こんにちは!AndroidエンジニアのYukiです!
今回は、オライリー社の インターフェイスデザインの心理学 第二版 を読了したので、興味深いと感じた箇所を抜粋し、記事にまとめようと思います。
なぜエンジニアがデザインの勉強を?
弊社では、プロダクトの開発スタイルが変わり、エンジニアも「仕様およびデザインの議論」に加わるようになりました。
これにより、エンジニアは、「ソフトウェアを開発するスキル」だけでなく、「ユーザのニーズを汲み取る力」「そのニーズを満たすアイデアを創出する力」が必要になってきました。
時には、「3ヶ月未満の解約率を減らしたい」という難解なイシューもあり、そのイシューに対するアイデアを発信していく必要があります。
しかし、アイデアを発信する際、デザインに関する土台がなく、説得力を帯びないアイデアも発信してしまいかねません。
もちろん、これ自体は「悪」ではありません!(プログリットの社員は、どんなアイデアに対しても、寛大に受け止めてくれます!)
ただ、アイデアを発信するなら、みんなに「いいアイデアですね!」と納得してもらえるようなアイデアを発信したい、と思うようになり、本書を読んでみました。
インターフェイスデザインの心理学 第2版
この書籍では、「研究成果」「筆者の長年の経験」を元に、デザインを作成していく上で役立つ事柄を紹介されておりました。今回は、以下の章にフォーカスを当て、内容をまとめます。
- 人はどう読むのか?
- 人はどう考えるのか?
- 人はどうすればやる気になるのか?
人はどう読むのか?
人がどう考えるのか?を理解することは、利用しやすいシステムをデザインする上で、非常に重要です。
目に錯覚があるように、思考にも錯覚があります。この章では、脳が行う興味深い処理について話していきます。
情報は少ないほどきちんと処理される
脳が一度に「意識的に」処理できる情報はわずかしかありません。
1秒あたりに処理できる情報の数は400億と推測されていますが、脳によって意識的に処理されるのは40だけ、と言われています。
ここで、デザイン制作において犯しがちな失敗は、一度に大量の情報を与えてしまうことです。(←デザイン制作をしたことがないので、実際のところは分かりません。)
段階的開示
段階的開示とは、人がその時点で必要としている情報だけを提供することを言います。
一度に少しずつ情報を提供することで、情報の多さでユーザが圧倒されてしまう事態を避けることができます。
重要なのはクリックの回数ではない
段階的開示を行うと、利用者は何度もクリックする必要が生じます。
ここで、3クリックルール というものを聞いたことがあるでしょうか?(ジェフリー・ゼルドマン氏。著書 『Taking Your Talent to the Web 』で「すべての情報は3クリック以内で閲覧できるようにすべきだ」と語ったのが、3クリックルールのはじまり、だそうです。)
しかし、これには何の根拠もないそうで、クリックの回数は重要ではありません。
クリックの度に適度な情報を得ながら先へ進めるのであれば、クリックしていることは意識しません。
クリック数を増やすべきか?それともクリック数を減らすために、ユーザに考えさせるのか?で迷ったら、クリックを増やす方を優先しましょう。
心的な処理には難しいものと優しいものがある
人に対する負荷として、大きく3種類あるとされています。
- 認知:考えたり思い出したりする
- 視覚:画面上のものを見る
- 運動:ボタンをクリックするために、マウスを動かして、マウスボタンを押す
オンラインバンキングで送金をする場面を例にとります。
何の代金をいつまでに送金しなければならないかを考え(=認知)、残高を確認し(=視覚)、ボタンをクリックして(運動)、振込処理を行います。
既存のプロダクトやWEBサイトに対して、上記3つの負荷を減らせる箇所がないかを検討しましょう。
負荷には差がある
それぞれの負荷(認知、視覚、運動)に対して、消耗されるエネルギーは一定ではありません。
