running_20930_01.html
それまでは「私なんかが、インタビューで感じたことを表現することは、おこがましいことだ」って思っていたんです。個人的な視点とか考え、印象で相手のことを表現して良いのかな、って迷いがありました。
でも、この記事では私が「この人素敵だな」と思って、素直に自分の言葉で書いたところをとても喜んでもらえて。
―― 私の言葉で書いても良いんだ、と思えたんですね。
笹沼:先ほどもお話にあがったライターの師匠から「取材記事はラブレターのようなもの」と言われたことがあったんです。その感覚が少し分かった気がしました。
むしろ私の言葉で書くことに意味があるんだ、私が感じたこと、思ったことを書き出すことこそが、私が書く意味なんだなって。だから、怖さはあるけど書き続けているんだと思います。
保健室の先生のような存在になりたい
―― これからも「書く」を続けていくと思いますが、どんなライターでいたいですか?
笹沼:取材相手の方の、自分でも気付いていなかったような側面を引き出せるライターでいたいですね。「あ、私ってこんなこと考えていたんだ」とか「私の個性ってこれかもしれない」とか。相手の方が新しい気付きを得るような取材をしたいです。
そのためにも、全肯定の姿勢は大切にしていますね。
―― 相手の意見を何でも受け入れる、ってことですか?
笹沼:「受け入れる」とは少し違うかもしれません。「受け止める」って感じですかね。私と違う考えでも良いんです。どんな意見を持つかは、人それぞれだと思いますし。でも、その意見を否定せずにはいたいなって。
否定から入る人、苦手なんですよ(笑)。考えが違うにしても、「あなたはそう考えるんだね」って一回受け止めて欲しい。
―― なるほど、受け入れるんじゃなくて受け止める。
笹沼:個性を尊重してほしいし、尊重したいんだと思います。そして、きっとその先でなら「何を言ってもこの人なら受け止めてくれる」って存在になれるかなと。
―― 何でも話せると思ってもらえるからこそ、深い話もできますもんね。
笹沼:そうですね。ふと思いましたけど、私は保健室の先生みたいな存在になりたいのかもしれません。
頼れる存在として、何でも受け止めてくれる感じ。この人になら、自分の柔らかいところも話してみようかなって思える存在。そんな人になりたいなぁ。
―― 保健室の先生って表現、しっくりきます!
笹沼:書くのが怖いのは変わらずですけど、これからも全肯定の姿勢で続けていきたいですね。
(取材・文:安久都智史)