事業にも「インフラ整備」が必要だ
うちの会社には「事業推進部」という、ちょっと変わった部署があります。
そこには、社内でもかなり特殊な人材が集まっています。
その人がいるかどうかで、数億円レベルで売上が変わる。そんな施策を考えられる人たちです。「あなたに1億円を渡すから、10億に増やしてね」みたいなミッションを、日々乗りこなせる人。
もちろん、本当にたったひとりで売上を生み出すわけではありません。彼らが考えた施策を、各事業部のメンバーたちが全力で取り組んでくれることで、はじめて大きなインパクトが出る。
みんなが全力で走れる「頑丈な道」を舗装するのが、彼らの仕事です。
こういった、事業における「インフラ整備」の役割は、とても重要なのにもかかわらず、まだあまり世の中に広まっていないと思います。いたとしても、営業マネジャーや社内の「何でも屋」が一手に引き受けていたりする。
それでなかなか手が回らず、現場のみんなが「道なき道」を進んでいたり、道路がボロボロのまま走っていることって、実は多いんですよね。
道をしっかり整備することで、組織全体で生み出せる利益は、とてつもなく大きくなります。
今回はそんな「事業推進部」の仕事について書いてみます。
自分で事業をつくってみたい人や、動かせる変数を広げたいと思っている人には、結構参考になるのではないかと思います。よかったら読んでみてください!
同じオペレーションを使い続けるとサチってくる
そもそもなぜ、事業推進のような部隊が必要なのか?
それは、ビジネスにおいて同じオペレーションをずっと使うことはできないからです。
僕らはいま、人材事業、SaaS、M&A仲介の3事業を展開しています。どれも市況の変化が激しい領域。しかも、3事業とも急成長しています。
そんな中で、ずっと同じように集客して、同じように営業して……とやっていると、だんだんサチってくる(飽和状態になる)んですよね。
事業を伸ばし続けるには、その都度、オペレーションを変化させていかなければなりません。
マーケットはたった1年で大きく変化します。その変化に合わせて、適切なオペレーションを毎回つくっていく。「一発屋」ではなく「企画を当て続ける」ことが求められるわけです。
これをマネジメントや経営に追われながら片手間でやっていたら、とてもじゃないけど精度を保てない。企画だけに集中特化した部隊が必要だーー。
事業が伸びていくなかでそんな気づきがあって、3年ほど前に「事業推進部」を立ち上げたのです。
架電数が「10倍」に
じゃあ具体的に、彼らはどんなことをしているのか?
最近インパクトが大きかったのが「架電数を10倍にした」施策です。具体数は伏せますが、一般的な営業の半月〜1ヶ月ぶんぐらいの架電量を、1日でかけられるようになりました。
どうやってそこまでの改善をしたのか?
実は事業推進のメンバーが「めちゃくちゃ架電しやすいシステム」を作ってくれたんです。
本来、架電をするのって、メンバーに結構な負荷やストレスがかかります。「リストを見て、電話番号を入力して、架電をして、シートを記載して……」と。
そこで、僕らはこのオペレーションを徹底的に効率化しました。
まず、電話番号をいちいち入力しなくても、ワンクリックで発信できるようにプログラムを組んでくれました。
そして、これまで手動でやっていたすべての工程に「ショートカットキー」を割り振ったんです。発信したあと「P」のキーを押すと、企業情報が書いてあるところまで、画面が自動でスクロールする。
これなら電話をかけるスピードが上がっても、すぐに話しはじめられます。
結果を記録する工程も短縮しました。担当不在なら「1」、次回商談が決まったら「2」のように、パターンごとにショートカットを割り振って、キーボードを押せば自動で保存されるようにしたんです。
ここまで仕組み化すると、もう「格ゲーのコマンド」ぐらいすばやく架電できるようになります。メンバーの負荷を、極限まで減らすことができるんです。
その結果、全体の架電数が大幅に伸び、最終的には改善前の10倍になったのです。
質も量も、すさまじく改善する
改善するのは「量」だけではありません。
企業さんへ送る営業メールがあるのですが、それを改善した際は、量だけでなく「質」まですごく伸びました。
限られた時間の中で、たくさんの営業メールを送ろうと思うと、どうしてもメールの文面がありきたりになってしまいます。1社1社をあまり丁寧に調べられないからです。
それだと当然、印象もよくないし、あまり誠実ではありません。
そこで、まずは「日本中のあらゆる企業の情報をまとめたデータベース」を社内でつくることから始めました。データベースには、それぞれの企業についてしっかり調べ、情報を記載していきます。
すると、1社1社に対して丁寧なメールを、すばやく作成できるようになりました。どの企業さんに対しても、きちんと詳しい情報を把握したうえで、アプローチできる。しかも、メールを送るたびに毎回情報を調べるよりもずっと早く。
作成したDMの送付は、ほとんどボタンひとつでできるように、オペレーションを整えました。こうすることで、営業担当が「企業理解」に使える時間が、すごく増えたんです。
量だけでなく、質も担保する。
この仕組みのおかげで、メールへの反響率は約4倍になりました。
