コロナ禍にあっても、よりリアルなVR研修コンテンツで、医療教育にソリューションを! ジョリーグッドのVRが担う課題解決への役割
研修や実習時間の不足、地域格差、そしてコロナ禍。今、さまざまな大きな問題に直面しているのが医療教育の現場です。その解決に、VRの力が役立つのではないか。そう考えた日本医科大学とジョリーグッドがタッグを組んでコンテンツの開発し、運用をスタートさせました。担当者である事業開発部の藪田遼さんに、プロジェクトの意義と目標をお聞きします。
(2020年11月27日公開)
VRで医療教育の課題解消に貢献
JOLiC編集部(以下、編集):藪田さんは、今、日本医科大学の担当者としてお仕事をされているんですよね。きっかけは先方から問い合わせメールが来たことだとか?
藪田 遼(以下、藪田):はい。私は営業戦略部の営業ですので、日々どういうところからお問い合わせがあるのかということはいつもチェックしています。今までさまざまなジャンルのお客さまから問い合わせがある中で、医師の先生から問い合わせが来ていたので、ちょっと珍しいなと。何かジョリーグッドがお役に立てることがあるんじゃないかと、私が対応させていただくことにしたんです。
編集:それで、すぐに連絡をとってお会いになったわけですね。
藪田:はい、その時点で代表の上路と一緒に、VRゴーグルを持って先方に伺いました。手術中の整形外科の手技を医師目線で体験するコンテンツを見ていただいたところ、先方の先生も自分がいつも手技をやっている感覚に近いという意味で、かなり感動されていました。最初のリアクションから「これは医療教育に有用だ」ということをおっしゃっていただきましたし、今までの課題を解決できるのではという期待の目を向けてくださっているという印象は受けました。
編集:その先生が感じておられた医療教育の課題はどういうところにあったのでしょうか。
藪田:先生は日本医科大学の教授として授業も担当されているのですが、学生さんが手術に実際に立ち会うということにかなりハードルを感じておられました。今までの教育は座学を中心としていて、そこにシミュレーターを使った授業をプラスしていたんですけど、いざ学生さんが研修や実習で現場に入ると、シミュレーターとのギャップがあまりに大きくて、自信がめちゃくちゃ落ちてしまうというんです。
編集:シミュレーターで見ていたものと現場が全然違って、混乱してしまったり、自信を失ってしまったりすると。
藪田:そういうデータが実際に出ていたそうです。シミュレーター自体も人体模型なので、手順自体はある程度理解できると思いますが、現場の空気感や他のスタッフの動きは体感できませんよね。ここのギャップをどうにか埋める方法はないか、と。それには、臨場感があってリアリティが感じられるVRが有用なんじゃないかということで、問い合わせをいただいたわけです。
編集:すぐにコンテンツを作ることになったのですか?
藪田:いえ、作りたいというお話にはなったんですけど、VRをゼロから制作するとなると、けっこう資金面がハードルになりまして、実は1回流れそうになったんです。しかし、相手の先生の熱意も感じていましたし、ジョリーグッドとしてもそれにお応えするべく、医療教育を発展させるためにベストなかたちを模索し、実現にこぎつけました。
コロナ禍でも充実した授業を実現
編集:実際にそのコンテンツが授業で活用できるようになったのは2019年とのことですが、一方、今年に入ると新型コロナウイルスの影響を受け、大学の授業がガラリと変わったと思います。藪田さんの仕事にも何か影響がありましたか?
藪田:医療機関さんはそういったことにとても敏感ですので、早くから影響がありました。日本医科大学さんでいうと、2019年12月頃に予定していたイベントが延期になり、4カ月ぐらいは毎月「いつ頃できそうですか?」と定期的に連絡を取り合っていたんです。そうした中で、「イベントどころか授業も全然できず、本当に困っているんだよね」という話をチラッと伺いまして。「あ、そうなんですか……」とお返事する一方で、これ、VRで解決する方法が何かあるんじゃないかな?と思いまして。
編集:何かひらめいたんですね?
