山崎 聡 | エムスリー株式会社 取締役 CPO 兼 CAIO
エムスリーにおけるプロダクトマネージャーは、「プロダクトを通じた事業成果の最大化」を追求し、自らの意思決定によってその未来を実現していく存在です。事業を前進させるために必要であれば、市場開拓やマネタイズ設計、法的なスキーム構築から現場のオペレーション改善にも、深く踏み込みます。求められるのはアウトプットではなく、アウトカム。「成果の最大化」に向けて貪欲に思考のアップデートを続け、正解のない中で仮説を立て、疑い、決断し続けること。そのプロセスそのものが、私たちの価値になります。
なぜエムスリーでは、プロダクトが「成功し続ける」のか。その環境の中で、人はどのように成長していくのか。今回はCPOとして全社のプロダクト開発を統括する山崎に、これまでのキャリアと意思決定のリアル、そしてこの環境で求められる役割について聞きました。
技術から事業へ。意思決定に踏み込んだ理由
これまでのキャリアについて教えてください
もともとはエンジニアとしてキャリアをスタートしました。プロダクト開発に関わる中で感じたのは、技術だけでは価値は生まれないということです。技術的にどれだけ素晴らしいプロダクトを作っても、事業の方向性や意思決定がズレていると、ユーザーに価値が届かないことがありえる。むしろ、そのズレのほうがアウトカムに与える影響は大きいと感じるようになりました。
そこから徐々に、プロダクトや事業の意思決定に関わるようになりました。最初は部分的な関与でしたが、意思決定の質が変わると結果が大きく変わる。その手応えがあって、自然と関わる領域が広がっていった感覚です。
今振り返ると、技術を起点にしながらも「どうすれば事業が前に進むのか」という問いに向き合い続けてきたキャリアだったと思います。
CPOとして現在担っている役割を教えてください
CPOの役割は、意思決定が正しく行われる構造やプロセス、文化を設計することだと思っています。どの課題に向き合うのか。どの順番で取り組むのか。誰が決めるのか。こういった前提が曖昧なままだと、どれだけ優秀なメンバーがいても、力は分散してしまい、成果にはつながりません。
逆に、構造が整理されていると、現場の力がそのままアウトプットに変わります。自分が特別な判断をするというよりも、メンバーが最も力を発揮できる状態を作る。その結果として、もともと持っている力が自然と成果に変わっていく。この状態をつくること自体が、CPOの役割だと考えています。意思決定の質は個人の能力だけで決まるものではありません。どんな構造の中で判断しているかによって、大きく変わる。だからこそ、その構造に責任を持つことが重要だと思っています。
ミッションに紐づくプロダクトづくり。プロダクトマネージャーは「クリエイター」
エムスリーのプロダクトづくりの考え方について教えてください
すべてはミッションに紐づいています。テクノロジーを創造的に活用して、健康で楽しく長生きする人を一人でも増やし、不必要な医療コストを一円でも減らす。
これを実現するために必要なのは、ユーザーが「喉から手が出るほど欲しい」と思うプロダクトを作ることです。
どれだけ技術的に優れていても、ユーザーに求められていなければ意味がない。逆に、本当に必要とされているものであれば、多少設計や実装が粗くても価値は伝わります。だからこそ、ミッションに直結するプロダクトを作ることを何よりも重視しています。
プロダクトマネージャーとは、どのような役割だと考えていますか
プロダクトマネージャーは、ある意味クリエイターだと考えています。アーティストや作家と同じで、評価されるべきは「何ができるか」ではなく「何を生み出したか」です。
その中で最もわかりやすい指標が利益です。音楽であればダウンロード数や売上、映画であれば興行収入と同じで、プロダクトもどれだけ価値を生み出したかは成果で測るべきだと思っています。
もちろん、単純に利益だけを見ているわけではありません。本当にユーザーに価値を届けられているか、社会に必要とされているか。その結果として、最終的に利益として返ってくる。利益とは、私たちが提供した価値に対して、市場から返ってきた「採点結果」のようなものだと考えています。
プロダクトマネージャーのレベル分けには議論があるものの、エムスリーではわかりやすさを重視してプロダクトマネージャーを3つのレベルで定義しています。
レベル1はとにかくアジャイルにプロダクトを作れる状態。レベル2はプロダクトマネジメントの様々な手法を使って価値を出せる状態。そしてレベル3は「売れるプロダクトを高確率で作れる」状態です。ユーザーに愛され、かつ利益が出る。このレベルになると年間50億円以上の利益を生み出すこともあります。ここは連続的な延長ではなく、明確に次元が変わる領域です。
だからこそ、エムスリーでは全員にこのレベルを目指してほしいと考えています。スキルがあるかどうかではなく、最終的に価値を生み出せるかどうか。そこに向き合うことが重要だと思っています。
