看護師が、やさしい気持ちのまま働き続けられる医療業界をつくりたい
株式会社ナースイズ 代表取締役
藤本 真帆
看護師として医療現場に立ち、その後、SNSマーケティング、訪問看護の経営などを経験してきた株式会社ナースイズ代表・藤本真帆。
現場と経営、両方の立場から医療業界を見たからこそ気づいたのは、看護師個人の努力だけでは変えられない「業界の構造」でした。
「看護は好き。でも、この働き方をずっと続けるのだろうか」
「もっと看護師が報われる業界にできないだろうか」
「現場ではなく、別の方法で医療を良くする仕事もしてみたい」
そんな思いを持つ看護師に向けて、藤本がNurse isを立ち上げた理由と、これからつくりたい医療業界について聞きました。
「こんなに責任が重い仕事なのに」と、看護師時代に感じた違和感
インタビュアー:
藤本さんが医療業界を変えたいと思うようになった原点は、どこにあるのでしょうか。
藤本:
一番の原点は、自分自身が看護師として働いていたときに感じていた違和感です。術後の患者さんのケアや化学療法への対応など、命に関わる責任の大きな仕事をしていました。もちろん看護という仕事にはやりがいがありましたし、「誰かの役に立ちたい」と思って看護師になったので、患者さんのために働くこと自体は好きでした。
一方で、忙しさや責任の重さに対して、「この働き方は本当に適正なんだろうか」「なぜこれだけ専門性と責任が求められる仕事なのに、待遇にはなかなか反映されないんだろう」と疑問を感じることもありました。周りを見ても、同じような感覚を持っている看護師は少なくありませんでした。でも当時の私は、その原因を「病院がもっと給与を上げればいいのに」と、比較的シンプルに考えていたんです。
経営側に立って初めて、「病院にも簡単には変えられない事情がある」と知った
インタビュアー:
その考えが変わったきっかけは何だったのでしょうか。
藤本:
その後、自分が経営側に立ったことです。訪問看護の経営を経験して、採用する側になってみると、現場にいた頃には見えていなかったものが一気に見えるようになりました。
特に驚いたのが、人材を一人採用するために非常に大きなコストがかかることでした。
看護師は、出産や育児、介護などさまざまなライフイベントによって現場を離れることもあります。人材が不足すれば、医療機関はまた採用しなければならない。そのたびに採用コストが発生します。
しかも医療機関は、一般企業のように自由に価格を設定して、売上や利益をどんどん伸ばせるビジネスではありません。診療報酬制度の中で経営しています。
そこで初めて、「看護師の給与を上げれば解決する」という単純な話ではないと気づきました。
看護師も苦しい。
病院も苦しい。
つまり、どちらかが悪いのではなく、仕組みそのものに改善の余地があるのではないかと思ったんです。
誰かを責めるのではなく、「構造」を変えたかった
インタビュアー:
それがNurse isの構想につながったのでしょうか。
藤本:
はい。私は、医療従事者の待遇を良くしたいからといって、医療機関だけに負担を求めても持続しないと思っています。反対に、病院経営を守るために看護師が我慢し続けるのも違います。だから、「看護師か、病院か」という二者択一ではなく、両方にとってメリットのある仕組みをつくる必要があると考えました。
そこで生まれたのが、看護師特化の単発バイトアプリ「Nurse is」です。
看護師は、自分のライフスタイルに合わせて1日から柔軟に働ける。医療機関は、人材が必要なタイミングで必要な分だけ採用できる。まずは、働きたい人と人手が必要な医療機関が、もっと低コストで、もっとスムーズにつながれる状態をつくる。採用にかかっていたコストや手間を減らして医療機関に余力が生まれれば、最終的には医療従事者への還元にもつながっていく。そこまで実現したいと思っています。
看護師には「もっと自分で働き方を選べる」と知ってほしい
インタビュアー:
看護師側の働き方については、どのように変えていきたいですか。
藤本:
私は、看護師がもっと「選べる側」になっていいと思っています。
常勤か非常勤か。
病棟かクリニックか。
今の職場を続けるか辞めるか。
そういう大きな二択だけではなくて、「今月は少し多く働こう」「子育て中だからこの時間だけ働こう」「知らない領域を一度経験してみよう」と、もっと細かく働き方を選択できてもいい。
看護師免許は、本来とても価値のある資格です。それなのに、一度現場を離れると戻るハードルが高かったり、自分に合う職場を知らないまま働き続けたり、環境が合わなくて看護そのものを嫌いになってしまったりする人もいます。それは、すごくもったいないと思っています。
働き方の選択肢と情報を増やして、看護師自身が「自分はどう働きたいのか」を決められる状態をつくりたいです。
「誰かの役に立ちたい」と思って看護師になった人が、その気持ちを失ってしまう
インタビュアー:
藤本さんが特に変えたいと思っていることはありますか。
藤本:
看護師を目指す人って、もともとやさしい人が多いと思うんです。もちろん理由は人それぞれですが、「誰かの役に立ちたい」「人を助ける仕事がしたい」という気持ちを持って看護の世界に入ってきた人も多い。私の周りにも、そういう人がたくさんいました。
でも、忙しすぎたり、人手が足りなかったり、心にも時間にも余裕がなかったりすると、少しずつ疲弊してしまいます。本当は患者さんにもっと寄り添いたい。でも、次の業務に行かなければならない。本当は同僚にもやさしくしたい。でも、自分自身に余裕がない。
そういう状況が続いた結果、最初に持っていた「誰かの役に立ちたい」という気持ちまで失われてしまうとしたら、それはとても悲しいことだと思っています。
