2022年4月、HITOTOWA初の単著である『ネイバーフッドデザイン──まちを楽しみ、助け合う「暮らしのコミュニティ」のつくりかた』が発売されました!重版出来、不動産協会賞の受賞など、発売から1年を過ぎた現在も、多くの反響をお寄せいただいています。
今回のWantedlyストーリーでは、書籍のプロデューサーとして伴走いただいた英治出版の高野達成さんをゲストにお迎えし、著者の荒とともに、出版のきっかけや制作時のエピソード、書籍に込めた思いについて語っていただきます。
なぜいま、『ネイバーフッドデザイン』なのか。15年にわたり実践を続けてきた荒の視点と、時代を捉えるビジネス書籍編集者ならではの視点が交わり、どのような対話が生まれるでしょうか──?
前編(本記事)では主に出版の背景を、後編では書籍の内容の一部に踏み込んで、より深いトークを展開する流れに。ぜひ最後までお読み逃しなく!
* 対談は2022年春に実施しました。出版記念としてHITOTOWA webで公開した記事を転載しています。
英治出版の社内でも共感を集め、走り出す
──まずは出版プロジェクトが動き出した経緯から、お聞かせいただけますか。
荒:創業当時から、どこかで「ネイバーフッドデザイン」を書籍として世に送り出し、さらに学びを得ていきたいと思っていたんです。そこでHITOTOWAが10周年を迎えるのを機に、2019年ごろからいよいよ出版に取り組みたいと考え始めて。知人に相談したら高野さんを紹介してもらい、英治出版さんに伺いました。思えば最近を除くと、リアルで会ったのはそれが最初で最後になりましたね(笑)。
高野さん(以下、敬称略):そうでしたね(笑)。いざ出版に向けて本格的に動きだしたときにはコロナ禍で、2年ほどオンラインで打ち合わせを重ねてきましたからね。
──英治出版の社内では、「メンバー全員がいいと思わないと企画が通らない」とか。今回の書籍も、そうした合議を経て進み始めたのでしょうか?
高野:ええ、企画が決まるには全員合意が原則になっていて。編集メンバーだけでなく、販売や経理、あらゆる社内の人が「これは自分たちの本だ」と思えるよう、全メンバーが参加する会議で、皆がいいと思ったものだけをつくる方法をとっています。ただ『ネイバーフッドデザイン』の企画は、最初から皆が賛同してくれて。「これはうちで出したい本だ」となりました。
英治出版では企画にGoを出すかの判断をするとき、「その著者を応援したいかどうか」がまず一番にあります。その上で、世の中にそのテーマを出す目的や、伝えたいメッセージに、自分たちが共感できるか。そういった点で今回の書籍は、皆の共感が集まりやすかったですね。
荒:僕が印象的だったのは、英治出版の社員さんに、地方から東京に出て来た方が何人かいて、「自身も近隣の人とのつながりが少ないと感じていた」というお話で。英治出版さんは「都市と地方の関係性」をマクロ視点で語る書籍も多く出されていますが、ネイバーフッドデザインはどちらかというと「社員の皆さんが個人視点でも関われる」点に興味を持ってもらえた、と伺ったのをよく覚えています。
高野:「自分の問題」だと捉えやすいテーマだと思うんですよね。私も大分県育ちで、就職を機に東京へ出てきたので、都市でのつながりにくさみたいなところは感じていて。子どもが保育園に通いだしてようやく、少しずつ周りとつながり始めた経験もあり、自分の実感からも「これは大事なテーマだ」と思えました。
「暮らしのコミュニティ」を育てる気運の高まり
──会社としても社会としても、この10年でいろいろな変化があったと思います。今このタイミングで『ネイバーフッドデザイン』の書籍が出る意義について、それぞれの視点からお話を伺いたいです。
荒:HITOTOWA目線だと、創業から10年以上が経ち、ネイバーフッドデザインの経験が蓄積してきたタイミングなのはあると思います。それに創業時はひとりだったけれど、今は社員がいて、「集合知」があると感じられる。その集合知を世の中に届けることで、同じような活動をする方々のお役に立てるのではと思いました。
もちろん、ネイバーフッドデザインはまだまだ発展途上で、これからも更新していくべきもの。ただ、そのためにもこのタイミングで一度まとめて、多くの方々からフィードバックをもらうことが重要なプロセスなんじゃないかなと。
高野:時代の要請にHITOTOWAさんの活動がマッチしていたからこそ、10年で着実に発展して、世に出していきたいと思えるものにまで昇華してきたんでしょうね。
