マンションの小さな1室から始まった
JOLiC編集部(以下、編集):
VRは本当にすごい速さの中で動いているのですね。スピード感でいえば、ジョリーグッドのメンバーもこの1年で格段に増えているようですが、創設時は3名で始まったと聞きました。
上路健介さん(以下、上路):
そうです。スタートはマンションの1室でした。
編集:
机が間に合わず、段ボールで作業していたなんて話も…(笑)
上路:
そのときの写真はどっかにあるんじゃないかな?トイレ掃除もみんなで順番にやっていました。もちろん僕は今でもトイレ掃除はしていますけどね(笑)
編集:
先行きの不安はなかったんですか?
上路:
最初は不安もありましたけど、2016年に放送メディア向けにVRを制作できるソリューションを発表したあたりから手応えを感じました。アメリカのTV局では当たり前のようにVRを報道に取り入れていたので、この波が日本に来ないわけがないと思っていましたしね。
編集:
ただ、日本はまだ誰もやってなかった?
上路:
アメリカに比べ、日本の放送業界がアナログチックだという部分もあると思いますが、一番は本業が忙しすぎてVRを掘り下げている時間がないこと。そこで我々は技術レッスンも含めた撮影機材、編集機材、映像を配信するアプリを全部パッケージにして売り込みました。たった4日でVRを始められるよ、と。思った以上に放送局さんからの需要があり、確信に変わりました。
編集:
テレビ局にサービスを提供すること自体、簡単ではないと思います。
上路:
僕の場合は前職がTV局、転職した広告代理店でもテレビ局と仕事をしていた実績があったので、提案しやすかったのは間違いなくありますね。
編集:
VRを「こういうふうに使ったら面白いのでは?」と提案するパターンもあると思うんですけど、そういったアイディアはスタッフの皆さんから出てくるんですか?
上路:
どのテクノロジーを使うかは僕が中心に考えて、実現するのはCTOを中心としたメンバー。CTOはドラフトをつくる天才で、即効で完成するんですよ。ただ、それがどう売れるか、クライアントがどんなコンバージョンを求めているか、そのあたりを察知する力は僕自身これまでの経歴で鍛えられてきたので、そこにつながるパッケージづくりは最後までこだわっています。
「個性を出した者勝ち」のマネジメント
編集:
現在の社員人数は34名ですね。(2019年現在)
上路:
2017年までは10名ぐらい。昨年で30名まで増えました。3倍になっていますね(笑)。
編集:
上路さんが考えたものを具体化するために多くのスタッフが必要になってきたと?
上路:
つくるという意味ではもちろんですし、売るという意味でもそうですね。需要があるとわかったものに対してのマーケティングやプロモーションをしなければいけない段階に来ていると感じています。
編集:
となると、今、集まっている方たちはそれぞれの分野のプロフェッショナル、精鋭たちを集めている?
上路:
そうですね。幸いに個性がある面白いメンバーが集まっていて、出身業界もバラバラなんですよ。食品のECサイトから来た営業もいれば、「重工業で使うポンプをインドで売ってました!」みたいな人もいて、なぜVR業界に?と僕も思います(笑)。最近では、集合研修のプロが入ってきて、VRを使った研修事業の強化も進んでいます。
編集:
専門的な力を持つ人を生かすと?
上路:
まさに、そうです。会社が大きくなればなるほど、どんどん“ガチ”な人が集まってきて、完全に動物園みたいになっていますね(笑)。
編集:
動物園ということは、上路さんは猛獣使いですね。
上路:
うーん、猛獣使いというよりは野放しって感じかな(笑)。むしろ、野放しにして、それぞれがどんどん発信してほしい。「自分はこういう生き物だから」と主張していいと思っています。実際に社内ではそういう場が結構多いですね。
編集:
どちらかというと自由な社風を目指している?
上路:
自由というか、個性を出した者勝ち。別に無理やり僕や同僚に合わせなくていいよという考え方。今までの会社がこうだったからこうでなきゃいけない、みたいなものをなるべく撤廃したいと思っているんです。
編集:
チームづくりにおいて何か影響を受けたことはありますか?
上路:
ひとつあげるとすると、アメリカでGoogleのオフィスへ行ったときに、すごく自由な施設だなと驚いたんですね。明るくて、笑顔が多い。施設も関係性もそれぐらいの開放感が必要。
編集:
動物園というより、サファリパークですね(笑)。
上路:
そうかもしれない(笑)。でも一番大事なのは、そのサファリパークが楽しいかどうか。たまに水を撒いたり、木を植えたり、ここに山をつくろう!みたいなことは絶対に必要。小さな変化は常にあるべきだと感じています。
変化を恐れたら、進化は止まる
編集:
楽しいだけでなく、変化し続けることが重要だと。
上路:
進化っていうのは変化の中にしかないと思っていて。何かを変えていかないと進化をするきっかけにならない。だから“変えること”を恐れない。ジョリーグッドはいろんな制度を設けているんですけど、これもさらっと撤廃するかもしれないし、また新しい変な制度を出すこともあるでしょう。その繰り返しなんじゃないかな。
編集:
変化や刺激は常に上路さんから与えていく?