レベル2からレベル3に上がるために必要なものは何ですか
一番大きいのは商売センスです。これは生まれつきの才能ではなく、後天的に磨けるものだと思っています。その鍵になるのが成功体験です。よく「失敗から学ぶ」と言われますが、失敗だけでは成功のやり方はわからない。成功して初めて「何が違ったのか」が理解できるようになります。
例えば料理でも、まずい料理を何度作っても美味しい料理は作れない。美味しくできた瞬間に初めて、「こうすればいいのか」というコツがわかる。
プロダクトも同じで、一度売れるものを作ると、何がユーザーに刺さったのかがわかるようになる。その経験が、次の成功の再現性につながっていきます。
センスというのは生まれ持った感覚ではなく、成功から抽出されたコツの集合です。だからこそ、どれだけ成功を経験できるか。その密度が、成長を大きく左右すると思っています。
なぜ「当たり続ける」のか。成功確率を引き上げる構造
なぜエムスリーでは、成功が再現されるのでしょうか
一般的なスタートアップでは、10個のアイデアのうち1〜2個当たれば成功と言われています。それが普通の感覚だと思います。
ただエムスリーでは10個やれば8〜9個は成功する水準です。もちろん、すべてが同じ規模で当たるわけではありませんが、ビジネスとして成立し価値を出せるプロダクトがそれだけの確率で生まれている。これはかなり特殊な状態だと思います。
この違いをもたらす最も重要な要因は「成功しているプロダクトがすでに存在しているかどうか」。多くの会社は正解がない状態から試行錯誤していますが、エムスリーにはすでに成功パターンが蓄積されています。
そのため、ゼロから当てにいくのではなく、成功の構造を理解した上でプロダクトを作ることができる。ここが決定的な違いです。
私たちは「勝つべくして勝つ」と言っていますが、これは運の話ではなく、構造の話です。成功を前提に設計された環境の中で意思決定を行うことで、自然と成功確率が引き上がっていく。そういう状態を作っているということだと思います。
この環境ではプロダクトマネージャーはどこまで意思決定を担うのでしょうか
各プロダクトマネージャーが、アサインされた事業のCPOのような役割を担っています。価格やプラン、機能、Go-To-Marketなど、プロダクトに関する意思決定は基本的にすべて任されています。人事権と金銭的な決裁権を除けば、最終的に決めるのはすべて自分です。
その分、責任は大きいですが、ごまかしが効きません。誰かが決めてくれるわけではないので、自分で判断して、その結果に対して責任を引き受けることになります。
このサイクルを高い密度で回し続けることになるので、意思決定の量と質の両方が求められます。ただ、その分、自分の判断がそのまま事業に影響する実感がある。この経験は重要で、意思決定の精度が一気に上がっていく感覚があります。
簡単ではありませんが、圧倒的に成長できる環境だと思います。
ホームランを打ちにいく。この環境で得られるもの
今後の展望について教えてください
プロダクトの価値を最大化するためには、個々のプロダクトだけでなく、組織全体の意思決定の質を高めていく必要があります。そのための構造やプロセス、文化をさらに強化していきたいと考えています。
また、エムスリーにはすでに多くのプロダクトがありますが、現状のプロダクトマネージャーの数ではまだ足りていません。現在は一人複数プロダクトを担当していますが、本来は一人一プロダクト、もしくは少人数で深く向き合う体制が理想です。そのためにも、今後はプロダクトマネージャーの数を大きく増やしていきたいと考えています。
一方で、重要なのは、単純に人数を増やすことではありません。「売れるプロダクトを作れる人材」、つまりレベル3のプロダクトマネージャーをどれだけ増やせるか。ここが、エムスリーの競争力そのものだと思っています。
最後にメッセージをお願いします
こういう話を聞くと、「自分には難しいのではないか」と感じる人も多いかもしれません。ただ、エムスリーは完成された人だけを求めているわけではありません。
レベル0でもいいし、レベル1でもいい。エムスリーにはレベル3まで到達するための構造やプロセス、文化があります。重要なのは、まずは自ら成功を疑似体験することです。そして、その後に自分でもやってみる。この順番で経験を積める環境はそこまで多くありません。
さらに言えば、エムスリーはまだ多くのプロダクトを成功に導いてきたレジェンドが現役で活躍している会社です。実際にプロダクトを成功させてきた人間の意思決定を間近で見ながら学べる。この環境はかなり貴重だと思います。
当然、苦労もあります。意思決定はすべて自分に返ってきますし、その結果もすべて自分で受けることになります。
それでも、自分の意思決定で事業を動かしたい人。中途半端ではなく、本気で価値を生み出したい人。ホームランを何本も打ちたいなら、ぜひエムスリーに来てほしいですね。
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