一方マクロ視点でも、地方創生の話が十数年ぐらい前から出てきている。都市集中型に向かうのか、それとも地方分散していくのか。いろいろなレベルで議論されてきたなか、地域コミュニティの文脈でも組織づくりの文脈でも、「その人たち自身が自律的につくっていかないといけない」気運が、高まっていると感じます。
ネイバーフッドデザインの考え方はまさに、「その地域に暮らす人たち自身が主体性を持ち、自分たちの暮らしのコミュニティをつくっていく」発想が根本。こうした社会のパラダイム変化のなかで、ますます求められていくんじゃないでしょうか。
荒:そうした気運の高まりはすごく感じますね。もともと前職で2007年から近い取り組みを始めたんですが、当時は「コミュニティ」という言葉も「何それ?」という雰囲気があった。でも今は、その定義にゆらぎはあるものの、「コミュニティ」は一般的な言葉になっていると思うんです。
加えて東日本大震災が起きたり、近々ではコロナ禍があったり。単身世帯も増えて、漠然とした孤独感をすごく感じやすい状況にあるのは事実。かつ都市開発の文脈でも、どんどん開発を推し進めるなかで、つながりを分断するような一面もあった。そういう個々の問題が、全体として顕在化したのが今なんじゃないかなと思います。
高野:震災やコロナ禍などの影響はやはり、大きいでしょうね。時代の流れの大きな変化を感じます。
やっぱり、「都市」の課題を解決したい
──英治出版さんは「地域コミュニティ」関連の書籍もいろいろと手がけられていますが、ネイバーフッドデザインならではの立ち位置や役割をどうお考えでしょうか。
高野:ネイバーフッドデザインの主な領域は「都市部」ですよね。今までの地域コミュニティ論は、やはり地方創生の文脈が多かったように思います。だから都市の課題に根ざしてコミュニティづくりを語っているところに、僕は独自性を感じました。
書籍のなかで「しがらみでも孤独でもない」という表現が出てきますが、「つながり」は「しがらみ」になると窮屈になることもある。都市の暮らしにおける便利な部分と、足りない部分の両方を見て、よりよい形を模索しているのがとてもいいなと。
僕自身、田舎から出てきて東京に住んで、都市部ならではのよさも感じていて。都市の心地よさも失わず、かつ安心感が得られるようなコミュニティをつくっていく。そのバランス感覚を持って、リアルな感情に沿った話をしているのは特徴だと思います。
荒:「都市の問題に取り組む」はずっとテーマにしていたことなので、そう言ってもらえると嬉しいです。都市への一極集中と地方分散は、基本的には地方分散のほうがサステナブルなライフスタイルにつながっていくと思う。ただ、地方分散のあり方でも「都市機能」は必要ですよね。
だからむしろ、「都市と地方や農村のいい関係性」を、地方分散と言うのかなと。その視点では、ネイバーフッドデザインは「新しい都市のあり方」とも言えます。
──そもそも、荒さんが「都市」の課題解決に取り組み始めた背景とは……?
荒:NPOで環境問題に取り組んでいたころは、サステナブルに暮らすにはやはり農村に住むべきと思い、半農半Xの生き方に憧れていた時期もありました。でも、実際にそれができる人ってそんなにいないなと思ったんですね。できる方は尊敬しますが、自分にはちょっときついなと(笑)。でも、世の中にもそういう人が多いから、多くの人が都市に住んだり、マンションを買ったりするんだろうと思って。
ならば自分の使命としては、「都市」を通じてサステナブルな社会をつくるべきなんじゃないか。環境負荷が高い場所だからこそ、都市のあり方や、ライフスタイルに向き合っていきたい。そう思ったんです。まだまだ道半ばですが、都市のあり方や暮らし方を変えるヒントが、ネイバーフッドデザインだと思っています。
高野:この間、荒さんと当社代表の原田がお話する機会があって。そこで原田も「ネイバーフッドデザインは“都市の希望”だよね」と言っていました。私も本当にそうだなと思っていて。今は地方移住が注目されていますが、都市にも希望があることを皆が認識すべきだし、その希望を形にするために、都市に暮らす人たち自身がよくしていこう、と思う必要がある。ネイバーフッドデザインの考え方はすごく大事だと思います。
うちの企画会議で、皆が「自分ごと」として捉えやすかったのも、都市が舞台だからかもしれません。地方の話も意義は大きいけれど、自分たちはなかなか地方へ行かない。でも実は自分が住んでいるところに、課題はいっぱいある。その現実に目を向けて、自分にも何かできることがあるかもしれないと思えるのが、とても大事で。今まさに求められているし、伝えていきたいテーマですね。
