健康食品としてのミドリムシ
マーケティング担当取締役の福本は、次の一手を思案していた。
微細藻類であるクロレラの営業を手掛けていた福本は、ミドリムシの健康食品としてのポテンシャルに魅了され、ユーグレナ社の創業に加わった。当時、誰も食べたこともなく、食品として売るのにお世辞にも響きがよいとは言えないミドリムシは、本当に売れるかどうかも分からない新規素材だった。にも関わらず福本は「ミドリムシで300億円市場を創る」という目標を設定した。そして、必ず達成できるという確信があった。
様々な健康食品企業を研究し尽くしていた福本は、300億円市場を創るには通販事業への参入が不可欠だと考えていた。しかし、創業間もないベンチャー企業が、いきなり誰も知らない新規素材を通販しても失敗することは目に見えていた。そこで。まずは、OEMビジネス(取引先企業のブランドで商品を製造し、卸売りすること)から開始し、知名度のある会社に商品を売ってもらい、世間にミドリムシを認知させる作戦を採った。最初はOEM取引先の獲得すら困難を極めたが、懸命な営業努力により、徐々に軌道に乗り始めた。
「認知度が5%になったタイミングで通販事業をスタートしよう」―2010年9月期に売上が10億円を突破し、いよいよ機が熟したと考えた福本は、300億円市場創出に向けて、自社通販事業の立ち上げに着手した。通販事業成長の王道は広告宣伝の投入であるが、まだまだ資金力の乏しかったユーグレナ社には、大量の広告宣伝費を投じる余力はなく、常識的なやり方では勝ち目はなかった。そこで福本は、他の素材が真似できないユニークな「ブランディング」と「話題性」にこだわり、メディアにニュースとして取り上げてもらうことで広告宣伝効果を生み出すという戦略を考えた。
通販と自由が丘を通してイメージを発信する
「ブランディング」については、広告会社と協議を重ねて、食べ物にも飲み物にもバイオ燃料にもなるというミドリムシならではの可能性に着目し、当時広まっていた循環型社会というコンセプトを食品でも楽しんでもらうという発想で、未来農業「ユーグレナ・ファーム」というサイト名を考案した。また、青汁にミドリムシを加えた旗艦商品を「緑汁」とネーミングすることで、知名度の高い青汁との連想から、多くの方にスムーズに受け入れてもらうことを狙った。更に、産地表示が話題になり始めた時期であったことも踏まえて、自然、太陽光、きれいな水といった石垣島のイメージを活かして、素材名を「石垣産ユーグレナ」と再定義し、素材写真も一新した。
石垣産ユーグレナの粉末
そして2012年4月、遂にユーグレナ社は自社通販サイト「ユーグレナ・ファーム」を開始した。「話題性」については、米、塩、キャンドルなどユニークな商品ラインアップをそろえた他、感度の高い街である自由が丘との連携も図った。また、世界初のミドリムシのバイオオイル入り燃料で走る移動販売車「ユーグレナ・ファーム号」を導入し、ユーグレナ入りのラテやお菓子の販売を自由が丘で毎週末運営した。自由が丘というブランドとともに、食べることができて燃料にもなるというミドリムシの循環型社会のイメージそのものを、通販を通して発信したのだ。この取り組みは、多くのメディアに取り上げられ、自社通販事業拡大を後押しした。
「ユーグレナ・ファーム号」※現在は展開しておりません
福本の狙い通り、ユニークなブランディングと話題性が奏功し、ユーグレナ社の試みは多くのメディアで注目を集め、単なる広告宣伝以上のPR効果と認知度向上を実現した。現在、グループのヘルスケア事業の売上高は、2016年9月期に100億円を超えるまでに成長している。今日も福本は、「ミドリムシで300億円市場を創る」という大きなミッションに向けて動いている。
euglena Data
~当社の売上高推移~
登場人物
取締役 ヘルスケア事業担当 福本 拓元
「素材ミドリムシで獲得出来る売上、利益を最大化する事、また、ビジョンなど伝えたいメッセージを的確にお客様に伝えることなどの目的を達成するために、ダイレクトマーケティング事業は当社にとって最も重要な事業になると考えていたため、社運をかけたビッグプロジェクトとして取り組んで来ました。」