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ビジネスにおいて、すでにある知識や技術を知らずに一から作り出す「車輪の再発明」は往々にして起こります。特にさまざまな情報が行き交うエンジニアリングの現場では起きがちで、カオナビの開発現場でも同様な課題を持っていました。
そこで、車輪の再発明を繰り返さないために、「考古学研究会」が立ち上がりました。これを主導しているVPoEの福田さんに、活動内容や今後の展望について話を聞きました。
企画推進本部 新規開発部 部長 兼VPoE
福田健
大学卒業後、エンジニアとしてITベンチャーに入社。その後、大手ゲーム会社にてエンジニアやPM、プレイングマネージャーなどを経て、2015年2月に株式会社カオナビへ入社。
創業期から変わらないカオナビの文化は個性の尊重
──まずは自己紹介をお願いします。
現在、企画推進本部にて新規開発部の部長をしながらVPoEをしています。ゲーム会社とエンタメ系の会社を経て、たまたま縁があり8年前にカオナビに入社しました。当時は役職もなく社員数も数名しかいない頃でした。
──初期の頃から関わっているのですね。現在の新規開発部はどのような体制ですか。
私がPOでメンバーはエンジニアが3名、QAが1名、デザイナーが1名、ディレクター補佐が1名の計7名の体制です。かなり個性豊かなメンバーが揃っているので、マネジメントも個性を活かすことに重きを置いています。
──具体的にどのようなマネジメントをしているのですか。
個性が強いということは何かしらの主体性の裏返しだと思っています。これまでの経験からそういう人はやっていることに納得感がないとモチベーションに大きく影響してしまうことを感じていたので、なるべく自分ごとにできるように立ち回ることを意識してマネジメントしています。例えば、ミーティングの際も「◯◯さんはどう思っているの?」「その見解を教えてよ」というように、突っ込んだファシリテーションをすることで思っていることの発言を促し、納得感を醸成しやすくなるように心がけていたりします。
情報の不均一性をなくす「考古学研究会」という取り組み
──長く在籍されている立場から見て、カオナビが抱えている課題とはなんでしょうか。
新しく入ってきたメンバーと昔からいるメンバーとの間で、情報量が不均一であることが課題だと感じています。当然何もしなければ8年以上勤務している私と、最近入社したばかりの人では、過ごした時間が違うので情報量に差が生じます。
新しく入ってきたメンバーは、カオナビの中での当たり前がわからず、話していても前提が食い違うので、生産性に差が生まれる場面もあります。在籍期間が長ければ長いほど生産性を上げるための知見は累積すると思っているので、それをうまく活用していかない手はないと思っています。
──「情報の不均一性」をなくす取り組みをされているそうですね。
はい、私が主導している「考古学研究会」というもので、2022年の秋ごろから始めました。月に1回程度、古くから在籍するメンバーをゲストに、車輪の再発明になりがちな機能や、開発するときに知っておくべき歴史的背景を取り上げています。
第1回目では、会の目的の説明をした後に在籍歴の長いメンバー紹介を行い、「カオナビ」の歴史年表を見せつつ、一番印象に残っていて、認識からもれがちなインシデントを4つピックアップし、それぞれどのように解決したのかを共有しました。
2回目以降は、ここの歴史について知りたいというリクエストをもらって、それをテーマに開催しています。
──参加したメンバーの声はいかがですか。
「勉強になった」と言ってくれるメンバーが多いですね。ちなみに、メンバーの声は「カオナビ」の「ボイスノート」というアンケート機能で集めています。
毎回の取り組みは全て録画していて、オンボーディングにも活用しています。こうすれば、今まで毎回教えなければならなかったことを上手く仕組み化して、再利用できます。
リモートワーク下における「考古学研究会」でのコミュニケーションの大切さ
──リモートワークになって、「過去には◯◯があったんだよ」とカジュアルに話す機会も少なくなっているのかもしれませんね。
そうですね、機会は減っていますね。言う方も聞く方もリモートワークで関係の構築が難しくなっているので、もっとフランクに話せる機会を作っていきたいですね。副次的な効果としては「面白かったです」とか「モチベーションが上がります」という声もあったので、楽しめる場として機能しているのは良いことだと思いますね。
──カオナビはドキュメント化に力を入れている印象(※)ですが、考古学研究会でもドキュメント化に取り組んでいますか。
はい。ドキュメント化は早い段階で進めることは決まっていました。
ただ具体的に、
- 情報を集める
- 情報の正しさを証明する
- 情報を整理する
の3つが揃わないと意味がないと考えています。
よくある質問や見てほしい情報の優先度を上げつつドキュメント化しています。
※参考:フルリモートでもチーム力を発揮できる"助け合い"のエンジニア・カルチャー
──考古学研究会に対する福田さんのモチベーションはなんですか。
モチベーションは、プラスの感情よりもマイナスの感情から生まれると考えています。私の場合、みんなに早く成長してほしいというプラスの感情というよりは「車輪の再発明を無くしたい」、あえてもっとマイナスの感情を強調して表現すると「自分への質問を減らしたい」という自分本位の思いがモチベーションになっています。これは考古学研究会に限ったことではないかもしれません。
福田さんのVPoEとしてのミッションは後継者探し
──これから福田さんがカオナビでしていきたいことはありますか。
考古学研究会をやっている理由のひとつでもあるのですが、昔からのメンバーに依存する開発はスケールしないと思っています。仮に私がいなくなったとしても、滞りなく開発が進むようなチームにしていきたいと思っています。
少し変な話ですが、入社したときから「いつでも辞められる」ことを軸に考えて働いています。それは属人化しすぎて組織をスケールできないことが会社の成長にとってとても良くないことだと思っているからです。ですから、私がいる限りは、私がいなくても動く組織作りを目指さなきゃいけないと考えています。
──そんな福田さんのVPoEとしてのミッションはなんですか。
先ほどの話と被るのですが、着任した時から後任のVPoEを探しているので、それがミッションでしょうか。
VPoEの責務はエンジニア組織の拡大や個々の成長に貢献することです。そしてそれをなし得るためには「意思」と「傾聴力」がとても重要な要素だと私は考えています。
考古学研究会では歴史を知るという切り口で、当時どういう考えで決定したかという「意思」の部分と、それに対してフレッシュなメンバーがどう考えているかを聞くという「傾聴」の部分で構成されています。なので実はこの会を私が主催することで、VPoEにとって重要なことをを疑似体験できる場にもなっています。そしてこういった経験を通じて、新しいVPoEを生むきっかけの一つになったら良いなと思っています。
編集後記
車輪の再発明は「自分はしないだろう」と考えがちですが、実際は多くの人が車輪の再発明をしています。個人ならまだコストは少ないけれども、企業にとっては大きなコストです。
福田さんはVPoEとして非常にユニークなアプローチで、意識的に車輪の再発明を防ぐ「考古学研究会」の活動をしています。自分の個性を活かしてバリューを出しているカオナビにおけるロールモデルのひとりではないでしょうか。