KYOTO -TOJI-|HERITAGE by NOT A HOTEL
平安の記憶が息づく東寺の宿坊が、ホテルに生まれ変わる。1968年に、僧侶や旅人を迎え入れるために建てられた<洛南会館>に再解釈を施し、現代の旅人のためのホテル空間として生まれ変わらせることを目指す。
https://notahotel.com/heritage/kyoto/toji
NOT A HOTELの建築において、その独創的なデザインを成立させているのは、視覚に訴えかける意匠だけではない。その背後で、ゲストの「快適さ」や「驚き」を物理的に支えているのは、目に見えない場所に張り巡らされた「設備」である。
建物の「中枢」ともいえる機械(Mechanical)・電気(Electrical)・配管(Plumbing)、総称MEP。NOT A HOTELのMEPチームは、一般的な設備設計の枠組みを超え、企画の初期段階から意匠設計者と対話を進める。美しさと機能が相反する場面においても、両者を高い次元で両立させ、時には将来の運営効率までを見据えて「体験」をかたちにしていく。
都市型ディベロッパーでの施設管理を経て参画したリーダー・杉山元と、意匠設計から設備設計へと転身した一級建築士・武田洋子。二人の対話から、意匠と設備が混じり合う、NOT A HOTEL独自の設計思想を紐解く。
━━━杉山さんは都市型の大規模施設管理から、武田さんは一級建築士として意匠設計の道から、それぞれなぜNOT A HOTEL、そしてMEPという領域を選んだのでしょう。
杉山:前職では施設管理という、竣工後の建物を長年支え続ける「守り手」の立場にありました。現場で日々建物と向き合うなかで痛感したのは、設計段階での決定が、その後の運営や維持効率における「動かせない前提」になるという現実です。
運営の視点から「もっとこうあれば、より良い空間になる」という気づきがあっても、建物が完成した後では根本的な改善は容易ではありません。建てる瞬間だけでなく、その先の長い運用フェーズまでを見据えた最適解を、設計の最上流から実装していく。その必要性を感じたことが、NOT A HOTELを選んだ理由につながりますね。
━━━ 大企業からスタートアップへの転身に、迷いはありませんでしたか?
杉山:迷いは全くありませんでした。これまでのキャリアで積み上げてきた実績が自分のなかにあったので、新しい環境でも必ず道は拓けると考えていました。それよりも、設計から施設管理までを一気通貫で手がける組織で、ゼロから仕組みを構築できる機会に強く惹かれたんです。施設管理部門の経験を持つ人間が、その専門性を設計の最上流から発揮できる。その役割の重要性を確信していたので、迷うことなく決断できました。
杉山 元(MEP Engineering Manager / Lifecycle Manager):県立大宮工業高校卒。森ビル株式会社にて大型複合施設の運営に従事。2023年6月、NOT A HOTEL参画。建築設備領域の設計、ディレクション、プロジェクトマネジメントなどを包括的に担当。FUKUOKA、KITAKARUIZAWA、ISHIGAKI EARTHの設備ディレクションを担当。電気主任技術者。建築物環境衛生管理技術者。
━━━ 武田さんは?
武田:新卒で公共建築の意匠設計を経験した後、機械設備設計へ転身し、工場や研究所などの設計に携わってきました。一切の妥協が許されないシビアな機能性の追求が、社会の基盤を支えていることを肌で感じました。
一方、公共案件では予算の制約により表現を削ぎ落とさざるを得ず、産業建築では機能が最優先されるあまり、建築としての美学を追求しきれない。そんなもどかしさを常に抱えていました。機能と美しさ。そのどちらかを妥協するのではなく、両者を高い次元で両立させる設計を突き詰めたい。その一途な想いが、私のキャリアの転機となりました。
━━━ そこからなぜ、NOT A HOTELへ?
