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「わかってくれるだろう、は間違いです」福岡陽が語るプロモーションに本当に必要なものとは

FICCでは、「クライアントの欠かせないパートナーとして私たち独自の価値を提供する」というのをミッションに掲げています。では一体、FICCのメンバー自身が考える、 “独自の価値提供” とは一体どういうものなのでしょうか。

今回は、ブランドエクスペリエンスクリエイティブ事業部にてチームマネージャー/シニアクリエイティブディレクターを務める福岡 陽(ふくおか あきら)にインタビューを行いました。

「プロモーションが思い出になること」それが僕にとっての価値提供

キャンペーンがただの情報になってしまったら、心に残らない

福岡:テーマは「価値提供」ということで、プロモーションの領域でいうと記憶に残るということが価値なのかなと思います。「これ、あったね」と、ひとつのプロモーションがその人の生活の1ページになる、思い出になるというのが大切。

なぜなら、情報がこれだけたくさんあって、自ら発信することもできて、できることもたくさんある中で、キャンペーンがただの情報になってしまったら、心に残らないんですよね。

もちろんどれくらいの方にリーチしたかとか、どれくらいの方が買ってくれたかといった目の前の目標も大事なんですが、もっと長い目で見たときに、「記憶に残る」「ブランドのコンセプトが頭のなかに残る」というのがないと、キャンペーンとして十分な価値を生み出せていないわけです。

大事なのは、そのキャンペーンが記憶するまでの体験になっているかどうか。記憶に残るというのが、結果的にクライアントさんに還元される価値だと思います。

子どもの頃に見たCMやTV番組は今でも覚えている

福岡:僕がそういったものに価値を感じるようになった原体験は、テレビやゲームなんですよね。僕は子どもの頃からテレビが好きで、当時見ていたCMとかTV番組ってすごい覚えてるんですよ。今、当時のことをそこまで覚えているのが価値だと感じていて。

ゲームだって、いまでこそタダで遊べるものもありますけど、昔はソフトを買わなきゃいけないので賭けじゃないですか。高いのだと1万円近くするので、いざ買ってつまらなかったら、もう見るも無残ですよ(笑)。

でもビジュアルだったり、操作性だったり、ストーリーだったりが面白いと、そのゲームにお金を出した価値を感じられる。キャラクターやアイテム、背景といったものの組み合わせでビジュアルができているゲームはクリエイティブだなと思っていました。

そして高校生の頃からWebの世界にどっぷりハマるようになって、HTML、Flashなどを勉強しはじめて、気づいたらいまの職に就いていたという感じですね。

これまでの自分の人生を改めて思い返してみたときに、自分の価値基準の一部はそういった記憶に残るクリエイティブに強く影響されていることがわかります。

「わかってくれるだろう」が一番ダメ

意識が朦朧とした真冬のリアルイベント

福岡:実際に僕がやってきたことで、思い出になるプロモーションを実感できたのが、カフェ・ド・パリさんのイベントです。渋谷に来ている女の子に対して、プロジェクションマッピングを使った体験型のイベントをやろうということで、企画から実際に制作するところまでを担当しました。

クリスマス女子会がテーマで、「来場した女の子たちがグラスで乾杯するとブースの中でプロジェクションマッピングがはじまる」しかけだったんですが、目の前で来場者の女性の方がめちゃくちゃ盛り上がってくれているんですよ。テンション上がって飛び跳ねる女性もいたりして。そういう反応を直接見ると「やってよかった、嬉しいなぁ」と思いますよね。


オンラインでやるものは、悪い言い方をすると直せてしまうじゃないですか。だけどもリアルなイベントは一発勝負で様々な制限があるので、「リアルはやっぱり大変だな」というのを実感したプロジェクトでした。

実際に現場で設営をするわけですが、その施設の営業が終わった夜から作業に入って、オープンする朝の10時までに完成させないといけないわけです。しかも、プロジェクションマッピングの映像が問題ないかとか、カメラはちゃんと作動するかといったことは最後の最後に現場じゃないと確認できない。さらに、クリスマスのイベントだったので、真冬だから寒いんですよ。もう準備が終盤になるにつれて、意識が朦朧としてきて(笑)。

もちろん事前に準備は進めてきたのですが、やっぱり現場で見てみないとわからない。まあ、オープンの10時には間に合わなかったんですけどね。ヤバいヤバい、お客さん入ってきてます!みたいな。

とにかく、「コワかった」というのが本音です。

実際に営業開始してある程度見届けたら、僕は喫茶店に入って横になってた記憶があります。本当は銭湯に入りたかったんですけど、 ググってもまだ午前中なんで、銭湯はやってなくて(笑)。それも今ではいい思い出です。

ベタを恐れない。一番コワいのは伝わらないこと

カフェ・ド・パリさんの企画では、参加者が「おもしろかったな」「来てよかったな」と思ってもらうために、参加者自身が写真を撮れたり、データを受け取れるようにすることでキャンペーンを “自分のものにしていただく” というのを意識してつくりました。