人にやさしくするには、まず自分に余裕が必要
インタビュアー:
Nurse isが大切にしている考え方にもつながっていますか。
藤本:
すごくつながっています。私は、人にやさしくあり続けるためには、まず自分自身に余裕が必要だと思っています。自己犠牲だけで成り立つやさしさは、長くは続きません。
だから看護師がきちんと情報を持ち、自分で働き方を選択できて、経済的にも精神的にも余裕を持てる状態をつくりたい。
それは単なる「看護師の福利厚生」の話ではありません。看護師に余裕が生まれれば、患者さんへの向き合い方も変わる。離職する人が減れば、人手不足の改善にもつながる。結果として医療の質にも影響していく。
医療従事者を大切にすることは、最終的には患者さんや社会を大切にすることにつながると思っています。
私たちが変えたいのは「単発バイト」だけではない
インタビュアー:
Nurse isというと、看護師向けの単発バイトサービスというイメージを持つ人も多いと思います。
藤本:
もちろん、今は単発バイトという入口があります。でも、私たちが本当にやりたいことは「単発バイトアプリを大きくすること」だけではありません。私たちが向き合っているのは、もっと大きな医療人材の構造です。
看護師がどう働くのか。
医療機関がどう人材を確保するのか。
潜在看護師がどう現場に戻るのか。
個人の経験やスキルをどう可視化するのか。
人手不足が起きる前にどう対応するのか。
そういった課題を、一つずつ仕組みに変えていきたいと思っています。
看護師には柔軟な働き方を。
病院には必要な人材を必要なタイミングで。
社会には持続可能な医療体制を。
そして私たちは、その仕組みを誠実に運営する。
看護師・医療機関・社会・私たちの「四方よし」をつくることが、Nurse isの目指している姿です。
医療業界に疑問を持っている看護師に、来てほしい
インタビュアー:
では、Nurse isではどんな人と一緒に働きたいですか。
藤本:
「今の医療業界は全部おかしい」と批判するだけの人より、「もっと良くできるんじゃないか」と考えられる人と働きたいです。現場で働いていて、
「なんでこの業務はこんなに非効率なんだろう」
「もっと看護師が働きやすくできないかな」
「この仕組み、変えられないのかな」と一度でも考えたことがある人。
そういう違和感って、すごく大切だと思っています。特に看護師として働いてきた人には、医療業界の「当たり前」を知っているという強みがあります。一般企業にとっては分からないことでも、現場経験者だから気づける課題がたくさんあります。
その経験を、今度は一人の患者さんだけではなく、業界全体を良くするために使うというキャリアがあってもいいと思っています。
「看護師を辞める」ではなく、看護師経験の使い方を変える
インタビュアー:
臨床から一般企業に移ることに不安を感じる看護師も多そうですね。
藤本:
多いと思います。「せっかく看護師になったのに」「臨床を離れたら、これまでの経験が無駄になるんじゃないか」そう考える人もいると思います。
でも私は逆だと思っています。
看護師として現場を経験した人が、医療業界のサービスをつくったり、病院に提案したり、看護師のキャリアを支援したりする。そこには、現場経験者にしか出せない価値があります。
だから「看護師を辞めて別の仕事をする」というより、看護師として得た経験を、別の方法で医療に還元すると考えてほしいです。
私自身もそうでした。現場を離れたから医療から離れたのではなく、むしろ経営やマーケティングを経験したことで、以前より大きな視点から医療に向き合えるようになりました。
完成された会社ではない。だから、一緒につくる人が必要
インタビュアー:
Nurse isで働く面白さは、どんなところにありますか。
藤本:
まだ完成していないところだと思います。
決められた仕事を淡々とこなしたい人にとっては、大変な会社かもしれません。医療業界にはまだ解決されていない課題がたくさんありますし、私たち自身も、正解を全部持っているわけではありません。だからこそ、自分で考えて、まず動いて、失敗したら修正して、また挑戦する。そういう人にとっては、すごく面白い環境だと思います。「医療業界だから仕方ない」で終わらせず、本当に必要なら既存の常識そのものを疑う。賢くあり、愛情深くあり、そんなチームにしていきたいです。
最後に、医療業界の働き方に疑問を感じている看護師へ
インタビュアー:
最後に、この記事を読んでいる看護師へメッセージをお願いします。
藤本:
看護師として働いていて、今の働き方や医療業界に違和感を持つことは、決してネガティブなことではないと思っています。むしろ、その違和感の中に「次に変えるべきもの」が隠れていることがあります。私は、看護師という仕事そのものを変えたいわけではありません。看護師という素晴らしい仕事を、もっと長く、もっと自分らしく、そして誇りを持って続けられる環境に変えたい。そして、看護師を支える医療機関も、無理なく持続できる仕組みにしたい。
Nurse isが目指しているのは、単に新しいサービスをつくることではなく、医療業界の「仕方ない」を一つずつなくしていくことです。
もしあなたも、
「看護は好き。でも、今の働き方には疑問がある」
「医療業界をもっと良くしたい」
「自分の看護師経験を、もっと大きな形で役立ててみたい」
そんなことを一度でも考えたことがあるなら、その違和感を私たちと一緒に仕事にしてほしいです。仕組みを変えることで、何万人、何十万人の看護師と、その先にいる患者さんを支える仕事もあります。
私たちは、そんな挑戦を一緒にしてくれる仲間を探しています。