武田:不特定多数を対象とした建築ではなく、自分自身が「体験したい」と心から思えるような、特定の誰かに深く響く空間づくりに携わりたいと考えたからです。NOT A HOTELが掲げるビジュアルは、一目見ただけで他とは一線を画す美学が伝わってくるものでした。この圧倒的なクオリティを実現するために、自ら思考し、実装を支える一員になりたい。その一心で、2025年8月に参画しました。
武田 洋子(MEP Engineering Manager):中央工学校建築工学科卒業。専門学校卒業後、公民館や学校などの意匠設計に従事。機械設備設計に興味を持ち転業。公共施設、福祉施設、工場、研究所、オフィスビルなどの機械設備設計に従事。2025年8月、NOT A HOTEL参画。一級建築士。
━━━ NOT A HOTELの開発は、インフラの整っていない環境下で行われることも多いですよね。そこでのMEPの役割について教えてください。
杉山:開発の舞台は北海道から沖縄まで多岐にわたりますが、私たちが選ぶのは往々にして、圧倒的な素晴らしい風景や自然環境と引き換えに、電気や水道などのインフラが未整備な場所です。しかし、不便さを理由にその土地のポテンシャルを諦めることはありません。その土地ならではの体験を成立させるために、技術をどう適応させ、過酷な環境下での快適さをいかに担保するか。それがMEPの介在価値だと考えています。
スキー場の山頂に開発中の「NOT A HOTEL RUSUTSU」
━━━ 具体的に、他の会社のMEPとの違いはどこにあると感じますか?
杉山:一言で言えば「体験から逆算して、設備をデザインする」という点です。一般的な設備設計はシステムの成立を目的としますが、私たちは意匠の一部として設備をコントロールします。
例えば、特別な家具で寛ぐ体験を想定したとき、空調の風向や機器の露出をどう制御すべきか。NOT A HOTEL ISHIGAKI EARTHのプロジェクトでは企画の初期段階から参画することで、点検口や機器の配置を極限までコントロールすることができました。
特にこの建築は、上空から眺めた際にも周囲の自然と一体化していることが重要です。そのため、屋上や外構に設備機器が露出しないよう徹底的に配慮しました。『EARTH』という名称が示す通り、大地に溶け込むような佇まいを維持するため、ノイズとなる設備要素を構造の中に緻密に伏せ込んでいます。
大地に溶け込むように佇む、もう一つの地球「NOT A HOTEL ISHIGAKI EARTH」
武田:クオリティに対する投資の判断基準も、非常に独特だと感じます。たとえばKYOTO TOJIのプロジェクトでは、水景の質を維持するために高度な濾過システムの導入を決定しました。一般的な開発であれば、コストを理由に仕様を下げるような場面でも、ここでは「目指すべき体験に不可欠か」が最優先されます。
武田:そうなると、設計者としてもその決断に相応しい確信が欲しくなります。なぜそのシステムが必要なのか、その価値をチーム全員が納得できるよう、私自身も深く掘り下げていくわけです。自らその道の専門家を訪ね、技術的な裏付けをとったうえで最適な提案を行う。従来の設備設計の範疇を越えたアプローチが求められますが、理想の体験から逆算して細部を詰め切るプロセスが、最高に面白いんです。
杉山:プロジェクトのなかには前例がないことも多くありますよね。現在開発中のNOT A HOTEL MIURAでは、プールに本物の砂を敷く計画が進んでいます。国内でも極めて稀な事例であり、当初はメンテナンスや衛生管理の観点から、専門業者の方々からも、持続可能性を懸念する慎重な意見をいただきました。
技術者としてその懸念を真摯に受け止めつつも、目指すべき体験のために「どうすれば実現できるか」をゼロベースで検討し、メンテナンス手法の確立や法的要件のクリアに向けてパートナー企業と共に試行錯誤を繰り返しました。前例がないからと断念するのではなく、理想の体験から逆算し、技術的な裏付けを一つずつ積み上げていく。その粘り強いプロセスこそが、NOT A HOTELの建築を支えるのだと感じました。
それぞれ趣の異なる3つのプールを備える、「NOT A HOTEL MIURA POOL CLUB」
━━━ 現在、MEPチームは4名体制。情報のスピード感や共有について意識していることはありますか。
杉山:情報のアップデートが激しいNOT A HOTELにおいて、「停滞」は最大の敵です。プロジェクトの推進力を落とさないよう、「5分悩んだら即相談」を徹底しています。自律して考えることは不可欠ですが、不明点を一人で抱え込む必要はありません。チームのリソースを迅速に活用し、スピード感を持って前へ進むことが重要です。
━━━ そうした個人のスピードを、どうやってチーム全体の知見に変えているのでしょう?