藪田:当時、社内でリモートVRシステムを検討していましたので、もしかしたら良い機会かなと。我々のVRって、タブレットとゴーグルを接続させて、タブレットで再生や一時停止ができたり、タブレット上で「ここ見てください」と矢印を書いたら、VRゴーグル上で見たりできるようになっているんです。そのVRゴーグルを生徒さんの自宅にお送りして、先生は大学などでタブレットを使えば、通学できなくてもリモートで授業ができるのではないかと提案しました。
編集:学生さんが50人いたら50人にそれぞれゴーグルを送って、同時に受講してもらうんですか?
藪田:そうですね。もちろん、いきなりその規模で運営するのは難しいので、最初はスモールスタートといいますか、ちょうどそのタイミングで実習に来られていた生徒さん3〜4名で、実験的に始めさせていただきました。
編集:先生が実際に授業をしている。それを自宅にいながら受講できる。
藪田:そうです。実際はzoomみたいなオンライン会議システムで授業を行い、VRで実際の症例を見てみようという流れになった時に、「じゃあみなさんゴーグルかぶってください」と。そこで見る映像をタブレットで一斉に操作するというようなイメージです。
編集:例えば先生が処置のところで映像をストップして、「ここがこうなんだよ」と説明したりできるということですか?
藪田:はい、そうですね。コミュニケーション自体はzoomで通常どおりできるので。
編集:それはすごく理解しやすいですね。
藪田:そうなんですよ。その次の回が5名くらいだったかな。その時にテレビの取材が入ったりして、だんだんと規模が大きくなっていきました。VRゴーグルも、日本医科大学さんに置いてあるゴーグルが今は30台なんですけど、今後は100台以上に増やしていくという意向がありますので、どんどん規模を広げ、一歩ずつ、現実的な段階に進んでいっている感じです。
編集:講習を受けられている生徒さんの反応はどうでした?
藪田:やはり、VRを体感する前と後だと、質問のしかたというか、テンションが変わりますね。たぶん講義だけだと実際のところがなかなか想像できなくて、質問が出ない場合もあると思うんですけど、VRでリアルに体験することで自分ごと化できるというか、質問もかなり白熱しました。
医療領域でのニーズの高まりを実感
編集:もしかしたら、医療教育というのは、いかに自分ごと化してもらうことが一番大事なことかもしれないですね。テレビなどでは、手術室にガラス張りの見学スペースが併設されているのを見ることがあるのですが、あのように手術室全体を俯瞰する感じでしょうか。
藪田:あれはどちらかというと第三者的に医師の先生や助手の動きを見ていると思うんですけど、我々のVRだと、執刀医や助手、看護師といった方たちに憑依するような目線でコンテンツを作り上げるので、見え方がよりリアルで、質の高い情報が得られるのかなと思います。
編集:なるほど。しかも今年のようなコロナ禍の時期だと、研修すら受けにくくなる。そうすると、卒業に必要な単位すらどうなるかわからない。そういうところにVRが有用だということですね。
藪田:まさしくそうです。今問い合わせいただいている他の大学病院さんも、研修ができないから単位が与えられないのだけれど、学生さんたちは国家試験を控えている。なんとかそれまでに現場実習を終えて単位を与えたいという課題に本当に悩まれていて、そこにVRは使えないかというお問い合わせはいただいています。
編集:医療教育におけるVRのニーズは高まっているとお感じになりますか?