量が10倍になり、質も4倍になった。この数字だけで、どれだけ凄まじいインパクトが出ているか、よくわかると思います。
ひとりで年間5億円のインパクト
事業推進部のとあるメンバーは、この1年間で、約5億円のインパクトを出しています。彼ひとりが企画した施策によって生まれた売上の総合計が、約5億円です。
なかでも特に効果が大きかったのが「人材紹介のアプローチの方法として、テキストメッセージを活用する」という施策です。
人材紹介のキャリアパートナーは、基本的には電話でお客さんにアプローチをして、転職活動を支援しています。
でも、なかには「電話で話すのは苦手だ」という方もいます。
そういう方々にも僕らの価値を知ってもらうために、電話ではなくテキストメッセージで、希望の求人をお見せすることにしたんです。そして「この求人が気になるようであれば、電話で詳細を説明させてください」とお伝えする。
電話の前のワンクッションとして、テキストを活用するわけです。
この施策ひとつで、数字でいうと約2億円の効果がありました。
「メッセージを送っただけで、そんなに変わるもの?」と思うかもしれません。
これには秘訣があって、やはり質が大事なんです。メッセージ送付自体は、他の会社さんでもよくやっています。でも、普通は、そこのフローを自動化していて、いろんな属性の求職者さんに対して、均一の情報を送っていることが多いんですよね。
僕らは、そこをあえて自動化していません。
1対1のテキストコミュニケーションにこだわっているんです。
そうすると、その人にピッタリ合った求人をお送りすることができます。均一な配信の情報ではなく「あなたのためだけの情報」を送ることで、その後の反響率がまったく違ってくる。「とにかく全てを自動化すればいい」というわけではないんですよね。
彼は他にも、過去に僕らの求人サイトに登録しているお客さんに対して、あらためて求人のご案内をする。メッセージで簡易的なLPをお送りする……など、細かい施策の積み重ねで、合計5億もの売上インパクトを出しているんです。
社内システムを見て改善の仮説を立てる
事業推進部のメンバーは、なぜ効果の高い施策を、的確に考えられるのか?
それは、常に現場のいちばん近くで仕事をしているからです。
5億円のインパクトを出したメンバーは、もともとキャリアアドバイザーとして現場で働いていました。だからこそ、自分が現場にいたときに不便だったところや、サボりがちだった部分まで、なんとなくわかっているんです。
キャリアアドバイザーは属人性が高い業務なので、どうしても人によって違いが生まれます。とくにハイプレイヤーは、独自のやり方を持っていることが多いんですよね。全体で使っている営業管理システムを使わずに、自分用のグーグルドキュメントに落とし込んでいたりする。
個人で成果を上げるぶんにはいいのですが、それだと情報やノウハウが全体にシェアされないという問題があります。
現場のことがわかっているからこそ、このような「自分だったらこうだな」「こうなりがちだよな」という仮説を立てられる。そのうえで、数百件もの社内データやヒアリングシートなどを見て、改善点を1つ1つ見つけていく。
で、仮説が確証に近くなったら、現場のメンバーにヒアリングします。
「なぜここのメモを入力していないのか?」「なぜこのリストにはアプローチできていないのか?」「今のやり方はどのへんが面倒くさいのか?」
そんなふうにしっかり実情を把握したうえで、システムを改善していくんです。
個人の数字を伸ばせる人ほど、全体を動かしたくなる
業務ツールを見て、一次情報を取りにいく。それを踏まえて「自分だったらこうするな」という仮説を立てる。現場にヒアリングしながら、最小工数で課題を解消する。
この3つのアクションをきれいにできる人は、かなり貴重です。
ただ、生まれつき「天才的な発想力」がないと無理か? というと、そういうわけでもないと思います。なぜなら、こういう動きって、現場で成果を出せば出すほど、自然とやりたくなってくると思うからです。
現場で高いパフォーマンスを出せるようになると、多くの人は気づき始めます。
「これ以上数字を伸ばすには、自分ひとりでやっててもしょうがないな」
「他部署との連携とか、全体のオペレーションを改善しないとダメだな……」と。
そうなると、プレイヤーとして個人の数字だけを追っているのが、だんだんもどかしくなってくるはずです。「もっと大きな部分を動かしたいのに……」と思い始める。
そういう経験がある人は、事業推進にとても向いていると思います。
大きな権限と責任をもつ「戦略遂行のプロ」
彼らのような「戦略遂行に特化したチーム」は、最近話題になっている「BizOps」や「Chief of Staff」といったポジションに近いのかもしれません。
ただ、こういったポジションがうまく機能するには、条件があります。
それは、部署を横断して動くことができるポジションに、しっかりチームを置くことです。
よくありがちなのが、業務改善に特化したチームはあるけれど「営業部のなかの1チーム」みたいな感じで、小さな権限しかない……というパターンです。