一般的に、認知 → 視覚 → 運動、の順で負荷が高いと言われています。
なので、デザインをする際、常にトレードオフを考えなければなりません。
クリックを何回増やさなければならない(=運動)としても、ユーザを悩ませる(認知)必要がないなら、問題ないと考えても良いでしょう。
自身がない人ほど自分の考えを主張する
信念を曲げるか、情報を否定するか
認知的不協和とは、矛盾する2つの考えがあるときに生じる違和感のことです。
例えば、Github Copilot(=コードを自動で書いてくれるAI)に対して、「開発効率を上げてくれる」という考えと「コーディングスキルが落ちてしまうのでは」という考えがある、とします。これは、相反する考えが生じている状態、つまり認知的不協和、といいます。
この状態は、人間にとって快適とは言えないため、不協和を排除しようとします。排除するには、
の2通りの方法があります。
強制されれば人は信念を変える
ある実験で、被験者は「自分が信じていない考えを主張する」ように矯正されました。
例)Apple信者の人が「Android端末の方が、iPhoneより優秀である」と主張させる。
すると、最後には自分の信念を変えて、新しい考えを受け入れるようになったのです。
別の実験で、被験者にfMRIを使った検査が快適だった(←実際はありえない)という主張をさせました。
fMRIでの体験が快適だったと主張するように強制されると、脳の特定の領域(背足前帯状皮質、前頭前皮質)が反応しました。
これらの領域が活性化すればするほど、参加者は「fMRIが本当に快適だった」と一層強く主張するようになりました。
つまり、人は強制されれば、いとも簡単に、自分の信念を変えてしまうのです。
強制されなければ人は主張を貫く
「自分が信じていないことを信じている」と主張するのを強制されない場合はどうでしょうか?
もしくは、自分の考えに反する情報を突きつけられても、「新しい考えを支持する」ように、強制されないとしたらどうでしょうか?
こうした状況では、新しい情報にでくわしても、自分の信念を変えることをせずに、情報を否定する傾向があります。
つまり、人は強制されなければ、自身の主張を貫く傾向にあるのです。
自信がない場合に人は強く主張する
とある実験の結果から、自分に自信が持ててない時に、より人は強く主張する ということがわかったそうです。
ちょっとしたことから始めてもらう
とある製品のLPのデザインを任されたとします。皆さんの会社の製品を購入してもらうのが最終目標のページです。
この際、訪問者が購入する気が満々なのか、それともまだどうしようか決まっていないのかが、分かりません。(つまり、その製品に対して、必要かどうかの自信がない人もいます。)
ベストな戦略は、いきなり大変なこと、大きなことをやってもらうのではなく、ちょっとしたことから始めてもらよう頼んでみることです。「無料体験」が効果的なものも同じ理由です。
自分の信念に合わない情報は排除してしまう傾向がある
「あなたの考えは理にかなっていない」といくら証拠を並べても、長年信じてきた考えを変えようとしない人がいます。
例)ChatGPTに対して、批判的な意見をもつ教育評論家
こうした行動の裏側には「確証バイアス」があるのでしょう。確証バイアスとは、認知的な思い込みの一種で、人には自分の意見や信念に合わない情報を篩にかけ、除外する傾向があります。
確証バイアスを排除するためにはどうしたらいいのでしょうか?
1つの方法として、新しい製品などを少しだけ使ってもらい、認知的不協和(=矛盾する2つの考えがあるときに生じる違和感の)を発生させるものがあります。
「音楽のストリーミングサービスの例」だと、短期間のフリートライアルを試してもらい、そのサービスを気に入ってもらえれれば「そのサービスは気に入った!でも音楽を聞く最高の方法は従来のストリーミングサービスだ」という信念にはマッチしません。相手の信念にヒビが入れば、確証バイアスを手放してくれる可能性が出てきます。
人はどう読むのか?