上路:
もちろんその立場ですからね。ただ、「もぐもぐタイム*」というみんなでおやつを食べる時間があるんですけど、これはある一社員の発想から始まったもの。社員の声から生まれた制度はいっぱいありますし、むしろ、そうなってほしいですね。僕が何もしてなくても、いろんなサービスがあって、「お、面白いことやってんな!」っていう状態が一番楽しいですから。
*もぐもぐタイム…栄養たっぷりのフルーツなどをみんなでもぐもぐするリフレッシュタイム
編集:
聞いているだけで楽しそうですね。実際に職場は楽しいですか?
上路:
めちゃくちゃ楽しいですよ。うちのようなテックカンパニーは男だらけになる傾向があるけど、女性率が高いからか、空間的に華やかさがある(笑)。女性社員の中にはみんなの誕生日をちゃんとチェックしてくれていて、ケーキを準備してくれる人がいたりとか。空間として会社にいるときが一番快適。家よりも…って言っちゃダメだね(笑)。究極の言い方ですが、僕は長い休みは苦しいかもしれない。
編集:
仕事がヴァケーションなんですか?(笑)。
上路:
よく南の島に行きたいっていう話があるけど、あれ何が面白いの?っていうくらい、まったくわからない(笑)。僕は常に新しいことを考えていたいし、いろんなことを世に放ちたい。2週間も世の中から遅れたら、もう負けるだろうなって思っているんですよね。休みの日にランニングしていても、「あ、なんかいいこと思いついた」と立ち止まってiPhoneにメモしたりとかね。
編集:
今年のGWは長かったですよね(笑)。
上路:
あれいらない!(笑)。今でもハングリーな田舎者から這い上がってきたっていう自負があるので、この時間で追い抜いてやろうみたいな心はいまだにありますね。
編集:
えっと、スタッフのみなさんは休んでいいんですよね…?(笑)。
上路:
もちろん!むしろ、ガンガン休んで!イベントの直前とか納品が迫っているときなどは遅くなることもあるんですが、基本的にはみんな早く帰っていますね。むしろ、僕自身が早く帰りますから。やっぱりね、遊ばないとインプットはできないんですよ。
編集:
上路さんは何をしてリフレッシュするんですか?
上路:
スキーへ行ったり、結構アクティブに行動するタイプ。そういうインプットはすごく大事にしています。Enjoy10%という制度では、1週間の就業時間のうちの10%は、外で自由にインプットに使っていいんです。あと、婚活パーティ補助制度もありますね。
編集:
VRの会社のイメージとは違いますね。
上路:
VR業界の中だけに収まると絶対に新しい発想は生まれないですし、僕もVRだけのイベントとかは出ないんです。何か異業種が絡んでいないと。外でのインプットはコラボレーションのチャンスを掴むきっかけなんですよ。
編集:
ジョリーグッドに入って雰囲気が変わったなっていうスタッフさんはいますか?
上路:
いっぱいいますよ!
編集:
やっぱり表情も変わってくるものですか?
上路:
全然違いますね。みんなが口を揃えて言うのは、我々がつくっているものは、他社と比較した上で評価を受けているので、自信を持って伝えられるのが楽しいと。実際にデモ機を持っていくと、VRを体験したことがある人でも、「前見たやつと全然違うぞ」と。大したことないねって言われたことがまずないですから、そこは営業担当も嬉しいと思いますよ。
編集:
では、最後に質問です。上路さんの弱点はなんですか?
上路:
弱点⁉️ ・・・何だろう、高所恐怖症ってことぐらいかな?(笑)。
編集:
意外ですね!失礼かもしれませんが、「怖いもの知らず」という印象を受けたので…。
上路:
(笑)。でも、僕は何事も「同じ人間だからできる」と思っています。
編集:
人間がやったことは、自分にもできると?
上路:
そうです。自分にできないはずがないと、思い込んでます(笑)。
編集:
そういう野心や好奇心は昔からずっと変わっていないんですね。
上路:
立場や所属は変わっていますが、やっていることもこの20数年変わりません。むしろ、どんどん自由にやらせてもらえる環境になっている。今はしがらみみたいなものがないですから、すべて自分で決められますので。
編集:
どんどんやることが大きくなっているわけですから、それはもう仕事が楽しくて仕方ないですね。
上路:
でしょ? ヴァケーションに行っている場合じゃない。ヴァケーションはぜひ、VRで行きましょう(笑)!
Profile
上路健介 Kensuke Joji
株式会社ジョリーグッド代表取締役CEO。テレビ局で技術者として番組制作に従事した後、2000年から放送とインターネットを連携させた先端サービスを多数開発。2008年より博報堂DYメディアパートナーズにて事業開発チームのリーダーを務め、2011年から3年間単身渡米しロサンゼルスに滞在し、米国メディア企業らと事業開発。アジアでのメディア企業とのビジネス経験多数。2014年、株式会社ジョリーグッドを設立。2015年、プロフェッショナルVRラボ「GuruVR」を立ち上げ、メディア企業向けのVR導入ソリューションはトップシェア。2017年、VR空間で行動データを取得できる空間解析AIエンジンを発表。累計10.5億円の資金調達に成功。
Photo:Jiro Fukasawa