プロモーションというものは、もちろんクライアントが伝えたいものを表現するというのはあるんですが、来ていただいた一般の参加者が「あ、なんかやってる」くらいだと印象に残らないわけですよね。やったことが心に残らないというのは、結局ブランドに結び付けられないので、プロモーションとして意味がないので。

じゃあどうやってブランドの世界観を伝えるかというと、ベタな方がいいんですよ。なんも文脈がない方々にも通じるものでないと、それは失敗なんですよね。伝わらないというのが一番コワいんです。

だから「わかってくれるだろう」が一番ダメ。説明書きかもしれませんし、UIかもしれませんし、雰囲気かもしれないですが、いろんな角度からコンテキストを伝えなくてはいけないんです。

チャレンジし続けることが、新しい価値提供の方法を生み出す

他がやれていない、誰もやっていないことにチャレンジするのは、自分自身の価値に繋がる

福岡:それでも、うまくいかないことも多い。逆に、予想もしていなかった価値が生まれることもありますからね。

しっかりと価値提供ができているときは、ユーザーからも反応がもらえるので、その反応の中にまたヒントがあって、新しい価値を生み出せる。

クリエイターとしては、まったく同じことをやるよりも、広げていかないといけないじゃないですか。過去に当たった方法をまたやるのではなく、チャレンジしていくことが大事。チャレンジすることで、過去の経験から得た価値提供の方法を雪だるま式にどんどん大きくできるのかなと思います。


なので最近のチャレンジで言えば、プライベートで『HITEYE』という同人誌を20人くらいのクリエイターと一緒につくったんですね。

スプラトゥーンというゲームの同人誌で。同人誌はつくったことなかったんですけど、とても世界観が優れたゲームなんですよ。このゲームは同人誌つくったら絶対面白いなと思って。

スプラトゥーンは現実に非常に即した世界観のゲームで、ゲーム内のストリートカルチャーとかファッションとかが、渋谷のカルチャーとかにすごい合致しているんです。じゃあ、それを現実の世界に持ってきたら面白いじゃないかということでつくりました。

スプラトゥーン好きが集まる同人誌マーケットもあったので出品したんですけど、みなさん出品されているのが漫画なんです。なのではじめは「売れるかな、大丈夫かな」と思っていたんですけど、そこそこ売れましたし、「こういうのはじめて見ました!」と喜んでもらえたりして。

「他がやれていない、もしくは誰もやらないことをやる」というチャレンジも、価値提供に繋がるなと実感した経験でした。

まあ、誰もやってないから、自分がやったらおいしいというのもありますけど(笑)。誰もやってないからこそ、「アレをやった方ですよね?」と認知いただけて、自身の価値にもなりますからね。

ストーリーが求められる時代が来る。そのときに置いていかれないようにしないと。

お話のチカラを借りることで、心に残るプロモーションができる

福岡:いま世の中に求められているものは、 “ストーリー” だと思っています。どういう人に何が伝わりやすいか、どういう方法だとクライアントが伝えたいことを伝えられるかというのも大切なんですけども、ストーリーを使うことで、もっと深いところを 伝えていくことができるんじゃないかなと。

一番はじめにストーリーの重要性を実感したのは大学時代なんですけど、たまたま伊藤計劃さんという方のブログに出会いまして、それがすごく面白かったんです。映画のストーリーの仕組みとかを書かれていて。

それまで僕は、ストーリーってアーティスティックなものだと思っていたんですね。センスとかひらめきで降りてくるもの、みたいな。

だけど、実際はぜんぜんそんなことはなくて、むしろテクニックであったり、心の力学だったりを使っていくものだということを伊藤計劃さんのブログで学びました。そこから映画が面白いことに気づいて、たくさん映画を観るようになって。今の自分の仕事に繋がっています。

そしていまは情報が過多になっていって、1つのクリエイティブが接触する時間が短くなってますよね。いろんなところから情報が降ってきて、ユーザーが話を聞いてくれる状況じゃないことがもう当たり前。そんないまだからこそ、プロモーションも「お話のチカラ」を借りるのが重要だなと。

最近だと桃太郎などの童話が使われたりしてますけど、あれはもうみんなが知ってる、明確に記憶しているから心に残る。さらに、勧善懲悪なストーリーにひねりを加えて面白くすることもできますし、悪者だと思っていたものが意外といいやつじゃん、という見せ方もできるじゃないですか。

そういった形でストーリーはいろいろ使えるわけで、プロダクトの良さ、ブランドの良さ、ブランドの本当に知ってほしいことをストーリーに乗せて伝える、そんなストーリーが求められる時代になってきたのではと思います。

これまでFICCでもストーリー性を持たせることはやってきましたが、今後はもっとストーリーというのを真剣に考えていきたいですし、そういう時代が来たときに置いていかれないようにしないといけないですね。

インタビュー:FICC 福岡陽 / 文・写真:永田優介

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