藪田:すごく実感しています。私が入社したのは2年ほど前なんですけど、その頃は「VRってどう使えばいいのかわからない」「VRで研修?どういうことですか?」「ゲームじゃないの?」みたいな感じだったんですよ。それから比べれば、今はより具体的に「ここの手技の研修にVRを使いたいんですけど」といった内容で問い合わせが来るようになったので、だいぶ世の中で常識化されているな、研修課題の解決策としてVRはかなり有力な位置にいるなと思いますね。
人の命に関わることの責任と使命感
編集:入社された頃の藪田さんはジョリーグッドでこれがやりたいとか、こういうことでVRを使ってみたいという考えはあったのですか。
藪田:私の前職は機械系のメーカーでして、海外のオイルプラントや電力発電所などで使用する機械を納品したりしていたんです。
編集:現職と全然違いますね(笑)。
藪田:そうなんですよ(笑)。そういった業界って、海外にエンジニアを派遣しないといけないんですね。私が担当していたエリアは、ナイジェリアやアルジェリアといった石油が採掘できるアフリカの地域だったのですが、日本に比べると治安が悪く、そこにエンジニアを日本からわざわざ派遣するとなると結構ハードルが高いんです。でも、たとえばプラントで機械が壊れた場合、プラント自体が止まったら1日何億円という損失が出ますから、クライアントとしてはすぐに人が必要になりますよね。
編集:それはそうですね。
藪田:そういう中で、たまたまVRという技術を知り、わざわざ危険な地域に人を派遣しなくても、VRを活用して現地の人たちが自分で故障やトラブルを解決できるようにしてあげられるなら、すごく有効なテクノロジーだなと思ったんです。そこからVRに興味を持ったという経緯がありますので、ジョリーグッドに入った時は、どちらかというとプラントとか機械系の技術伝承にVRを活用したいと思っていました。
編集:実際、ジョリーグッドはそういった企業研修にも長けていますからね。
藪田:ただ、今はやはり医療の領域に力を入れるべきだと考えています。医療業界ってアメリカなどでもそうなんですけど、先端技術を取り入れるのが一番早い業界といわれているんですよ。長期的には製造業やプラントなどでの活用にも広がっていくと思いますが、今は医療業界がどんどん発展していく領域なんだろうなと感じています。
編集:それだけ医療領域にはすぐにでもVRを必要としている部分が多々あるということでしょうね。そのぶん手応えというか、やりがいがありますか?
藪田:すごくありますね。何かしらのかたちで人の命を救うことに関われるというのはモチベーションにつながります。今までそういった意識はあまりなかったんですけど、手術VRの制作などで現場に入り、先生方の意思決定の早さなどを目の当たりにすると、あ、この人たちは本当に「人の命と向き合っている」のだなと、その責任の重さと使命感の強さを感じるんです。自分にとっては、それがとても良い影響になっていると思います。
鈍感力と加点方式がジョリーグッドのキーワード?
編集:ジョリーグッドでは今年、ECMOのトレーニングツールも早急に開発しましたが、医療現場は常に時間との戦いで、すぐにでも対応が必要となる場合が少なくありませんよね。
藪田:その点では、ジョリーグッドのスピード感が大きな強みになっていることを実感しています。どのフェーズでも反応がめちゃくちゃ早い。私の場合、前職では重工業という歴史の長い業界にいましたから、どちらかというと時間の流れがゆったりしていて、それこそ1週間以内にメールを返信すればOKみたいなテンションで(笑)。その点からするとジョリーグッドは全然桁が違うというか、社内コミュニケーションツールで30分以上返信していないと、ちょっと遅かったかな?って焦るぐらい、周りの動きが早いんですよ。
編集:ちょっとプレッシャーですね(笑)。
藪田:そうですね。あ、もちろん良い意味で(笑)! 質問したことがすぐに返ってきて仕事がスムーズに進むこともあって、本当に助かっています。そういった一つひとつのスピーディなコミュニケーションの積み重ねで、開発の早さが実現できているんじゃないかと思います。
編集:ジョリーグッドは若い社員が多いこともスピード感につながっているかと思いますが、藪田さんも20代ですよね?
藪田:はい、今28歳です。
編集:これまでの日本の企業は、難しい仕事になればなるほどベテランの社員を担当につけて、さらにその上に管理職が入ってという体制が多かったのではないかと思います。でもジョリーグッドではそういう文化は一切なく、若い社員をどんどん動かしてスピーディに対応するのが普通ですよね。
藪田:そうですね。そのぶん責任もありますが、プレッシャーにはならないです。なぜかというと、どの上司もかなり男前というか(笑)、うまくカバーしてくれるだろうという信頼感があるからなんです。何かミスがあった時もそうですし、ふだんでもそういう心理的なバックアップがあるから、若い社員でも経験不足でも、堂々と先方と向かい合える。
編集:おおっ、就活中の人たちがこの記事を読んだら、今の言葉がすごく響きますね。
藪田:ですよね、そのために言いました(笑)!
