「相手の成長のためなら」── 技術者とは違う、技術指導者の覚悟とは。
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法人向けオーダーメイドIT/DX人材育成サービスを提供するフレアリンク。その中核を果たす職種「技術指導者」の魅力について、前回のストーリーでは特集した。
「プロダクトを生み出す技術者」に対して、「技術者を生み出す技術指導者」というメタな関係にある両者。ITスキルに精通する等の共通点を持ちながらも、本質的かつ根本的な違いがあることを深掘りするため、引き続き代表の中山に聞く。
プロフェショナル「技術指導者」になる方法
── 「技術指導者」には、どうやってなるんですか?
中山:
大きく3つのルートがあります。
- IT系研修会社に新卒就職する
- エンジニアからクラスチェンジする
- その他の職業からジョブチェンジする
このうち1番目の「新卒就職」についてはある程度自明です。また、3番目については比較的レアケースですから、今回は2番目の「エンジニアからのクラスチェンジ」にフォーカスを当ててお話をしようと思います。
── エンジニアは「ITスキルと実務経験」を持つため、「技術指導者」に最も近い職種なんですね。
中山:
はい。エンジニアを育成する仕事ですから、やはりどうしても自身の技術力が基盤となってきます。
最近は学生時代から開発経験を積んでいる方も多く、特定分野ではプロ級のスキルを持つ人もいます。そういう人たちに教えたり、指導したりする立場に立つわけですから、まずは「普通のプロエンジニア水準」の知識と経験を持っていないと務まりません。
しかも、技術はどんどん変化しますから、常に自身のエンジニアとしての能力もアップデートしていく必要もありますね。
── 技術指導もやりながら、自身の“プロエンジニア水準”のスキルを維持するのって大変そうですね。
中山:
もちろん大変ですよ(笑)。
専業エンジニアが1日24時間をフルに使えるところ、「エンジニア技能にも、指導技能にも時間を投下して、自分自身も成長させなければならない」技術指導者はどうしても時間的には不利なんです。
ですから、実は世の中の技術講師の中には、「技術系コースに登壇するけど、ほとんど自分では開発したことがない」という方もいらっしゃいます。
ただそれでも、いわゆる巷によくある「固定的な技術解説主体の研修コース」であれば十分成立するんです。過去のストーリーで述べたとおり、「どんな人が、どんな人に教える状況でも、大コケしないような台本」がしっかり準備されていて、その通りに実施するわけですから。
でも、「オーダーメイド人材育成」に特化するフレアリンクの技術指導者は違います。
私たちの仕事は「技術情報の伝達」ではなく、企業と学び手と一緒に“技術者としてのキャリア”を開発するのが仕事。経験談や現場ノウハウの伝達はもちろん、エンジニアとしてのふるまい方や、あるべき"心の姿勢"を、指導者自らが育成の場で率先垂範しなければなりません。
そうなると、エンジニアとしての実務経験がなければ、すぐに底の浅さが露呈してしまう。学び手は指導者のことをとてもよく見ていますからね。
── やはりエンジニア経験って、かなり有利なんですね。
中山:
実際、フレアリンクの技術指導者は全員がエンジニア経験者ですし、登壇していない日は日常的に自社SaaSの開発や運用に携わることになってます。新技術を自社開発で取り込む過程で得たノウハウを、翌春の研修シーズンにさっそく取り込むなど、指導面にもすごくいい相乗効果が出てるのではないでしょうか。
逆に言えば、フレアリンクの技術指導者は「常にエンジニア経験も積むことになる」ので、経験が今はまだ少ない・自信がないという人も、JOINしちゃえばエンジニア経験も自然にしっかり積めると思います。
── しかも、もし困ったら「技術者育成のプロ」にいつでも聞ける環境って、ちょっとお得ですね。
中山:
「スッキリわかるシリーズの著者」とか、「IT資格取得テクニックを教えてる講師」とか、普通にその辺歩いてるので、適当に捕まえて解決できたり、スキルアップできたり。
「頑張ってる人には、優しく接し教える」ことを骨の髄まで職業訓練されてる人たちなので、どんだけテンパっててもイラつかれたりせず、気持ちよくアドバイスくれますよ。
実際、当社には「看護師でエンジニア未経験」からジョブチェンジした技術指導者もいますが、入社2週間でFE(基本情報技術者試験)取得して、今ではWindsurfと日々モフモフ開発しながら周囲に頼られ、いろいろ登壇もこなして、楽しそうです。
技術指導者と技術者で、「180度真逆」な価値観
── フレアリンクの技術指導者は「現役エンジニアのスキルも併せ持つ」ということは、よく見かける「現役エンジニアが教えるプログラミングスクール」の講師とも近いのでしょうか?
