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DELISH KITCHEN独自の徹底した衛生管理、安全に伝えるための工夫とは? – 加熱不足による食中毒が懸念される「低温調理」の事例 –


※この記事は、株式会社エブリーのオウンドメディア「every.thing」にて2021年12月7日に更新されたものです。(https://everything.every.tv/20211207/

菅原 千遥
取締役 執行役員 DELISH KITCHEN カンパニー長 共同創業者
2012年慶應義塾大学を卒業後、グリー株式会社に入社。事業責任者として女性向けネイティブゲームに従事し、その経験を活かし戦略部門にて子会社や投資先会社の事業管理基盤構築を推進。その後、新規事業の立ち上げを主導。2015年9月、株式会社エブリーを共同創業。レシピ動画メディア『DELISH KITCHEN』を立ち上げ、2018年に執行役員に就任。2020年、取締役 執行役員に就任。

『DELISH KITCHEN』で発信している情報は、ご利用いただく皆様の「食」や生活自体に深く関わる責任を伴うことから、安心・安全に配慮したレシピ開発、コンテンツ制作を行っています。今回は2019年に策定した「低温調理」に関するルールについて、『DELISH KITCHEN』編集長である菅原より詳細をお伝えします。

***この記事は連載企画です。初回記事は以下よりご覧ください。***

https://everything.every.tv/20211206-2/


流行りの調理方法に潜む危険

ー『DELISH KITCHEN』のコンテンツ制作の裏側に迫る本連載の1つ目として、まずは低温調理について取り上げていきたいと思います。そもそも低温調理についてのルールを制定した経緯を教えてください。

菅原:経緯としては、『DELISH KITCHEN』の衛生管理においてアドバイザーを依頼している公益社団法人 日本食品衛生協会から連絡があったことがきっかけです。このルールを制定したのは2019年ごろでしたが、当時から低温調理はユーザーからの検索ニーズが高く、広く知られていたものです。しかし、比較的低温度でじっくり加熱していくという調理方法のため、温度を一定に保つ管理が難しく、「本当に中心部まで加熱ができているか」の判断がつきにくいです。

実際に加熱が不十分だったことにより、飲食店などで食中毒事故が発生した報告も上がっていたようで、2019年7月に実施した当社のコンテンツ品質分科会(食セグメント)にて日本食品衛生協会から共有を受け、『DELISH KITCHEN』のレシピに該当するものがないか見直すことになりました。

ー低温調理というと、サラダチキンを思い浮かべますね!

菅原:そうですね、まさにサラダチキンは低温調理が流行したきっかけになった食品と言えると思います。コンビニやスーパーで手軽に安価で買えることに加えて、高タンパクで低カロリーですので健康志向の方を中心に人気ですよね。多くのサラダチキンは鶏むね肉など脂肪分が少ないお肉で作られていますが、低脂肪のお肉は高温で一気に加熱するとパサつきやすくなってしまうため、サラダチキンを自宅で作る際に低温調理をする、という流れで低温調理が話題となったのかなと思います。

低温調理器など専用の調理器具がある場合は、説明書にしたがって調理をすれば比較的安心なのかなと思いますが、低温調理器のご用意がないご家庭もたくさんあります。もしくは温度管理をする場合、プロの世界では調理用の温度計が使用されていますが、なかなか一般の家庭には揃っていないことが多いと思います。

『DELISH KITCHEN』の利用者さまには、それぞれのキッチン環境がありますので、異なる環境下においても安心・安全に作れるようなレシピにすることが私たちの使命です。そのため、『DELISH KITCHEN』の全レシピにおいて、低温調理に関連するレシピを見直すことになりました。


日本食品衛生協会と連携し、数分単位で温度変化を検証

ー実際にどれくらいのレシピを見直したのですか?

菅原:調べてみると、当時のレシピ内で低温調理に該当するものがおよそ15程度ありました。該当はしないものの、加熱の目安について注意書きを増やした方がいいレシピも15程度あったため合わせて見直しを行いました。

連絡があった当初は、低温調理についての行政のガイドライン等がなかったため、日本食品衛生協会と連携をしながら徐々にルールを作り上げていった形です。注視すべきポイントは「中心部までお肉に火が通っているかどうか」でしたが、加熱に使用する水(お湯)の量、肉の厚みによって加熱の条件が変わってきます。そのため、前提条件として水の量と肉のサイズをこちらで指定することにしました。

ーということは、『DELISH KITCHEN』のレシピで使用するお肉は購入前にサイズを確認することが求められるのでしょうか?