読むという行為が、情報伝達の主たる手段となっています。人は文章をどう読んでいるのか?についてお話します。
フォントについて
セリフとサンセリフについて
セリフとサンセリフについて、どちらが読みやすいのか?がよく議論されております。
長い文章の際は、セリフを使うと良い、という意見もありますが、実験の結果から、読み取りやすさ・読む速度・主観的な嗜好の観点でも、違いはなかったそうです。
読みにくいフォントで説明が書かれていると、難しいと思ってしまう
ある実験を紹介します。実施してもらいたい運動の手順が記載された説明文を被験者に読んでもらいました。
被験者は以下のように2つのグループに分けて実験を行います。
- グループ1:読みやすいフォント(以下画像の上の文章)で記載された文章を読んでもらう。
- グループ2:読みづらいフォント(以下画像の下の文章)で記載された文章を読んでもらう。
各被験者には、「記載されていた運動がどの程度の時間かかると思いますか?」と質問しました。
日本語訳:あごを胸まで引く。その後、顎をできるだけ高く上げる。これを6〜10回繰り返す。左耳を左肩の方へ下げて近づけ、その後右耳を右肩に近づける。それを6〜10回繰り返す。
グループ1は8分程度を要する大して難しくない運動だ、という回答を行いました。
一方、グループ2は15分を要する難しい運動だと回答しました。
つまり、フォントが読みにくいと、人はその難しさの感覚を文章の意味のほうに転嫁し、文章の内容が理解しにくいとか実行しにくいと判断してしまいます。
長い行の方が早く読めるが、一般には短い行の方が好まれる
1行に対する最適な文字数を調べた研究があります。
実験の結果、英文の場合だと、1行100文字程度の文章が、読む速さの点では最適だった一方、1行45〜72文字程度の文章の方が、「好まれる」ということが分かりました。
長い行の方が早く読めるのはなぜ?
まず、人間が文章をどう読んでいるかをお話します。
文章を読む作業は、皆さんが思っているより、滑らかなものではありません。短い時間の静止を挟んで、素早く、急なジャンプを繰り返しています。
行末に達するごとに、目の動きが中断されます。
短い行だと文章全体を読んでいく中で、この中断の発生回数が多くなるからです。
文章の内容や閲覧者によって、適切な行数を設定することが大切
長い行(1行100文字程度)の方が読みやすいが、短い行(1行45〜72文字程度)の文章の方が好まれる、というジレンマを抱えることになります。
では、適切な行数設定を行うにはどうしたらいいでしょうか?
例えば、医療関係者に今話題のウイルスに関する最新情報を伝えるページを制作する場合、閲覧者は記事を読みたくて訪問しているはずです。最新情報をできるだけ早く知ってもらう方が閲覧者としてもメリットが大きいので、速度を重視して、行を長くした方が良いと考えられます。
一方、プロダクトのLPを制作する場合、食いつきを良くする努力をした方がいいと考えられます。なので、カラム幅を短くして、行数を短くしたほうがいいでしょう。
つまり、文章の内容や閲覧者によって、適切な行数を設定することが大切です。
人はどうすればやる気になるのか?