中山:
うーん、似ているようで、実はかなり違うと思います。
プログラミングスクールの「現役エンジニア講師」は、軸足がどちらかというと“教える側”より“現場の技術側”にありますよね。
でも、フレアリンクの技術指導者は、軸足が完全に「人の成長」にある点が決定的に違うと感じます。
実は、「技術者」と「技術指導者」には、180度真逆の特性が求められる部分があるんです。しかもそれが職業としての“芯”に関わる重要な部分なんですよ。
── 180度真逆、ですか。それはどんなところですか?
中山:
それは、「プロとしての志や覚悟を、どこに発揮するか」という点です。
エンジニアは、技術を扱う職業です。だから、「普遍的かつ客観的な正解」や「正確な仕様」を大切にします。その厳密さが、良いエンジニアの証でもあります。
でも、人の成長を扱う場面においては、その“厳密さ”がかえって邪魔をすることがあるんです。
たとえば、小学1年生の教室で先生が「みんな、数ってなにかな? そう、1や2や3のことですね!」と教えているとします。
そこで急に、その先生に「伝説の数学者」が憑依して、「いや違う! それは厳密ではない! 負の数や虚数も数であるッ! そもそも数とは数学理論において云々...」と演説をはじめてしまったら……どうでしょう?
── えっと...(笑)。きっと、子どもたちは算数を嫌いになってしまうんじゃないですかね。
中山:
そうなんです。別の表現をすると、「厳密な定義を伝えようとして、その相手が将来厳密な定義を理解する未来を完全に潰してしまう」ことが起きるんです。さすがに潰すまでいかなくても、非効率や遠回りになるケースは、本当にあちこちで散見されます。
だから私たち技術指導者は「普遍的な正解」ではなく「今の・この相手にとっての正解」を追求します。
もちろん、普遍的な正解も知っていますし、説明することもできます。でも、そんな小難しいことを今ここで伝えると、相手が将来その正解にたどり着く道を閉ざしてしまう。
だからあえて「エンジニアとしての自分のプライド」に蓋をして、笑顔のままただ頷く、ということがあるんです。
「今は、その理解でいい。 今、そう思えてる自分が楽しくて、そんな自分に自信をもてれば、きっと遠くない将来、より理想的な正解にたどり着ける。」
そう信じることが、私たち技術指導者の「覚悟」なんです。
── 正解というものを1つの点ではなく、「時間軸にそって変化するもの」として捉えるんですね。
中山:
面白い表現ですね。そのように考えたことはあまりなかったのですが、いわれてみればそのとおりかもしれません。
人は変化成長していくもので、その時々になってわかること、その時々に必要な正解があっていいのではないでしょうか。みなさんにも、きっとあるはずです。
「先輩になってみて、痛感したこと」
「転職してみて、世の中の見え方や考え方が変わったこと」
「親になってはじめてわかったこと」
だから私たち技術指導者は、学び手が最終的に理想の正解にたどりつける確率が最も上がるように、「今の時点の相手にとっての最適なゴール」「楽しく努力できる課題」「達成感を得られるステップ」を設計します。
そうして、本人が勇気を持って一歩踏み出し、個々の段階での正解にたどり着きながら、「できた!」「わかった!」という体験を積み重ねることで、いつか彼ら/彼女らが自らたどり着く未来への階段を描く。
それこそが、フレアリンクの技術指導者としての在り方なんです。