荒:客観的にもそう言っていただけるのは嬉しいです。僕らも改めてその気概を持って、やっていきたいなと思いました。
「だれかの一歩」につながる書籍を目指して
──書籍をつくり始めるとき、「こんな本にしよう」と大きな方向性はどう決めていったんですか。
荒:高野さんとも社内メンバーとも、かなりディスカッションしましたね。ひとつ印象に残っているのは、打ち合わせで高野さんに「HITOTOWAの自己紹介本ではなく、ネイバーフッドデザインの本」とご意見をいただいたこと。そこで「ああ、そうだ」と気づきがあり、自分のなかで書籍のあり方が明確になりました。
書き始めるとどうしても思いが先行して、自分たちが実践してきたことを全部出さなければという気持ちになっていたんですが、そうじゃないなと。つくりたいのは、読んだ方がネイバーフッドデザインの概念や事例を追体験でき、「なるほど、やってみようかな」、「こういう暮らしがいいな」と思ってもらえる本。
きっかけは確かに、創業10周年など内側目線でした。でも実際に執筆を進めるなかで、この本は「ネイバーフッドデザイン」というものが「だれかの一歩」につながるものにすべきだし、できるんだ、と思えたんです。
高野:そうですよね。時期的な区切りをきっかけに本をまとめたいという方は多いですが、そこで終わるのではなく、その先で読んだ人にどうなってほしいか、世の中にどう変わってほしいか。その思いがあってこそいいものになると、今までいろいろな本に関わってきて思います。
だからHITOTOWAさんの願いが込もったものになって、とてもよかった。荒さんはもちろん、他のメンバーの方々もすごく真剣に考えてくださったのが、よかったですよね。
ディスカッションを重ね、練り上げた制作過程
──制作過程で、特に印象的だったことはありますか?
高野:荒さんも他のメンバーの皆さんも、とても言葉を大切にする方々だなと思いました。一つひとつの言葉、細かい表現まで気を配り、ディスカッションして進めていく姿勢をすごく感じて。本の内容でも「細やかな心配り」について触れられている箇所がありますが、日頃から何事にも真摯に丁寧に向き合っているから、それが文章にも出てくるんだろうなと感じましたね。
荒:今回の書籍はHITOTOWA内に出版タスクフォースをつくって、ディスカッションしながら文章にしていく形にチャレンジしてきたんですけど。その過程で、高野さんにも議論にお付き合いいただく場面はたくさんありましたね。僕自身、この経験は非常に勉強になりました。
本にも登場するフレーズですが「ひとつとして同じまちはない」し、ひとりとして同じ人はいない。それぞれが感じるものはやっぱり違うんだなと思ったし、その違いを認めつつ、共通点は共通点として、再認識していく過程はすごくおもしろかったです。
先ほど高野さんが「著者を応援したいかどうか」と言ってくれましたが、まさに今回、『ネイバーフッドデザイン』の書籍をまとめながら、さらに学んだり、価値観を更新していく作業があって、そこに高野さんにも伴走していただいたなと思っています。
<後編に続く>
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後編では、『ティール組織』など企業の組織やマネジメント関連の書籍も多く扱われている英治出版・高野さんの視点を交え、組織論から見るネイバーフッドデザインについてトークが広がります。「人を手段化しない」「人は受動的と能動的の両方の性質を併せ持つ」「あえて曖昧さをデザインする」など、興味深いテーマが続々と登場することに。ぜひ最後までご覧ください。
プロフィール
高野 達成 さん
英治出版取締役編集長。大分県出身。九州大学法学部を卒業後、日本銀行を経て2005年に英治出版に入社。ビジネス書・社会書の企画・編集に携わり、組織開発やソーシャルビジネスに関するラインナップづくりを主導。これまでに100タイトル以上の本に関わる。本づくりに加え、経営企画、採用、広報なども担当。しばしば書籍のカバーデザインも行う。
荒 昌史
HITOTOWA INC.代表取締役。早稲田大学卒業後、リクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。CSR部署の設立や環境NPO活動などを経て、2010年にHITOTOWA INC.を創業。人々のつながりづくりを通して都市の社会環境問題を解決する「ネイバーフッドデザイン」を主軸に「人と和」のための事業を展開。2022年、初の単著となる『ネイバーフッドデザイン──まちを楽しみ、助け合う「暮らしのコミュニティ」のつくりかた』(英治出版)を上梓。