※本記事は2022年当時の内容をもとに作成されたものです
こんにちは、石川樹脂工業専務取締役の石川勤です。前編に引き続き、弊社を代表する食器ブランド『ARAS』について紹介します。今回は、具体的なマーケティング内容とコンセプトの届け方について。その根底には、要となる“盤石な組織づくり”があります。今回もARASチームのメンバーである山中沙紀さんと水上絵梨香さんに話してもらいました。
石川
ARASチームの特徴は、それぞれがリーダーで、経営者で、マーケターで、企画者で……山中さんにしても、水上さんにしても、その他のメンバーにしても、一人ひとりがARASというブランドを体現している。それがこのチームのすばらしさだと思っています。
いかに、ARASのコンセプトを届けるか
ARASでは毎週水曜日に定例会が開かれる。プロジェクトの進捗状況を確認するだけでなく、メンバーがARASに対する想いや思考をことばにし、共有しながら議論を重ね、理解を深めてゆく。
ARASチームのミーティング風景
山中
全員が同じ判断基軸で進めていくために大切にしていることが「Who、What、How」という考え方です。新商品をリリースする際に、大まかな定義から最終的に一人のペルソナをつくり上げて、深層心理を紐解く資料を作成します。たとえば、架空の“山田さん”を想定して「どこに住み、何歳の子どもが何人いて、普段はどのような生活を送っているのか」まで細部までつくり上げて、Whoとなる対象を念入りに定義していく。
それを元にWhat(何をするか)を定義し、コンセプトがぶれないように一つひとつのコミュニケーションへと落とし込んでゆくことをHow(どのように)とします。
定義した「Who、What、How」をベースに、チーム全体で共有し、同じ意識を持ちながら広告やグラフィックへと反映させてゆく。「どこまでの表現がARASの世界観を損なわないか」あるいは、「より効果的に表現できるか」を、メンバー全員が同じ目線と判断軸で考えることができます。
水上
私は「営業部」という肩書でありながら、商品開発、プロジェクトマネジメント、マーケティング戦略、商品梱包、ユーザーとのコミュニケーション、とARAS全般の業務に関わっています。専門性はありながらも、全体に関わっている。その理由は、セパレートしないことで、コミュニケーションの分断を防ぐことができるから。
たとえば、商品の梱包一つにしても、生産の人との連携がとれていないとずれが生じます。コンセプトも、マーケティングも、プロダクトデザインも、生産ラインも、理解しているからこそ適切な判断ができる。自分の想いの強さだけで進めていくことが、お客様の満足に繋がるわけではありません。一緒に働いている仲間たちのことを考えて進めることが、結局ARASのためになり、ユーザーにとって良いものを提供することになるんです。
山中
ARASチームのメンバーは、それぞれのエリアのプロフェッショナルです。私であればマーケティングの領域でユーザーのインサイトや深層心理を誰よりも理解している。だからこそ、その視点に立った時に「プロダクトはこうあるべきじゃないか」「こう伝えた方がよりユーザーに響くのではないか」と積極的に主導して発信しています。
デザイナーなら「デザインの観点から」、専務なら「経営の観点から」など、一人ひとりがプロフェッショナルだからこそ、それぞれの価値を出そうという意識がある。専門的な観点からの意見を、みんなが尊重して受け止め、建設的に議論する文化があります。
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多様性に富みながらも、なめらかな意志疎通を成立させる。同じ価値観を共有しつつ、ユニークな個性を発揮し、互いが調和し合うことでブランドの価値を高めてゆく。だからこそ、強いチームなのだ。
マーケティングにおける“ARASらしさ”
水上
広告で効果的なロジックとARASが伝えたい内容は意外と違っていたりします。つまり、人の関心を惹きやすいアプローチとARASの世界観を伝える表現には差があるということです。そのバランスが難しい点です。
ARASの想いと数字などのファクト、その両方を大事にしつつ、毎回「この表現で良いのだろうか」と、チームメンバーと綿密にすり合わせています。効果的に広告を打ち出しながら、同時にARASの世界観も守ってゆく。
山中
コンセプトとなることばをつくり、チームメンバーと議論して「このキーワードだったら、もっと深く刺さりそう」と推敲に推敲を重ねて、一つのことばに磨き上げる。
この2年だけでも、キャッチフレーズは何度も更新されています。「強く、美しい、カタチ。」にはじまり、「こだわりがある人の普段使い食器」、「1000回落としても割れない器」「『食べる楽しさ』を親子でシェアできる」など。おうちごはんのニーズが高まり、それに合わせてことばも変化していきました。
(現行のキャッチフレーズを入れたKV)
コロナ禍もあり、価値観やライフスタイルに急速な変化が見られます。ARASもまた、根幹にある大きな価値基準は変わりませんが、ビジュアルやことばの表現は適宜調整していくべきだと考えています。
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今では自社サイトにおいて、ユーザーと直接コミュニケーションして、在庫もすべて一元管理している。オンライン販売によって幅広いアプローチが実現できるようになった一方で、「ネガティブな印象もまた広まりやすい」というリスクも増えた。テーマとなるのは、ユーザーとの信頼関係の築き方にある。あらゆるコミュニケーションに宿る“ARASらしさ”とは。
山中
そもそものARAS価値観として、“ただモノを売りつける”というより、“その人の食体験を美しく、おいしく、豊かにしたい”という想いが根底にあります。ユーザーのみなさんから質問が届いた時も、端的に答えるだけではなく、その人の食体験自体をより高めていくためのアドバイスや伝え方を工夫しています。こちらが一方的に得をするよりも、最終的にお客様にメリットを提供して、こころから「ARASを買ってよかった」と思ってもらいたい。