編集:やられた(笑)。でも、仕事上でどんなに厳しいシーンがあっても、任せられる部分とフォローしてもらえる部分が両方あると、気持ちを強く持って働けますよね。
藪田:そうですね。うちは結構ポジティブな人間が集まっているので、ピリピリした空気になることもありませんし、あんまりプレッシャーを感じたことはないですね。社内の雰囲気がすごく良いので、そこで生まれている信頼から、勝手に「みんな助けてくれるだろう」って思えているのかもしれないですね。
編集:藪田さんだって、常に順風満帆というわけではなく、失敗したこととか、落ち込んだこととかありますよね?
藪田:はい、落ち込んだことも…うーん、あります。
編集:なさそう(笑)!
藪田:そうですね。鈍感力が強くて(笑)。
編集:鈍感力(笑)。でも、その鈍感力って大事かもしれませんね。こういう動きが速い会社にいると、きめ細やかにあれこれ気にしすぎているとその間に次の仕事がどんどんやってきて、周囲のスピードに追いつきにくくなってしまいそうですから。
藪田:そうかもしれないです! 「次」がどんどんやってきますし、一つのミスや落ち込むようなことがあっても、やるべきことが他にいっぱいあるので、あまり気にならないんです。社内でも、加点方式というか、何か良い提案や動きをすれば、どんどん評価してどんどん機会を与えられますから、マイナス部分は消えていきます。
編集:鈍感力と加点方式で、気持ちもプラスにしていけるわけですね。
藪田:そうですね、はい!
スピード感を武器に、世界の医療を支えたい
編集:藪田さんは今、新たに手がけているプロジェクトはありますか?
藪田:手術室にVRカメラを設置して、熟練医師の手技をはじめ、第一助手やベテラン看護師、メディカルエンジニアなど治療現場にいる専門スタッフの視野を高精度な360°VRカメラでライブ配信する「オペクラウドVR」というシステムがあります。これを、我々が実際に撮影に行かなくても全国の病院や施設で自動的にコンテンツを作れるようなシステムにバージョンアップし、それを医療研修のクラウドにあげて、全国どこでもシェアできるようなサービスを築いているところです。
編集:そのコンテンツを、全国の学校で医療研修に活かせるようにするということですか?
藪田:そのとおりです。学生さんも、地方の病院に研修に行っても多くの症例を学ぶ機会があまりないので、どうしても大都市の病院での研修を希望します。それによって結果的に医師の遍在化問題が生じてしまうんです。そういった中で、VRの活用によって少なくとも教育の面においては学ぶ機会を均一にできれば、その遍在化問題の解決にもつなげられるのではないかと願っています。
編集:確かにそうですね。地域ごとに教育の内容に差がついてしまうのはとても残念ですし、それによって医療にも格差が生まれるのも心配です。
藪田:はい。かつ、働き方改革で研修時間もどんどん少なくなっていますから、短時間でより質の高い研修を求められます。物理的な時間が取れないことで、どんどん医療の質が下がっていくのは大きな問題ですので、VRのような技術によって、今までより水準を下げない、もしくはそれ以上の水準を築くための環境を整えることが大切だと考えています。
編集:ましてや今はコロナの時代ですからね。どこにいても同じ水準の医療が受けられるためには、VRが大きな役割を担っていきそうですね。
藪田:もっと言うと、僕は海外が好きなので、世界レベルで先を見ています。日本の地方と都会の話だけではなく、新興国と先進国とでも同じ問題があると思いますので、世界レベルで医療の水準を均一化できたら、もっと世の中や人類が良い方向に向かえるんじゃないかなと思います。
編集:ジョリーグッドのスピード感であれば、その日はきっと実現できそうですね。楽しみにしています!
Profile
藪田 遼 Ryo Yabuta
立教大学法学部国際ビジネス法学科卒。海外ビジネススクールに1年間留学。インターンとしてベトナムでレストラン立ち上げを経験。新卒入社した会社にてプラント・インフラ向け機械の海外営業を経て、2018年より現職。医療分野を中心としたソリューションの個別提案や事業開発を手がける。
Photo/Jiro Fukasawa