営業、マーケ、CS、というふうに部署が分かれていて、それぞれ別々にオペレーションがあって、改善をしている。他の部署のことは、各責任者と調整しないとなかなか動かせない。なんなら、横断して動こうとすると「勝手なことをするな」と怒られてしまう。
そういう環境下だと、数億のインパクトを出すような動きは難しいでしょう。
本当に改善すべきポイントは、他部署との結節点にあることも多いです。だからこそ「部署の壁を気にせずに動ける」ようにチームを設計する必要があります。
事業推進をやる人が、責任者や役員と同じレベルで、越境的に動ける。
そういう組織構造になっていることが、かなり重要だと思います。
大局的に優先順位をつける
彼らを見ていると思うのは「今やるべきこと」の優先順位をつけるのがものすごく上手いということです。
どの部分を改善すれば、いちばんインパクトが大きくなるのか。
いちばん成果が上がるのか。
それを、個人ではなく事業全体という規模感で考えて、実行できています。
架電数を10倍にする施策なんて特にそうです。個人レベルだと、ふつうは「量をこなすのには、どう頑張っても限界がある」と考えます。だから「メールや商談の質を高めて、受注率を上げよう」とする。
しかし、事業によっては逆に「率を上げる」ことの伸びしろのほうが少ないこともあります。むしろ「量」のほうに、革命が起きる可能性が残されている。
そこに気づいて実践できるのが、彼らの凄まじいところだなと思います。
エクセルを触っても売上は上がらない
企画職の仕事は「分析」でも「ダッシュボード作成」でもありません。
最優先すべきは「これをやったら、お客さんにより価値が届く」ようなこと。つまり、売上になったり、価値が上がる施策です。
あたりまえのようですが、これを真に理解している人は、実は少ないです。
ありがちなのが、現場で運用できないような細かすぎるダッシュボードを、何時間もかけて作ったり。「分析のため」といってシートの入力項目を増やし、かえって現場の仕事が増えてしまったり……みたいなこと。
分析をしたり表を作ったりするのって、一見「それっぽい」し、やろうと思えばいくらでもできます。でも、大変なわりに、事業へのインパクトは薄いんです。
「それっぽい仕事」に逃げずに「既存の数字を10倍、100倍にする方法」を考え続ける。1次情報を集め、的確に実行する。これがいちばん大切だと思います。
とにかくぶっ飛ばして、後で綺麗にする
あと、注意したいのは「ただ社内的に綺麗にしたい」みたいな施策です。
「エクセルの文字や番号をきれいに整えたい」のような「現場からの要望にただ答えているだけ」の動きをしていても、あまり価値は出せません。
もちろん、綺麗にすることに意味があるフェーズならいいんです。でも、成長フェーズでそれをやっていると、ちょっとまずい。特にスタートアップだと、先に仕組みを整えすぎて、かえって現場が動きづらくなってしまうことも多いです。
綺麗にしくみを作ってから動きだすよりも、とにかく限界まで走って後から整えたほうが、最終的な成果は大きくなります。
とにかくぶっ飛ばして、後で綺麗にする。このメリハリが大事なんです。
「通行止め」にしてはいけない
冒頭で、事業推進部の仕事は「道路を整備すること」だといいました。
とくに僕らのようなベンチャーの場合、大切なのは、道をつくる場所が「未開のジャングル」であるということです。
市場も組織も、まだ開拓できていない。
もちろん道路を綺麗にするのも大事ですが、そういう環境では、まず「道を切り開く」ほうが先です。いちいち通行止めにして、舗装を綺麗にすることばっかりやっていたらダメなんです。
一旦、汚くても枝が刺さってもいいから、ジャングルを走り抜ける。獣道、つまり「最初の商流」を見つける。そうしたら、まずは一気にブワーッとレンガを置いて、みんなでそこを走り抜ける。
そのあとで、道をどんどん太くしたり、綺麗に舗装していくのがいいんじゃないかなと思っています。
想定外のほうがおもしろい
僕は「おもしろい人」が好きです。
おもしろい人ってどんな人かというと「自分の想像の範疇を超えてくる人」だと思います。
事業推進部のメンバーたちは、正直に言って僕より数段優秀な人ばかりです。社内システムのデータを数百件見るだけで的確な仮説を立てたり、架電数を10倍にしたり……。
そんなことは僕にはできません。「こういうことやろうと思うんです」と共有を受けたときは「本当にそんなことできる!?」と思いました。
で、本当にやってしまった。
自分の予想や計画をぶち壊して、新しい発見をもたらしてくれる。
そういう人たちと一緒に働けるのは、ものすごくワクワクします。最高です。僕は正直、そのワクワク感のために起業したようなものなんです。
だからこそ「想定外の上振れ」がたくさん起きる会社であり続けたい。
そのためにも、やっぱりメンバーを信じて、大きな権限を渡すことにはこだわっています。
全体として、あまり統制をかけ過ぎない。もちろん、下振れすることもたまにはあるんですが、それでも管理しすぎることはしたくないんです。
「目指したい大きなゴール」と「いちばん手前の状況」だけはすり合わせて、あとはどう走り抜けてもいい。優秀でおもしろい人が、みんなそのままのおもしろさで、それぞれの流派で拡大していく。
そういう環境を居心地よく感じてくれる人が、うちに集まってくれたらいいと思っています。