杉山:属人的な知識に留めない仕組みを構築しています。私たちは、場所もコンセプトも異なる複数のプロジェクトを並行して進めていますが、現場で得られた「この土地特有の条件」や「設計上の気づき」は、その都度細かく記録しています。それを都度チームで共有し、全員で多角的に分析して最適解を導き出す。個人の経験をチームのナレッジとして即座に同期することで、次に似た課題に直面した際、全員が最短距離で解決できるように意識しています。
━━━ 個々にプロフェッショナルであることを求められつつ、チームとして背中を預け合っているような感覚ですね。
武田:私は現在、電気設備について改めて学びを深めている最中なのですが、まさにその文化に助けられています。パートナーである外部の設計者の方々とも率直に対話を重ね、必死に食らいついている状態です。
「一人で悩まず知見を共有し合う」という環境があるからこそ、未経験の分野にも過度な恐れを抱かずに挑戦できているという感覚がある。扱う情報量は膨大ですが、スペシャリストとしての自律を求められつつも、チームとしては非常に心強い、開かれた感覚がありますね。
━━━ 最後に、NOT A HOTELで成し遂げたい野望について聞かせてください。
武田:直近の大きな目標は、プロジェクト初期から関わっているKYOTO TOJIを完璧な状態で世に送り出すことです。
平安の記憶が息づく東寺の宿坊が、ホテルに生まれ変わる「KYOTO -TOJI-」
武田:かつて公共施設の設計に携わっていた際、利用者の安全や利便性を守るために、どうしても注意書きのサインが追加されたり、運用上の必要性から意匠とは異なる使い方が選ばれたりする場面を目にしてきました。公共の場として多くの方に安全に使っていただくための「正しさ」であることは理解しつつも、一人の設計者としては、建築の純粋な美しさを維持し続けることの難しさを痛感する経験でもありました。
しかし、NOT A HOTELには、その空間が持つ哲学に共感してくださるオーナーやゲスト、そして意匠の意図を汲み取り、ブランドを守り続ける運営スタッフがいます。目に見えない場所で建物を支える「設備」が建築の一部として、設計思想のままに機能し続ける。その光景を見届けられたとき、これまでの探究心が報われるような気がしています。この純度の高い環境で、MEPとしての理想を追求できる実感を大切にしたいですね。
杉山:武田さんが今話してくれたような「作品性への情熱」をかたちにし、それを守り抜くことは、リーダーである私の使命でもあります。その上で、私はさらにその先、NOT A HOTELの設備を「建築業界全体の次なるスタンダード」へと押し上げたいと考えています。
━━━ 業界の当たり前を塗り替えていく、と。
杉山:はい。そのためには、MEPの領域を極めるだけで満足してはいけないと思っています。意匠の納まりを知り、ブランディングを理解し、PMやビジネスの領域まで越境して、プロジェクト全体を俯瞰できる存在になりたい。MEPが中心となって新しい価値を生み出す姿を証明していきたいですね。
武田:「最強の人」ですね。
杉山:そう(笑)、ただ新たにチームに迎えるみなさんにはスキルはもちろん大事ですが。なにより「ポジティブであるかどうか」の方が遥かに大事だと思っていて。
━━━ というと?
杉山:業界の常識に縛られず、未知の課題に対して「どうすれば実現できるか」と前向きに向き合える方です。私たちが挑んでいるのは、正解のない領域ばかりです。一人の知識だけで解決できることは限られています。
だからこそ、自分の得意領域を軸にしつつも、隣接する領域へ数パーセントずつでも手を広げて「ストレッチ」していく。そうして互いの領域が少しずつ重なり合うことで、チーム全体として強固に補完し合えます。個人のポジティブな挑戦が、そのままチームのナレッジの更新に直結する。そんな循環を楽しめる人と働きたいですね。
武田:前体制が築き上げた強固な土台を継承しつつ、杉山さんが新たなミッションを掲げたことで、チームの結束はさらなる高まりを見せています。以前、MEPの目指す方向性を定め直したとき、杉山さんが感極まっている姿を見て、私もこのチームの一員であることに改めて誇りを感じました。
杉山:あの時は、メンバー全員の熱量に圧倒されましたね(笑)。あの場でミッションを共有し、全員が主体者として難易度の高いプロジェクトを牽引していく覚悟を確認し合えたことで、チームの視座が一段階上がったと感じています。そんな仲間と共に、10年後のスタンダードを本気でつくりに行きたいと思っています。
今年度、最後となるNOT A HOTEL ARCHITECTS採用説明会を開催します。 今回の採用説明会のテーマは新プロジェクトであるKYOTO TOJI、YUGAWARAの舞台裏です。
会場はNOT A HOTEL ARCHITECTSが設計を手がけた NOT A HOTEL OFFICE(晴海)です。実際に空間を体感しながら、建築にかける思想やチームカルチャーをお伝えします。奮ってご参加ください。
現在、NOT A HOTELでは設備設計をはじめ、複数ポジションで採用強化中です。カジュアル面談も受け付けておりますので、気軽にご連絡ください。