「大手企業にいると、AIすら自由に触らせてもらえない。いまこのタイミングでAIという巨大な潮流に飛び込めるかどうかで、これからの人生の全貌が決まるんです」
前を見つめる眼差しには、一切の迷いがない。そう語り切り、引き締まった表情の中に情熱的な笑みを浮かべるのは、株式会社Oh my teeth(以下、Oh my teeth)でCS・新規事業チームのマネージャーを務める中俣直樹(なかまた・なおき)さんだ。
父も母も五大総合商社出身という「商社サラブレッド」の家庭に生まれ、幼少期から韓国・インド・タイの3カ国で計11年を過ごした帰国子女。大学卒業後に大手専門商社・株式会社山善(以下、山善)へ入社すると、数千万円〜数億円規模の大型工作機械の営業として毎年約10億円(累計約100億円)の売上を叩き出し、同商品を扱う全国の営業マンの中で粗利率社内1位を記録し続けた若きエースである。
順風満帆に見える大企業での確固たるキャリアと実績を手放し、わずか1週間でOh my teethへの参画を決意した背景とは。
その裏にあるのは、8歳で体験したインドでの強烈なカルチャーショックと、そこから芽生えた深い感謝の心。そして、「自分と関わるすべての人に、想定外の驚きと感動を届けたい」という揺るぎない開拓者精神(フロンティア・スピリット)だ。
【プロフィール】
中俣 直樹/株式会社Oh my teeth CS・新規事業チーム マネージャー
東京都目黒区出身。父・母ともに5大総合商社出身という商社ファミリーに育ち、幼少期から韓国・インド・タイの3カ国で計11年間過ごす。国際基督教大学高等学校(ICU高校)卒業後に大学へ進学し、大手専門商社・株式会社山善に入社。大型工作機械の営業として毎年約10億円(累計約100億円)を売り上げ、同商品を扱う営業マンの中で粗利率1位を記録。リスクの高いロボットシステム事業を開拓した後、わずか1週間でOh my teethへ入社。CS・新規事業チームのマネージャーとして現場統括および事業基盤構築を牽引する。
8歳で叩き込まれた強烈なカルチャーショック。原体験が教えた圧倒的な感謝と「人と繋がる歓び」
── 幼少期は海外で過ごされたそうですが、ご自身の原点はどこにあるのでしょうか?
中俣さん: 父の仕事の都合で、1歳から韓国、小学2年からインド、小学4年から中学3年までタイと、海外で計11年過ごしました。国や言語、文化が目まぐるしく変わる環境下で育ったことが、今の自分の思考基盤になっています。
最初の大きな転機は、幼稚園から小学1年にかけて日本へ一時帰国していた1年間です。それまでの韓国生活では言葉の壁があり、周囲とどこか距離を感じるもどかしさがありました。しかし、日本で言葉が自由に通り、身振り手振りではなく『心』で思いを分かち合えた。「自分の言葉で相手と理解し合える」という、人と繋がる圧倒的な歓びを知ったのがこの時期です。
ですが、その温かい体験の直後に突きつけられたのが、わずか8歳で渡ったインドでの苛烈な現実でした。
日本の常識なんて、何ひとつ通用しない。 突然停電になれば、家の中は一瞬で真っ暗闇になり、裏手にある巨大なガソリン発電機を幼い自分たちの手で動かしに行く。車で信号待ちをしていると、自分と同い年くらいの痩せた子供たちが窓ガラスをポンポンと叩き、切実な目で物乞いをしてくる。
当時の自分にはあまりに強烈な恐怖と衝撃でした。「自分が置かれている環境は決して当たり前じゃない。今生きていること、目の前にある食べ物や屋根のある暮らし、そのすべてに感謝しなければならない」と、骨の髄まで叩き込まれました。
言葉が通り、心を通わせる歓びを知った日本での記憶。そして、日常の前提が一瞬で崩れ去ったインドでの圧倒的な『想定外』の連続。さらに幼少期には、父の繋がりでサッカー日本代表監督など世界のプロフェッショナルの方々と接し、自分の想像枠を遥かに超える世界に触れる機会もありました。
自分の固定観念や想定枠を粉々に打ち砕かれる強烈な体験があったからこそ、人間として大きく成長できました。他者に対する深い感謝と謙虚さが根底に生まれ、同時に「自分と関わる人にも、想像以上の体験や感動を届けたい」という揺るぎない軸が形作られたんです。「人が悲しむ顔は見たくない。絶対に驚かせ、喜ばせる」。これが、今の自分のすべての行動基準になっています。
周囲の反対を押し切り「ロボットシステム」を開拓。累計100億・粗利率1位の実績
── 1社目の山善(専門商社)では、圧倒的な成果を残されましたね。
中俣さん: どうせビジネスをやるなら、慣れ親しんだ東京ではなく自分を一番厳しい環境に置きたいと思い、自ら志願して大阪本社へ乗り込みました。
担当したのは数千万円〜数億円規模の大型工作機械です。若手でありながら、競合ひしめく現場で顧客の懐に入り込み、高い金額である理由を論理と熱量で説明し切る。そして「中俣に任せれば絶対にプロジェクトをやり切ってくれる」という圧倒的な安心感を提供し続けた結果、毎年約10億円(累計約100億円)を売り上げ、同じ商品を扱う全国の部署の中で粗利率1位を維持し続けることができました。
── 当時はまだ社内で誰も手をつけていなかった、リスクの高い新規領域にも挑戦されたと伺いました。
中俣さん: 商社で「粗利が多い」と聞くと「ぼったくり」をイメージする方も多いのではと思いますが、決してそうではないと言うことは先にお伝えしたいです。入社数年目の頃、従来の工作機械単体の市場はすでにレッドオーシャンで、完全に競合とのパイの奪い合いでした。「これからは単体販売ではなく、ロボットを組み合わせた自動化システム(ロボットシステム)を提案・開拓するべきだ」と社内で声を上げたんです。しかし、当時の上司や周囲からは「前例がない」「トラブルが起きたときのリスクが高すぎる」と猛反対を受けました。
ですが、諦める気はさらさらありませんでした。誰もやっていないリスクのある領域だからこそ挑戦する価値があるし、一度決めた自分の選択を他人の反対で引っ込めたくなかった。「自分が最初の一人になって、成果で正解にすればいい」と。
全社視点で見ても、ここでロボットシステムの成功パターンを確立できれば、他社が安易に真似できない自社ならではの強力な差別化要素になる。個人としても会社としても、リスクを取って勝負するべきだという確信がありました。
だからこそ、メーカーの設計段階から深く潜り込んで技術者と一緒に仕様を練り上げ、施工や納入現場にも連日自ら立ち会いました。現場で発生する想定外のトラブルや課題を、ひとつひとつ自分の手で泥泥になって潰していったんです。自分が全責任を背負って現場で体を張り続けたことで、周囲や顧客の意識が変わり、信頼を得て、最終的に案件を成功させることができました。
数年後には業界全体がロボット導入へ一気にシフトしていきました。「自分が決めた選択を、泥臭い成果で正解にする」という、開拓者としての手触りのある確信を得た瞬間でした。
未開拓の領域へ。「次どこを開拓するべきか」を追い求めた末の決断
── 転職活動すらしていなかった状態から、なぜOh my teethへの参画を決めたのですか?
