※2021年12月に公開されたnoteの転載です。
2013年から提供を開始したアプリ「マンガボックス」。
有名作家の人気作から新進気鋭の話題作まで、枠にとらわれない幅広いラインナップを擁し、マンガボックス編集部オリジナル作品の『ホリデイラブ ~夫婦間恋愛~』『にぶんのいち夫婦』はTVドラマ化、週刊少年マガジン編集部作品の『恋と嘘』はアニメ・映画化するなど数々のヒットコンテンツを生み出してきました。
そんなマンガボックスで働く様々な社員にインタビューをする本企画。
今回は編集者である松井 芙実香(まついふみか)さんが登場。ファッション誌やWebメディア業界など、さまざまな業界を経験しながらも、編集の道一筋で活躍してきた松井さん。そんな松井さんから見た、マンガボックスの編集とはどういうものなのでしょうか。そして、マンガ×IT業界の最前線で活躍している松井さんは、一体どのような毎日を送っているのでしょうか。松井さんだからこそ語ることのできる今のマンガボックスについてお伺いしました。
自分にはこれしかない。変わる世界の中で歩み続けた編集の道
──松井さんは、現在マンガボックスの編集として『にぶんのいち夫婦』『あおのたつき』など、人気作品を担当されていますが、それまではファッション誌やWebメディアの編集をされていたそうですね。そもそも編集者になったきっかけはなんだったのでしょうか?
松井:幼いときから本が好きだったんですよね。それも活字だけじゃなくて、マンガも昔から大好きでした。なので、中学生のころから出版社で働きたいという思いがあって。ただ、就職活動のときに大手出版社をいくつか受けたんですが、全滅だったんです……(笑)。
流石にマズいと思い、大学4年生でマンガの編集プロダクションにアルバイトとして入社して、このときに初めて、作家さんと関わる経験をさせてもらいました。
──それからマンガボックスに入るまでには、どのような経歴を歩んできたのでしょうか?
松井:大学卒業後に選んだ就職先は、ファッション雑誌の編集でした。アルバイトをさせてもらったマンガ編集プロダクションには、正社員にならないかと声をかけていただいたのですが、作家さんありきではなく、自分でも書けるような仕事をしたいという思いが当時あったんです。だからファッション誌だと、自分で書くこともできると思って就職しました。
──なるほど。
松井:そこからファッション誌の編集をしていく中で、とても楽しい経験をさせていただいたのですが、やはり月1の発行ですと、どうしても年間の企画のスケジュールが決まっていて、毎年その繰り返しになってしまいます。「もっといろんな企画をやってみたい」という思いがあった中で、Webメディアの求人をみつけて。自分の編集のスキルも活しつつ、時代の流れにも沿ったWebメディア業界で働いてみようと思い、DeNAに入り、『MERY』の編集者になりました。
──紙からWebの編集に移っていったわけですね。
松井:そうですね。でもそこからいろいろあり……(笑)。Webの編集者になったのはいいものの、事業縮小の関係で、他の事業部に転籍しなければいけなくなってしまったんです。
──なるほど……。それは大変でしたね……。
松井:DeNAは様々な事業をしていたので、選択肢はいろいろありました。ただ、自分は編集者として働き続けたかったので、そのスキルを活かせるところで考えた結果、当時DeNAの事業部だったマンガボックスに異動することになったんです。結果オーライというか、それで今の私に繋がってくるわけです(笑)。
──場所は変われど、松井さんは編集の道をずっと歩み続けてきたんですね。
松井さん:そうですね。自分にはこれしかなかったし、編集以外はやるつもりもなかったので。
0から1を生み出す力。テレビとマンガの世界の共通点
──マンガボックスに入社して最初の印象どうでしたか?
松井さん:同じ編集とはいえ、畑の違いは感じました。Webや雑誌だと、記事も自分で書くし、撮影や取材のスケジュールも自分で立てて動けるし、自分の意思でわりとなんでも決めやすかったんです。自分が頑張ればなんとかなるようなことが多くて。それに比べてマンガは、まず作家さんに作品を描いていただかなければ、仕事そのものが始まらないので、自分主体ではなくなりましたね。仕事の”核”となる部分をお願いしているため、作家さんのメンタルケアなどに関しては、すごく気をつけるようになりました。
──たしかに、マンガの制作は作家さんとの関わりが必要不可欠ですよね。
松井さん:でも私は以前、マンガの編集プロダクションでアルバイトをしていたので、その点は割とイメージができていたんです。それよりも、IT業界の文化に慣れていなかったので、その部分で苦労しました。
──どういったところが苦労しましたか?
松井さん:IT業界の最前線でバリバリ働いている人たちと、昔ながらの人との関わり合いを必要とする作家さん。両者と接する時に、それぞれ思考を切り替えながら接していかなければならなかったので、バランスを取るのが大変でしたね。
──それはマンガボックスならではの環境だからですよね。
松井さん:そうですね、少し特殊な環境だと思います。私はずっと編集者だったので、どちらかというと作家さん寄りの人間なので、最初は戸惑いました。でも今はそこが、他社とは違うマンガボックスの強みであり個性だと思っています。
──IT業界で活躍している人たちと関わることによって、松井さん自身に変化はありましたか?