英語学習サービスを提供している我々にとって、利用者の「やる気(=モチベーション)」を醸成することは非常に大切で、たびたび議論が行われております。笑
本章を通じて、利用者のやる気を醸成するための客観的データを紹介します。
目標に近づくほど「ヤル気」が出る
以下のコーヒーショップのポイントカードについて考えてみます。(ポイントを全て貯めたら、コーヒー一杯無料が無料になる特典です。)
- カードA:
- 欄が10個あり、最初にカードをもらった時にスタンプが1個も押されていない。
- カードB:
- 欄が12個あり、最初にカードをもらった時にスタンプが2個押されている。
カードA、カードBも、集めるべきポイントは10個と変わりません。
実験の結果、AのカードよりもBのカードを持っている人の方がスタンプを集めるのが早かったそうです。
これは、ゴールが近づくほどやる気が出る「目標勾配」と呼ばれる効果があるからです。
またスタンプ集めに参加していると、それを楽しむようになることも発見されました。
ポイントカードを持っている人は、持っていない人と比べて、笑顔を見せることが増え、従業員とのおしゃべりも長くなり、チップを置いていくことも多くなりました。
つまり、「目標勾配」という現象を利用することで、ユーザの「ヤル気」を創出できるかもしれません。
何が終わったかより何が残っているかに注目しがち
目標に向かって進む時、「既に完了したものに注目する」のと「到達までに残されているものに注目する」のとでは、どちらが強い動機づけになるかを調査した研究があります。
研究からは「到達までに残されているものに注目する」の方が「ヤル気」が出たそうです。
目標が達成されるとヤル気は急激に落ち込む
目標が達成されると購入金額は急激に落ちます。**これは報酬後初期化と呼ばれる現象です。**
報酬を獲得した直後が、顧客が離れていく危険性が最も高い時です。
なので、報酬を与えた後、追加の措置を施すことが大切だと言えます。
人は社会的な規範に影響される
電気の使用量節約について、以下5つのメッセージを用意しました。
1. 電気の使用量を減らすことは環境保護につながります
2. 電気の使用量を減らすと社会的責任を果たせます
3. 電気の使用量を減らすとお金が節約できます
4. 近所の人たちは皆電気の使用量を減らしています
5. あなたの電気使用量は XXX 円です
結果として、電気の資料量を減らしたのは、4番のメッセージを開いたグループのみでした。
つまり、人は他人の行動に大きく影響されます。ほとんどの人が周囲の人の行動や規範に従う傾向にあります。
習慣の形成や変更は思ったより簡単
意識するしないに関わらず、日々の行動の多くは習慣によって構成されています。
例)家を出る時、鍵は右ポケットに入れる / 朝起きたら歯を磨く / 家に帰ったら手を洗う
習慣化が難しいなら、こんなたくさんの習慣が身についてるはずがないのです。
習慣についてわかっている科学的な知見は以下の通りです。
- 何かの行為を習慣にしてもらいたいなら、するべき行為を簡単にできる小さなものにします。
- 実際の動作を含む行為は習慣に条件づけしやすいものです。スマホのボタンを押す、スワイプするといったちょっとした動きでも、習慣を形成するための動作には十分です。
- 聴覚刺激や視覚刺激に結びつけられた習慣は、形成と維持が容易です。(例. LINEの独特の通知音が聞こえれば、自然とメッセージを見てしまう。)
競争意欲はライバルが少ない時に増す
試験を受ける際、教室に何人いるかで成績に影響を与えるのでしょうか?
アメリカの大学試験にて、会場の受験者数が多かった地域と少なかった地域を比較検討した結果、受験者数が少なかった地域の方がスコアが高かったそうです。
ここから、「ライバルがあまりいない時に、(無意識的に)勝てる気になるために、より一層頑張るのではないか?」という仮説を研究者がたて、以下の実験を行いました。
被験者には、簡単なテストをできるだけ速く正確に解くように指示しました。上位20%に入れば5ドルをもらえる、と通告します。
その際、以下のように2つのグループに分けました。
- グループ1:自分以外に10人が参加していることを伝える。
- グループ2:自分以外に100人が参加していることを伝える。
結果、グループ1の方が問題を解くスピードが早かったそうです。ライバルが少ないため、グループ1の方がやる気が高かったと考えられます。
競争を組み込む
競争に関わる製品をデザインするときには注意をしたほうがいいです。ライバルが多い、と感じさせると、ヤル気を削いでしまう可能性があります。
最後に
本書を読み、UI/UX について、もっと深く理解したい、と感じました。今後も、UI/UXの勉強をしていき、プログリットのプロダクトのUI/UXをより洗練していけたらと思います。