泣きそうになった、あるおばあちゃんの話
HITOTOWAの荒です。今日は社員から話を聞いて思わず涙しそうになったできごとを紹介します。
HITOTOWAは兵庫県西宮市の浜甲子園団地再生事業区域におけるエリアマネジメント団体、「まちのね浜甲子園」の事務局をつとめています。そこで運営しているコミュニティスペース、「HAMACO:LIVING」でのお話です。
とあるおばあちゃんが、旦那さんを亡くされたときのこと。
そのおばあちゃんは最愛のパートナーを失った悲しみを心に負い、私たちが運営しているコミュニティスペースを訪れては、1時間以上も泣いていました。そうしてお話を伺えるうちはまだよかったのですが、次第にご自宅に引きこもる日々が増えていってしまったそうです。
深く落ち込んでおられるようすに、息子さんも不安に思われたのでしょう。息子さんから、スタッフに相談があったとのこと。
「コミュニティスペースに、カサブランカの植栽を置かせてもらえませんか。母に、毎日歩いて『水やり』に行かせるので、その様子を見守ってもらえたら……」。
そこから毎日、おばあちゃんはコミュニティスペースに歩いてきて、水やりをするようになりました。外に出て歩く、また命あるものを育てる役割を担う、というのはひとに活力を与えるのかもしれません。
徐々に本来のお人柄を取り戻されていったおばあちゃんは、コミュニティスペースで開催される集まりにも顔を出すようになりました。
また「まちのね浜甲子園」が運営するカフェ「OSAMPO BASE」でランチ会をしたり、団地の集会所で卓球をしたり、遠方にピクニックに行ったり……。
少しずつ、笑顔が増えていきました。
季節が変わり、カサブランカは枯れてしまいました。でもその植木鉢は、おばあちゃんのご友人が「この植木鉢でお花を育てたい」と、大切に引きとられていったそうです。
人生に寄り添うネイバーフッドデザイン
もちろん旦那さんを亡くされた悲しみは、消えることはないでしょう。それでも、私たちのコミュニティスペースがなにかのきっかけになれたことはとても光栄に思います。
また、今回の事例はスタッフと息子さんの相談しあえる関係性があったからこそ。困りごとを相談できるひとが地域にいることは、とても大切なんですよね。
HITOTOWAには、こういうエピソードがたくさんあります。
私はお酒が好きなので、最近は飲みながらこういったエピソードを思い出して感傷にひたることもあります。昔の自分からすると考えられないのですが、40歳近くになって、そういう時間が急に増えてしまいました。それはそれでいいものです。
まちで起こるひとつひとつ、出会うひとりひとりを大切にする
内閣府の『令和元年度高齢者白書』によると、2025年には65歳の高齢者が3,677万人となり、そのうちの約37%がひとり暮らしとなるそうです。
私はHITOTOWAを創業した当時から、今でも「世の中のためになる仕事をしたい」という思いが強いです。それは父親の背中から感じとった仕事観や、前職のデベロッパー時代の経験、また環境NPO活動の経験が影響しています。
創業から変わらぬHITOTOWAの使命は「都市の社会環境問題を解決する」こと。
特に防災減災、子育ての支援、そしてお年寄りの生きがいづくりをテーマとして掲げています。
「社会環境問題を解決する」というと、何か大きな見えないものに対して事業や仕事をしているように捉えられがちです。しかし、私たちが日々向き合っているのは、街で起こるひとつひとつの事象や、街に暮らすひとりひとりです。
また、「コミュニティ」というとなにか「集団」というものを思い浮かべます。それはきっと正しいとは思うのですが、「コミュニティのためにコミュニティがある」のではなく、「誰かの暮らしをよくすること、困りごとの相談に乗るためにコミュニティがある」と考えています。
今回ご紹介したおばあちゃんのお話も、それらの大切な姿勢をあらためて思い出させてくれるエピソードのひとつです。
ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために。コミュニティの鉄則かもしれませんね。
同じように「エリアマネジメント」というと、何か地域の大きな見えないものを追いかけているように感じます。たしかにそういう側面もあるでしょう。それでも私たちは「ひとりひとりの暮らしや営みの積み重ね」が本質だと考えています。
……コミュニティやエリアマネジメントについて話し始めると、つい熱が入り長くなってしまいますね。この話はまたいつか。
(荒 昌史)
*本記事は2020年にHITOTOWA web内オウンドメディア「How We Work」寄せたものを転載しました。