入社して2か月ほど経った頃、自分の案件を持たせてもらえることになりました。
正直、嬉しかったです。自分で案件を持ち、一人でお客様と向き合う。チャレンジできる環境だと思いましたし、とにかく早く成長したい気持ちもありました。
でも同時に、内心は怖さもありました。
「わからないことを聞かれたら、どうしよう」
「失敗するかもしれない」
「自分のせいで、お客様や会社に迷惑をかけたらどうしよう」
入社初日に、代表から言われた言葉があります。「今日からあなたたちはプロだから。プロとしての自覚を持って仕事をするように」その言葉を聞いて、ハッとしました。どこかで、“新人だから多少は大目に見てもらえるのではないか”と思っていた自分に気づいたからです。
けれど、お客様からすれば私が新人かどうかは関係ありません。やったことがないことをやるのが仕事であり、それは新人でも、10年目でも変わらないのです。
最初は、分からないことばかりでした。何が分からないのかさえ、分からない。そんな状態だったと思います。
それでもクジラでは、1年目から責任を持って働きます。失敗しないようにレールを敷かれ、その上を歩くというより、失敗も含めて自分で考えながら進んでいく環境です。山登りに例えるなら、先頭を歩くのは自分です。登るルートも、自分で考える。けれど、後ろを振り返れば、先輩が視界に入る距離にいる。そんな感覚に近いかもしれません。
突き放されるわけでも、手取り足取り教えてもらうわけでもない。その距離感の中で、失敗もしながら、少しずつ自分で考える力をつけてきました。
1年目は、とにかく必死でした。ありがたいことに成果も出ました。運も良かったと思います。でも2年目に入り、トラブルが立て続けに起きました。正直、かなりきつかったです。何より、お客様に申し訳ない気持ちが大きく、謝って、反省して、また考えての繰り返しでした。
その経験を通じて見えてきたことがあります。
私は営業ディレクターとして、お客様や案件のことを分かっているつもりで、実際には分かっていませんでした。
目の前のお客様が言葉にしていない感情。案件の中で、本当に押さえるべき重要なポイント。それらを掴みきれていなかった。要望を聞いて叶えることと、本当の理想を叶えることは、同じではないのだと思います。
クジラの営業ディレクターは、リノベーションの契約を取るだけの仕事ではありません。お引き渡しまで、プロジェクト全体をディレクションする仕事です。デザイナー、職人、お客様をつなぎながら、チーム全体を動かしていく役割があります。
経験を重ねるほどに、ただの営業でも、ただの進行管理でもいけないのだと感じるようになりました。
最近、印象に残った話があります。新築を建てた方が、SNSで後悔ポイントについて話していました。一番後悔しているのは、「中庭の壁の高さをもっと高くすればよかった」ということ。一方で、一番気に入っているのも「中庭をつくったこと」でした。
中庭をつくること自体は叶っている。でも、本当に大切だったのは、「中庭があること」だけではなかったのかもしれません。中庭で、ゆったりと落ち着いた時間を過ごすこと。そこに理想があったのだと思います。
だから、壁の高さが少し低く、近隣のお店の看板が目に入ってしまうと、その落ち着きは損なわれてしまう。だからこそ、数センチの違いが大きな後悔につながったのだと思いました。
理想を叶えるためには、理想を壊す要素を想像する必要がある。
でも、多くの場合、それはお客様の要望として最初から出てくるものではありません。お客様は、自分の理想を最初からすべて言葉にできるわけではありません。何でもオープンに話してくれるとも限りません。予算もあれば、スケジュールの制約もあります。
だからこそ、お客様の言葉をそのまま受け取るだけでは足りないことがあります。お客様が納得しているように見えても、もう一度検証する。時にはチームで食事に行き、コミュニケーションの質を上げることもあります。
それでも、予想外のことは起きます。そのときに何を言えるか。どう動けるか。
この仕事は、表面的なデザインをつくる仕事ではありません。目の前の方の暮らしと意思決定に、向き合い続ける仕事なのだと思います。
責任を持つことは、確かに怖いです。私も今でも、怖さを感じることがあります。
でも、責任を持って向き合うからこそ、仕事は少しずつ面白くなっていくのだと思います。失敗して初めて見えるものもあります。うまくいかなかった経験が、自分の視点を変えてくれることもあります。
まだまだ未熟です。それでも、お客様の理想をただ聞くだけではなく、その奥にあるものまで考えられる営業ディレクターでありたい。
今はそう思いながら、一つひとつの案件に向き合っています。