松井さん:以前より会社という組織全体を、俯瞰して見ることができるようになりましたね。これは昔からマンガが好きだったのが影響していたのかもしれませんが、私は作品が面白いことが1番大切なことだと思っていたんです。もちろんそれも重要なことなのですが、やはりそこに売り上げが付随していないと、会社としては成り立たないですよね。IT業界で働いている方たちは、そういう市場での戦略面の部分に対して、すごく強い人たちが多かったので、とても刺激になりました。
──今までの職場では、感じたことのなかった刺激でしたか?
松井さん:今までは、マンガボックスほどいろんな業種の人たちがいる環境ではなかったので、そこは刺激になりましたね。売り上げや会社の数字に関しては、あまり自分ごととして受け止めてはいなかったので、以前より、少し上の目線から俯瞰して会社というものを考えられるようになりました。
──戦略的な思考が刺激になったんですね。今松井さんは、マンガボックスの編集者として、具体的にどんな業務をしているのでしょうか。
松井さん:編集の仕事は、最初に作品の企画をつくるか、作家さん探しのどちらかから始まります。企画に合った作家さんを探して声をかけて、連載が始まるパターンと、「この作家さんとお仕事してみたい!」という方がいれば、そのまま声をかけて企画から一緒に作っていくものもどちらもありますね。
──編集業務以外ではどのようなことをされていますか?
松井さん:たとえば以前は「マンガボックス編集部杯」という連載権をかけたコンテスト企画を実施し、その取りまとめを担当しました。その企画のページをエンジニアさんと相談して制作したり、サービス担当の人と公開のタイミングを調整したり、いろんな人とのやりとりが社内でできるのは、マンガボックスならではの特徴だと思いますね。実際にそのような企画を立てた上で、良い作家さんと巡り合って、一緒に作品を作っていったこともあります。自分のアイデアを会社でチャレンジできる環境っていうのはなかなかないと思います。
──ほかにも松井さんが感じた、マンガボックスならではの魅力はありますか?
松井さん:TBSさんと組んだことで、普通ではなかなか実現することが難しい現場にも行けるようになったことですね。たとえば、今アナウンサーを題材にした作品の企画を進めているのですが、材料として新入社員のアナウンサーや、先輩アナウンサーへのインタビューができました。これは普通だと取材をするのが難しい領域なのですが、TBSさんに力を貸してもらって、取材が実現しています。
──企画の幅が広がりますね。
松井さん:そうですね。あとは、ドラマのプロデューサーさん発信のマンガ企画もあります。映像のプロと私たちマンガ業界が組み合わさることによって、新しい作品を生み出していけるのが、マンガボックスならではの魅力ですね。
──マンガ業界とテレビ業界の相性の良さが、相乗効果を生んでいますね。
松井さん:業界は違いますが、仕組みは似ているところがあると思うので、相性がいいのかもしれません。マンガだと作家さん、ドラマだとプロデューサーさんという、0から1を生み出す人たちがそれぞれいて、それを私たちがチューニングしていくという点では、似てるような気がします。私は0から1を生み出すのが苦手なので、これができる作家さんやプロデューサーさんはとても尊敬していますね。
信頼で成り立つ絶対的な自信を胸に
──松井さんはこれからマンガボックスで、これからどのようなコンテンツを生み出していきたいですか?
松井さん:私はマンガボックスで『にぶんのいち夫婦』や『あおのたつき』という作品を担当してきたのですが、どちらも女性向け作品で、ヒットしたというのは、会社にとって、自分にとって大きな柱になっていると感じます。これから女性向けの新レーベルを立ち上げることも決定しているので、その経験を元に、立ち上げをうまくやり切ることと、書店さんや女性読者の方に面白い作品を届けることが、今の目標です。
──松井さんはなぜ、今も編集の仕事を頑張り続けていけるのでしょうか。モチベーションはなんですか?
松井さん:モチベーションは、「自信」ですかね。私たちが世の中に発信している作品は、絶対に面白い自信があるからです。そんな風に思わせてくれる、素晴らしい作家さんたちに少しでも応えることができるように、毎日頑張っています。まあ、売れるかどうかはやってみないとわからないことなのですごく難しいですが…(笑)。
──最後に、松井さんが思う、マンガボックスの編集者に向いている人とはどんな人だと思いますか?
松井さん:2つあるのですが、1つは作家さんのことを大事にできる人だと思います。当たり前のことですが、作家さんもひとりの人間で、大なり小なりの不安や苦しみを抱えながら、作品を生み出しています。たとえ何かあっても「編集者だけは味方だから大丈夫だ」と、安心して制作に打ち込んでもらえるための努力はし続けたいと考えています。
──なるほど。
松井さん:2つ目は人とのつながりを大切にできる人ですかね。私が学んできたように、作品が面白いだけでは編集者としてはダメなので、数字が悪かったときに思考を停止するのではなくて、そこから自ら動いて、周りに頼ることができたらいいと思います。その点だと、マンガボックスにはいろんな人がいるので、数字に関してだったり、何かチャレンジしたいことがあるときは、力になってくれる人がたくさんいると思います。
──実際に経験してきた松井さんだからこそ、言えることですね。
松井さん:そうですね。編集者という仕事は、作家さんはもちろん、いろんな人のことを支えたり支えられたりして成り立っている仕事だと思います。そのつながりを大切にできる方はきっと編集者に向いていると思います。
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