IT人材の採用支援を中心に事業展開する株式会社アイデンティティー。2018年に入って3社から、総額4億円の資金調達を実施しました。とはいえ、わが社はまだまだ成長段階。「自分が成長すれば幸せにできる人が増える」と語る代表取締役・今野力が創業からの10年間を振り返ります。
“アイディンティティ―”がある組織を生み出したい
僕のキャリアの出発はシステムのエンジニアです。
就職時からすでに起業することは決めており、29歳まで開発の仕事を経験。その後、営業・人事・経理など起業に必要なスキルを身に付けるために転職し、最後は取締役にまでなりました。組織の中でもリーダーから取締役へと高いポジションを得ることができました。優秀だとか才能がある前に元々順応する力、コミットする力が強かったからだと思います。
一通りを学んだところで35歳の時に退職し、2008年に株式会社アイデンティティーを設立。
起業は決めていたのですが「きっかけ」は、実を言うとコレといったものがないです。漠然と社長になりたい、自分を試してみたい、と思っていた僕の自己主張のひとつを叶えたというところでしょうか。それが会社名に由来しているところでもあります。僕は自己を確立することはとても大切なことだと考えています。
“アイデンティティー”――この社名には「仕事を通して自己を確立できるような組織体をつくりたい」という想いを込めました。
とにかくポジティブに、がむしゃらに――その先に見えたのは新たな希望
最初の5カ月はひとりでした。取締役から何の保証もない状態になります。
しかし立ち上げ当初の3カ月間は売り上げがまったくない状況。受託の仕事を受けながら、マークシティーのバーチャルオフィスで一台のパソコンを持って仕事をしていました。
そんな中でもポジティブ思考は変わりませんでした。
それからは常駐先で朝の9時から夜の9時まで業務をこなし、その後に夜9時から朝の5時まで受託の仕事をしていました。1日4時間寝て徹夜する毎日です。
その受託の仕事で原資を貯めて事務所を代々木に設け、アプリチームを編成しました。アプリ開発創設期に関しては4人でひたすらアプリをつくる毎日でした。1年で100本アプリをリリースすると言う目標を掲げ、結果的に200本以上リリースすることができ、DL(ダウンロード)数が100万を超えるものもありました。
あの頃は朝5時まで働いてみんなで富士そばに行ってビールを飲んでまた仕事に戻る、こんなドタバタした毎日を送っていました。まさにファミリーカンパニーですね。
それもあって株式会社アドウェイズより出資を受けました。その出資金と手元資金をもとに、勝負に出ました。
約3000万円を投じてソーシャルゲームアプリをつくったのですが、大ゴケ。手元には500万円しか残らず、毎月、当時の社員に通帳を記帳しに行かせていました。「今野さん、すげー減っています、めちゃくちゃ減っています、200万単位で減っています」と周りも焦りを感じていました。2012年当時、会社は財務上、危機的な状況でした。
そんな状況で新卒を3人雇い、採用に120万円出しました。その中のひとりが2018年8月現在、取締役の井上です。さらに人を雇いましたからちょっとしたギャンブルでしたね。
当時の井上は、とにかく電話をかけまくっていました。彼が電話をしていた先は、BP(ビジネスパートナー)。案件を調整して、人材ビジネスの領域を驚異的に広げていたんです。
当時は多くの人が入ってきては辞めていきました。辞めていく人は私と合わない人間だったとその時は思っていました。お山の大将ですね。私の寛容さが足りなかったと思います。
その後、人員も増え、事務所を変え、現在のビルに落ち着きます。
ファミリーカンパニーから組織へ
そして20年以上IT業界にいたこともあり、IT人材に貢献したいという想いと、ちょうど当時のIT人材の慢性的な不足を背景に、1期目でも行なっていた人材紹介にサービスの主軸を移し、AIを活用したIT求人メディア『braineer』が2017年1月から本格稼働したことが、成長に大きくつながりました。
『braineer』の営業は、若手メンバーが主体となっていますが、2018年7月ですでに540社以上の掲載契約を獲得。年内には660社程度となる見込みです。貢献したいという想いではじめた事業に手応えを感じられるのは嬉しいことです。
2017年の香港社員旅行は忘れられない思い出です。特別行政区ならではの湿気を含む自由な熱気と、旅行をエンジョイする社員のエネルギーに圧倒されました。恥ずかしながら、初めて意識を失くすほど飲みました。どのようにしてホテルまで戻ったのか思い出せません。
よっぽど、楽しかったと思います。社員みんなが家族のように思えたのでしょう。子どものいない私にとって家族を持つということを初めて実感した出来事だったと思います。しかしながら、平均年齢27歳の若手を前によくそんなことをしたなと思います。
“挑戦”から“成長”へ――自分が成長して、幸せにできる人を増やしていく
規模的にはファミリーカンパニーを超え、組織と呼べるようになってきました。もうお山の大将ではいられません。大いなる責任に対し、正しいことを選べる人間にならなければ会社の代表として失格です。それには、自分が変わらなければなりません。
日々の小さなことを積み重ねていくこと。私はそれを「小さな革新」と呼び、社員にも奨励しています。意識して自分を変えていくことで「成長」につながるからです。
2017年にタバコを辞めました。頻繁に参加していた社員との飲み会も途中で切り上げ、朝活しています。
当初の目的も変わってきました。
自分を試すために社長になったのですが、規制やレギユレーションに縛られています。そこから営利活動もしなければなりません。組織が大きくなる度に成果を出すのは厳しいと実感しています。個人だけでなく、団体として成果を出すのは、簡単ではありません。
ですが今、社長を続けているのは「成長」を実感しているから。当初の「挑戦」から「成長」にシフトしたいと思います。シンプルに考えれば「自分が成長すれば幸せにできる人が増える」と思うからです。そのためにも、自分はいい人間ではないかもしれませんが、誠実な人間でいたいと思います。