購入してくれたお客様がInstagramで投稿してくださることで、リアルタイムで気持ちが届く。「深皿スクープを買ってくれた人はこういう盛り付けをするんだ」「前のイベントに参加してくださった方がストーリーズで感想を述べてくれている」。お客様のリアルな声を感じることで、ユーザーのみなさんをイメージできている。だからこそ、一人ひとりに向けたコミュニケーションが思いつくのだと思います。
'22年5月に東京と金沢で開催した「Oyako Restaurant」のようす
水上
お客様からの問い合わせに対して、迅速な対応と改善を心がけていることもコミュニケーション上で重要なことだと考えています。たとえば、ECサイトで商品に対する問い合わせが入った時、次に同じ質問がないようにサイト上で回答したり、ページの表記を更新するなど、常に小さな改善は続けています。
以前、小皿スロープについて「楕円形と丸いお皿を選ぶことができますか?」と質問が届きました。器の形は一つなのですが、写真を撮る角度によって形が異なって見える(真上からだと円形、斜めからだと楕円形)。そのような質問が届いた時に、上からと、斜めから、デザートを載せたそれぞれの写真をグラフィックデザイナーのメンバーに作ってもらいました。問い合わせのメールが届いた20分後に反映させました。
専務がいつも口にしているのですが「メールが1通届いたら、その後ろには10人は同じことを感じている人がいる」ということば。一人の声に応え、小さなアップデートを繰り返すことがARASのためであり、より多くのお客様のためだと考えています。
お問い合わせへの回答となった、小皿スロープのグラフィック
一対一の深いところでリンクするコミュニケーション。その一方で、価値を最大化していくことも課題となる。“浅く、広く”ではなく、“深く、広く”伝える工夫。
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山中
一対一のコミュニケーションを大切にしつつも、マスへ訴えかける。Instagramの投稿一つにも高い熱量で向き合っています。ARASアカウントには現在7万人を超えるフォロワーがいます。一回の投稿で数万単位のリーチができます。それは、どこかの市の住民全員が目にするほどの規模です。
より多くの人に伝えるためには、ARASのコンセプトに基づいたわかりやすいビジュアル、わかりやすい説明文など、商品の魅力を理解していただける表現を練っています。
たとえば「割れない丈夫な器です」とだけ述べたとしても、受け手にはリアリティがありません。しっかりとメリットを提示して、“自分ごと”として受け止めてもらうこと。生涯破損保証が良い例です。さらには、それが単純に“割れない”だけでなく、私たちが環境について深く考えていることまで伝えていくきっかけになる。ARASを使用することが、社会にポジティブな影響を与えることを実感してもらうことが大切です。
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質問やコメント、クレームなど、そのすべてが改善のためのヒントとなる。アイデアから実行に移すまでの迅速さと柔軟さで、日々の小さなアップデートが繰り返す。そこにコミュニケーションにおける“ARASらしさ”の秘密がある。
ARASのこれから
水上
ARASが大事にしていることをぶれることなく、より多くの人に知ってもらえるブランドに育てていくこと。より永く、愛され続けるブランドでいられるよう、こらからも自分が率先してブランドの成長を引っ張っていくことができればと思っています。日本だけでなく、海外での展開を見据え、世の中にARASを広めていきたいで
山中
Instagramの投稿を見ながら、ARASが“世の中ごと”として受け止めてもらえている実感があります。ユーザーさんの「あ、これARASの食器だよね」というコメントに「広告で見ていて気になってたの」「私もずっと気になってた」「今度はお家に遊びに行った時に見せて」というやりとりを見かけます。また、身近なコミュニティからもARASの声が聴こえるようになってきました。
これからは、日本のみならず他国の人々にも「新時代の器」として受け入れられるようになるとうれしいです。フィンランドのiittalaやMarimekkoのように、「新しいムーブメント生み出す日本の食器ブランドと言えば『ARAS』」と認識してもらえるよう。それだけの価値と新しさは、わたしたちのブランドのパワーとして備わっていると思っています。
同時に、これから益々大きく成長できたとしても、最初から応援してくださっているARASのアンバサダーさんやユーザーさん、大切なお客様一人ひとりの声を大事にし続けたいと思っています。その声にブランドの本質が宿っている気がしていて、その時々のリアルな反応を受け止めたい。決して奢ることなく、自分たちの利益だけを追求する姿勢にはならず、一人ひとりに耳を傾けながら、ブランドの在り方を考えていきたいと思います。
石川
ARASはまだ若いブランドですし、今後も成長していきます。チームメンバーもARASを通じて一人ひとりが「豊かな食体験」や「より良い社会」を考えるきっかけになったでしょう。それぞれがブランドのことを考えて、頭を振り絞って自分の専門性を発信してゆく。それが「ブランドを体現すること」だと思っています。
同時に、ARASは「人材教育の場」としての役割も担っています。今後も、チームメンバーに良い影響を与えるようなブランドで在り続けたいです。
地ならしから、地固めを経て、豊かな土壌を耕してきたARASチーム。これから、どのような個性やプロダクトが育まれてゆくのかが楽しみだ。ARASが提示する新しい価値観とライフスタイルは文化となってゆく。素材の力で世界を変える。