豊かな経験をもってしてもJ・Gripへの入社が叶わなかった者がいる。
しかし、社内で活躍しているデザイナーの中には、入社当時に実務経験が皆無だった者もいる。であれば、採用の決め手はどこにあったのか?実務経験以外に、何を重要視しているのか?
今回は、J・Gripのデザイナーの採用を一任する、クリエイティブ事業部部長W氏に、デザイナーの採用についてインタビューした。
採用における実務経験の重要性
Q.デザイナーの採用に、デザインの実務経験の有無はどのように影響しますか?
『実務経験はあるに越したことはありませんが、それが採用に直結するとは言えません。
確かに、学校や趣味でしかデザインの経験がない人は、クライアント相手の仕事をしたことがない分、完成度やスケジュール管理に対する責任感が心許ないかもしれません。しかし、実務経験がたとえ10年あっても、決められた業務を「作業」としてこなしてきただけで自らの業務領域を広げようとしている記録がなければ、J・Gripのデザイナーには向いていないと思います。』
―実際、J・Gripには未経験からスタートし、現在は独り立ちしているデザイナーE氏や、インターンで入社し来年4月から正社員になることが決まっているデザイナーの卵N氏など、未経験でも採用に至った人がいる。
Q:「実務経験がなくても採用したい」と感じる人に、共通点はありますか?
『一番大きな違いは、「自分で解決しようとする力があるか」、というところですね。』
Q.それは面接時に、どうやって確認していますか?
『ポートフォリオを見れば、100%わかります。
たとえば経験ゼロからスタートしたEは、面接時にiPadで自作のHPを見せてきました。粗削りではあったものの、いろんなHPを見て自分なりに考えてこだわりを持って作ったんだということがわかりました。
J・Gripが求めているのは、与えられた仕事をタダ作業としてこなすだけの「スタッフ」ではありません。知識やスキルを能動的に吸収してそれをアウトプットしようとする「デザイナー」です。
特に実務経験がない方の場合、「私はこれからデザイナーとして頑張ります!」という意気込みを、どれだけアウトプットして面接に持ち込んできているかを確認しています。分からないながらも実行に移した行動力がある方は、本気度を感じますし、今後も成長が見込めると感じますね。』
Q.採用に至らなかった人の特徴は何でしょうか。
『「消去法でデザイナーを選んだだけで、極めるつもりはないんだろうな」と、感じる人ですね。
たとえば、イラストレーターを目指していた人が挫折して、「デザインならいけるかも」という姿勢でデザイナーを目指すとします。
きっかけとしては全く問題ないと思いますが、方向転換を決意したのにもかかわらず、「この道を極めよう」という姿勢が感じられないのは問題です。
甘い世界ではありませんから、デザイナーとして活躍したいと本気で思うのであれば、独立してもおかしくないレベルまで自分を高める姿勢で臨むことが大切です。
そうでなければ、デザイナーではなく、単なるスタッフになってしまうでしょう。』
伸びるデザイナーの素質とは
Q.採用には「デザイナーとしての素質」も関係していると思うのですが、素質を見極める方法はあるのでしょうか?
『面接時に、休日に何をしているかを必ず聞きますね。その回答から、ヲタクっぽさが垣間見えると「素質がありそうだな」と感じます。
たとえば「休みの日は渋谷に行く」だけではなく、「休みの日は渋谷に行きます。なぜなら渋谷のTSUTAYAにあるスタバから人間観察をするのが大好きだからです。半日座っていても飽きません。」など、楽しみ方が特殊であれば、変わった視点で物事を捉えることができる人なんだろうなと思います。デザインとしても新しい風を巻き起こしてくれるんじゃないかとわくわくしますね。
あとは、こだわりが強い人は単純に面白いです。例えば「カラオケ好きが高じてボイトレに通い始め、カラオケ大会で優勝した」など、得意なことや好きなことにこだわって、力を伸ばして結果を出している人、良いと思いますね。
その趣味がデザインに全く関係ないことだったとしても、「好きだから、とにかくやってみたい!」という強い想いと実行力は、デザイナーという仕事にも活きると思います。』
必要最低限のスキルと採用の決め手
Q.面接時までにクリアしてほしい「必要最低限のスキル」はありますか?
