見知らぬ国で暮らしはじめると、「当たり前」が一つひとつ塗り替えられていきます。何気なく目に入る風景、耳にする言葉、人との間に流れる空気。それらが、少しずつ、自分の輪郭を変えていく。
台湾から日本へ渡って3年。新しい土地での生活と、映像を通じた表現を続けるなかで、私は「観察すること」と「伝えること」の意味を何度も考えるようになりました。これは、そんな日々のなかで見つけた小さな驚きや問い、そしてその積み重ねから生まれた、ひとつの道のりの記録です。
初めまして、2025年2月に中途入社した黄珮庭(コウ ハイテイ)です。
チームの中で私の実家は最も遠く、台湾にあります。以前は観光客として何度も日本を訪れていましたが、まさかノートパソコンと在留カードを持って、日常的に働くことになるとは思ってもいませんでした。
慣れた中国語の世界から、不慣れな日本語の世界へ。台湾ではバイクが通勤の相棒でしたが、日本に来てからは毎日歩いたり電車に乗ったりして移動する生活に。生まれてから呼ばれていた「黄」という名字も「Huang」から「Kou」と呼ばれるようになり、同じ漢字でも読み方が変わるなんて、まるで別の次元に来たような気分でした。 日本留学を決めたあの瞬間こそが、私にとって最も大きく人生を変えた選択だったのかもしれません。
私を日本へ導いた一本のアニメーション─日本との最初の接点
日本とつながる最初のきっかけは、私が台湾で通っていた学校の日本の姉妹校である静岡の「清水高校」との交流会でした。その時は、剣道を体験したり一緒にお弁当を食べたりと、日本の高校生たちとさまざまな交流をしました。彼らの情熱や伝統文化を大切にする姿勢がとても印象に残っています。その後も何度か日本を観光で訪れる機会はありましたが、「日本で生活をしてみたい!」という気持ちはまだはっきりとは持っていませんでした。
高校時代に日本の学校へ交流する際に、サムライへ変身した私(左から三番目)
日本を強く意識したのは、高校の歴史の授業で出会った一本のアニメーション映像だったかもしれません。ある日、先生が流したアニメーション動画で退屈に思っていた歴史の内容が鮮やかに頭に入ってきたのです。 「こんなふうに伝える方法もあるんだ」と驚いた体験は今でも忘れられません。
高校の歴史の授業で流されたアニメーション(Youtubeチャンネル:Taiwan Bar)
その後、大学ではデジタルメディアデザインを専攻し、Web、3DCG、映像制作など、幅広く学びました。授業で参考にされる作品はジブリや面白いCMなどの事例が多く、日本は私たちにとって創造性の宝庫だと感じました。でも、私の中にはずっと気になることがありました。「日本って真面目で几帳面なイメージなのに、どうしてこんなに自由でユニークな発想ができるんだろう?」という疑問です。
そんな疑問を抱えていたある日、大学のチームメンバーであり、今のパートナーでもある友人から「一緒に日本で1年間勉強してみない?」と声をかけられました。その時の私は海外で暮らす勇気はなかったため、台湾で就職して会社員として働く人生を想像していました。でも、その一言がきっかけで、自分の前に新しい分かれ道が現れたように感じたのです。
「日本に行って、自分の目で創作の現場を見てみたい」。私は日本行きを決意しました。
突然訪れたコロナ禍で留学は延期に
しかし、人生はいつも台本通りには進みません。卒業した年に、まさかのタイミングでコロナ禍が広がり始めて、日本行きはあっさり延期に。「このまま台湾で就職した方がいいのかな…」という気持ちもありましたが、 このチャンスを逃したらもう二度とないと強く思いました。「どうせ半年くらい元に戻るじゃないかな」と軽く考えていたので就職は選ばず、フリーランスとして活動していく道に賭けることにしたのです。
卒業したばかりの私には仕事の経験が何もなかったため、学んできたスキルを活かせそうな仕事があれば、なんでも挑戦しました。コロナが明ける日を期待して、ひたすらスキルを磨く日々を送りました。そのあいだにも、次々と正社員としてのキャリアを積み重ねていく友人たちを横目に、「私の選択は遠回りになっているんじゃないか」 そんな不安に何度も襲われました。
ほぼ毎日在宅作業していた私
しかし、だからこそ得られたものもありました。時間に追われない日々の中で、自主企画にじっくりと取り組めたこと。そして、それらがきっかけで大手制作会社との協業につながりました。「もういっそ台湾でブランド立ち上げる?」なんて話も出ましたが、異なる文化圏で暮らすという経験は、あとになって「やればよかった」と思っても、その時にはもう手に入らない―そんな気持ちをずっと持っていました。
そして一年半後、日本での新しい暮らしをスタートさせるため、私たちはスーツケースいっぱいの暮らしの道具と、少しの不安とたっぷりの期待を詰め込んで、日本へ飛び立ちました…
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https://light-the-way.jp/column/all/6204
※余談ですが
こちらの記事はラジオ音声コンテンツとしてもお楽しみいただけます
出典:LIGHT THE WAY Channel @YOUTUBE