※この記事は、株式会社エブリーのオウンドメディア「every.thing」にて2021年12月6日に更新されたものです。(https://everything.every.tv/20211206-2/)
菅原 千遥
取締役 執行役員 DELISH KITCHEN カンパニー長 共同創業者
2012年慶應義塾大学を卒業後、グリー株式会社に入社。
事業責任者として女性向けネイティブゲームに従事し、その経験を活かし戦略部門にて子会社や投資先会社の事業管理基盤構築を推進。その後、新規事業の立ち上げを主導。
2015年9月、株式会社エブリーを共同創業。レシピ動画メディア『DELISH KITCHEN』を立ち上げ、2018年に執行役員に就任。2020年、取締役 執行役員に就任。
『DELISH KITCHEN』で発信している情報は、ご利用いただくユーザーさんの「食」や生活自体に深く関わる責任を伴うことから、安心・安全に配慮したレシピ開発、コンテンツ制作を行っています。『DELISH KITCHEN』の編集長である菅原はどのようにメディアの意義を考え、発信を続けているのか。その思いとともに、「安心・安全」を守るために制作チームで行っているルール、制作フローについて公開します。
料理に関する負の部分を無くし、ハッピーな体験を増やしていきたい
ー『DELISH KITCHEN』も早いもので、サービス開始から6年経ちましたね。
菅原:そうですね。本当にありがたいことに、ご利用いただく皆様のおかげで『DELISH KITCHEN』は7年目を迎えることができました。最初はSNS投稿から始まったサービスでしたが、現在はアプリ、Webなどそれぞれのサービス基盤も整い、献立の自動提案など便利な機能も充実しています。さらにはキッチングッズの販売やスーパーマーケットとのサイネージ連携など、レシピ動画の配信以外の領域にも進出し、最近リリースしたものではミールキットの商品開発なども行っています。
(参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000190.000018729.html)
ーオンライン・オフライン、有形・無形問わず様々なラインナップが拡充しましたよね。レシピ動画の配信以外にも多様なサービスが生まれましたが、「DELISH KITCHEN」としてはユーザーにどのような価値を提供していきたいと考えているのでしょうか。
菅原:私たちが一貫して行いたいのは「料理に関する負の部分を無くし、ハッピーな体験を増やしていきたい」ということです。
サービス運営にあたり、私たちは定期的にユーザーさんを対象に調査を行っています。下図の左側は2020年2月に実施した調査の結果ですが、料理に関する悩みに対する回答は「献立を考えるのが面倒」(45%)、「献立の種類が少ない」(42%)、「毎日何を作ろうか迷う」(42%)の順で高く、総じて献立決めに対する課題が大きかったです。
一方で下図右側は2020年11月に調査した結果ですが、夕飯の献立を決めるタイミングを調ベてみると、「食材を購入しながら決める」という回答の割合が43.0%と最も高いです。以上のことから、「買い物時に献立を決める」ことのサポートをすることが多くのユーザーさんの課題解決につながると信じ、私たちはお料理・お買い物体験をもっと便利にすることを目指し、流通・小売事業者さまとの連携を2018年から開始しました。
これは「料理に関する負の部分を無くしハッピーな体験を増やしていく」ために、マクロな視点で『DELISH KITCHEN』が目指している内容になります。
「食」は誰かと共有することで、言葉と思いが拡がるコミュニケーションツールに
ーマクロな視点、ということはミクロな視点で目指していることもあるんですか?
菅原:はい。私たちのサービスの要となるのは、1つ1つのレシピコンテンツです。これらのレシピを起点にしたユーザーとの接点を大事にして、それぞれのレシピを作ってくださったユーザーに「美味しく作れた」「苦手だったものが食べられるようになった」などの成功体験を作っていきたいと考えています。こういった1人1人の体験を重ねていくことも、私たちのミッションの達成とリンクしていきますよね。
実はサービスを開始してから今に至るまで、「DELISH KITCHEN」のお客様サポートには月におよそ500件、累計で40000件ほどの問い合わせをいただいています。内容はさまざまですが、そのなかでも「このレシピが美味しかった」「美味しく作れた」という温かいお礼のメッセージを本当にたくさんいただいています。
菅原:私たちからユーザーの1人1人の顔は見えませんし、直接的なコミュニケーションは取れません。しかしそのように1人1人、個々人から成功体験というフィードバックをダイレクトに送っていただけるサービスってなかなかないように感じています。この理由として、各家庭での「食」という体験は、1人でももちろん楽しんでいただけるものではありますが、複数人の誰かと共有することで会話のきっかけを生むコミュニケーションツールにもなり得るものだからなのかなと考えています。
例えばよくいただくのは、「このレシピでご飯を作ったら家族が喜んでくれました」とか、「にんじん嫌いな子供もこのレシピだったら食べてくれました」とか、誰かを笑顔にしたいという思いで『DELISH KITCHEN』を使い、料理を作ってくださった方々からのお礼の言葉です。自分が作った料理を誰かが美味しく食べて喜んでくれることで、料理を作った自分自身も嬉しくなって、私たちのサービスに感謝の気持ちを表してくださるのです。その温かい流れにいつも感動するばかりですが、自分たちのレシピから喜びが連鎖し、私たちの元に感謝のメッセージとして還ってくることは本当に感慨深く、尊いことだなと感じます。
料理の成功体験に必要なものは、「安心・安全」であり、「失敗しない」レシピだと信じて
ーありがたいメッセージですね。問い合わせには返信をしているんですか?
