なぜ働くひとは健康を損ねるのか。日本企業には労働安全衛生法があり、産業医という役目がいるはずなのになぜ健康を守ることができないのか。産業医・山田洋太の「Why」がiCAREを創業に向かわせ、iCAREのもとにプロフェッショナルを集め、Carely(ケアリィ)という事業に繋がっています。
「働くひと」の健康を創る主体は個人でもなく病院だけでもない、企業です。生産年齢人口の減少による労働力不足の解消だけではなく、人的資本経営があたりまえの時代となった今、「健康」は重要なキーワード。
企業による健康管理の在り方を唱え、健康づくりの仕組みの伴走支援によって経営を後押しする事業に挑むiCAREの創業ストーリーをお届けします。
働くひとの健康を創る、予防インフラ
私たちiCAREは「働くひとの健康を世界中に創る」というパーパスを実現するため、「予防医療」に注目し、法人向けに健康管理クラウドと専門家による人的サービスを提供しています。
そもそも予防医療に着目したのは、沖縄の離島医療の現場が原体験となっています。
病院の外に出ればさとうきび畑と海という島に、そこで暮らす人々の暮らしがあります。病院という非日常と、患者さんの日常という異世界がすぐ隣り合わせです。
そんな中、何度治療してもまたすぐに来院する患者さんの暮らしを見せてもらった時に、なぜ健康を害しているのかを理解しました。
患者さんの日常の環境を知らずして、日々治療やアドバイスを行っていた自身の医者としての向き合い方を改めるとともに、環境が変わらなければ本質的には健康になれない、だからこそ持続可能な「予防インフラ」の必要性を実感しました。
その後MBAの在学中に、心療内科医として多くのメンタルヘルス患者の治療にあたり、働くひとの健康が損なわれている現実を目の当たりにします。その経験から今度は産業医となり、企業のアナログな健康管理業務の実態に直面します。
これでは健康を守ることもできない。何らかの仕組みで解決できないものか?その働きかけが結果として働くひとの健康を創ることにつながるのではないか、そのような想いが私をiCARE創業に向かわせ、今の事業の軸となっていきました。
iCARE代表取締役CEO・産業医 山田洋太
苦境の創業時代とCarelyの誕生
企業の健康管理業務のブラックボックス化に危機感を覚え、ビジネススクール時代の同級生と共に、2011年に株式会社iCAREを創業します。
最初は産業医や産業保健看護職など、いわゆる専門家に向けて情報を一元化できる電子カルテのようなサービスを展開。しかし、ローンチ後1年で導入企業はわずか1社、創業当初から苦境に立たされます。
当時は、心療内科医でストレスの専門家であったはずの自分が、メンタル不調による不眠に陥るほどに追い込まれていました。
それでも撤退しなかったのは、創業への思いと、何より自分を信じて今も力を貸してくれる投資家の皆様や仲間の存在があったからだと思います。
その後は様々なアップデートを繰り返しながら、ついに2016年、現在のCarelyをリリースしました。前身のサービスのように、情報を一元化できる電子カルテという性質はそのままに、人事労務の業務負荷を軽減するサービスへと大きく方向転換しました。
眠っているままの健康診断の結果やストレスチェックの結果、減らない長時間労働。これらの情報を全てデータ管理すれば、膨大な時間を要していた法令対応が効率化、見えていなかった健康リスクが自動で可視化され、予防措置を講ずることができます。
なにより、「働くひとの健康」は本人の努力だけでは作ることはできません。例えば長時間労働の管理であれば、法令や規定の範囲内かだけでなく、ストレスの状態や健康状態から把握する必要があります。場合によっては作業環境や体制、作業内容を調整する対応が必要です。
Carelyはこうした企業主体の健康づくり=カンパニーケアを仕組みで解決し、働くひとの健康の予防インフラを構築するサービスです。
もちろん、Carelyも全てが順調だったわけではなく、100社100通りの企業の健康課題を解決するために、顧客の声に耳を傾け、産業保健や健康経営の専門家と連携し、ブラッシュアップを続けています。
サービスを導入して終わりではなく、運用に向けた体制構築を伴走し、企業の健康管理の土台を強固にする“パートナー”でありたい。
iCAREは健康づくりのプロフェッショナルカンパニーとして、そのようなサービス提供の形を目指しています。
変わる健康意識とiCAREの進む道
創業から10年以上の月日が経ち、健康の考え方は大きく変わりました。健康経営、人的資本経営が注目され、社員の健康投資が経営戦略に位置付けられる時代になっています。
労働安全衛生の分野では「身体的健康」「精神的健康」が重視されていましたが、働きがいや生きがいに関わる「社会的健康」が、多様な価値観が認められる現代において、人生の幸福感を高める重要な側面になっています。
私たちiCAREが考える健康も、この3つの健康の側面において納得した状態と定義しており、働きがいや生きがいを高められるようなカンパニーケアの在り方を提案できるよう、サービスを強化しています。
さらに、働くひとの健康データという資産を活用していくことや、産業保健の専門家との連携をより深め、産業保健そのものの社会的価値が高まるような知見や情報の発信も働きかけています。
働くひとの健康を創り続けてきた企業として、顧客や専門家、社会全体から一層信頼されるような事業を、そして企業経営を実践したいと思います。
働くことで健康を損ねる環境や仕事がこの社会からなくなること、そして一人ひとりの健康状態に合わせて組織が働きやすい状態へと変わり続けていくような未来の実現に貢献していきます。