『デザイナーがツールとして使うものすべての基本操作は、最低限できてほしいですね。応用の使い方、教科書では教えてくれないような実践的な使い方を僕たちが指導して教えるためにも、特にPhotoshopやIllustrationの基本操作は必ず習得しておいてほしいです。』
Q.ズバリ、採用の決め手とは?
『ありきたりなことかもしれませんが、「デザインが好きであること」が何より大事です。
仕事はモチベーションに左右されることがあります。
たとえば、上司やクライアントから肯定され、良い評価を得られれば当然ながらやる気は高まるでしょう。そのような状態で作ったものは、やはり出来が良くなりやすいんですね。
反対に、コテンパンに酷評されることもあります。それで落ち込むのは仕方がないですが、どれだけ否定され続けてもデザインに対する熱量が衰えなければ、必ず、他人を納得させられる作品を作ることができます。そういう意味で、「好き」という気持ちは非常に重要です。』
採用面接の予習…面接官はどう見ている?
Q.今回の取材は、いわゆる「面接対策」にも分類されると思いますが、これまで面接して「この人は面接のために予習してきたな」と感じたり、面接時の模範解答から応募者の実態が見えにくかったりしたことはありますか?
『それはありませんね。どれだけ予習してきても、会話やポートフォリオから、その人自身が見えてきますから。
ただ、「予習してきたな」とわかることもあります。そういう時はストレートに「もしかして、うちの記事を読んできた?」と、僕は聞いてしまいますね。
僕としては、J・Gripに入りたいという気持ちが行動に表れているだけだと思うので、J・Gripに関するコラムを読んできてくれたことに嬉しく思うことはあっても、ネガティブに思うことは全くありません。だからといって、採用に直結にはなりませんが…。
たまに、面接対策記事を読み込んでJ・Gripに対して愛社アピールしてくれる応募者がいますが、J・Gripがデザイナーに最も求めているところはそこではありません。
あくまでも「デザインに対する“好き度“」や「“好き”だからこそ自力で極めようとする力」が重要です。』
“伸びるデザイナー”を伸ばせる企業とは
Q.最後に、デザイナーとしてバリバリ働きたいと思っている人たちがどんどん成長していけるような、企業の特徴を教えてください。
『事業が多岐にわたっている企業を選ぶことをおすすめしますね。実力が試される場が広いので、その分自分の伸びしろが広がり、結果的に自分のデザイナーとしての市場価値が上がります。もちろん、努力は必要ですよ。
反対に、たとえ内定が出たとしても断った方がいいのでは?と思う企業は、応募者をデザイナーとして評価しないところです。
せっかくポートフォリオを持ってきてくれているのに、作品に対する深堀もそこそこに、「何時に出社できますか」とか「新人社員はしばらく花壇の水やりを…」とか、くだらない質問に時間をさく企業があるんです。信じられないかもしれませんがそんな企業は本当にたくさんあります。そしてそんな企業は応募者を、作業をこなす「スタッフ」として求めているだけで、自分のアイデアや独自性を生かして能動的に仕事をする「デザイナー」として求めているのではありません。
「デザイナーとしてバリバリ働きたい・出世したい」と思っているのであれば、事業領域が広く、応募者を「デザイナー」として評価しようとする企業を選ぶべきだと思いますね。』
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今回のW氏へのインタビューで、デザイナーを採用する際には、デザイナーとしての業務領域を拡大するために自力・独学でどれほど努力できるかという点が、単なる実務経験よりも大きな判断材料となることがわかった。そしてそのためには、何よりも“デザインが好き”という大前提があるのである。
好きだからもっと知りたい、もっとうまくなりたい、現状で満足したくない。その単純かつゆるぎない思考と、それに伴う行動が、入社前に非常大切ということだ。
次回は、J・Gripの新人デザイナーの育成を担当しているT氏に、入社後に必要な心構えや行動についてインタビューした内容を紹介する。