中俣さん: 山善で大型案件を回し、実績を残し切った後、自分の中で常に問い続けていたのは「ビジネスパーソンとして、次どこを開拓するべきなのか?」ということでした。自分が最も真価を発揮できるのは、すでに出来上がったマーケットではなく、まだ誰も手をつけられていないアウェイな未開拓領域。
自分の熱量で人を動かし、泥沼のような現場を泥臭く切り拓いていく。そのプロセスでしか味わえない強烈な達成感や歓び、あの『成功体験』に自分は完全に中毒になっているんです。
だからこそ、組織が大きくなるにつれて安全策を取り、守り(おき)に入っていくような環境ではなく、自ら先頭に立って現場を泥臭く牽引できるアウェイな環境を探していました。
実は、代表の西野さんから最初に話を聞いた段階では、歯科矯正という領域と自分のキャリアがどう繋がるのか、まだピンと来ていませんでした。
ですが、対話を重ね、ストアを訪ねた瞬間に視界が一気に開けたんです。
驚いたのは、AIをはじめとする先進的なテクノロジーでスマートな体験を提供している裏で、COOの大地さんが当たり前のようにストアを掃除し、泥臭い現場の雑務まで徹底的にやり切っている姿でした。「AIで現場を進化させながら、泥臭く泥沼を切り拓く」という圧倒的な開拓者精神がそこにはありました。
「自分が山善で叩き込んできた『開拓精神』に、Oh my teethの『AIによる進化』を掛け合わせたらどうなるか。これまでのやり方では届かなかった圧倒的なスピードとスケールで、新しい市場を切り拓けるんじゃないか」
そう直感した瞬間に、「ここが、自分が次に開拓するべき場所だ」と確信に変わりました。そこからは一切迷わず、わずか1週間で大企業を辞める決断をしたんです。
AI時代だからこそ、人の力がより重要になる。テクノロジーと泥臭さで創る「新しいスタンダード」
── 参画後、CSや新規事業のマネージャーとしてどのような挑戦を重ねているのですか?
中俣さん: 入社して任されたのは、CS(カスタマーサクセス)組織の牽引、そして新たな成長軸となる新規事業の立ち上げです。
私たちが目指しているのは、単にAIで人間を代替して効率化することではありません。「AIによって人の力を極限まで引き出し、これまでの業界のあり方を覆す新しいスタンダード(当たり前)を創ること」です。
世間では「AIが人の仕事を奪う」と言われることもありますが、私はまったく逆だと思っています。AIが進化すればするほど、むしろ人間の持つ熱量や泥臭い現場力、感情に訴えかける対応の価値が圧倒的に高まっていく。AIは人間を不要にするものではなく、人の可能性を拡張し、人間だからこその価値を研ぎ澄ませるための武器なんです。
── 「AIによって人の力がより重要になる」とは、現場でどう体現されているのでしょうか?
中俣さん: データ処理やオペレーションの自動化をAIに委ねるからこそ、人間は「人にしかできない泥臭い顧客体験」や「現場の人間くさい課題解決」に全パワーを注ぎ込めるようになります。
仕組みがスマートになればなるほど、現場で問われるのは「どれだけ魂を込めてユーザーと向き合えるか」「どれだけ泥臭く現場を動かせるか」という、究極の人間力です。
自分が山善で叩き込んできた「熱量で人を動かし、泥臭く現場を切り拓く力」も、AIという強力な武器があるからこそ、これまでにないスピードとスケールで発揮できる。AI時代の今だからこそ、人の力が最大の差別化になる──この実感を胸に、毎日最高に刺激的な挑戦を続けています。
編集後記(Editorial Note)
「スマートなAIスタートアップ」というイメージの裏側で、誰よりも泥臭く現場の清掃やオペレーションに汗を流す経営陣。そして、その熱量に共鳴し、大企業での安泰を捨てるように1週間で飛び込んできた中俣氏。
AIがどれほど進化しようとも、最後に市場を切り拓き、人の心を動かすのは人間の泥臭い情熱と現場力だ。テクノロジーを武器に人間性を研ぎ澄ますOh my teethのフロンティア精神は、中俣氏という強烈な開拓者を得て、さらに加速していく。