菅原:先方の連絡先がわかる場合は、基本的に返信をさせていただいています!実際に返信の内容を一部ご紹介しますね。
コロナの影響でお仕事が忙しくなっているご家族のために、おうちでの料理を自分が担当したい!と中学生の方からお問い合わせをいただきました。未成年の方がご自宅で1人っきりで調理をする状況を踏まえ、より安心・安全に作れるレシピを選ばないといけないとのことで、社内の何人かで頭を悩ませながら返信内容を考えていましたね。栄養にも気をつけたいとのことでしたので、栄養素の知識が完全でなくとも献立作りの参考になるようなアドバイスも入れて、ご返信を差し上げました。
ー このお問い合わせはとても心温まる内容ですね。先ほど菅原さんが言っていた、「誰かにご飯を作ることで、誰かを笑顔にしたい」という思いが切に伝わってきますね。
菅原:そうですよね、こちらとしてもその思いに応えなければという責任が大きくなりました。このお問い合わせをいただいた方もそうですが、特に料理初心者の方にとって、レシピ選びは重要です。せっかくチャレンジしたにもかかわらず、失敗して苦い思い出になってしまったら、再びキッチンに立とうとする気持ちが萎えてしまいますよね。また親御さんもご心配されているように、料理には少なからず危険が伴うため、事故なく調理ができることもとても大事です。
以上のことからも、料理の成功体験に必要なものは、「安心・安全」であり、「失敗しない」レシピだと考えています。調理工程が適切であり、衛生面も考慮され、誰が作っても失敗しないように工夫されたレシピだけを届けていきたいです。
ーなるほど。どうやって「失敗せず」「安心・安全」に作れるレシピを作っているのですか?
菅原:こちらの図の通り、体制としては3つの組織体をもとにレシピの品質管理をしています。まず左側の「レシピ制作」からお話ししていきます。
まず『DELISH KITCHEN』のレシピ動画は、管理栄養士など食のプロである「DELISH KITCHEN フードスタイリスト」が考案・撮影をしています。全レシピが管理栄養士監修で、1つのレシピ動画ができるまでにおよそ300程度のチェック項目を通しています。法令チェックや表記・品質のチェックはもちろんですが、栄養価、不衛生・事故防止などさまざまなカテゴリごとにルールを定め、品質の維持に務めています。
また、基本的にはどこの家庭にもある調味料や調理器具を使い、どのスーパーでも手に入る食材を使用したレシピを考案しています。現代の家庭のキッチン環境に沿ったレシピでないと、作ってみたいと思えずに料理への障壁が大きくなってしまうため、ユーザーの住まいや家族構成などを考慮したレシピ制作をしています。
例えば、都内のワンルームにお住まいの方だと、コンロが1つしかないというキッチンも多いと思います。そんな方に対しては、1つのフライパンで作れる「ワンパンメニュー」が人気だったりします。
(参考:https://www.instagram.com/p/CLN25ggD_cK/)
菅原:そして図の真ん中に移りまして、コンテンツ品質分科会(食セグメント)では少し大きい枠組みでレシピのルールやリスクの管理をしています。この組織には、DELISH KITCHENで衛生管理の担当をしているフードスタイリストや、お客様対応を行うCXのリスク担当者などがメンバーとして参加しています。
社内では隔週で定例会を開催しており、月1の頻度で外部有識者を招いた形式でも定例会を行っています。例えば、DELISH KITCHENで新たに取り入れていきたいレシピについて細かいご指摘をいただいたり、判断に迷う内容について相談したり…。お客様からいただいたお問い合わせをきっかけに議論を発展させていくケースもあります。
菅原:最後に図の右側部分、外部有識者の方との連携についてです。私たちエブリーは独自で「アドバイザリーボード」を定期開催しています。当社の展開事業に関連する領域、具体的には食品衛生、調理学、発達心理学、小児科、マタニティ、コンプライアンスなどの領域に精通していらっしゃる外部有識者の先生方にご協力いただき、メディアコンテンツの作り方、社内体制のあり方など幅広い事例についてレビューをいただいています。
色々な領域でご知見をお持ちの先生方からは、お褒めの言葉もお叱りの言葉も本当に幅広く忌憚ないご意見をいただいています。このような座組みで自社を振り返ることで、裏表のない透明性のあるコンテンツ作りにつなげることができたらと考えています。
(参考:https://everything.every.tv/20190802-2)
ー個々人が開発しているレシピを体系化し、会社としても反芻しながらコンテンツ全体の品質維持に全力をあげていますよね。どうしても抽象度の高い話になってしまうのですが、具体例もあれば教えてください。
菅原:そうですよね、概要だけをお話してもイメージしづらいのかなと思いますので、個別のトピックごとに今後事例を紹介させてください!『DELISH KITCHEN』の中で定めているルールを1つ1つ公開していくことで、業界全体の透明性が上がり、信頼できるインターネットコンテンツの環境づくりに繋がっていくのではないかと考えています。
そして、それによってご利用いただくユーザーの方も、もっと安心してレシピ情報に触れて料理を作っていただけるよう、私たちも頑張っていきたいです。