菅原:全てのお肉のレシピが該当するわけではありませんが、このルール制定によってそのような対応策をとったレシピが数件あります。例えば「レンジでローストポーク」のレシピは、4人分の分量で、横5cm×高さ3cm×長さ12cmのブロック肉を使うことが事前に明記されています。しかし厳格に同じサイズのお肉を購入することは難しいと思うので、サイズは目安にしていただきつつ、「竹串をさして透明な肉汁が出ればOK」というポイントや「肉に厚みがある場合は加熱時間を30秒ずつ追加して様子をみてください」といった注意文言も記載しています。さらに「切ってみて赤みが残っている場合は、レンジで様子を見ながら加温するなどしてお召し上がりください。」といった注釈もありますので、合わせてご参照いただければと思います。

肝心な加熱時間については実際にフードスタイリストが検証を行いました。厚生労働省からは食肉の加熱条件について、中心部を75度で1分間加熱か、それと同等の加熱が必要だとしています。とはいえ、前述したように調理用温度計がないご家庭も多いので、お肉の中心部が75度の状態になっているかを確認するのは難しいですよね。そのため「沸騰水に保温した場合」と「沸騰水に入れて弱火にし続けた場合」に分けて、それぞれ何分間お肉を入れたら中心部が75度で1分間加熱されるのと同等になるか、検証を行いました。

ーまさに実験ですね…!結果としてはどのようなルールが制定されたのですか?

菅原:制定したルールは下記の通りになります。

ー前提条件をよく見て、この通りにすれば食中毒の可能性を減らせるとしたら、かなり安心ですね。

菅原:そうですね、より安心・安全に作れることを最優先しました。そのため、このルール制定によって、公開を取りやめたレシピもあります。具体的に言うと非公開としたのは「牛肉のたたき」のレシピだったのですが、生食用の牛肉については食品衛生法で厳格な基準が定められ、「成分規格」があり、「加工基準」等の取り扱いのルールが細かく決められています。そういった規格に基づく牛肉を使用したレシピを、どのご家庭でも調理していただけるように再現性を高める形で表現することができないと判断したという経緯です。もちろん安全を検証した上で公開していたレシピではありましたが、今回のルール制定によって家庭で再現しきれない部分が生じたため、非公開としました。

また、チャックがついた保存袋に入れたり、ラップにくるんだ状態でお肉を湯煎する方法も低温調理のレシピとして多く世に出ています。もちろん理論上は、そのほうが旨味が逃げずに美味しさが保たれますが、高温の鍋に保存袋やラップが付着するなどの影響で、発火や事故につながる可能性もゼロではありません。調理をしている間に他の家事をしたり、スマホを触ったり、常に鍋を見張ることができないケースも多いですよね。事故につながるリスクが少しでもあるものは『DELISH KITCHEN』のレシピとして公開することは避けることを決め、保存袋やラップを使用したまま加熱するレシピは採用しないことにしました。

菅原:調理のプロではない利用者さまに対して、正しい情報を正しく伝えきることは大変だなと思います。背景にあるメッセージを踏まえて発信するのは難しいので、確かに本当は別の方法で美味しく作れる調理工程を選択することもできなくはないのですが、『DELISH KITCHEN』では安全な選択肢を選び、レシピの表現を行っています。

とはいえ、美味しさを追求することを諦めているわけではありません。実際に調理・調味を行い、ちゃんと美味しく、安心・安全に作れるレシピを検証しご提供しています。どんな調理環境においても、一様に再現ができるレシピであることが多くのユーザーを抱えるレシピ動画サービスの使命だと信じ、これからも丁寧にコンテンツ制作を続けていきます。

『DELISH KITCHEN』では、ユーザーの皆様に向けて、料理をより楽しんでいただくために「食材や調理器具、保存などの衛生面の注意点」や「安心安全に調理を行っていただくための注意点」をまとめたページを用意しております。ぜひ、あわせてご覧ください。

料理を楽しむにあたり、気をつけていただきたいこと

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